米国関連

BAEシステムズ、米陸軍に装輪型の155mm自走榴弾砲「アーチャー」を提案

BAEシステムズは19日、米陸軍の要求に応じて装輪型155mm自走榴弾砲「アーチャー」を提案すると発表した。

参考:ARCHER wheeled howitzer offered for U.S. Army’s 155 mm gun system

米陸軍の155mm牽引式榴弾砲の後継に名乗りを挙げた155mm自走榴弾砲「アーチャー」

米陸軍は既存の155mm牽引式榴弾砲を更新するため今年8月、機動性、致死性、生存性の3点が優れている155mm自走式榴弾砲の提案要求書(RFP)を発効、2021年にアリゾナ州ユマ試験場で実施する実射試験に参加をできる企業を募集中で、この要求に応じてBAEシステムズは装輪型155mm自走榴弾砲「アーチャー」を提案すると発表した。

出典:Stridsvagn122 / CC BY-SA 4.0 155mm自走榴弾砲「アーチャー」

BAEシステムズが提案した「アーチャー」はスウェーデンとノルウェーが共同開発した次世代の装輪型自走榴弾砲(ボフォース製52口径155mm榴弾砲「FH77/B」をボルボ製トラックに搭載)で、フランスのカエサルや日本の19式とは異なり、アーチャーは155mm榴弾砲を搭載した自動装填装置付きの砲塔を備えているため射撃の際に操作員が降車する必要がなく、全ての操作を車内から遠隔で行う事ができる。

※カエサルは自動装填装置付きの砲塔を備えたカエサル8×8(デンマーク陸軍採用)が登場してました。

補足:アーチャーの開発を請け負ったのは防衛産業サーブの子会社だったボフォースなのだが、その後ボフォースの重火器部門が米防衛産業のユナイテッドディフェンス買収され、さらにその後ユナイテッドディフェンスがBAEシステムズに買収されため自走榴弾砲「アーチャー」は現在BAEシステムズの製品となっている。

そのためアーチャーは車輌停止から30秒以内に発砲可能(撤収も同じ)なので射点変更が素早く出来るのが特徴だ。

さらに専用の補給トレーラーから約8分で砲弾21発と装薬を補給することもでき、米軍が採用している対装甲車輌子弾を内蔵した155mm砲弾「ボーナス」やGPS誘導砲弾「M982 エクスカリバー」にも対応するなど搭載している榴弾砲自体の汎用性も高く、恐らく調達可能な装輪型155mm自走榴弾砲の中で最も性能が優れているのだが調達コストが非常に高価だと言われている。

正確な調達コストは導入国がスウェーデン陸軍のみなので推測することが難しいが、クロアチア陸軍は調達コストの問題でアーチャー導入を中止、その代わりに中古のPzH2000を1輌約450万ドル(約4.8億円)で購入していることから、少なくともアーチャーの調達コストは1輌450万ドル以上するのだろう。

ただ米陸軍が採用すれば大量発注が期待されるため、高価なアーチャーの調達コストも大きく値下がりするかもしれない。

因みに米陸軍が実施する実射試験に応募するためには、米陸軍が提供する155mm榴弾砲「M777」に使用されている砲身を提案する自走榴弾砲に統合することが可能ことを条件に挙げており、この要求に応じているのは今のところBAEシステムズだけだ。

出典:Photo by Maj. W. Chris Clyne, 41st Infantry Brigade Combat Team Public Affairs 簡易自走榴弾砲「ブルータス」

一応、米陸軍と軍用車輌の製造を手掛けるAMゼネラルが協力して中型の戦術トラックに155mm榴弾砲を搭載しただけの簡易自走榴弾砲「ブルータス」を開発しているが、これがユマ試験場で実施する実射試験に参加するのか分かっていない。

果たして米陸軍のお眼鏡にかなう自走榴弾砲は現れるのだろうか?

管理人の予想では155mm自走榴弾砲「アーチャー」はシステムが複雑で整備に手間がかかるため敬遠されるのではないかと思っている。

 

※アイキャッチ画像の出典:Ibaril / CC BY-SA 3.0

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 10月 21日

    ほーん、日本も19式でコンペ参加したらええんちゃう
    M777の砲身を統合するの技術的難易度がよくわからんけど
    参加するのは自由なんやろ

    14
    • 匿名
    • 2020年 10月 21日

    >フランスのカエサルや日本の19式とは異なり、アーチャーは155mm榴弾砲を搭載した自動装填装置付きの砲塔を備えているため射撃の際に操作員が降車する必要がなく、全ての操作を車内から遠隔で行う事ができる。
    >そのためアーチャーは車輌停止から30秒以内に発砲可能(撤収も同じ)なので射点変更が素早く出来るのが特徴だ。
    ほーんええやん

    11
      • 匿名
      • 2020年 10月 21日

      緊急展開軍が欲しがりそう、すばやく空輸して少人数で運用、本隊が来るまでの押さえになる
      前線に砲台こしらえても、ミサイルやドローンの的にしかならない時代だし
      走れ砲兵

      6
      • 匿名
      • 2020年 10月 22日

      その代わりデカくて重いんだよな。人は少ないけど。
       19式 : 全長11.4m 全幅2.5m 重さ25t 人員5名
       アーチャー : 全長14.1m 全幅3.0m 重さ33.5t 人員4名

      正直、大きい程に長距離の移動性能や小回り効かないので機動性も犠牲になるわけで、
      そういうのが欲しくて装輪式にしてるのに、重量の嵩むオートローダー搭載というのはマイナス面もある。
      この辺りはお国の交通事情や輸送力の事情も多分に絡むので、トレードオフだな。

      7
    • 匿名
    • 2020年 10月 21日

    日本もそうだけど牽引榴弾砲の後継が自走榴弾砲ってことはもう牽引砲って無くなる運命なのかな
    ヘリで吊り上げて運んだり輸送機からパラシュートで降ろしたりできなくなると思うんだけど
    別にやらなくても良いことなのかな

    5
      • 匿名
      • 2020年 10月 21日

      そういう用途があるから完全にはなくならないと思うけど、逆に言えばそういう用途だけの為に大量に残しておくと、それはそれで負担になるから数は減っていくだろうね。

      15
      • 匿名
      • 2020年 10月 22日

      むしろ、榴弾砲はそっちメインでのこるのでは、ヘリ空輸できないなら、射程200kmに近づきつつある自走ロケット弾に勝てない。
      町に隣接した基地の防衛用に少数の戦車タイプが残りそうな気がする。

      1
    • 匿名
    • 2020年 10月 21日

    あと二十年くらいしたら先進国の自走榴弾砲もスラローム走行射撃がデフォルトになってそうな勢い

    6
    • 匿名
    • 2020年 10月 21日

    19式は装薬は「手動」
    榴弾を砲に装填、発射は「自動」ですね。
    参考:
    榴弾は弾頭部と装薬部に分かれており、飛距離に合せて装填する装薬(飛ばす為の弾薬)を変える、普通は3つぐらいのモジュールになっており、短距離なら2つは空のモジュールをセット・・・

    15
    • 匿名
    • 2020年 10月 21日

    動画の給弾作業はわざとゆっくりやってるのかな?
    このスピードで21発を8分ってのはちょっと信じられない

    1
      • 匿名
      • 2020年 10月 21日

      給弾速度はともかくとして、いかにも複雑なシステムですね。
      稼動状態を保つのにかなり苦労しそう。
      戦場での蛮用を考えると自動化しすぎるのも考え物。

      7
    • 匿名
    • 2020年 10月 21日

    射程距離、発射までの時間、撤収時間が命(装甲が貧弱だから)だけど、ネットワークも命!! そっちの方はどうなんだろう?
     戦車、無限軌道の迫撃砲の射程である30㎞以上からの攻撃・・・sつまりは自分のレーダー、あるいは並走させてるレーダー車では無理な60㎞ぐらいの射程を持ってるから・・・・19式はほぼ99式と同じだろうけど、アーチャーはどうなってるんだろう?

    5
    • 匿名
    • 2020年 10月 21日

    なんか昔M777 Portee SystemとかいうM777を自走できるようにしたやつあったやん
    あいつどうなったん?

    1
    • 匿名
    • 2020年 10月 21日

    (ノ∀`)アチャー

    13
    • 匿名
    • 2020年 10月 21日

    自衛隊も低性能の19式じゃなく、これを導入すれば良かったのにな

    6
      • 匿名
      • 2020年 10月 21日

      導入は多分検討されたと思いますよ。ただ、調達コストはやはり高かったのでしょう。
      輸入すればなんでも安くあがるかはケースバイケース。

      15
      • 匿名
      • 2020年 10月 21日

      補給面で砲身や弾薬の補給を重視した結果、自国生産の方が都合がいいのだろう
      その割に車体は日本じゃまず見かけないMAN社のトラックを使っているが……

      7
      • 匿名
      • 2020年 10月 21日

      機構が複雑で(多分全自動化のせいやろ?)整備が大変っていってるし、それじゃない?

      5
      • 匿名
      • 2020年 10月 21日

      自衛隊の場合こういう戦場に投入するのは99式でよくない?という話になる。
      装輪と装軌の差以外は仕様がほとんど同じ。

      6
      • 匿名
      • 2020年 10月 21日

      19式が低性能?
      コストや信頼性の問題を無視していないか?

      5
      • 匿名
      • 2020年 10月 21日

      カエサル自走榴弾砲 全幅3.0m 重量33.5t

      19式装輪自走榴弾砲 全幅2.5m
      ブッシュマスター  全幅2.48m
      16式機動戦闘車   全幅2.98m 重量約26t
      C-2輸送機貨物室   幅4.0m

      道路交通法による車幅制限が2.5m、旋回半径含めてコレが一番のネックなんでしょうね。
      16式機動戦闘車は道路管理者への通知を行なった上で公道を自走する必要があるそうな。

      1
    • 匿名
    • 2020年 10月 21日

    「ああ。実績を稼ぐのはいいが――
     別に、アレ(競合他社)を倒してしまっても構わんのだろう?」

    「――ええ、遠慮はいらないわ。
     がつんと痛い目にあわせてやって、アーチャー」

    「そうか。ならば、期待に応えるとしよう」

    10
    • 匿名
    • 2020年 10月 21日

    導入は多分検討されたと思いますよ。ただ、調達コストはやはり高かったのでしょう。
    輸入すればなんでも安くあがるかはケースバイケース。

    8
    • 匿名
    • 2020年 10月 21日

    これ前々から思ってたけど理想的な状況で使うならいいけど
    防衛戦闘でドタバタしてる時に使えなそう…っていう感想だった
    どこかちょこっとでも不具合発生したら修理不能で後方送りでしょ
    押してる時は修理完了まで待てるけど押されてる時は致命的なんじゃ…?
    そういう意味じゃ米軍なら使いこなせるのかね?

    3
    • 匿名
    • 2020年 10月 21日

    19式の性能が気になる
    ココのブログで軍事の最新情報だけじゃなく
    自衛隊と米軍の装備と運用などの解説も見たいな
    分かりやすく解説するし

    9
      • 匿名
      • 2020年 10月 21日

      同感、自衛隊の兵器もたまには取り上げて欲しいですね。

      2
    • 匿名
    • 2020年 10月 21日

    ブルータスのショボさにちょっと笑う

    5
      • 匿名
      • 2020年 10月 21日

      ブルータスはコンセプトがフランスのカエサル 155mm自走榴弾砲と同じように見えるが
      実際運用すると案外悪くないそうだ。ブルータスって名付けてるのは……きっと何か意図があるんだろうな

      4
      • 匿名
      • 2020年 10月 23日

      あれで反動が抑え込めるんならもっと方式のバリエーションが増えてもよさそうなもんですね。

    • 匿名
    • 2020年 10月 22日

    整備と故障時の手動装填がどうなのか気になるな。車体と砲が別れてるのはいいと思う。車両がnbcに対応しているのもいい。
    信管の接合は中でやるのかな?
    そうするとうちの99spと変わらないけど、砲弾の装填がなんか面倒くさそうだね。手でそのままガシャンといけたらいいかも。

    1
    • 匿名
    • 2020年 10月 22日

    ふと思ったんだけど自走榴弾砲を装甲化、戦車並みとは言わないけど、したら相手の榴弾砲からは致命的なダメージ与えられないし強くね

      • 匿名
      • 2020年 10月 22日

      韓国のK-9じゃないんですか?

      • 匿名
      • 2020年 10月 23日

      で、その装甲付けるために何十トンの重量増を許容するわけ?重量増すればエンジン出力・燃費・足回りへの負担・運用個所が狭まると様々な弊害が出るけどそれは問題ないの?至近のデータないけど155mmの直撃に耐えるために丸太と土とか使ったら2mの厚みは必要だし、エクスカリバーレベルのCEPだと結構な装甲必要だと思う。後至近弾だけで考えているかもしれないけど 直撃する率が高いDPICMとかSADARMの選択肢すらあるからそれ耐える装甲ってどれくらいよ。

      1
        • 匿名
        • 2020年 10月 23日

        STANAG考えてもそう難しくはなさそうだけどねぇ。
        今度は上面の重装甲だけで済むわけで、しかもHEAT対策だけでいいわけだろ。戦車と打ち合うわけでもないし。。。各陸軍が検討しないのはなんでかは俺も不思議。
        CEPでも直撃の確率は低いし、それはリスクの範囲内だと思うんだけど。

      • 匿名
      • 2020年 10月 23日

      軍が持つような自走砲の実戦データは知らないけど、自走砲が自走砲に撃破されることってあまりないのでは?

      運用として、野外では2〜6発撃ったら、全速で移動。至近弾すらありえない。
      韓国北朝鮮みたいに接敵してたら、コンクリート建物から出たり入ったりしながら砲撃。至近弾でセンサーは壊れても直撃はないとか。

      ダッシュできる軽さと、小銃弾は防ぎたいあたりに落ち着くんでは。

    • 匿名
    • 2020年 10月 22日

    ベースは自動車のボルボカーズとは別会社のボルボグループ傘下のボルボ建機が製造するアキュレートトラック。
    車体が曲がることによって旋回する鉱山用重ダンプ。
    敵の対応射撃を考えれば乗員は車内にいたほうがいい。

    1
    • 匿名
    • 2020年 10月 23日

    >>軍が持つような自走砲の実戦データは知らないけど、自走砲が自走砲に撃破されることってあまりないのでは?

    対砲レーダーで射撃位置捕捉されてHEATクラスターかEFP誘導小弾が飛んできて上面ぶち抜くってセオリーは実在すんだろ。
    無論対砲兵戦闘は多連装ロケットのほうが適任だがな。

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