欧州関連

レーダー照射問題、フランスがNATO主導の軍事作戦参加を見合わせ

フランスは1日、トルコ海軍がとった「敵対行為」の調査結果を受け取るまでNATO主導の軍事作戦への参加を見合わせると加盟国に通達した。

参考:France escalates Turkey dispute by quitting Nato naval mission

トルコ問題の報告書を受け取るまでNATO主導の海洋安全保障作戦参加を見合わせるフランス

この問題は先月、NATO主導の海洋安全保障作戦「シーガーディアン」に参加していた仏海軍フリゲート「クールベ」が、リビアに武器を輸送していると疑われるトルコ輸送船に接近して通信を試みるも無視して航行を継続、この輸送船を護衛中のトルコ海軍のフリゲートからのミサイル攻撃を意味する「レーダー照射(火器管制レーダーによる電波の照射のこと)」が3回行われたためフランスが激怒した。

フランスはトルコ海軍の行為について「NATOの交戦規定に照らせば敵対行為とみなされる」と主張して非難するもトルコは仏海軍艦艇に向けてレーダー照射は行っていないと否定、するとフランスは「リビアの和平が遠いのは国連のリビア武器禁輸措置に違反してトルコが組織的な武器の持ち込み行っているからだ」と糾弾、これに対してトルコは「国連決議の枠組みで国際社会から認められたリビア政府からの要請を受けて支援しているのであり、フランスこそ国連やNATOの決議に反して「政変を企てた非合法な人物(リビア国民軍の指導者のこと)」に組みしている」とフランスの違法性を強調してやり返している。

出典:public domain トルコ海軍のフリゲート艦「ゲリボル」

もはや当事者間で問題を解決することが不可能と悟ったフランスは「NATO主導の作戦中に起こった問題なのでNATO自身がトルコ問題に対処しろ」と要求、これに対してNATOは「事件を調査して何が起こったのかを完全に明らかにする」と約束したのだが、フランスはNATOに圧力を加えるためNATO主導の「シーガーディアン」参加を見合わせると加盟国を通告した。

さらにEU加盟国であるキプロス周辺海域で、勝手に海底資源の掘削調査を行うトルコに新たな経済制裁を課すためフランスはEUの会議を招集する準備を進めるなど、経済面でもトルコに対する締付け強化を行っているためトルコ側の反発が予想される。

NATO関係者によれば「トルコ海軍のレーダー照射問題を調査した機密報告書は近日中にも提出され、NATO加盟国によって議論が行われる予定だ」と話しており、当面はフランス抜きで海洋安全保障作戦「シーガーディアン」を継続していくと付け加えた。

結局、NATO加盟国の大半がグルで誰もフランスやトルコを責められる立場にない

ただフランスも身勝手な行動や発言でNATO加盟国から不興を買っており、絶対的な支持が得られているわけではない。

リビア内戦について中立の立場を主張しているフランスは昨年、反政府組織「リビア国民軍」の攻撃を支持したり、リビア国民軍の基地からフランス軍が購入した対戦車ミサイル「FGM-148ジャベリン」が押収されるなど怪しい点が多いのに、トルコのリビア内戦介入については「犯罪的だ」と非難するのでフランスに同調する国は多くなく、シリア内戦でNATOが機能してない状況について「脳死状態」と表現したためNATO加盟国から不興を買ってしまった。

出典:public domain 米国製の対戦車ミサイル「FGM-148ジャベリン」

それでは身勝手なフランスに攻撃されるトルコにNATO加盟国が同情的かと言えば、表向きはNOだが経済的にはYESかもしれない。

強引で一方的なトルコの外交政策は多くの敵を生んでしまい、フランスが主張するようにNATOに厄介事を持ち込むトルコに良い感情を抱いている国は多くないが、シリアやリビアに軍事介入を行っているトルコは防衛装備品の一大消費国でもあるため、表向きにはトルコの行動を非難してもNATO加盟国の多くはトルコ向けの武器輸出で多額の利益を得ている。

特にドイツはリビア内戦介入を理由にトルコ向けの武器輸出を表向き禁止たが、実際にはリビア内戦に使用されない武器や軍需物資に関しては輸出を継続したため昨年の対トルコ武器輸出の総額は約10億ドル(約1,100億円)に達し、トルコはドイツ防衛産業界における最高の顧客(ドイツ武器輸出額の1/3はトルコ向け)になった。

さらに政府の許可が必要ない軍事転用可能な装備品や物資まで含めると対トルコ向けの輸出額は80億ドル(約8,600億円)を越えると中東系メディアが指摘した。

参考:German Arms Exports to Turkey Boomed in 2019

さらにカナダもシリアへの軍事介入を理由に表向きトルコへの武器販売を禁止しているが、防衛装備品輸出額で大きな割合を占めるトルコへの輸出機会を全て失うわけには行かないため政府が個別に許可を与えて、トルコ製の軍事用無人航空機(UAV)に使用されるEO/IRセンサー等の防衛装備品輸出を継続しており、どういった基準で許可を与えているのか不明瞭だと現地メディアが批判している。

出典:Bayhaluk / CC BY-SA 4.0 バイラクタルTB1

このようにレーダー照射問題だけを見ればフランスの主張は正しく見えるが、リビア内戦問題として見た場合は自業自得と冷めた目でNATO加盟国は見ているのかもしれない。さらに言えばNATO加盟国はシリアやリビア内戦に軍事介入を行うトルコを非難しても、トルコへの武器輸出で多額の利益を享受しているため両内戦へ間接的に関与していると言えるだろう。

結局、NATO加盟国の大半は誰もフランスやトルコを責められる立場にないのかもしれない。

関連記事:カナダ、武器禁輸措置を破ってトルコに無人航空機コア装置を輸出

 

※アイキャッチ画像の出典:ulyssejdv / stock.adobe.com

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 7月 02日

    火器管制レーダー照射はこのくらい大々的に糾弾されるべきことなのに
    フランスが経済制裁したら日本政府も同等の制裁を南朝鮮にやれよな

    • 匿名
    • 2020年 7月 02日

    じゃ、フランスはアラビアとアフリカの軍事活動も辞めてね、
    NATOは北大西洋に特化し、アラビア以南の騒動には距離置くべきだね

    • 匿名
    • 2020年 7月 02日

    確かに火器管制レーダー照射は敵対行為で大々的に糾弾されるべきことだと思うよ
    でもだからって多くの国と地域の利益のために動いているNATOの一員としての役割を放棄するのはどうなんだろ

    • 匿名
    • 2020年 7月 02日

    NATOなんてまともに機能してない古い体制では何も問題解決しないよ

    • 匿名
    • 2020年 7月 02日

    欧州情勢は複雑怪奇

    • 匿名
    • 2020年 7月 02日

    自国の平和だけを愛する諸国民

    • 匿名
    • 2020年 7月 02日

    水面下で収めるべきだったとか騒ぐほどではないとか安倍首相がわざと大きくしたとか言ってた(自称)識者や議員がいたけど
    これで嘘つきだと判明したな
    あの件はもっと韓国叩きに利用できてた

    フランスにしろドイツにしろカナダにせよ
    兵器を売って国益を追及するのは当たり前だし、そのために手を汚したり介入することもあるだろうさ
    無駄にお行儀がよいうちが世間知らずでおかしいだけ
    外交と工作は戦前のようにもっとちゃんとあこぎにいこう

    1
      • 匿名
      • 2020年 7月 09日

      まったく同意。
      ただレーダー照射問題は、まだカードとして機能しているとの認識だし、
      国民の側もカードとして機能しているとの考えが大事だと考えます。
      それとスパイ防止法+スパイ工作機関設立は必須だとも考えています。

    • 匿名
    • 2020年 7月 02日

    トルコは四方八方に喧嘩を売り、フランスは大国の地位を利用して好き勝手に振る舞う・・・。
    前者はどこぞの半島に、後者はどこぞの大陸国に似ていますねえ。
    どっちもお近づきになんかなりたくないし、生暖かく見守る以外ないです。
    ただ、フランスが武器供与してるからレーダー照射していいかといえば、これは違いますよね。
    トルコ側が詭弁で正当化しているとしか言いようがありません。

      • 匿名
      • 2020年 7月 02日

      立場を利用して好き勝手に振る舞う国と問題行動起こしてるけど利益になるから強く言えない国って言うと
      まんまアメリカと中国の方が当てはまると思う
      ろくでもない国に限って金使うからそれで利益を得る国が非難し辛くてグダグダになるって
      人間に欲がある以上どうやっても解決不能なんだろうなぁ…

        • 匿名
        • 2020年 7月 02日

        大国の大国足るのは「好き勝手振る舞うことができる」事ですから。(意に反することになっても自己処理できる)
        好き勝手振る舞った結果、どうにもならずに下駄を預けたり逆ギレしたりするから格好悪く見える

      • 匿名
      • 2020年 7月 03日

      トルコという人の移動し集まる地域で、かつて大国であったのも珍しい、
      そこに、クーデターを仕掛けた勢力が背後にいる訳である
      そこからいえば、トルコも必死になると言える

      昔は、欧州の政治は、アラブ・アフリカを植ミンチにしたかったが、
      今や考えも変わり、紛争が続いてほしいだけである
      これが、真のテロ支援国家という欧州の実態である

    • 匿名
    • 2020年 7月 02日

    韓国がやらかした時に国際社会が一致団結してNOと言わないから真似する所が出てくるんだよ

      • 匿名
      • 2020年 7月 02日

      今回の記事にも出ているけど、肝心の国際社会自体も何らかの形でグルになっているから…要は人類皆兄弟、韓国の事を誰も責められないと言うオチw

        • 匿名
        • 2020年 7月 02日

        韓国みたいな国は割と普通に多いということでしょうね。
        日本も所謂大国らしく締めるところは締めてかからないと、舐められて不利益を被り続けることになるでしょう。

    • 匿名
    • 2020年 7月 02日

    トルコ側から見ると
    ブッシュ「イラク潰したった、なんかISISできたわ」
    アラブの春「イスラミストの冬さんに交代や!」
    オバマ「ISIS潰すためクルド人支援するで!!」
    クルド人「念願のワイらの国を建国や!」
    トランプ「アメリカファースト!撤収!!」
    プーチン「よっしゃシリアで兵器試したろ!!」

    って感じなんで喧嘩売ってるというよりも買わざるを得ない状況なのでは

    • 匿名
    • 2020年 7月 03日

    世界は、戦後を終えたひと区切りであろう、
    シナの暴走や欧米の差別問題が露呈し、調整も付かない状態である

    日本からしたら、ごねるシナどころか、欧米の差別とたかりに合う事態でもある
    もう、いいんじゃね、国連やOECDから抜けたらええ、世界は欧米に任せばいい?

    東南アジア一国の日本として、着実な政治に・・
    ただ、特亜の中朝露民族には関わるな

    • 匿名
    • 2020年 7月 03日

    【パリ共同】フランス大統領府は3日、フィリップ首相率いる内閣が総辞職した

    こんなコロナの状況に、狂ったフランス政治、

    普通になれないんです

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