世界で最も強固なミサイル防衛システムと評価されるイスラエルの防衛シールドは弾道ミサイルと無人航空機を組み合わせたイランの複合戦術に対抗できるだろうか?
参考:Iran believes that maneuvering missiles, drones will evade air defense
参考:Iran Posts Video Simulating Missiles Blasting Israeli Nuclear Reactor
参考:Is Iran’s new drone swarm Shahed-136 tech a gamechanger?
地道な努力と奇抜なアイデアでイスラエルの防衛シールドを突破を狙うイラン
イスラエルのミサイル防衛システムは弾道ミサイル迎撃のアロー、航空機や巡航ミサイルに加え終末段階の弾道ミサイルやロケット弾の迎撃にも対応したデービッド・スリング、ロケット弾の迎撃に特化(アップグレードにより巡航ミサイルやドローンの迎撃にも対応)したアイアンドーム、終末段階の弾道ミサイル迎撃に対応した艦対空ミサイルのバラク-8に加え、米国製のパトリオット・システム(デービッド・スリングで更新予定)で構成されているため「世界で最も強固なミサイル防衛システム」と評価されている。
この防衛シールドを突破するため挑戦を続けているのがイランだ。
イランはイラク戦争(第二次湾岸戦争)で米国のパトリオット・システムがスカッドミサイルの迎撃に失敗した事実を研究、そこからミサイル防衛の脆弱性=弾道ミサイルの経路予測はレーダーによる追跡時間に比例するという結論(スカッド迎撃失敗は追跡時間が短く経路予測の精度が低下したためインターセプトコースの算出に誤差が生じたという意味)に至り「イスラエルの防衛シールドを貫通するため弾道ミサイルの低認性=レーダー反射断面積削減と高速性=最高速度の向上を追求してきた」とイランのタスニム通信は説明したが、現在は強化され続けるイスラエルの防衛シールドを打ち破るため新しいアプローチに移行しているらしい。
従来の弾道ミサイルよりも低高度をコース変更しながら飛行する極超音速グライド・ビークル(HGV)について中国(2021年3月に両国は安全保障分野を含む包括的な協定を締結/協定期間は25年間)から学ぼうとうしており、今月中にロシアとも安全保障協定を締結(協定期間は20年間)するとも噂されているのでイランがHGV搭載のミサイルを手に入れればイスラエル側を驚かせることになるが、従来型の弾道ミサイルに搭載する再突入体(RV)もしくは機動再突入体(MARV)の誘導精度向上にも取り組んでおり、このような次世代の弾道ミサイルと無人航空機を組み合わせる複合戦術でイスラエルの防衛シールド突破を試みている。
イランはイスラエルの核兵器開発や製造の拠点(ディモナのネゲヴ原子力研究センター)を破壊する大規模な演習を昨年末に実施、その様子を動画で公開したが弾道ミサイルの発射に加えカミカゼ・ドローンと呼ばれるShahed-136を同時に運用しており、イスラエルメディアは飛行特性が異なる複数の攻撃手段で防衛シールド側の負荷を高めるか爆弾の代わりに電子戦装置を搭載したドローンを大量に飛ばすことで弾道ミサイルの検出や追尾を困難にさせることを狙っているのではないかと予想しているのが興味深い。
イランはイスラエルへのロケット弾攻撃(昨年5月)を行ったイスラム原理主義組織ハマスを利用して粗末なUAV(Ababil-B)を飛ばし、飛行特性が異なる複数の攻撃手段にイスラエルの防衛シールドが同時タイミングで晒された場合どうなるのかを実戦で検証、ジェーンスのジェレミー・ビニー氏は「ハマスのロケット弾検出に集中していたイスラエル国防軍はセンサーの再調整を余儀なくされ、イランはハマスを利用してイスラエル攻撃に役立つデータ入手に成功した」と指摘しており、昨年末の演習で弾道ミサイルとUAVを同時に使用しているのは「効果がある」と確信しているからだろう。
さらに興味深いのはイランが見通し通信にしか対応していないShahed-136を使用した点だ。
Shahed-136の航続距離は2,000kmと推定されているものの見通し通信(200km~300km)の制限でディモナまで届かないという欠点があるのだが、イランは慣性航法装置でイスラエル方向にShahed-136を飛ばしディモナに近いシリアやガザ地区に潜入させた工作員にUAVのコントロールを引き継ぐのではないかと予想されており、ハマスがロケット弾攻撃を行った際に実施した同時攻撃とは規模も能力もケタ違い異なる攻撃にイスラエルは晒される可能性がある。
最も懸念されるのは今月中にロシアと締結するのではないかと噂されている安全保障協定に軍事衛星の提供が含まれている点で、これが通信衛星ならイランのUAVは見通し通信の制限から解放されるかもしれないためイスラエル側としては油断できない。
どちらにしてもイランがHGV搭載のミサイルを手に入れるのは当分先の話だが、最終誘導の精度が向上した弾道ミサイルとシリアやガザ地区を利用することで見通し通信の問題を解消できるUAVを同時に使用するというイランの試みは着実に進歩を遂げており、これを軽視しているとイスラエルは大きな痛手を被ることになるだろう。
関連記事:UAVがすり抜けるの時間も問題? イラン製UAVによる厳しいテストに晒されたアイアンドーム
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※アイキャッチ画像の出典:IMA Media
中国·ロシア·イランに北朝鮮を加えて新悪の枢軸とでも呼ぶのですかね?
現状はそちらに味方する国の方が多そうなのが懸念されますね。
台湾·ウクライナに中東か。
本当に第三次世界大戦が起るかも。
ただそちらに味方する国の多くは中国の資金援助が切れたら終わりだろうしなぁ…
この熱心さを軍事以外に向ければ、もっと豊かになれると思うんだけどなぁ、、、
まあ、イスラエルは事実上の核保有国だし中東の覇権を争う相手でもあるから多少はね
膨張傾向があるのはイランじゃなくてイスラエルの側だし
ドイツかな?
どこの?
石油と一緒にこっそり輸出してくれないかな。
当時から思ってたんですけど、21年の空襲に対する評価が人によって一定しないのが面白いですよね。あの時の高い迎撃率が逆にイスラエルの多層防空システムの信頼性を証明したと言う人も居るし、逆にカッサームロケットみたいなDIY兵器でも飽和させることで迎撃システムの許容オーバーを発生させられる=性能の天井が見えてしまったと見る人も居ますよね。
イスラエルへの大規模ロケット攻撃はカッサームやBM-21のような短距離地対地ロケットなどの安価で低性能な兵器をどのように効果的に使うかに注力されてきて、スカッドなどの高価値アセットの投入は殆ど温存されてきていました。そこへきて未だ世界でどの国も対抗手段を構築できていない極超音速滑空体の技術がイラン側に導入されれば(イスラエルの背後に居る欧米諸国のどこも互換品を保有していないことも合わせて)、イランにとっては中東情勢を一気に覆せるチャンスに映る=性急で大規模な武力行使が起こりうる可能性があるのではないでしょうか。まぁ、本当にテルアビブを火の海にしてしまったら今度はイスラエルの核が出てくるんでしょうけど…
シリアへの原子炉空爆で判るように、他国が核を持ちそうだと判断しただけで攻撃かける国ですから
核使用のハードルも世界一低い国なんじゃないかと心配
まだ電磁波でドローンが何とかなると思っている国は自律型にボコボコにされるんでしょうね。
イランがイスラエルの防空網を突破できると仮定しても
イスラエルの核兵器を含む反撃を封じる自信があるのかな
それともイスラエル防空網突破だけが目的で、シオニスト殲滅の為ならば自国の損害は許容できるという
革命防衛隊による暴走状態になっているのかな
各種ミサイルや無人機で防空網を突破できた後に何がしたいのかがよくわからない
都市を攻撃出来ると言う能力自体が強力な外交カード。それを使って脅すなり売り込むなり出来る。米ソが冷戦時代やってたアレと同じ。
実践で証明されている強固なイスラエルの防空網を突破できるだけでプレゼンス力みたいなのは今以上に上がると思う