米国関連

米メディア、30万人以上に拡張されるNATO即応部隊の80%は欧州が負担すべき

米ディフェンスメディアは28日、マドリードで開催されるNATO首脳会議でバイデン大統領は「中国対応に集中するため、欧州の安全保障に対する米軍のプレゼンス引き下げを主張すべきだ」と訴えている。

参考:The NATO summit is chance to wean Europe off US military might

シンプルに言えば米国は中国対応で手一杯なので、欧州の加盟国はもっと国防予算を増やして自ら安全を確保してほしいという意味

NATO加盟国はマドリードで開催される首脳会議で「現行4万人のNATO即応部隊を30万人以上に拡張する案」を承認する見込みで、ドイツはいち早く「拡張されたNATO即応部隊に兵士1万5,000人、航空機65機、艦艇20隻を提供する」と表明しているが、米ディフェンスメディアは「即応部隊の拡張は欧州における米軍のプレゼンスを引き下げるチャンスだ」と指摘して注目を集めている。

出典:Photo by Sgt. Daniel Cole 米軍のNATO即応部隊

トランプ前大統領はNATO加盟国の国防支出が少ないことを問題視して「欧州の安全保障に対する米軍のプレゼンス引き下げ」をチラつかせ、国防支出をGDP比2.0%に引き上げる努力義務をNATO加盟国に飲ませたが、これは「米国製兵器をもっと購入してほしい」という政治的な意味合いと「太平洋で中国と対峙する米国には欧州の安全保障にこれ以上構っていられない」という現実的な問題を含んでおり、後任のバイデン大統領も欧州、中東、アフガニスタンに展開する米軍を再編してインド太平洋地域に再配備する計画を進めていた。

東欧諸国の安全を担保するためNATOは約1万人規模の事前展開部隊をロシアと国境を接する国々に駐留させており、米軍が事前展開部隊の約60%(約6,500人)を負担していたが、ウクライナ侵攻が発生するとロシアと国境を接する国々は展開部隊の増強をNATOに要請、加盟国は東欧諸国に追加部隊の派遣したものの事前展開部隊の米軍負担は80%(約2万人)に上昇したため米ディフェンスメディアは「このような傾向は持続不可能だ」と指摘しているのが興味深い。

出典:U.S. Army photo Sgt. Hunter Garcia 米軍のNATO即応部隊

つまり国防支出を増やしたMATO加盟国に役割を移譲して欧州に展開する米軍を再編する予定だったのに「欧州の米軍依存」が逆に高まっており、米ディフェンスメディアはマドリードで「事前展開部隊への米軍派遣を中止するとバイデンを主張すべきだ。事前展開部隊や30万人以上に拡張するNATO即応部隊の約80%を欧州の加盟国が負担すべきで、国防予算の増額や装備品の共同調達など防衛産業の合理化を推し進めれば支出が効率的になり、欧州諸国主体の安全保障は10年以内に実現する可能性がある」と主張している。

欧州有事のウクライナ問題で米国や東欧諸国が大きな役割を果たす中、欧州の加盟国の中で最も裕福なドイツ、フランス、イタリアは軍事支援、人道支援、経済支援の何れでも遅れをとっており、特に米国の支援量はEU加盟国全体の支援量よりも多く「負担の配分が不公平だ」と米ディフェンスメディアは指摘して「欧州の安全保障を欧州の加盟国が主体に行うには米国が主導的な地位から去るしか無い、米国はNATOの最終的な安全装置として位置づけられるべきで、米国の欧州防衛への貢献には制限を設けるべきだ」と訴えているのが新鮮な部分だ。

出典:DoD photo by Lisa Ferdinando

まぁシンプルに言えば米国は中国対応で手一杯なので、欧州の加盟国はもっと国防予算を増やして自ら安全を確保してほしいという意味だが、地域の安全保障におけるプレゼンス低下は武器販売に直結するので米防衛産業界には微妙な話題だろう。

関連記事:NATO事務総長、現行の4万人から30万人以上に即応部隊を拡張すると発表

 

※アイキャッチ画像の出典:Photo by Sgt. 1st Class Michael O’Brien

クラファンでウクライナ軍支援、ポーランド人もTB2購入資金の調達を開始前のページ

米陸軍がGD製の軽戦車採用を発表、2035年までに500輌程度を調達次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    米紙、スロバキアの選挙結果はゼレンスキー大統領への圧力になりうる

    ニューヨーク・タイムズ紙は1日「ウクライナと国境を接する国が『弾薬を1…

  2. 米国関連

    米国がウクライナへの安全保障支援を発表、18輌のHIMARSを追加提供

    国防総省はHIMARS×18輌が含まれた「ウクライナへの安全保障支援(…

  3. 米国関連

    米軍備蓄量が急速に減少、今後のウクライナ支援に支障が出る可能性も

    米国防当局者はCNNに対して「155mm砲弾、スティンガー、ジャベリン…

  4. 米国関連

    米海軍、耐用年数を迎えるアーレイ・バーク級駆逐艦を維持するには奇跡が必要か

    米海軍は耐用年数を迎えるアーレイ・バーク級駆逐艦に対して大規模なオーバ…

  5. 米国関連

    米国、国外脱出者を輸送したC-17の降着装置からアフガニスタン人の遺体を発見

    カーブル国際空港から国外脱出者の輸送に使用されているC-17のランディ…

コメント

    • 通りすがり
    • 2022年 6月 29日

    そこでNATOを拡張して日本を入れてみては
    財布扱いは感情的に面白くはないが
    やはりアメリカ一本ではなく、集団的な防衛条約もプラスアルファで欲しくはある
    もちろん日本の軍事強化による自助努力と、集団的自衛権への変な縛り無くすのは当然として
    そもそも国連憲章で認められている集団的自衛権に、わざわざ自主的に縛り付けるとか意味不明なんだよ

    5
      • ido
      • 2022年 6月 29日

      対中戦は
      日本、アメリカ、インド、韓国、台湾、オーストラリアでやるしかなく、一番前線に出ているのは台湾、日本でしょう。
      ロシアは欧州全体で戦ってくれということ。まあ、こうなるとは思っていましたが。

      36
        • hogehoge
        • 2022年 6月 29日

        20%と少なくきこえても4万→30万という分母なので、増加分26万の20%は5.2万。
        しかもこれ即応部隊枠なので数字的にも52,000名とはなかなかのものだと思います。

        というか、陸自も即応師旅団化を割と本気で頑張って進めていますが、それの全体に匹敵する数字ですので、
        実質的に先進国の一カ国ぐらい分ぐらいのチート級な即応兵力かと。

        10
        • 白髪鬼
        • 2022年 6月 29日

        いや、さすがにそれはおめでた過ぎるでしょ。
        近くのウクライナ支援にすら口先ばかりで、実効が伴わないEUなんざあてになるはずも無い。ヨーロッパであてにできるのはイギリスで、今後の外交方針次第で多少目がありそうなのがポーランド位でしょう。

        いずれにしろ自国の安全保障は、まず国民の覚悟からであって他国えお当てにする愚かな考えは捨てるべきです。
        米帝が日本に対して庇護を提供してきたのは、潜在的に最も危険な脅威に対して首輪を付けるためだっただけで、ほぼ牙が抜けた現在では、単純に庇護を提供する対象では無くなっている事を近づべきでしょうね。

        米軍が守ってくれる、と宣った某外相は大臣どころか議員の資格すら有りません。

        7
        • WSO
        • 2022年 6月 29日

        インド?あえて誰も突っ込まないでいるとか?

        4
          • 匿名
          • 2022年 6月 30日

          そもそもインドは誰の友人でもないし、インドの友人はインドが自主的に選ぶでしょうからね

          7
      •  
      • 2022年 6月 29日

      北大西洋条約機構って組織名を変えないと入れないね(笑)

      5
        • 通りすがり
        • 2022年 6月 29日

        海に面してすらいない国、非欧州の国も既に加盟してるので、まあそこは問題ないかと
        名前変えようが変えまいが、実体が変わるわけでも無いですしね
        結局のところ、今も昔も集団的な西側防衛条約以上でも以下でもない

        5
        • kitty
        • 2022年 6月 30日

        自由国家同盟とか?

      • けい2020
      • 2022年 6月 29日

      形式的以上の効果は期待できないかと
      (アホみたいな自滅願望の憲法改正には効果ありそうですが)

      日本とは比較にならないぐらいは、NATO各国がアメリカだよりというか押し付けまくりで
      NATOの軍事力の50%以上がアメリカで、次がトルコ、ポーランド、その他みたいになってるという、、

      15
      • EijiK
      • 2022年 6月 29日

      日本はウクライナと同じ立ち位置ですから。
      「NATOに参加するとNATOの同意もないのに表明して、勝手に南シナ海に艦隊を送って中国のシーレーンを脅かして先制攻撃を受けてくれる被害担当艦」が日本に求められる役割ですよ。
      NATO加盟国はダメなんです。全面戦争になってしまうので。あくまでも「NATOに入りたいけど入れてもらえない国が、鉄砲玉としてロシアまたは中国につっこんでいく」という構図が必要なんですね。
      韓国が巧みにこの立場を回避しやがりましたから、次は日本の番ですね。

      1
    • 派遣の雇止め
    • 2022年 6月 29日

    特別な地位や 特別な配慮は特別な意志や行動力を持っているから受けられる
    それをしないというならそれ相応の扱いになる

    4
    • Ard
    • 2022年 6月 29日

    まあそうでしょうよ
    弱体化し続けるロシアより中国の方が重大な上にアジアにはまともな軍事力のある国が全然いないからな

    25
    • 虹色ワセリン
    • 2022年 6月 29日

    今回の侵攻によってロシアは少なくない打撃を人員兵器共に受けているので、駐欧アメリカ軍の増員をせずとも欧州各国のみの増員で対応出来そうに考えるのですがいかがてしょう。

    2
      • けい2020
      • 2022年 6月 29日

      そのためにも、アメリカ頼りを減らせって事だろうな
      いざとなれば、アメリカがなんとかしてくれると思ってる、NATO加盟国だらけだろうし

      21
    • せい
    • 2022年 6月 29日

    アジアは欧州に比べて圧倒的に西側が弱いからなぁ。
    陸伝いで基地を置ける国もないし、金がかかって仕方ないだろうね。
    しかし本当に米国は世界の警察を辞めたんだなぁ。

    8
      • WSO
      • 2022年 6月 29日

      「警察官を自称している〇ンピラ」だったと思うよ、米国。あっちにもこっちのも首突っ込んで行っては世界にいくつ傷跡を残したことか。いくつの小国が米国に侵攻されたことか。個人的には自発的な自称警察活動を消極化している今の方が世界にとってはむしろ良いんじゃないかと思うよ。

      16
        • せい
        • 2022年 6月 30日

        良い悪いじゃなくて、米国がオラオラできないほどに中国が力を付けたんだなぁってね。
        ほんとに時代が動こうとしてるのを感じて、日本が対応できるのか不安になっただけだよ。

        9
    • WSO
    • 2022年 6月 29日

    海洋国家であるアメリカ・イギリス・日本・オーストラリアなどにとって重要なのはあくまで中国問題。武力と経済の両面で周辺の小国を屈服させながら海洋進出を図る中華人民共和国。突き詰めて言えばウクライナ戦争もヨーロッパという丸盆の中の世界の出来事。むろん世界的な影響もあるし、戦争が大したこと無いという訳ではない。だが地理的にはあくまで「丸盆」の中。

    ウクライナ戦争から今の時点で学べることがあるとすれば、アジアの各国に対してどちらに付くのか、と踏み絵を強要せずに各国それぞれの事情や立場や意思を尊重していく事だろうか。ウクライナ戦争で対ロシア非難や制裁にここまで国際社会の動きが鈍いとは正直驚きだった。

    5
      • general
      • 2022年 6月 29日

      悲しいことだがアジア太平洋地域の国は共産党一党独裁だったり軍事政権だったりとまともに民主主義が機能してる国は数えるほどしかないしな
      西側についた方が得ですよって誘導していくしかない

      9
        • WSO
        • 2022年 6月 29日

        >西側についた方が得ですよ

        経済的には中国に付いた方が得だから困っている
        具体的に西側につくと何が得だとお考えですか

        5
          • 横田
          • 2022年 6月 29日

          スリランカみたいに経済崩壊でもして痛い目を見ないとわからないかもしれないですね

          11
            • 匿名さん
            • 2022年 6月 29日

            スリランカの経済危機は、中国にすり寄ったからではなく、コロナが原因ですよ。

            4
              • ごめんなすって。
              • 2022年 6月 30日

              中国による「債務の罠」

              の典型的な例として、スリランカが話題になったのは、武漢でコロナ感染が始まる数年も前の出来事ですよ。

              お得意の99年租借で、ハンバントタ港を奪ったのも、コロナよりずっと前。

              コロナを免罪符にしたいんでしょうけど、そりゃ無理ってもんですよ。

              12
                • 匿名さん
                • 2022年 6月 30日

                1.中国による「債務の罠」によって、ハンバントタ港を99年租借することになった。

                2.コロナにより主要な外貨獲得手段の一つの観光産業が壊滅的になり、経済危機に陥った。

                それぞれ関係がないわけではないですが、なんでもかんでも中国のせいにするのはどうかと。

                6
      • 匿名さん
      • 2022年 6月 29日

      >ウクライナ戦争で対ロシア非難や制裁にここまで国際社会の動きが鈍いとは正直驚きだった。

      西側のダブルスタンダードに、世界がうんざりしてるのだと思いますよ。
      私自身、スポーツ界でロシア・ベラルーシ選手の追放運動が西側から起こったことに落胆しました。
      これまで西側自身が、スポーツに政治を持ち込まないようにあれほど言ってきたのにです。
      西側は、世界からの信用を失っているのです。

      6
    • ブルーピーコック
    • 2022年 6月 29日

    独仏が率先してEUとNATOの纏め役をして主導権を握るチャンスだったのにな。
    このままだと対露で頼りになるのは米英波に、チェコやバルト三国といった国々という印象のままになってしまうが、起死回生の一手は打てるんだろうか。

    ドイツとオランダが石炭火力発電を増強させるとかいうニュースも出たし、今年に入ってズルズル印象を落としていくドイツは、イメージ回復のために色々と頑張ってほしいところ(無責任な発言)

    3
      • タイヤキ
      • 2022年 6月 29日

      憲法9条が他の権利に優先する既定はないので、国民の営業の自由など他の権利守るために日本は積極的自衛権の公使をしていくべき、最悪戦争は二度とやらないでロシアを真似て国民の命守るための軍事作戦はするべき。

      8
        • 匿名
        • 2022年 6月 30日

        「念ずれば花開く」精神で、いかなる国難が有ろうとも日本は九条を国是として掲げ続けなければならない!!!(オメメぐるぐる…)

        2
    • ななし
    • 2022年 6月 29日

    20%くらいはアメリカが負担してもOKってこと!?
    えらく太っ腹だなアメリカ。

    ちゅーか、トチ狂ったロシアが挑んで来ても、どうせロシアに追従する国はいないし、大手振ってロシア侵食出来るチャンスだよなぁ。

    1
    • トブルク
    • 2022年 6月 29日

    例えば会社法だと、企業が他の企業の株を20%以上持っていると関連会社という位置付けになり、親会社がその会社に重要な影響を持つとみなされます。
    会社ではないですが、アメリカがヨーロッパで重要な影響力を保ちたい思うなら、相応の負担は必要です。20%は太っ腹というよりギリギリぐらいのラインなんでしょうね。

    4
    • 鳥刺
    • 2022年 6月 29日

    コミットメントの大小と、外交的・政策的な発言権は完全に対応関係なので、この提案は、アメリカは以後欧州の安全保障体制における選択の主導権を欧州側に委ねていいですって話になるんですが… そこまでアメリカが考えてるようには……

      •    
      • 2022年 6月 29日

      あくまで「即応」部隊であってこれだけで戦う訳じゃない
      米軍主体の主力部隊がくるまでの時間稼ぎだ

      アメリカ頼りってのは別に変わらない

      1
    • samo
    • 2022年 6月 30日

    指揮系統はどうなるんだろう?
    仮に8割の戦力を欧州が供出したとしたら、当然指揮も相応に権限を求めてくる

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
  2. 軍事的雑学

    サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相
  3. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
  4. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
  5. 米国関連

    米陸軍の2023年調達コスト、AMPVは1,080万ドル、MPFは1,250万ド…
PAGE TOP