ウクライナ戦況

スウェーデン外相、自走砲アーチャーのウクライナ提供を検討中だと明かす

スウェーデンのリンデ外相は7番目のウクライナ支援パッケージを発表、さらに「自動装填装置を備えた自走砲アーチャーの提供も検討中だ」と明かしたため注目を集めている。

参考:Ann Linde

今後のセールスを考えればアーチャーのウクライナ提供は実現性が高いのかもしれない

スウェーデンは携行兵器(Robot17、AT-4、AG90など)を中心にウクライナ支援を実行中で、一部メディアは「スウェーデンがアーチャーをウクライナに提供する。アーチャーを扱うための訓練が始まっている」と主張したものの具体的な動きはなく「噂」で終わるかに見えたが、リンデ外相は31日「アーチャーやRBS70をウクライナに提供することを検討している」と明かした。

砲兵装備向けの砲弾を含む7番目のウクライナ支援パッケージ(約5,000万ユーロ相当)を発表したリンデ外相は「このパッケージが最後のウクライナ支援ではない。国防装備庁と軍はアーチャーやRBS70といった装備をウクライナに提供する可能性を検討している」と言及、スウェーデンが初めてアーチャー提供に言及したため注目を集めている。

アーチャーはスウェーデンとノルウェーが共同開発した次世代の装輪型自走砲(開発を担当したボフォースを買収したため現在はBAEの製品)で、フランスのCaesarや日本の19式とは異なり自動装填装置付きの砲塔を備えているため、操作員が射撃の際に降車する必要がなく全ての操作を車内から行うことが可能だ。

さらに専用の補給トレーラーから約8分で砲弾21発と装薬を補給することも可能で、米軍採用の対装甲車輌子弾を内蔵したBONUS砲弾やGPS誘導のエクスカリバー砲弾にも対応、調達可能な装輪型自走砲の中で「最も性能が優れている」と言っても過言ではないが、構造が複雑で調達コストが高価なため採用国はスウェーデン陸軍しかいない。

アーチャーを検討したクロアチア陸軍は調達コストの問題で導入を断念、ノルウェー陸軍は発注したものの納期がネックとなり発注をキャンセル、米陸軍は牽引式の155mm榴弾砲を更新するため市場で入手可能な装輪型自走砲を集めてトライアウトを実施したが新規開発で決着しためアーチャー導入の道は断たれてしまい、現在はスイス陸軍の次期自走砲をRCH155と争っている。

出典:KMW RCH155

スイス陸軍の最終選考に選ばれたアーチャーもRCH155(ボクサーの車体に155mm榴弾砲を統合した装輪型自走砲)も実戦経験がなく、もしかしたら「RCH155と差別化を図るためロシア軍相手に実戦を経験させたい」という意向が働いているのかもしれないが、1輌でも多くの砲兵装備を必要とするウクライナ軍からすればBAEやスウェーデンの事情など些細な問題だろう。

他の競合機種(Caesar、Zuzana2、KRAB、PzH2000)もウクライナで実戦を経験しているため、今後のセールスを加味すれば「アーチャーのウクライナ提供」は実現性が高いのかもしれない。

関連記事:BAEシステムズ、米陸軍に装輪型の155mm自走榴弾砲「アーチャー」を提案
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※アイキャッチ画像の出典:Ibaril / CC BY-SA 3.0

ヘルソンを巡るウクライナ軍とロシア軍の戦い、31日も各地で複数の爆発前のページ

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コメント

    • TO
    • 2022年 9月 01日

    日本も19式とかいう訳分からんやつではなく、アーチャーを購入すれば良かった
    C-2で輸送することに異常なこだわりがあるなら、フランスのカエサルを購入すれば良い話
    19式は車両すらも国産ではなくMAN社製トラックだし、本当に開発する意義が分からない

    25
      • Strv
      • 2022年 9月 02日

      アーチャーは高額すぎて売れてないって書いてありますが。
      19式は99式と同じ砲を積んでいて互換性があるのがメリットでは?

      3
      • けい2020
      • 2022年 9月 02日

      自分の気持からの否定のための否定では、単にヒステリーを書き連ねてるようにしか見えませんよ

      >アーチャーを購入すれば良かった
      なぜどうして?具体的なメリットデメリットなどを出して断言しましょう

      >C-2で輸送することに異常なこだわりがあるなら、
      C-2か国産を憎んでるのか、たんに異常なヒステリーです
      >フランスのカエサルを購入すれば良い話
      なぜどうして?具体的なメリットデメリットなどを出して断言しましょう

      >19式は車両すらも国産ではなくMAN社製トラックだし、本当に開発する意義が分からない
      意味がわからないのは、あなたが全知じゃないからでしょうが、
      そもそもMAN社製で何が問題が有るのでしょう?

      なにやら、断言が大好きみたいですが、完全な全知じゃなければ、断言断定確定させられる事は少ないですよ

      2
    • 野良犬
    • 2022年 9月 01日

    確かにスウェーデン側からすれば、供与にも相応のメリットがありそうですね。
    しかし総生産台数が48両しかないことを考えれば、提供できても十両前後でしょうね。
    エラーで使用不能となったPzH2000の話もありましたし、共通の西側弾薬が使えても実戦未経験の複雑で訓練を要する小数の兵器がどれほど使えますかね…。
    既に投入済みの自走砲の追加供与や砲弾の大量供与の方が喜ばれそうな気がします。

    7
    • ブルーピーコック
    • 2022年 9月 01日

    で、その19式の車体であるRMMV HX2とアーチャーの砲を組み合わせたバージョンをテストしている訳ですが

    ジェーンズ
    リンク
    日本語
    リンク

    4
      • ブルーピーコック
      • 2022年 9月 01日

      返信先を間違えてたわぁ・・・(2敗)

      1
    • ブルーピーコック
    • 2022年 9月 01日

    アーチャーの砲をHX2に載せたバージョンを19式改として・・・と以前は思ったが、まさにそのバージョンが2年前からテスト中なんだよなあ。追加導入もありかもしれんが、国産にする理由ががが

    5
    • Rex
    • 2022年 9月 01日

    19式 真ん中のどう考えても劣悪スペースに押し込まれてる隊員かわいそすぎるわ。
    FH70使ってる迫の連中に聞いたけど、「あそこだけは転属したくない」ってみんな言ってた。
    ヤバすぎなんだよなぁ、、
    陸幕は何考えてるのやら。

    20
      • かしあげ
      • 2022年 9月 01日

      あの席不評すぎて量産車では防弾化等の変更が行われるそうですよ。どの程度改善されるかは未知数ですが…

      10
      • ブルーピーコック
      • 2022年 9月 01日

      パトリアみたいな装輪装甲車を随伴車両にすれば良いと思うんですけどね。12人載せられるから単純計算で19式4両分の操作要員を運べるので。

      3
    • 名無し
    • 2022年 9月 01日

    19式なんていうのはJSWに仕事投げるためだけのものでしかないだろう
    だいたい22機しか調達予定のないC-2で自走榴弾砲なんか輸送する余裕があるのかという話

    20
    • 無無
    • 2022年 9月 01日

    戦争が山場なんだから、さっさと検討でなく決定に進まないと、すぐ増産できてすぐ習熟できる装備には見えないし
    そういうとこも各国がグリペンに手を出せない原因

    5
    • 無印
    • 2022年 9月 01日

    アーチャー意外に売れてないんだな
    コストがネックみたいだけど、一両おいくら億円なんだろ?

    3
      • ブルーピーコック
      • 2022年 9月 01日

      wikipedia英語版だと450万ドルになっています。日本円で6億2500万円。輸出時はもう少し値段が高くなるでしょう。ちなみに19式の2021年度の価格は1両約6億3728万円です。
      33トンの重さと価格、さらに車体が6輪車のボルボA30Dなのが不人気の理由だそうで。

      10
        • ブルーピーコック
        • 2022年 9月 01日

        追記
        チェコに輸出されたカエサル8×8は1両が約5億4000万円ほど。参考までに。

        てか、今の時期に計算すると円安で価格差が縮まるなあ

        5
      • てつ
      • 2022年 9月 01日

      軽く調べたら、本国納入価格が450万ドル、つまり大体6億円らしい。
      フィンランド向けのK9輸出価格と同じ位。技術移転料を入れると倍になるけどね。
      輸出仕様のグリペンも国内仕様の倍くらいになっているから、こっちも10億円超になってもおかしくないかな。
      ちなみに高いと言われる99式自走榴弾砲の調達価格が10億円を切る位。

      6
    • てつ
    • 2022年 9月 01日

    追記。
    ウクライナ向けのPzH2000が1輛あたり約24億円。
    まあアーチャーや99式同様に自動装填装置付きだから、高くなるのは仕方がないかな。

    3
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