インド太平洋関連

インド、東南アジアへのブラモス輸出は中国海軍に新たなストレスを強いる

印シンクタンクのオブザーバー研究財団(ORF)は21日、フィリピンへのブラモス輸出を受けて「この地域における中国海軍のストレスを増やすことでインド洋に向けられる圧力を分散させられる」と主張した。

参考:The Strategic Logic Behind India’s Sale of BrahMos Missiles to the Philippines

中国にしてみれば国境問題でインドと対立すればするほど南シナ海にブラモスがばら撒かれるため苦々しく思っているだろう

フィリピン国防省はインドとロシアの合弁企業「ブラモス・エアロスペース」が提案していた対艦ミサイル調達プロジェクト(提案額は3億7,490万ドル相当)を承認したため超音速対艦ミサイル「ブラモス」の導入が確定しており、ボーイングなどのサプライヤー(AH-64Eの胴体製造やC-130Jの尾翼製造など)としての輸出実績しかないインドの防衛産業界にとって「ブラモス輸出」は悲願ともいえる国産装備品の初輸出なので非常に注目されている。

出典:Hemantphoto79 / CC BY-SA 3.0 地上発射バージョンのブラモス

インドの防衛産業は巨大な自国軍の需要を満たすため規模は大きいものの製造する装備品の大半はライセンス生産品で、この構造を問題視したモディ首相は2025年までに防衛装備品の輸出額を50億ドル(2019年は1,800万ドル/2020年は1.5億ドル)まで引き上げるという野心的な目標を掲げており、この目標を達成するには海外企業のサプライヤーではなくブラモスやテジャスMK.1Aといった国産装備品の輸出が鍵を握っていると言っても過言ではない。

今回フィリピンへの輸出に成功したブラモスはインドネシア、タイ、ベトナムも関心を示しており、ORFは「インドネシアとの協議は非常に進展した段階にある」と指摘して国産装備品の輸出拡大に期待を寄せているが、東南アジア諸国へのブラモス輸出はインドの経済的利益の追求という側面に加え「中国海軍の軍事的なリスクに晒される東南アジア諸国を支援し、この地域における中国海軍のストレスを増やすことでインド洋に向けられる圧力を分散することにも繋がる」と主張している。

出典:Public Domain

つまりインドは中国というリスクに直面する東南アジア諸国にブラモスを提供することで経済的利益と安全保障分野での影響力を高めることができ、この地域の国々に中国自身が採用している接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略をもたせば中国海軍の水上艦艇は航行が制限されるため負担が増え、インド洋に進出してくる中国海軍の戦力や注意を分散させることができるという意味だ。

勿論、この種の対艦ミサイルには他の選択肢(インドネシアにはウクライナが対艦ミサイル「ネプチューン」を提案中)があるためインドの目論見通り話が進むかは謎だが、中国にしてみれば国境問題でインドと対立すればするほど自分たちの海だと勘違いしている南シナ海にブラモスがばら撒かれるため苦々しく思っているだろう。

関連記事:中国牽制に効果を発揮、フィリピンが対艦ミサイル「ブラモス」購入計画を承認

 

※アイキャッチ画像の出典:Public Domain 超音速対艦ミサイル「ブラモス」

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コメント

    • うみ
    • 2022年 1月 22日

    ほんとインドが味方でよかった。
    東南アジアが無力な蟻からつついたら刺される蜂位の脅威になれば、全方位敵の中共にはかなり痛いだろうな。
    とは言えまとまりもないし、台湾侵攻でも東南アジアが味方になるとは思えない。
    まだまだ中共に打ち勝つイメージがわかないとか強くなりすぎだろ。

    9
      • 狸囃子
      • 2022年 1月 22日

      インドは敵味方なんてそんな甘っちょろい考えはしていないと思いますよ
      植民地化以降の歴史で「頼れるのは我が身だけ」と身に染みているでしょう

      49
        • バーナーキング
        • 2022年 1月 23日

        「敵の敵」は単に「敵の敵」でそれ以上でもそれ以下でもないよね。
        もちろん敵の敵として利用する事はあるだろうけど。

        7
      • くらうん
      • 2022年 1月 22日

      味方という見方は甘い。

      30
    • STIH
    • 2022年 1月 22日

    なるほど中国が、パキスタンとミャンマーあたり、中国海軍を使ってインドを囲もうとしているのに対し、インドは東南アジアに対艦ミサイルばらまいて中国を囲もうとしていると。これを見てると九段戦の権利主張が稚拙な外交だったのが良くわかる。もう20年くらい我慢すりゃよかったのに。
    そのブラモスがインドとロシアの協力で作ったっていうのも傑作だな。中印露の関係は複雑怪奇なり。

    33
    • くらうん
    • 2022年 1月 22日

    インドは防衛産業の発展と東南アジアとの関係深化、中国への圧力という、お手本のような一挙三得を得られるわけだ。
    これぞ外交というものだな。
    見てるか日本。

    33
    • 2022年 1月 22日

    ストレスで俺のように禿げてしまえ(´・ω・`)

    10
    • ブルーピーコック
    • 2022年 1月 23日

    ブラモスがインド産兵器の初輸出というのが意外だった。
    今後は各国の兵器の国産化と、アメリカ製兵器の輸出拒否の流れに乗って、武器輸出の市場はもっと混沌としてくるんだろうな

    9
      • 半分の防衛費の国から
      • 2022年 1月 23日

      アメリカは次のステップに進んでいるみたいですよ、無人ミサイル発射車両「AML (Autonomous Multi-Domain Launcher)」とか人工知能(AI)を持った軍事ロボット犬とか戦闘機搭載型レーザー兵器開発プログラム「SHiELD (シールド)」など、堂々と宣伝していて、日本も開発すべきだと思いますよ。
      リンク
      リンク
      リンク
      アメリカ陸軍30万人減の根拠なのかもしれない。

    • 無無
    • 2022年 1月 23日

    ベトナム、マレーシアと今後も海域をめぐる国々がミサイルやら潜水艦やらを買い込むわけで。
    そこに日本企業の食い込む余地はあるのかな

    6
    • tarota
    • 2022年 1月 23日

    しかし上の地図観てると各国とも強欲で笑える(特に中国とベトナム
    そら揉めるわ

    1
      • STIH
      • 2022年 1月 23日

      そりゃどの国だって強欲だろうよ。
      問題は中国がさらに一歩進んだ”外交”をして、東南アジア諸国がまとめて警戒するような状態にしたことなんだから。

      1
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