欧州関連

アゼルバイジャンがアルメニア領を占領した理由、停戦協定を破り捨てるための口実探しか?

アゼルバイジャンがアルメニア領セブ湖周辺に軍を派遣して占拠した狙いは領土的野心ではなく、ナゴルノ・カラバフ紛争の停戦協定を破り捨てるための口実探しかもしれない。

参考:Azerbaijani troops will withdraw from Sev Lake area in Armenia’s Syunik, talks to resume in two days

ナゴルノ・カラバフ紛争で被った痛手から立ち直っていないアルメニアとの戦いを再開させるため?

アゼルバイジャン軍は今月12日頃アルメニアのシュニク地方にある「セブ湖/SevLake」周辺に部隊を派遣して同地域を占領、アルメニア側も軍を派遣してアゼルバイジャン軍に今月10日の位置まで後退するよう要求すると同時にパシニャン首相は「アゼルバイジャン軍の侵略行為は集団安全保障条約の第2条に抵触する」と主張して集団安全保障条約機構(CSTO)の加盟国に軍事支援を要請していた。

パシニャン首相は特にロシアのプーチン大統領に軍事援助を直接要請しており、アルメニアへの連帯を示したフランスのマクロン大統領は「アルメニア領を占領したアゼルバイジャン軍は直ぐに撤退すべきだ」と主張して本件を国連の安保理に持ち込むことを検討しているらしい。

この緊張状態を解決するためナゴルノ・カラバフ地域に展開している平和維持軍のロシア人司令官同席の下でアルメニア軍とアゼルバイジャン軍が話し合いを行っていたのだが、16日の交渉でアゼルバイジャン軍がセブ湖周辺から撤退する代わりにアルメニア軍陣地近くに検問所を2ヶ所設置することで合意したと報じられている。

今後は合意内容の詳細を詰めるため2日後に話し合いが再開される予定だが、アゼルバイジャン軍は検問所の設置以外にも幾つかの撤退条件をアルメニア軍に要求しているため素直に事態が収束に向かうのは未知数だ。

アゼルバイジャン軍は交渉の推移を見計らったように航空戦力と陸上部隊による大規模な軍事演習(兵力1万5,000人に300輌の戦車や自走砲・ロケット砲など400門と50機以上の航空戦力が参加)を開始、アゼルバイジャン側は事前に計画されていた訓練だと説明しているが、アゼルバイジャンは事態を悪化させる方向に持っていきたいのだろう。

恐らくアゼルバイジャンの真の狙いはロシア参戦を招くアルメニア領への領土的野心ではなく、ナゴルノ・カラバフ紛争の停戦協定を破り捨てるための口実探しだ。

ナゴルノ・カラバフ紛争終結後も国際的にアゼルバイジャン領と認知されているナゴルノ・カラバフ地域にはアゼルバイジャンの主権が及ばないアルツァフ共和国が残っており、この地域の支配権を回復させるため戦いを再開するためアルメニアとの間に摩擦点を作りだし事態を悪化させてアルメニア側を暴発させるか、停戦協定を破り捨てだけの大義名分を作り出そうとしている可能性が高いと管理人は思っている。

出典:Mapeh / CC BY-SA 4.0 ナゴルノ・カラバフ紛争終結後の支配図で肌色の部分が国際的にアゼルバイジャン領と認知されているアルツァフ共和国の支配地域

アルツァフ共和国が残るナゴルノ・カラバフ地域はアルメニア領とは異なりロシアも「アゼルバイジャン領」と認めているため、仮に停戦協定が破られアルツァフ共和国を巡る戦いが再開しても手を出すことがない。

ナゴルノ・カラバフ紛争で被った痛手から立ち直っていないアルメニアからすれば軍を再建してアルツァフ共和国の防衛を固める時間を稼ぎたいところだが、アゼルバイジャンからすればアルメニアが軍を再建する前に仕掛けた方が得策なのでセブ湖周辺に軍を派遣して意図的に摩擦点を作り出したのだろう。

出典:The Presidential Press and Information Office’s of Azerbaijan / CC BY 4.0

ただアゼルバイジャンも居座り過ぎてロシア参戦を招くのは本意ではないので、無理難題を突きつけアルメニアを十分怒らせたと判断すればセブ湖周辺から撤収する=つまりアゼルバイジャンとアルメニアの戦いが直ぐに再開する可能性は低いが、停戦協定を破り捨てるための駆け引きだけは始まっていると見ておいた方がいいのかもしれない。

関連記事:アゼルバイジャン軍がアルメニア領を占領、ロシア率いる集団安全保障条約機構が必要な措置を約束

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アイキャッチ画像の出典:Public domainアゼルバイジャン軍

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 5月 17日

    地勢的に守りようがなさげだし、アルメニア側としては挑発に乗らないんじゃないか?

    1
      • 匿名
      • 2021年 5月 17日

      世論はそれを理解するかな?

      10
        •   
        • 2021年 5月 17日

        世論が奪還しろと騒ごうが、更に領土が失われる結果が明らかに見えているんだが
        もし君が指導者だったらそんな馬鹿な決断するという事かい?
        責任取らされるのが見え見え
        戦争起きて欲しい願望が強すぎるな

        2
          • 匿名
          • 2021年 5月 17日

          人は面子のためなら自殺もできるんだぜ

          6
    • 匿名
    • 2021年 5月 17日

    このくらいなりふり構わないでやっていかないと国土は守れないんだろうな
    翻って日本は大人しすぎなんだろう

    26
    • 匿名
    • 2021年 5月 17日

    トルコが背後にいそう

    4
    • 匿名
    • 2021年 5月 17日

    アゼルバイジャンからしたら元々正当性ある上に軍事的にやれることがわかったんなら攻めるは攻めたいんだろなあ
    まぁ、無理に全部とりかえしても統治大変なんだろうけど

    13
    • HY
    • 2021年 5月 17日

     人間、できると思ったら何でもするものです。アゼルバイジャンの当座の目標はナゴルノ・カラバフ地域全奪還ですが、その後勢いに乗ってアルメニアへ侵攻する可能性は十分あると思います。アゼル支配下に入れた地域ではアルメニア人の虐殺や迫害が行われることでしょう。平和の時代は終わったのです。

    1
      • 匿名
      • 2021年 5月 17日

      CSTOの介入を招くのは明白なのでアルメニア領への侵攻の可能性はありませんよ。

      18
    •   
    • 2021年 5月 17日

    そんなに戦争や虐殺が見たいのか
    邪な願望を隠す努力くらししろよ

      • 匿名
      • 2021年 5月 17日

      変な正義感を持ち込むな。

      16
    • 匿名
    • 2021年 5月 17日

    停戦監視してるロシアの面子を潰すことになるけど、
    それも覚悟の上と言うことなのかな。

    3
      • 匿名
      • 2021年 5月 17日

      ロシア「前回は30年来の占領地奪還の大義名分があったから容認してあげたけど、それ以上調子こいてアルメニア本土及び我が国の平和維持軍にまで危害が及ぶようなら今度は容赦しないよ?」(背後のトルコを睨みながら)

    • 匿名
    • 2021年 5月 17日

    アリエフからしたらこの前の戦争で他国の制裁とか干渉も大してなく、かなりの領土を回収したうえで軍事的にみて全域の制圧も可能。アルメニアも政治的に混乱していて、仕掛け時と思うんじゃなかろうか…
    戦争願望とか邪なって指摘も、領土奪還が現実的な選択肢になった世襲の独裁者の思考を考えれば的が外れてないかな。

    5
      • 匿名
      • 2021年 5月 17日

      なんかロシアのシナリオ臭がパネェ

      1
    • 匿名
    • 2021年 5月 17日

    ツイッターでここより北方のアルメニア領ヴァルデニスの辺りでもアゼルバイジャン軍が進出してきてるみたいな話が出てるけど
    そっちはどうなったんだろうな

    3
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