米国関連

国防予算から見た米海軍の方針、装備調達を削減して艦艇の整備に1.5兆円を投資

バイデン大統領は2022会計年度の予算教書(連邦政府予算案)を正式に発表、これを受けて国防総省は7,150億ドル/約78兆5,300億円で編成された国防予算案を議会に提出したのだが、今回は海軍に関する内容を見ていくことにする。

参考:Defense Budget Materials – FY2022

戦力の底上げに繋がる手堅い予算案を出してきた米海軍、但し議会とボーイングに対しては受けが悪いだろう

海軍は2022会計年度に2,117億ドル/約23.2兆円の予算(海兵隊分も含む)を要求しており、重点的に海軍が資金を供給するのは艦艇や航空機等のメンテンナンス部門で新規調達や部隊構造の規模を縮小することを示唆した内容になっている。

具体的な海軍の予算要求に関する主要ポイントは以下の通りとなる。

出典:public domain アーレイ・バーク級駆逐艦 デルバートD.ブラック

海軍は2022年度に要求する艦艇建造予算は226億ドル/約2.4兆円(前年度比3%減)でバージニア級原潜×2隻、アーレイ・バーク級駆逐艦×1隻、コンステレーション級フリゲート×1隻、ジョン・ルイス級給油艦×1隻、曳航船×2隻、海洋監視艦×1隻で純粋な戦闘艦は4隻のみ(建造契約が締結済みで資金供給が複数年に分割されているフォード級空母やコロンビア級原潜などへの資金供給は予定通り実施)という少なさで、海軍は2022年度にタイコンデロガ級巡洋艦×7隻を含む20隻以上の艦艇を廃止するための資金7,400万ドルも要求している。

ここまでの内容だと海軍の規模は拡張ではなく縮小に向かっていると言えるが、海軍は2022年度に艦艇や航空機等のメンテンナンス部門に重点的に資金を供給することを予定しており艦艇の保守の138億ドル/約1.5兆円を要求、さらにポーツマス海軍造船所やノーフォーク海軍造船所などの主要造船施設に対する大規模な改善プログラムに20年間で210億ドル/2.3兆円を投資する予定だ。

出典:U.S. Navy graphic/Released コンステレーション級フリゲートの完成予想イメージ

さらに2023年度以降にはコンステレーション級フリゲートの調達ペースを年間4隻に引き上げ、アーレイ・バーク級駆逐艦の後継艦開発にも資金を供給するため米海軍の戦力拡張停滞は一時的なものに過ぎない。

問題はタイコンデロガ級巡洋艦の後継艦計画をどうするのか決まっておらず、コロンビア級原潜の建造に押されてアーレイ・バーク級駆逐艦の調達数がどんどん削られている点(当初計画では3隻発注だったのだが2隻に削られ最終的に1隻発注に変更された)で、戦力の補填計画がないままタイコンデロガ級巡洋艦×7隻の廃止を議会が容認するとは到底考えにくく予算審議の過程で揉めるのは必至だ。

航空機部門について海軍は計107機(F-35B×17機、F-35C×20機、E-2D×5機、KC-130J×5機、CH-53K×9機、CMV-22×3機、MV-22B×5機、TH-73A×36機)の調達に165億ドル/約1.8兆円(前年度比15.6%減)を要求しており、長年調達を続けてきたF/A-18E/Fの新規調達は噂通り打ち切られるが既存のブロックIIからブロックIIIへのアップグレードは維持される見込みで、計15機発注済みのMQ-4Cに関しては新機能(IFC4.0)が技術的に成熟するまで一時的に同機の取得を中断、P-8Aに関しては117機(当初予定122機から削減)の発注を終えているため新たな発注はない。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Chris Cavagnaro/Released

ただ別枠で中高度/長期耐久のUAV(機種名不明)を6機調達すると予算案の中で述べているのでコレが何なのかについては今後の議会審議で判明するだろう。

海兵隊は部隊再編計画「Force Design 2030」にしたがって保有していた主力戦車M1A1エイブラムスを全て倉庫に送り戦車大隊も解体済みで、新たな相棒になる統合軽戦術車「JLTV(対艦ミサイル「NSM」などを搭載予定)」を613輌調達する資金や移動に適した次世代の戦術レーダーシステム「AN/TPS-80」の調達資金を要求している。

全体的にみると海軍の予算案は新機軸に乏しいが疲労した既存の艦艇や航空機の保守に大規模な資金を投じているため、目立ちにくくても確実に戦力の底上げに繋がるため決して悪い判断ではないが議会とボーイングにとっては非常に印象が悪いので議会の承認が得られるのかについては謎だ。

関連記事:バイデン政権が国防予算案を発表、レガシーウェポン大量処分やF/A-18E/F調達中止を予告
関連記事:国防予算から見た米空軍の方針、レガシーな航空戦力を切ってF-35Aや次世代戦闘機を優先

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Michael Singley

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 5月 29日

    タイコンデロガの後継艦って長年やって未だに決まらないのは
    先頭を走る難しさなのか、ただgdgdなのか

    8
    • 匿名
    • 2021年 5月 29日

    アメリカ海軍は艦船増やしても人員不足を解決しないとどうにもならない。定員割れでメンテも訓練も満足に出来なくて、遠征が頻繁過ぎる第七艦隊は深刻みたい。新規調達より練度と稼働率を重視するのも大事。

    12
      • 匿名
      • 2021年 5月 29日

      人員不足に対しては待遇の改善を考慮しないといけないのだけど、それをやると軍事費の中で一番割合が大きい人件費が更に膨張すると言う矛盾が立ちはだかると言う皮肉

      7
        • 匿名
        • 2021年 5月 29日

        待遇改善は1回やるとずーーーっと残るからね
        装備品以上に後への影響でかい

        7
    • 匿名
    • 2021年 5月 29日

    この予算案、議会に対しては海軍が「予算削減か戦力維持かのどっちかを選びなさいよ、クソ提督…じゃなくてクソ議会!」と、艦これの曙みたいに逆切れしたとも取れる内容で草
    一方のボーイングだが、これは過去のグダグダ振りを見れば残当w

    11
      • 匿名
      • 2021年 5月 29日

      F-35B/Cをもっと増やさないと。

      1
    • 匿名
    • 2021年 5月 29日

    こうして見ると海自って結構頑張ってるのかな?

    17
      • 匿名
      • 2021年 5月 29日

      頑張ってるというか堅実・着実だよね。予算の大きさと期待されてることを天秤にかけて、極力冒険しないというか。そのタイトロープがいつまで続けられるかという疑問もあるけども。

      9
        • 匿名
        • 2021年 5月 29日

        そして人経費が安い

        • 匿名
        • 2021年 5月 29日

        冒険しすぎないのはある意味昔の失敗があるからか
        重武装しすぎて沈没した事件とか諸々

        1
    • 匿名
    • 2021年 5月 29日

    バージニア級の調達はいってるけど吸音タイルのひび割れ・剥がれるの解決したのかな・・・
    原潜建造できるのがニューポートニューズだけな以上他所に任せることもできないし

    14
    • 匿名
    • 2021年 5月 29日

    艦隊数を6~8割くらいにすればいいのに。
    空母減らしても要衝地に航空基地の租借を増やせば、軍事の圧倒的影響力はそのまま残るだろうに。政治の力も必要だけどさ。

    むしろ軍関係の雇用の問題でドラスティックなことが出来ないんだろうねぇ。
    日本は土建屋の談合を一応撲滅出来たが、アメリカは出来んのかな。

      • 匿名
      • 2021年 5月 29日

      阿呆か。基地からエアカバーできる領域に限界があるから空母という艦種ができたんじゃないか。アメリカのみが大型空母を10隻以上持ってるからこそ全世界に展開できる。艦を減らしたらアメリカの旗がたなびかない地域が増えるということだぞ

      27
      • 匿名
      • 2021年 5月 29日

      空母については一部軽空母にすることを検討とかはしてたよね
      湾岸戦争位には空母より空軍重視という話もあったけど
      トルコのインジルリク基地みたいに時と場合で使えなくなるケースがあったり
      使えてもリビア空爆時に領空通過拒否されて大廻りさせられるケースとかあるから
      あんまり空母部隊は今のところ減らせない模様
      長距離兵器の進歩で従来安全とされてた航空基地がファーストストライクの対象になりうるとかもあるからね

      10
    • 匿名
    • 2021年 5月 29日

    タイコンデロガ級も退役させないといけないのか。
    ベースが旧型とはいえ、イージス艦なんだがなあ。
    毎度思うが、コロンビア級がガンだな。
    オハイオ級を延命するか、バージニア級のVPMから発射出来るSLBMを配備するかしないと、もたないのではないか?
    戦略原潜なんかミサイル抱えて潜っていれば良いだけなのだから、オハイオ級を延命して時間を稼ぎ、無人艦を開発すれば良い。

    10
      • 匿名
      • 2021年 5月 29日

      そう思うだろうが
      ミサイル原潜は核戦略の超重要な部隊だから
      コストが多いいからと言って削減レベルの話じゃない

      13
      • 匿名
      • 2021年 5月 29日

      バージニア級があれだけ大型化、高額化しちゃったんなら
      もう戦略原潜もバージニア級ベースでいいじゃんと
      傍目には思えるよね

      5
    • 匿名
    • 2021年 5月 29日

    スパホが老朽化する前にF-35の対艦ミサイルを完成させないと艦載機から対艦ミサイルが運用できなくなるな

    2
    • 匿名
    • 2021年 5月 29日

    スパホブロック3はやはりクソだったか。延命するぐらいならF35Cだよね。
    トランプ政権の時はここまで詳しく予算解説しなかったのに、米メディアも酷いわ。
    去年とかおととしも解説してくれればNGADとかもっと早く分かったかもしれないのに。

    それとも、予算を余り詳細に報じるとそこからいろいろ分析できちゃうからまずいのかな?

      • 匿名
      • 2021年 5月 29日

      米国ではちゃんと取り上げられてるけど、それを日本語で事細かに紹介する媒体がないだけのことでしょ?

      欧米諸国には国内に防衛関係の専門メディアが幾つもあるから情報が流通しやすいけど、日本には専門も防衛メディアがないから諦めるしか、自分で英文の記事を読みに行くしか無い。

      5
        • 匿名
        • 2021年 5月 29日

        日本の大部分の民衆と現野党は国防への関心が低く防衛予算に関して年度総額にしか感心が無い。
        従って大部分のメディアには防衛予算について事細かに解説を行えるスタッフがいない。
        ましてや他国の国防費の詳細内訳に関心を持つのは一部の軍ヲタしかいない。

        6
    • 匿名
    • 2021年 5月 29日

    海軍の次期戦闘機はどうなってんの

    3
    • 匿名
    • 2021年 5月 29日

    今どき巡洋艦など必要があるとは思えない。
    巡洋艦の機能は駆逐艦で代用できるのだから、タイコンデロガ級巡洋艦の後継はアーレイ・バーク級のフライトIIIにすればいいのではないか。

    2
      • 匿名
      • 2021年 5月 30日

      タイコンデロガ級ってスプルーアンス級駆逐艦をベースにしているから、当初計画ではミサイル駆逐艦に分類されていたようだ。
      駆逐艦→巡洋艦となった詳しい経緯は分からないが、建造時に就役中だった原子力ミサイル巡洋艦と役割が被っていたから巡洋艦にされちまったのか?

      ところで、バーグ級のVLSセル数はタイコンデロガ級に比べて32セル少ないが、完全代替できるもん?

        • 匿名
        • 2021年 5月 31日

        初の実用的なイージスシステム搭載した量産艦だからその能力への期待と、艦隊の防空の要なので、戦術指揮を取る必要もあって巡洋艦に分類されたはず。
        タイコンデロガ級は艦隊防空の要で、バーク級は艦隊のワークホースだし、そもそもバーク級の船体も更なる新技術の搭載には耐えられないので、今の段階では乗せるシステムは同じでも、船体の拡張性と言う意味で新たな巡洋艦が必要なんでは。

        1
    • 匿名
    • 2021年 5月 30日

    一応F/A-18E/F BLOCK3は、オープン アーキテクチャに対応してるんだったけ?
    方向性を考えるとF-35にも対応させてハード的には近代化改修をある程度一本化するのかもね

    • 匿名
    • 2021年 5月 30日

    ステルス機の運用コストを考えると、ステルス機が必要がない任務用にスパホも残すんじゃないかな
    空軍がF-16を手放さないように・・・

    • 匿名
    • 2021年 5月 31日

    巡洋艦がいらないかって話は何を根拠にしての話なんだろう?少なくとも駆逐艦扱いのズムウォルトですら、新機軸のプラットフォームとしてバーク級の1.5倍の排水量一回り二回り以上のサイズになっているのに。

    船体規模の拡大でバーク吸2席必要な所を1席でカバー出来るとかなら、多少価格が高くて人員配置が多くても質的には向上出来るんじゃないの?任務が多様化しているからミサイルのセル数増やす/レーダーもRMAモジュール多く積めるようにする/主砲を2門搭載する/発電設備を強化する/無人装備を各種装備させるなら、全部船体規模拡大が必要な話だし。

    スパホを残すかどうかは考え方次第だから、F-35Cの機能的に全く問題ないなら一機種に統一した方が色々と都合が良いとは思う。何故かC型だけが一時間あたりのコストが一番安くスパホと同じレベルなんだよな。コストや能力的問題でF-14やF/A-18A~Dが消えていったりしているのと同じ流れになるんじゃないかな。

    • 匿名
    • 2021年 6月 01日

    「既存のブロックIIからブロックIIIへのアップグレードは維持される見込み」
    この一文が読めないバカが多すぎ

      • 匿名
      • 2021年 6月 02日

      見込み の意味すら理解出来てないヤツが言うことじやないよ。どこに確定って書いてあるの?

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