米国関連

1隻約2,000億円、米海軍がSPY-6搭載のイージス艦調達を削減

フルサイズのSPY-6搭載艦であるアーレイ・バーク級駆逐艦FlightIIIは滅多にお目にかかれない貴重種になる可能性が高い。

参考:Navy DDG-51 and DDG-1000 Destroyer Programs: Background and Issues for Congress

コロンビア級原子力潜水艦の調達に資金を奪われ調達が削減されるアーレイ・バーク級駆逐艦FlightIII

米海軍のアーレイ・バーク級駆逐艦は現在「FlightIII」と呼ばれるモデルを調達中で、以前のFlightIIAと比べて大きな変化を遂げている。

最も大きな変化は搭載レーダーをロッキード・マーティン製「AN/SPY-1D(V)」からレイセオンが開発を進めている「AN/SPY-6(V)1」に変更した点だが、IIAからIIIへの設計変更で最も苦労している点はSPY-1と比較して約2倍もの電力供給と強力な冷却能力の要求を満たすため電力システムを一新したところだろう。

出典:RAYTHEON AN/SPY-6(V)1

特に米海軍は近い将来、指向性エネルギー兵器を艦艇に装備させる予定なのでFlightIIIの発電力能力は十分な余裕をもたせており、冷却機はIIAに比べて約100トン以上も重くなっている。このような設計変更はRMAと呼ばれる送受信モジュール37基で構成されるフルサイズのAN/SPY-6(V)1を使用するのに欠かせないため、旧型のFlightIIやFlightIIAのアップグレードに供給予定のSPY-6は発電力能力と冷却能力の不足に対応してRMA24基で構成されたAN/SPY-6(V)4を採用するらしい。

因みにジェラルド・R・フォード級空母やコンステレーション級フリゲート(調達予定)にはRMA6基で構成されたSPY-6の派生型を採用しており、米海軍の艦艇用レーダーの基本技術はSPY-6で統一される可能性を秘めているが、ロッキード・マーティンも旧型アーレイ・バーク級駆逐艦やタイコンデロガ級巡洋艦のアップグレード用にAN/SPY-7採用を提案しているのでレイセオンによる独占を阻止する可能性も残されている。

出典:RAYTHEON 回転式のAN/SPY-6(V)2

では、フルサイズのAN/SPY-6(V)1を採用したFlightIIIは何隻調達されるのだろうか?

米海軍は「DDX Next」と呼ばれている次期駆逐艦の調達を2028年から開始する予定なのでアーレイ・バーク級駆逐艦の最終調達は2027年に設定されており、さらに1隻あたりの建造費用が7,700億円も必要なコロンビア級原子力潜水艦(プログラムコストは10兆円以上)の調達が始まるため米海軍は艦艇建造予算(2021年の艦艇建造予算の総額は約200億ドル)の大半を同艦の建造に費やさなければならない。

FlightIIIの平均調達費用(建造費用+政府支給の装備品+艤装工事費用など)は1隻あたり19億1,850万ドル(2020会計年度発注分:約1,987億円)と見積もられているが、これは最終的な調達費用ではないので米海軍に引き渡されるまでに20億ドルの大台を突破する可能性が高く、限られた艦艇建造予算からFlightIIIを調達するための費用を捻出するのが困難だ。

出典:public domain コロンビア級原子力潜水艦

実際に米海軍が提出した計画によればFlightIII調達はすでに削減する方向で進んでおり、2021年~2025年まで発注するFlightIIIの数はたったの8隻(去年までの計画では12隻)しかない。

米海軍はトランプ大統領の提唱した355隻体制実現やアーレイ・バーク級駆逐艦の構築に欠かせない造船産業を含むサプライチェーンを守るためFlightIIIを年平均2.4隻調達することを約束していたのだが、現在の計画では年平均1.6隻に調達ペースが落ちているため議会も「海軍は本気で退役する巡洋艦(今後5年間でタイコンデロガ級巡洋艦を11隻退役させると提案中)の穴を埋める気があるのか?」と心配してるほどで、年平均1.6隻のペースでFlightIIIを調達すれば米海軍の艦艇規模は縮小することになるという意味だ。

ただ、この問題に関しては海軍だけに責任があるのではなく議会も同罪だろう。

以前から米海軍はコロンビア級原潜調達についてSOSを発信しており、海軍に割り当てたれた艦艇建造予算だけでコロンビア級原潜の調達を進めれば他の艦艇調達に影響がでるため「海軍の艦艇建造予算とは別にコロンビア級原潜の建造費を割り当てて欲しい」と働きかけてきたが、この要求を議会が一切認めなかったのだ。

出典:U.S. Navy graphic/Released コンステレーション級フリゲートの完成予想イメージ

結局、米海軍はアーレイ・バーク級駆逐艦やコンステレーション級フリゲート(当初2025年発注予定を削除)の調達を削減することでコロンビア級原潜の調達費用を捻出したため、FlightIIIは年平均1.6隻の調達ペースに落ちてしまった。

果たして2026年~2027年までにFlightIIIをあと何隻発注するのか不明だが「DDX Next」が順調なら、フルサイズのSPY-6を搭載したアーレイ・バーク級駆逐艦はの総数は12隻~14隻程度になるのではないかと管理人は思っているが下手をすればさらなる削減も考えられるため、どちらにしてもフルサイズのSPY-6搭載艦であるFlightIIIは滅多にお目にかかれない貴重種になるかもしれない。

因みにDDX NextがFlightIIIの仕様を踏襲すればフルサイズのSPY-6搭載艦は増えるので、アーレイ・バーク級駆逐艦の調達削減=フルサイズのSPY-6搭載艦が不足するという意味ではない。

関連記事:平均建造費用7,700億円、米海軍がコロンビア級原潜の調達を開始
関連記事:ズムウォルト級の失敗を恐れる米海軍、次期駆逐艦も枯れた技術だけで構成

 

※アイキャッチ画像の出典:public domain アーレイ・バーク級駆逐艦FlightIII「ジャック・H・ルーカス」

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コメント

    • 野嘗
    • 2020年 12月 24日

    ( ´_ゝ`)フーン ガンバ、、、、

    1
    • にわかミリオタ
    • 2020年 12月 24日

    改めて思うけど、コロンビア級原子力潜水艦って高いな

    11
      • 匿名
      • 2020年 12月 24日

      世界を滅ぼせる力を持つことを考えれば安いのでは
      一隻でも日本くらいの国なら再起不能にできるワケだし

      11
        • にわかミリオタ
        • 2020年 12月 25日

        世界を滅ぼすか。
        第三次世界大戦はいつだろうか……。

        1
        • 匿名
        • 2020年 12月 25日

        攻撃した国を破壊する。ただし所有した国も破壊する。触れるもの皆傷つける、

        1
      • 匿名
      • 2020年 12月 24日

      以前の記事でバイデン政権に対して議会が「戦略原潜を8隻まで削減しろ」と要求しているという話が出てたから、案外それが正しいのかもしれん

      7
      • 匿名
      • 2020年 12月 24日

      アメリカが謎の攻撃を受けて壊滅した場合、8艦のうち、半分が港に停泊中に攻撃を受け、本国と通信できなくなった4艦が相手もわからず計64発のSLBMを発射。ロシア、中国、北、イランが喰らうなら、まあ8艦でもいいよね。

      6
        • 匿名
        • 2020年 12月 25日

        外界の状況が分からない潜水艦が、平時と戦時の違いをどうやって判断するの?

        仮に戦時と判断しても、命令がないのにいきなりSLBMを発射することは無いでしょ。

        • 匿名
        • 2020年 12月 25日

        定期的に命令を受け取れないなら、もう兵器ですらないよ。
        一定期間通信が途絶えたら艦長は本当にSLBMを撃てるのかって、物語としてよく採用されてない?

        3
      • 匿名
      • 2020年 12月 24日

      戦略ミサイル原子力潜水艦 ってそういうものでは?
      (高くはない)
      ウチの本土を攻撃したら、おマイの国を焦土にしてやる
      私の位置は探知不能。
      イスラエルのドルフィン級も同じ目的
      攻撃型潜水艦とは目的が違う

      3
    • 匿名
    • 2020年 12月 24日

    >たったの8隻
    日本「たった!?」
    豪州「たった!?」
    スペイン「たった!?」
    韓国「たった!?」
    ズムウォルト「たった!?!?」

    19
      • にわかミリオタ
      • 2020年 12月 24日

      おかしいなぁ。一つだけ、お前が言うなっていうやつがいるな。

      36
    • 匿名
    • 2020年 12月 24日

    アメリカンサイズは伊達じゃない

    コスト割高だがな!!!!

    1
    • 匿名
    • 2020年 12月 24日

    NEWS24-WEBという軍事系のブログ(リンク)が
    youtubeの動画で盗用されているみたいだから
    ココも似たような事をされていないか心配だ
    もしかしたらされているかも知れないが

    3
      • 匿名
      • 2020年 12月 24日

      ここのネタなんて他じゃ扱ってない物が多いから、軍事系の転載系YouTuberにとっては格好の標的だろうね。

      12
    • 器用貧乏
    • 2020年 12月 24日

    だから、ヴァージニア級にVPNを付けて戦略原潜を兼ねさせれば解決するのに。
    コロンビア級に拘らなければいいのに。

      • 匿名
      • 2020年 12月 24日

      だから高さが足らんって(ヴァージニア級:直径10.4m、オハイオ級:12.8m)
      新たに短くて同等の射程のSLBMを再開発するのも金掛かるだろうし

      11
        • 匿名
        • 2020年 12月 25日

        サイロの高さの違いを御存知の方は、いませんか?

      • 匿名
      • 2020年 12月 25日

      トライデントⅡのサイズをどうやって押し込むのか聞きたいよ(笑)
      ロシアのデルタみたく出っ張りを作れば抵抗と騒音の元となって役立たずになるし、
      そもそも戦略ミサイル原潜と攻撃型原潜は担当海域からして異なることすら知らんのは困るな

        • 匿名
        • 2020年 12月 25日

        斜めに設置すれば高さはクリアか

          • 匿名
          • 2020年 12月 25日

          なぜか戦略弾道ミサイルは必ず垂直装備、斜めはない
          それなりに理由があるようだ

    • 匿名
    • 2020年 12月 24日

    いくらなんでもコロンビア級の建造費高過ぎないか?
    本当にこんな高額な建造費が必要か精査した方が
    いいんじゃないのか

    1
    • 匿名
    • 2020年 12月 24日

    アーレイバーク級100隻超えは無理か…見てみたかったな

    1
    • 匿名
    • 2020年 12月 25日

    海軍の言い分も議会もそれぞれごもっとも。
    問題は、どちらにせよお金が足りないのだ
    アメリカは棄てるに棄てられないもんが多過ぎて動きがとれなくなりつつある

      • 匿名
      • 2020年 12月 25日

      日本は既に身動きが取れなくなってるからな
      ワロエナイ

      2
      • 匿名
      • 2020年 12月 25日

      お金が足りないって言うけどさ。米国2021年度会計予算教書によると、2021年度の国防予算は7405億ドル(81兆円)なんだがな。それでも足りないって一体どうなってるのやら…

      1
        • 匿名
        • 2020年 12月 25日

        全世界で作戦展開できるように基地を配備して、そのネットワークを維持するために人や物が莫大に動いてるし、しかも維持費のかかる核を陸海空三軍それぞれに持たせる贅沢ぶりw
        米軍だけでひとつの国家と呼んでも良いくらいに巨体ですから、大飯食らいなんですよ、
        自衛隊とは人数の差だけでなく規模の差が大きいから、この大予算でもキュウキュウなんだろうと

        2
    • 匿名
    • 2020年 12月 25日

    コロンビア級の1隻の建造費が7700億って何⁉︎
    軽空母が2隻建造できるかもしれない額だよ。

      • 匿名
      • 2020年 12月 25日

      先っちょにドリルがついてて空が飛べるんじゃないかって値段だよね

      4
    • 匿名
    • 2020年 12月 25日

    まぁ、少なくともオリンピックという大した経済効果ももたらさない3週間足らずのイベントに何兆円もの無駄金を注ぎ込む何処かのアホ政府よりはマシだと思うのは気のせいかな?

    8
      • 匿名
      • 2020年 12月 25日

      そういうアホな政府であることを望んでるのが米国ですから

      1
        • 匿名
        • 2020年 12月 25日

        ナイスツッコミ!🤣

        1
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