軍事的雑学

運用可能な戦闘機がたった119機? 最も長い歴史を持つ英国空軍の没落

世界で最も長い歴史を持つ空軍として有名な英国空軍。

冷戦時代には、可変翼機のトーネードADV/IDS、VTOL機のハリアー、米国製のF-4ファントムなど約850機の戦闘機を運用するほど充実した戦力を誇っていた英国空軍だが、冷戦終結後の軍縮、ユーロファイター・タイフーンの調達数削減、F-35開発遅延などの影響で、現在、英国空軍が運用している戦闘機は、たったの119機だ。

戦闘機不足に悩まされる英国空軍

英国空軍には現在、102機のタイフーン(トランシェ2/67機、トランシェ3/40機)と、17機のF-35B、計119機の戦闘機を運用中で、この他にも、タイフーン・トランシェ1の単座型を24機保有しているが、実働部隊から外されており、訓練用のトランシェ1複座型に関してはコスト削減の方針により廃棄される予定だ。

2030年までに英国空軍は、F-35Bを138機導入する予定で、そうなれば264機(タイフーン・トランシェ1を含む)の戦闘機を保有するレベルにまで戦闘機戦力が回復するが、これは全てが予定通りに進んだ10年後の話だ。

現時点で、英国空軍には119機の戦闘機しかなく、NATO主要国のフランスは303機、ドイツは204機、イタリアは159機の戦闘機を運用中で、英国空軍が運用出来る戦闘機の数が、どれだけ少ないかよく分かる。

補足:フランス空軍はラファールB/Cを149機、ミラージュ2000(各種タイプ)を112機、フランス海軍はラファールMを42機運用中。ドイツ空軍はトーネードIDSを68機、タイフーンを136機運用中。イタリア空軍はタイフーンを73機、F-35Aを13機、トーネードIDSを38機、AMXを35機運用中だ。※英国空軍と比較する条件を揃えるため訓練用の複座型タイプや、トーネードの電子攻撃機は除外して集計している。

出典:public domain

付け加えるなら、10年後に264機にまで回復する英国空軍の戦闘機戦力も怪しい点が多い。

現在、実働部隊から外されているタイフーン・トランシェ1の単座型24機は、「プロジェクト・センチュリオン」から除外されているため、10年後に実戦で使用できるのか非常に怪しい。

プロジェクト・センチュリオンとは、退役するトーネードから対地攻撃任務を引き継ぐため、タイフーンに長距離巡航ミサイル「ストーム・シャドウ」や、空対地ミサイル「ブリムストーン」などの対地攻撃兵器の運用能力や、長距離空対空ミサイル「ミーティア」の運用能力を付与するためのプロジェクトだ。

さらに138機導入すると言われているF-35Bは、予算不足のために導入機数が削減される可能性がある。

現在、英国空軍の主力戦闘機であるタイフーンの後継機として、2035年の運用開始を目指し、計画が進んでいる第6世代戦闘機「テンペスト・プロジェクト」も、英国以外に参加の意思を表明する国はなく、本当に開発に着手出来るのかさえ疑わしくなってきた。

もし「テンペスト・プロジェクト」が頓挫した場合、英国空軍の戦闘機戦力は、2035年以降、再び減少に転じる可能性がある。

Attribution: Dave Jenkins – InfoGibraltar, File:HMS Queen Elizabeth in Gibraltar – 2018 / Dave Jenkins / CC BY 2.0

さらに言えば、英国空軍は地中海のジブラルタルやキプロス、中東のカタール、フォークランド諸島などへ戦闘機部隊を派遣し、英国海軍の空母「クイーン・エリザベス」や、空母「プリンス・オブ・ウェールズ」で運用するためのF-35Bも派遣しなければならず、仮に2隻の空母が運用状態になれば、空軍は最低でも60機以上のF-35Bを空母に回さなければならなくなる。

これ以外にも、最近、高い頻度で出没するロシア軍用機への対処、日常的な訓練、オーバーホールが必要な機体などを考慮した場合、最低でも同じ空母運用国で、海外に基地を持っているフランスと同等程度の戦闘機が必要になるのではないだろうか?

出典:public domain

今後10年間、どのようなペースでF-35Bが英国に引き渡されるのか不明だが、暫くの間、たった119機の戦闘機でやり繰りをしなければならない英国空軍とって、先月、米海兵隊のスティーブン・R・ラダー中将が、英海軍空母「クイーン・エリザベス」に、海兵隊所属のF-35B分遣隊を派遣すると提案したことは、渡りに船かもしれない。

但しこれは「空母へF-35Bを回す余力がないなら、クイーン・エリザベスを貸せ」と米国に言われているようなもので、英国海軍も、折角、建造した空母に、米軍のF-35Bを載せて運用するのは面白くないと感じているかもしれない。

果たして英国空軍は、世界で最も長い歴史を持つ空軍に相応しい「存在感」を取り戻すことが出来るだろうか?

 

※アイキャッチ画像の出典:public domain

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 7月 04日

    現状では東アジアよりも開戦が遠いということなのでしょうけど、どうもこちらから見ると理想主義に傾きやすい欧州は本当に真剣に考えているのか心配ですね。欧州の仮想敵国の筆頭であるロシアは一切油断は見せないと思いますが。危機感の輸出という意味でも、日本は軍事的に欧州との結び付きを強めてもらいたいです。

    • 匿名
    • 2019年 7月 04日

    >102機のタイフーン(トランシェ2/67機、トランシェ3/40機)
    ? トランシェ3/40機 って思ったら、
    既存のドップラーレーダーを搭載した3Aですね。
    未だに開発中の3B(首振りするAESAレーダーって珍妙なやつ)の調達はしないと明言してますね
     所有する機体数では無く、実稼働状態の戦闘機なら軽々とドイツ空軍を凌駕してると思います。
     フランス空軍、イタリア空軍だけがソ連崩壊、ロシアの低迷期間でも装備を完全にメンテできてたと思えない・・・内情の暴露が出て来ると面白いかも? 

    • 匿名
    • 2019年 7月 04日

    なおドイツ空軍の戦闘機稼働率は一桁台なので実働機数はイギリスの方が圧倒的に多い模様

    • 匿名
    • 2019年 7月 04日

    現状イギリスに敵らしい敵はいませんからね
    海軍も陸軍も軍事力のほぼ全てを海外遠征能力に振っている状況ですし、空軍も外国での活動が主任務になることを考えると、数だけ多くても意味がないんでしょう。

      • 匿名
      • 2019年 7月 04日

      なおイギリスはユーロファイターの稼働率を約20%と発表してる模様
      F-35が全機飛んだとしても稼働機約40機

      • 匿名
      • 2019年 7月 06日

      近所が敵だらけの日本からしたら羨ましいかぎり。

      軍事力が一番足りてないのは日本だよ。

    • 匿名
    • 2019年 7月 05日

    日本は無駄金喰いの戦闘機をゼロにしよう!

      • 匿名
      • 2019年 7月 06日

      老朽化したボロ戦闘機がドンドン廃棄されて、無駄金食いの戦闘機は減ってますよ!
      安心して下さいね(´∀`●)

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