韓国は昨年発表した国防中期計画(2021年~2025年)の中で韓国型アイアンドームの開発計画を盛り込んでいたが、今月28日に開催された防衛事業推進委員会で正式に開発を進めることを決定して国内外のメディアが関心を示している。
やはり開発に乗り出してきた韓国型アイアンドーム、垂直離着陸対応の無人航空機や最新対艦ミサイルに対応する艦艇向けの電子戦装置も国産開発
韓国は当初、北朝鮮の各種長距離砲(推定300門~500門)から首都ソウルを守るためイスラエルのラファエルが開発したC-RAM「アイアンドーム」の導入を検討したが、アイアンドーム自体の調達コストが高価(諸説あるが約5,000万ドル~約1億ドルと言われている)で目標に対して2発使用される迎撃弾のコストも1発4万ドル~10万ドルと馬鹿にならず、北朝鮮の各種長距離砲が1時間で打ち込んでくる約1万3,000発(韓国軍推定)もの砲弾に対してどこまで効果があるのか確証が得られず導入を見送っていた。
しかし2020年8月に発表された国防中期計画(2021年~2025年)の中でアイアンドームに類似したC-RAMの開発を独自に行う「長射程砲の迎撃システム事業(これが韓国型アイアンドームと呼ばれている開発プログラムの正式名称)」を盛り込んでいたため注目を集めたが、今月28日に開催された防衛事業推進委員会で正式に韓国型アイアンドームの開発を進めることを決定して国内外のメディアが関心を示している。
防衛事業庁の公開した文書によれば韓国型アイアンドームの開発期間は2022年~2035年に設定、プログラムコストは約2兆8,900億ウォン/約2,830億円と見積もられており、恐らく韓国はアイアンドームに類似したC-RAMを独自に開発することで調達コストや運用維持コストの削減、さらに迎撃コストを圧縮=迎撃弾の低コスト化を狙っているのだろう。
因みに28日に開催された防衛事業推進委員会では韓国型アイアンドームの開発以外にも最近流行している垂直離着陸に対応した国産無人航空機(固定翼)の開発や、F-35Aのアップグレード(恐らくblock4とTechRefresh3のことを指しているものと思われる)を実施することを決定しており、敵の最新対艦ミサイルやレーダーに対応する艦艇向けの電子戦装置も国産開発(プログラムコスト6,100億ウォン/約600億円)する決定を下している。
韓国は山岳地帯が多い自国の地形に適した垂直離着陸対応の無人航空機(偵察・監視用途)を開発すると言ってるので、個人的にどのようなものが出てくるのか注目している。
関連記事:アイアンドームによる迎撃も限界、3日間でイスラエルに打ち込まれたロケット弾は1,500発以上
関連記事:今後5年間で約27兆円を投資、韓国が発表した国防中期計画の中身|後編
パトリオットシステムと短距離防空ミサイルの間にはギャップが存在して将来的に需要が見込める可能性
ここからは先はC-RAMを含む地上配備型防空システムに関連した分かりにくい内容(一応分かりやすく頑張って書いたつもり)なので「興味のある方」だけ読み進めてください。
西側標準とも言える米国製の高度な防空システム「パトリオット」はイエメンのシーア派反政府組織フーシによる簡素な作りの無人機や巡航ミサイルによる攻撃を阻止するのに失敗しており、ロシア国防省の関係者は米国製防空システムの仕様は実際の性能を反映していない証拠だと主張して「米国製の防空システムはロシア製防空システムに比べて効率が悪い」と酷評、イスラエルのミサイル防衛機構元局長は「パトリオットのレーダーは地平線よりも下を移動する目標を検出して捕捉することが不得意=不可能に近い」と指摘して低空を飛行する無人機や巡航ミサイルの迎撃に効果がないと語っている。
米陸軍もパトリオットシステムがカバーできない部分を敵が狙って攻撃を仕掛けているのを認識しており、終末段階の弾道弾を上層で迎撃するサードミサイルシステム、終末段階の弾道弾を下層で迎撃して高度な防空カバーを提供するパトリオットシステム、短距離防空ミサイルで低層の防空を提供するIM-SHORADや個人携帯のスティンガーで構成された防空システムのギャップを埋めるため新しい防空システムの調達に向けて動いている最中だ。
米陸軍が要求している要件は無人機と巡航ミサイルの脅威に対抗できる能力を備えていることで、これにラファエルと組んだレイセオンがアイアンドームの米国向けバージョン「スカイハンター/SkyHunter」をダイネティクスはAIM-9Xを使用した詳細不明の防空システムを提案、すでに両者のシステムは米陸軍が実施した実射試験を済ませているので結果待ちの状態なのだがスカイハンターの方が採用に近いと噂されている。
米陸軍はロケット弾や砲弾類を迎撃するため独自に進めていたC-RAM開発を中止して暫定的にアイアンドームを2基購入、これを中東の米軍基地に配備して駐屯する米軍の保護に使用する予定(年内中に稼働)だが米陸軍は独自の要求に沿ったC-RAM調達を諦めておらず、今回調達を進めている新しい防空システムにロケット弾や砲弾類を迎撃する能力を将来統合することを考えているらしい。
つまりC-RAMとして実績のあるアイアンドームの派生型「スカイハンター」を採用した方が技術的リスクが低いという意味だ。
ロケット弾や砲弾類を迎撃するために設計されたイスラエルのアイアンドームはソフトウェアのアップグレードが行なわれ、限定的な迎撃能力しか有していなかった無人機や巡航ミサイルに対しても完全に対応したと今年3月にラファエルが発表、2021年初頭に行なわれたテストではミサイルを模倣した標的機や無人機に加え複数のロケット弾による同着攻撃を全て迎撃することに成功したらしいので、これをベースにした派生型なら米陸軍の考えている新しい防空システムの要件にピッタリと当てはまる。
ただ米陸軍が要求している新しい防空システムの要求要件からはロケット弾や砲弾類を迎撃する能力は外されているので、仮にスカイハンターが採用されてもアイアンドームと比較してより無人機と巡航ミサイルに絞った調整になっているのかもしれない。
果たして米陸軍の新しい防空システムにスカイハンターが選ばれるのか?AIM-9Xを転用した防空システムが選べるのか?にも興味を惹かれるが、今回注目すべきはロケット弾や砲弾類を迎撃するC-RAMと無人機と巡航ミサイルの脅威に対抗するシステムは1つに統合可能(アイアンドームの実績から)という点と、パトリオットシステムと短距離防空ミサイルの間にはギャップが存在して将来的に需要が見込めるという点だ。
スカイハンターを提案しているレイセオンは「このシステムは米国内で生産され米軍と同盟国への供給に対応できる」と主張しているので、このギャップを埋めることが可能なスカイハンターに商機を見出しているのは確実でパトリオットを導入してる同盟国や友好国に売り込みを行うのだろう。
ここで韓国の話に戻るが、恐らく海外輸出を前提に兵器開発を行うケースが多い韓国の防衛産業がパトリオットシステムと短距離防空ミサイルの間を埋める需要に食いつかないはずがないので今回の韓国型アイアンドーム開発は「北朝鮮の長射程砲からソウルを保護する」という目的と「パトリオットシステムと短距離防空ミサイルのギャップを埋めるシステムには将来的に需要がある」という見込みの2本立てで動いていて、イスラエルや米国と同じように韓国型アイアンドームに無人機と巡航ミサイルの脅威に対抗する能力を統合して海外輸出を狙ってるのかもしれない。
勿論、韓国型アイアンドームがC-RAMとして完成した先の話なので現時点では想像の範疇でしかない。しかし兵器開発を高い確立で海外輸出と絡めてくる韓国なら十分有り得そうな話だと管理人は思っている。
余談だがドイツのラインメタルもネットワーク防空システム「Oerlikon SkyNex」にアラブ首長国連邦の防衛産業企業EDGEが開発したC-RAM用迎撃弾「SkyKnight/スカイナイト」を統合する計画で、パトリオットシステムと短距離防空ミサイルのギャップを埋める需要を狙うプレーヤーは今後も新しく登場してくるはずだ。
関連記事:米国やサウジがアイアンドーム導入に動く理由、パトリオットではUAVの迎撃が困難か
※アイキャッチ画像の出典:Alexey Goral / CC BY-SA 3.0
砲弾をミサイルで撃ち落とすという無駄の多い戦法を選ばざるを得ない状況、そういう兵器を買わないとならない国、それほど需要が見込めるとは思えないけど。
アイアンドームは高価だから売れないのか、いや、あんなイスラエル的な状況が他国にどの程度あるのかなって。
目には目をで、同じく砲弾で反撃する戦法を選べないときって
どんだけ?
イスラエルみたいに敵から街まるまる守るような国は少なくても基地だとか原発だとかの重要施設だけ守りたい国ならなくはないでしょ
そういう重要拠点なら、それこそ自爆ドローンを飛ばして警戒にあたらせて、テロリストを発見次第攻撃させるほうがうんと安く思えるのだが
そこに最近はカミカゼUAVによる破壊工作が入ってきだからのアイアンドーム的迎撃システムが脚光を浴びてるんでしょ
ソウルあの立地でどうやって守る気なんだろって思ってたけど流石に韓国式アイアンドーム考えてたか
完全にミサイルどころか火砲の射程範囲内だもんなあ……
ステルスミサイル全盛期の時代に突入しつつあってすべての対空システムが護衛艦の防空システムのように動く必要性に駆られている中、11式短SAMのような四発しか撃てないタイプはかなり厳しいのではないか。探知距離が短くなってるのだから射程もそこまで必要あるまい。
サウジには無人機はおろか弾道ミサイルも双方数百発撃ち込まれてんだよなー
迎撃は成功してるとアナウンスしてるが現実的とは思えず、被害は出てると思うんだが情報が全く出てきていない
無人船舶による攻撃も百を超えている
それとイスラエルでは火災風船爆弾の迎撃はできていない様子で、火災が数十箇所発生するなど被害続出している模様
無人機に加えて風船爆弾と頭痛の種が消えないね
ソウルって相手陣地からの距離が短すぎる
=着弾までの時間が短すぎて、
迎撃できないのでは? できるの?
在韓米軍時代はMLRS+軍事偵察衛星+地上レーダー車、
韓国陸軍が担当してからはK-9迫撃砲+アーサー(旧式のAN/TPQ−37のコピーと言われてる)で、「相手陣地を破壊する」ってのが戦法だった。
対処時間の点では可能だろう。ただ、TOT射撃とか駆使されると押し切られるかもね。
迎撃は出来るけど指摘の通り砲兵の攻撃は元を叩かないとあっという間に飽和すると思う
迎撃側も誘導砲弾を使うなりもっと低コスト化出来るなら話は別だが、砲弾一発一発をミサイルで迎撃するのは迎撃体の数が幾らあっても足りんわな
陸続きの国家って大変だね
そういえばアイアンドームって我が国も原発や基地の防衛に使えるよね?無論アンチドローンシステムもセットで
原発反対派ってこの手の兵器の導入にも反対しそうだから困る。
開発中の基地防空用地対空誘導弾(改)と新近距離地対空誘導弾が
中小型無人機や低空を飛行するCM対処が掲げられているのでそれに相当するかと思われます
民間船舶に偽装した無人タンカーから大量のドローン兵器が飛び立ち、後方のミサイル陣地や重要拠点が攻撃されるという漫画みたいな展開になったら通常のアンチドローンシステムでは捌ききれないかもしれない?
この手の防空網が必要なのはわかるけど
相手はゲリラ軍のロケットじゃないんだし
仮にも正規軍の砲兵集団の集中砲火には焼け石に水でしょ
もう遷都した方が早いんじゃね
韓国がまだ発展途上で遷都が比較的容易な頃には政治的な理由で(軍事政権の見栄)、
今となっては都市機能がデカくなりすぎて行政機関の移転も大変だから事実上出来ないのよ。
日本に首都を大都会岡山に移動しろ、と言ってもできないのと同じよ。
(東京もグンマーが近くにあるから遷都したほうが良いけどねw)
膨大な実戦に裏打ちされている。兵器としてその価値は金に代えられない
同種の兵器が欲しい国なら、本来問答無用でアイアンドーム採用しても良いくらい
ただ、イスラエル兵器は外交的にネックになるから採用してるとこ少ないだけ
とてもわかり易い記事でした。
北の長距離砲に狙われている韓国が、アイアンドーム相当を狙うのは合理的ですよね。
全部防ぎきれなくても、対応手段が増えることには意味があると思いますので無駄とも思いません。
ただ、空母や原潜なら対日と説明できても、アイアンドームだと明らかに対北なので、北の将軍様に怒られちゃうんじゃないでしょうかね。「小賢しい策を弄しても、無慈悲な砲火が打撃を加えるだろう」とか。
どんな言い訳をするか楽しみです。
日本の武器輸出については、昨晩のニュース番組に出演した中谷元防衛相が言ってましたが、日本では武器輸出というと「死の商人」の批判があるのでメーカーは及び腰なんだそうです。それ系の批判に弱い日本政府の腰が定まらないのもそれを手伝ってると思います。
死の商人というか、商人なんですよ。
現実的な問題として軍事部門に投資するより民生部門に投資した方がリスクが低くて儲かるんだから積極的になるわけがない。
輸出を進めるなら軍事部門を分社化して独立採算にするなどしないと無理だと思います
韓国版アイアンドームは開発が上手くいったら海外にも売り込むのでは?
貿易に依存する韓国経済だが、少しでも売れるものを増やしたい思惑があるから、それなら今のうちに競争相手の少ないものから手をつけておきたい。
それなら競争相手が少ないアイアンドームの様な防空システムから開発し、成功したら売り込むのが一番だと思う。
日本でこのシステムを導入するので有れば北朝鮮の工作船にも対応出来る様にしないといけないので必然的に射程距離も長距離になるでしょうね。
戦争してない国が防衛兵器を独自開発するのは非常に難しい。金正恩はアイアンドームを購入しないという知らせを聞いて喜んでる事だろう。
韓国型アイアンドームの開発は以前から公約されていましたが、ついに正式に発足したんですね。これでついに開戦10分後に灰になる首都の汚名を返上できますね。しかし本家アイアンドームはついこの前の大規模攻撃(1週間で3000発)で性能的限界に達していて、無誘導ロケットではなく300~500門と言われる大小榴弾砲で持続射撃を加えてくる相手に一定の防御効果を発揮するにはどの程度の規模のシステムが必要になるか興味深いですね。もちろんソウルへの砲撃が始まった時点で野砲や巡航ミサイルによる反撃で敵砲陣地を壊して火点を減らしていく前提でしょうが、現状の政治状況で北との全面戦争に繋がりうる判断を迅速に下せるかは大いに疑問です。やはり巡航ミサイル潜水艦構想や統合火力艦構想のような、政治的要件が先行したところにメーカーの意向が乗っかった開発案件なのでは。
ガザで起きた紛争でアイアンドームの実力が実証されたのも後押しになったんでしょうね、日本のメディアてすら現地報道してた位ですから(笑
輸出市場としては中東が主になりそうだけど、下手に首を突っ込むと大火傷しそうなんだよな~
アメリカ製のミサイルを明後日の方角に飛ばすのが得意なK国の作るアイアンドームですか?
F-15を撃墜する国も色々と開発してるしなあ。
福祉施設を20ミリ機関砲で撃ち抜いた国も色々と開発していますしね。
いかにアイアンドームを意識して低コストを追及してもミサイルはミサイル、砲弾や安価なドローン相手には費用対効果で及ぶはずもない
やはり防御側は防御だけでは破綻するね、確実
韓国にしてみりゃ本来は輸出の色気抜きでも必須なエリア防衛装備なはずですね。
米陸軍が独自のC-RAM開発を中止(中断?)してアイアンドーム派生のスカイハンターを導入しようとしてる中、韓国が短期の内にアイアンドーム相当でしかも安価なエリア防衛システムを独自開発できるなら素直に脱帽です。