愛知県にある三菱重工業のF-35最終組立施設「FACO」が、今月からF-35のアジア太平洋地域の国際整備拠点「MRO&U」として運用が開始されることになったとNHKが報じている。

参考：F35 アジア・太平洋地域の整備拠点 愛知の工場が運用開始に

ついに運用が開始された日本の国際整備拠点「MRO&U」、年間30機以上の重整備を実施

米国が開発した第5世代戦闘機F-35ライトニングⅡは現場部隊での日常的な整備とは別に、一定時間の飛行を行う毎にF-35は機体やエンジンなどを分解して徹底的なメンテナンス＝重整備を受けなければならないのだが、この重整備は各地域に設置された国際整備拠点「MRO&U」にF-35を持ち込んで受ける必要があり、さらに不具合の修理やソフトウェアのアップグレードなどを行う際もMRO&Uに持ち込まなければならない。

日本は自国向けのF-35を製造するため国内にFACOを設置したが、この施設は同時にアジア地域（※1）で運用されているF-35の重整備を担当するMRO&Uとしても活用される予定だったのだが、今年7月から正式にMRO&U運用が開始されたとNHKが報じている。

出典：航空自衛隊

※1補足：アジア太平洋地域の国際整備拠点「MRO&U」は日本と豪州にあり、日本はアジア担当で豪州は南は太平洋を担当することになっている。F-35を導入予定のシンガポールは地理的に日本よりも近い豪州のMRO&Uを利用すると言われている。

防衛省の説明によれば日本のMRO&Uは航空自衛隊のF-35だけでなく、在日米軍、在韓米軍、韓国空軍のF-35を受け入れる予定で年間30機以上の重整備を受け持つことになるらしい。

ここで注目されるのは防衛省が韓国空軍のF-35受け入れに言及した点だ。

F-35Aを導入中の韓国は国内に重整備を扱える整備拠点がないため国外のMRO&UにF-35Aを持ち込み重整備を受けなければならない。

当然、韓国から最も近い日本のMRO&Uで重整備を受けるのが時間的にもコスト的にも理想なのだが両国間の関係が悪化しているため、これまで韓国は日本以外のMRO&Uで重整備を受けると繰り返し主張してきたが、昨年韓国の国会議員が興味深いことを言って注目を集めた。

出典：U.S. Air Force photo by Tech. Sgt. Louis Vega Jr.　米国で訓練を受ける韓国空軍のF-35A

正義党所属キム･ジョンデ議員は、米国が日本と日韓相互軍需支援協定（ACSA）を締結して韓国に日本のMRO&Uを利用しろと圧力を加えているのは「米国と結んだF-35購入契約に盛り込まれた条件履行を求めているから」だと指摘、これはF-35A導入交渉当時の朴槿恵政権が日豪の整備拠点利用に言及した内容が含まれる技術統制及びオーバーホールに関する契約に署名（※2）したためで、米国に重整備を受けるという選択肢が消えたと言っている。

※2補足：米国としてはMRO&Uを設置した国が担当地域の重整備を行うことで施設設置に投資した費用の一部を回収する仕組みになっているため、アジアに位置する韓国は米国ではなく契約に従ってアジア太平洋地域のMRO&Uを利用しろと言っているのだろう。

キム議員は「余計な時間や費用を負担してまで豪州で重整備を受けるのはコスト面から見て現実的ではないので日本で重整備を受けるしかない」と述べているが、そうなれば今度は技術的に日本へ従属することになるとも指摘、そこで韓国も国内にF-35のMRO&Uを誘致しようと言い出した。彼は「清州に配備されたF-35Aの重整備を日本の戦犯企業に依頼しなければならない状況だ」と主張して清州へのMRO&U誘致を国会で推進すること言っていたが、今の所なにかの成果があがったという知らせは聞こえてこない。

結局、韓国では空軍のF-35Aの重整備問題は「日本以外」という文句を繰り返すだけで何も決まっておらず、防衛省の説明通り日本のMRO&Uに韓国のF-35Aを受け入れることになるのかは未知数だ。

しかし現在開発中のソフトウエア「ブロック4」が完成すれば、韓国も自国のF-35Aを「何処か」のMRO&Uに持ち込みアップグレードを受ける必要があるので、これまで先延ばしにしてきた問題に答えをださなければならない。

関連記事：韓国はF-35の重整備を何処で受ける？米国、韓国に対し｢日本｣の整備拠点利用を要請

※アイキャッチ画像の出典：航空自衛隊