インド太平洋関連

豪次期フリゲートの報告書が流出、高速航行するとレーダーの性能を最大限発揮できない?

オーストラリア海軍のハンター級フリゲートは予備設計で躓いていると噂されていたが、国防省のエンジニアリングチームによる評価レポートが流出してハンター級が直面している問題が明らかになり大問題に発展している。

参考:Hunter-class frigate report indicates Australian naval shipbuilding in disarray

ハンター級フリゲートの設計を実用的な艦としてまとめるのは不可能かもしれないと警告した国防省の評価レポート

オーストラリア海軍はホバート級駆逐艦の建造が終了すると大型水上戦闘艦の調達が特になかったため国内の造船業界に空白が生じる懸念があり、アンザック級フリゲートの後継艦について2010年代前半に検討を始めた結果、350億豪ドルを投じてフリゲート艦を国内で計9隻建造する計画を2016年に策定した。

出典:Nick-D / CC BY-SA 4.0 オーストラリア海軍 ホバート級駆逐艦

船体設計に英国のBAEシステムズ、スペインのナバンティア、イタリアのフィンカンティエリ、戦闘管理システムに米国のロッキード・マーティンとスウェーデンのサーブが名乗りを挙げ、最終的にBAEシステムズとロッキード・マーティンがハンター級フリゲートの請負業者に選ばれたのだが、元々未成熟だった26型フリゲート(6,900トン)の設計をベースにしたこと、オーストラリア海軍の要求が首尾一貫していなかったため26型ベースのハンター級の設計が定まらず、最終的に出来上がった予備設計のハンター級は当初予定の8,000トンから10,000トンを超える大きさになってしまったらしい。

それに関わらず主機の構成が26型(MT30×1基/MTU4000×4基)と同じ=25%以上重量が増加したのに出力の引き上げを行わなかったためベースの26型より最高速度や水上航行の性能が低下し、船体の大型化で抵抗が増えたため燃費とランニングコストが増加、さらにオーストラリア海軍が要求した国産AESAレーダーを搭載したため推進システムとレーダーの両方に十分な電力を供給するのが難しく、この艦を指揮官は常に電力を推進システムとレーダーのどちらに優先供給するべきか選択しなければならないと指摘されている。

出典:Royal Australian Navy

つまりハンター級フリゲートは高速で航行するならレーダーの出力が制限を受け、レーダーの性能を最大限発揮させるなら航行速度に制限を受けるという意味で、予備設計レビューに関する国防省エンジニアリングチームの評価レポートによると「ハンター級フリゲートは未成熟な26型フリゲートの設計にオーストラリア海軍が大幅な修正を要求したため、これを実用的な艦としてまとめるのは不可能かもしれない」と警告しており、これが全国紙のThe Australian紙にすっぱ抜かれたため大問題に発展しているというわけだ。

この問題について国防省は「順調に問題の解決を進めてる(流出した部分のレポートは設計に対する懸念の部分だけで、それに対処した部分が抜けているらしい)」と釈明したが、アタック級潜水艦の失敗がまだ記憶に新しいため誰も信用しておらず、2022年に建造を開始する1番艦の着工が遅れてプログラムコストが再び高騰(既に450億豪ドルへ高騰中)するのではないかと心配している。

豪シンクタンクのオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)は「国防省がハンター級の問題を解決してくれることを祈っている余裕はなく、仮に解決できたとしても提供される能力は少ない、遅すぎ、コストがかかり過ぎ、豪州が将来直面する脅威に間に合わない」と厳しく批判しており、実績のあるホバート級駆逐艦の増産、アラフラ級哨戒艇への対艦ミサイル統合、無人水上艦艇への投資、B-21のような遠距離攻撃システムの獲得に資金を回すべきだと主張しているのは興味深い。

なぜオーストラリア海軍は艦艇の設計でここまで躓くのかは謎だが、もしかすると能力のあるプロジェクトマネージャーが海軍内に存在しないため同じ失敗を繰り返しているのかもしれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:Royal Australian Navy

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コメント

    • 伝説のハムスター☆☆☆
    • 2022年 2月 03日

    まさか潜水艦以外でも時限爆弾があるとは笑

    潜水艦もまだまだ調達先が決まってないし、製造もどうするか不明だしまだまだ色んな所で炎上しそう笑

    18
      • G
      • 2022年 2月 03日

      数少ない第一列島線防衛に協力的な国の戦力的懸念事項は日本としても笑いごとではないと思うのですが

      33
    • ウーン
    • 2022年 2月 03日

    オーストラリアは元々物作りが苦手だし、国内で生産しようとするのはどんな兵器でも難しそうですね。
    原子力潜水艦がどうなるかわかりませんが、このような状態では先が思いやられます。

    12
    • すえすえ
    • 2022年 2月 03日

    発電能力増強すればいいんじゃねーの?
    また、船体に設計変更が必要だろうけど

    6
      • 無名
      • 2022年 2月 03日

      既に排水量2000t増えてて将来発展の為の余裕とか無くなってそうだし
      大きくしたら形状も変わって結果的にベースがあってないような状態になってと負のスパイラルが加速していくんだろうね
      そういうのを含めての「実用的な艦としてまとめるのは不可能かもしれない」」との言葉っぽい

      15
    • 無無
    • 2022年 2月 03日

    記事を読んでると、負のスパイラルの典型みたいな出来事で。
    最善策はゼロから設計やり直し、主機のパワー不足とその原因となった艦体の大型化のどちらかを改善しないとどうにもなりません
    デブが走りたいならば痩せるか筋力増やすかの選択しかないよ

    32
    • 無印
    • 2022年 2月 03日

    これはカナダのCSC級も同じ問題抱えてそうだ
    こっちもデカくなったのに、機関はほとんど変わってない
    機関を強化すると、機関室大きくして、給排気系を強化して~って改修箇所が大きくなってゆくからあまりやりたくはないのかもしれないが…
    VLS増設して武装を強化するより重要だと思うんだけどね

    14
    • 雑魚
    • 2022年 2月 03日

    フリゲートが1万トン超える時代か…

    16
    • 名無しさん
    • 2022年 2月 03日

    記事の内容はともかくも
    >豪次期フリゲートの報告書が流出
    先だってのQEやリンカーンでの事故動画や事故機写真の流出といい
    自由主義陣営さん達は情報漏洩に対するモラル管理が全然出来てないな

    7
      • 774rr
      • 2022年 2月 03日

      このまま建造に入ってはダメだと思った勢力がリークしたんじゃないの?(想像

      26
        • 無無
        • 2022年 2月 03日

        お役所仕事だと、たぶん失敗と知れてても責任とりたくないから継続したりする。
        軍内部の、むしろ良心的なグループがリークしたりはあり得ますね

        13
          • ブルーピーコック
          • 2022年 2月 03日

          sengoku38(一色正春氏)みたいに、隠蔽しようとした情報を晒すのは公益通報者と見てOKなんじゃないですかね。空母の件は軍の反応を見るに軍規違反ですが

          19
    • 鬼太郎
    • 2022年 2月 03日

    もがみ型売り込むチャンス

    5
      • 4th
      • 2022年 2月 03日

      流石に小さいからFMF-AAWにイージスシステムを載せて売りつけて日本でもFFMの後期バッチをそれにしよう

      2
        • 匿名
        • 2022年 2月 03日

        もがみ型って、艦隊防空にも対応する国産の新戦術情報処理装置が搭載されているから、艦載武器システム変える必要なくない?

        1
        • 4th
        • 2022年 2月 03日

        と思ったけど26型とFFMの機関同じだからFMF-AAWが機関弄ってないと無理だわ…てかFFMのより排水量が5割大きい26型がFFMと同じ機関出力(FFMのディーゼル機関の分なんならFFMのほうが大出力)ってどうなのよ

        5
        • 鬼太郎
        • 2022年 2月 03日

        良いね~それ!

    • 無題
    • 2022年 2月 03日

    アメリカとか日本を見てると将来武装が電気食いなのが目に見えてるから
    電力系はどうにかして発展性を持たせるか余裕のある設計にしようと四苦八苦しながら頑張ってるけど
    こういうのは設計、開発含めて自国でやっている国の特権なんだなって気づくね

    35
    • 破軍
    • 2022年 2月 03日

    むしろ画像を見る限りレーダー6面ありそうなのがそもそもの原因じゃないかと思うんだが。良い方に考えれば探知精度重視だが、悪い方に考えればレーダー性能不足のカバーだがどっちだろう。

    2
    • もり
    • 2022年 2月 03日

    26型から主機構成踏襲して盛りに盛ったらそうなるに決まってんだろ…
    設計させられたBAEシステムズが可哀想なレベル

    10
      • 千葉の猫
      • 2022年 2月 03日

      元々の26型フリゲートが満載5千トン級から8千トンまで太ったのもあるけど
      そこからさらに2千トン増は無茶させすぎててねぇ
      元記事でも「未成熟な26型」をベースにしたって書いてあるけど26型は英フリゲートに求められててた標準速力の28ノット発揮できるわけでね
      むしろ1万トン級になる位詰め込むならもっと大型の船をベースにするべきだったとしか

      対応策としては設計段階なので
      高速時のレーダー出力制限
      細長い船にして高速でやすいよう船型かえるか(動揺性とかデメリットは当然ある)
      機関を増設する/より高性能のにするか
      45型みたいに追加の発電機積むか
      積むもの減らすか
      この辺でしょうか?当然組み合わせるのもありでしょうけど

      6
        • きっど
        • 2022年 2月 03日

        元の26型が最初満載5000トン級の予定で、それが満載1万トン級にまで膨れ上がったのであれば、もう機関倍増でMT30 x2基積みするしか方策は無いのでは?
        其処まで来ると、もう機関区画の完全再設計で別級になるでしょうね

        2
          • きっど
          • 2022年 2月 03日

          自己レス
          あー、そもそも26型はCODLOG方式だったか。低速時はディーゼル発電のみで、高速時はガスターピンのみを使用する方式
          だと、要求された最高速力を達成できるかは兎も角として、最高速力でレーダーを最大出力で運用するのは問題無さそうだな。高速力時はガスタービンのみを推進に使用する方式だから、電力は余っている筈なので
          問題は、(ディーゼル発電推進時での)高速巡航時に発電能力の問題に突き当たって、速力かレーダーかの二択を迫られるのが問題と。レーダーを使う際はガスタービン推進と割り切れば何とかなるが、代償として燃費が最悪でマッハで燃料が無くなるから、警戒時間が短くなると

          3
    • ブルーピーコック
    • 2022年 2月 03日

    諸元表を見てきたが、フリゲート艦にイージスシステムに32セルVLSと対艦ミサイルに魚雷を載せるとか、何という欲張りセット。駆逐艦より重いフリゲート艦とか先祖返りかな。記事にもあるが、ホバート級の増産か、ホバート改を建造するのが良いのかな。豪海軍がどう決断するのか知らんけど。

    もがみ型に早くVLSを実装してほしいが、こういった問題は起きてほしくないな

    13
    • Mr.Takao
    • 2022年 2月 03日

    量を質で補おうとするどっかの旧海軍みたいなことですかね。
    そもそも豪国国産レーダーと船体の相性が悪いんでしょう。ここは腹括って完全新規設計にするべきだと思う(出来ればの話。たぶんやらないよね)。

    7
    • 水メロン
    • 2022年 2月 03日

    つまるところ、発電キャパシティの問題なわけで。
    電気式推進機関だけでなく、レーダーやらレールガンやら、電力をドカ食いするものは将来も増えるばかり。

    落とし所のひとつとして、全力航行時には何かの機能をオフにするのは有りだと思います。
    でもレーダーは落としちゃ駄目ですわ、作戦行動中の艦としては無防備にすぎる。
    探知半径が半減する程度ですむなら、個艦防衛できるのでアリかな。

    1
    • DEEPBLUE
    • 2022年 2月 03日

    潜水艦といい国内雇用のために性能犠牲にし過ぎなんじゃないかな・・・?まあ雇用第一なら性能はある程度やむを得ないかと

    9
    • トブルク
    • 2022年 2月 03日

    レーダーの電力は当然必要として、運用期間が2030〜2060年頃になるだろう大型艦に、将来、大出力レーザー兵器を搭載する余裕は見込んでないのかね?

    5
    • にゃ
    • 2022年 2月 03日

    原子力フリゲートにしようぜ
    これで電力問題と長距離戦力投射を同時に解決できる

    2
    • samo
    • 2022年 2月 03日

    要求を詰め込み過ぎてパンクした典型例になってるねこれ
    取捨選択の取ばっかりやって、捨をやらなかった顛末
    もっと割り切った設計にして、軽量フリゲートとしてデザインしつつ、
    足りない部分はホバート級を増産で補完するのがベストだと思うけど

    8
    • 折口
    • 2022年 2月 03日

    ハンター、ベース艦艇の機種選択は結論ありきで英26型に決まっていったような記憶があります。Commonwealthの一員としての誇りは大事ですが、欧州の艦艇規格は狭い海域で使うことを前提に色んなものを切り詰めて小型化しているので、それを太平洋戦域での使用に耐えるように色々付け加えていったらそれこそMEKO200ベースにむらさめ型並の汎用性を求めていった広開土大王級のような小さくて重いキメラになってしまうのでは。
    ホバート級の追加生産をキャンセルしてまで新規設計に着手したのは、防空艦だったホバートより汎用=対潜戦に特化した駆逐艦が欲しいということですよね。その上豪州海軍の警備海域は欧州の殆どの国より広大かつ危険な訳で、速力性や連続稼働時間や航洋性も切っちゃいけないと思うんですよね。
    対潜駆逐艦を大量保有してる日本は船の販売はしてないし、米国も対潜フリゲートは型落ちなので時期的に仕方ないって話ではあるんですが…。

    • 千葉の猫
    • 2022年 2月 03日

    満載1万トン級でイージスシステム搭載但しレーダーはお馴染みSPYじゃなくて自国産CEAFAR2
    ホバート級でもイージスシステムと自国産CEAFARの組み合わせはやってるからいいとして
    ベースに26型選んだ割に盛りすぎたというのが問題の根本かと思われますがちょっとお値段について検討

    350億豪ドルを投じてフリゲート艦を国内で計9隻建造って
    日本円にすると1豪ドル=81.64円なので1隻当たり3174億円
    まや型の取得費用が弾薬抜きで1隻1621億円(27年度護衛艦40年運用想定ライフサイクルコストより)
    豪の工業は色々とアレなので造船所の拡張費用とかも入ってるだろうし
    一人当たり工賃が本邦の倍くらいするし
    SPY-1とCEAFAR2という違いあるけど倍近くするのはやはり高いよねぇ

    12
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