バイデン大統領は2022会計年度の予算教書(連邦政府予算案)を正式に発表、これを受けて国防総省は7,150億ドル/約78兆5,300億円で編成された国防予算案を議会に提出したのだが、今回は空軍に関する内容を見ていくことにする。
参考:Defense Budget Materials – FY2022
レガシーなプラットホームを処分してNext Generation Air Dominance/次世代エアドミナンス(NGAD)プログラムに投資する米空軍
空軍は2022会計年度に1,735億ドル/約19兆円の予算を要求したのだが、これには宇宙軍の予算174億ドル/約1.9兆円が含まれているため空軍の実質的な予算要求額は1,563億ドル/約17兆円で研究・開発分野に前年比22億ドル/2,410億円増となる「288億ドル/約3.1兆円」を分配、逆に装備調達には「229億ドル/約2.5兆円」しか分配されていないため前年比32億ドル/約3,510億円減となり、これは陸軍や海軍にも共通することなのだがバイデン政権の国防予算編成方針は目先の装備調達よりも将来の技術開発に優先しているのが特徴だ。
具体的な空軍の予算要求に関する主要ポイントは以下の通りとなる。
空軍はレガシーな航空機を整理することで捻出した資金をF-35Aのアップグレード(ブロック4への移行)やNext Generation Air Dominance/次世代エアドミナンス(NGAD)プログラムなどに投資する計画で、2022年度からF-15C/D×48機、F-16C/D×47機、A-10×42機、KC-130×18機、KC-10×14機、E-8×4機、RQ-4×20機(ブロック40のみ維持)、C-130H×13機を退役させことを提案、逆にF-35A×48機、F-15EX×12機、KC-46A×14機、HH-60W×14機、MC-130J×4機を調達するため90億ドル以上の資金を要求。
更に空軍は各種弾薬を調達するため計21億ドル/2,300億円の資金を要求しているのだが、ここには空中発射式の極超音速ミサイル「AGM-183A ARRW」調達に関する資金(低率初期生産を立ち上げるための1.6億ドル)が含まれており米メディアが特に関心を寄せている。
ただAGM-183Aに関しては空軍は「2022年度に量産を開始して初期作戦能力を獲得する」と以前から言及していた部分なので特に目新しい部分ではないのだが、2022会計年度予算にAGM-183Aの低率初期生産に関連した資金供給が含まれているので計画通りAGM-183Aの実用化が進行していると米メディアは注目しているのだろう。
管理人的に注目したいのはNGAD関連への投資が急増している点、開発継続が危ぶまれていた大陸間弾道ミサイル「ミニットマンIII」の更新プログラム「地上配備型戦略抑止(GBSD)」への資金供給が2022年度も保証されている点、噂されていたMQ-9リーパーの調達が中止される点だ。
米空軍は第6世代戦闘機と目される有人戦闘機や複数の無人戦闘機で構成されたNGADファミリーシステムの開発予算として15億ドル/約1,600億円を要求しており、この額は2021年度に開発予算として受け取った額よりも6.2億ドル増という数字でNGAD開発が本格化していることを示している。
さらに新しいICBMを新規に開発する地上配備型戦略抑止(GBSD)プログラムのコストは約2,640億ドル/約27.5兆円と見積もられており、あまりにコストがかかるため批判の対象に挙がっていたがロシアや中国が次々と次世代のICBMを開発して配備している状況を踏まえバイデン政権はトランプ政権が立ち上げたGBSDプログラムの維持に26億ドル/約2,850億円もの予算を配分したため、老朽化して能力的にも時代遅れのミニットマンIII問題は新規にICBMを開発する方向で決着したと言っても良い。
最後に噂されていたMQ-9リーパーの調達中止についてだが、噂通り空軍はMQ-9の調達資金を2022年度の予算案に計上していないため同機の調達中止方針は確定的といえる。ただ上記全ての内容は飽くまで「予算案」なので今後の議会審議の中で覆ることも十分ありえるため空軍の要求はどこまで実現するのかは謎だ。
余談だが共同通信は米国の国防費は7,560億ドルでトランプ政権が要求していた7,530億ドルよりも増額していると報じているが、これは流石に誤解を生む表現かもしれない。
関連記事:米軍、対中抑止に5千億円 前年度比2倍、国防費も増
共同通信が持ち出した7,560億ドルという数字は国防総省に分配される「国防予算」と核弾頭や軍事用原子炉の開発や維持を担当するエネルギー省など他の連邦政府期間に分配される「国防プログラム予算(380億ドル)」を合わせた数字(そもそも米国では7,530億ドルと報じられている)で、一般的に米国で国防予算と予算とよばれているのは国防総省が編成する7,150億ドルの部分を指す。
共同通信は国防費の総額がトランプ政権が要求した7,530億ドルよりも増加した理由は不明だと書いているが、バイデン政権が編成した国防予算よりもトランプ政権が2022年度に要求していた国防予算(7,220億ドル)の方が70億ドル多いため「トランプ政権が要求していた国防費よりも増加した」という表現は大きな誤解を生む可能性が高い。
国防プログラム予算が膨らんだのはGBSDプログラム用の新型核弾頭の開発やコロンビア級原潜向けに製造される原子炉などの費用が膨らんだ可能性が高く、国防総省が執行できる国防予算のトップラインは7,150億ドルのままだ。
米国の主要メディアを見てもバイデン政権が発表した国防予算がトランプ政権の要求額(2022年)よりも増額したと表現しているところはない(前年比で2%の増額という表現はある)。
本ブログで何度も取り上げているが2022年度の国防予算7,150億ドルはインフレの影響を相殺するのに十分な伸び率(1.5%~3%)を確保できていないため2021年度の予算と比較して実質的な削減と言ってもよく、国防総省の裏金と呼ばれてい「海外緊急事態対応基金(OCO)」が廃止される方針なので削減幅は最大500億ドル/約5.5兆円以上まで膨らむことを加味すると「トランプ政権が要求していた国防費よりも増加した」と表現するのは流石にどうなのだろうか?
関連記事:バイデン政権が国防予算案を発表、レガシーウェポン大量処分やF/A-18E/F調達中止を予告
関連記事:レガシーなMQ-9は不要と主張する米空軍、来年以降の調達中止を議会に提案
告知:軍事関係や安全保障に関するニュースが急増して記事化できないものはTwitterの方で情報を発信します。興味のある方は@grandfleet_infoをフォローしてチェックしてみてください。
※アイキャッチ画像の出典:ノースロップ・グラマン NGAD
日本のマスゴミのプロパガンダは相変わらずだねえ
発表された数字を操作して報道する事で世論をミスリードするのは独裁国家や共産主義国家を彷彿とさせる
そうまでして米国を悪者扱いしたいと言う意図がミエミエで笑うわ
そんな彼らははまるで「新華社通信日本支部」だなあw
それだけ、色々なところに浸透されてるってことね。
やっぱマスコミだけ独裁国家とか東側の国と似通ってるのって可笑しくね?
これはもうわけわからん
無能に悪意を見出してはいけない
邪推すれば中国の軍拡を世界的な潮流だと誤認させるためだし、そうでなければ単に分析できないだけの無能とも。どちらにせよ、情報を広く分散する立場としては不適ですね。
国防権限法では中国対策に500億ドルの予算割当を義務付けられてるので、どういう形をとってくるのか気になる
いやぁ、毎回思うがやはり軍事や安全保障関連はマスコミよりこっちの方が正確だよ。
いつもお疲れ様です。
良記事ありがとうございます
共同通信を切り捨ててるところスキ
将来の空軍と海軍の主力を担う戦闘機はF-35なのでしょうか?
それともMR-Xによって代替されるのでしょうか?
将来的に、F-35プログラムが見捨てられるような事態になったりしませんか?
詳しい人教えてください。
空軍ではF-35が名実共に主力であることは確実です。F-35 の調達の遅さに痺れを切らして「F-16の更新用の新型第4.5世代機が必要になるかも」と話して話題になった将官本人が言っているので大丈夫だと思います。
海軍についても F-35Cを予定通り260機導入すると思われます。ただし、海軍の方は次世代のF/A-XX が導入されるまでF/A-18E/Fが数的には主力であるということになります(数年以内に投入できる艦載無人戦闘機などの計画は無いため)。
MR-Xはあくまでも第4.5世代機であるため、F-35 で置き換えが間に合わないF-16を置き換える計画の様です。
F−15C/D48機が退役!? それ、空自に下さい。