米国関連

F-22が1時間飛行するのに幾ら必要? 米国が公表した軍用機の飛行コスト

米国防総省は2020会計年度における米軍保有の固定翼機と回転翼機の請求レートを更新した。

※本記事は2019年11月12日に公開した記事の再掲載です。

参考:Fixed Wing and Helicopter Reimbursement Rates

これは米軍の保有する航空機が1時間の飛行を行った場合のコストをまとめたもので、国防総省向けの請求レート、その他の連邦機関向けの請求レート、海外の国への請求レート、その他への請求レートの4つに分けられている。

この中の「海外の国への請求レート」とはFMS方式によって米国製航空機を購入した国に当該機を米空軍が空輸した時に発生する輸送コスト(購入国に請求する費用)を算出する根拠となる数字で、「その他への請求レート」は主に航空ショーなどに呼ばれた際に請求するコストの算出根拠となる数字だ。

以前、2019会計年度の請求レートを元に米軍が保有する航空機が1時間飛行するのにかかる費用をまとめたが、今回も2020会計年度の請求レートを元に情報を更新していく。

※下記の数字は1時間あたりの「飛行コスト」で良く似た「運用コスト(作戦に従事する実戦状態)」ではないので注意

戦闘機・攻撃機部門

これは国防総省向けの請求レートを元にした戦闘機の飛行コスト(1時間)を比較した表で、今年は2019年と2020年のコストが比較できるようにした。

空軍
航空機種名 2019 2020
F-15C 21,290ドル 22,489ドル
F-15D 21,109ドル 21,745ドル
F-15E 17,071ドル 17,408ドル
F-16C 8,374ドル 9,054ドル
F-16D 8,274ドル 9,017ドル
F-22A 36,455ドル 40,385ドル
F-35A 17,701ドル 16,952ドル
A-10C 6,118ドル 6,863ドル
海軍(海兵隊を含む)
航空機種名 2019 2020
F-16A 14,171ドル 15,778ドル
F-16B 12,537ドル 15,936ドル
F/A-18A 15,766ドル 退役
F/A-18B 22,387ドル 退役
F/A-18C 18,989ドル 18,056ドル
F/A-18D 16,385ドル 18,056ドル
F/A-18E 11,828ドル 12,850ドル
F/A-18F 12,475ドル 13,654ドル
F-35B 23,891ドル 16,904ドル
F-35C 22,978ドル 13,124ドル
AV-8B 13,152ドル 13,956ドル

数字を見る限り殆どの機種で飛行(1時間)に掛かるコストが上昇しているが、空軍のF-15C/Dは老朽化による整備コストの上昇が色濃く反映され特にコストの上昇幅が大きく、これをリフレッシュするため新たにF-15EXを導入する予定だが、2020会計年度予算が成立せずF-15C/Dの使用期間が長引けば整備コストの負担が予算を圧迫することになる。

出典:Pixabay F-22 ラプター

さらにF-22の飛行コストは約4,000ドルも上昇し4万ドルを突破している。これはF-22の生産数が少なすぎて部品の調達コストや整備費用が高騰している結果だろう。それに比べてF-35は飛行コストの削減に成功しており、特に海兵隊向けのF-35Bは約7,000ドル、海軍向けのF-35Cは約9,000ドルも飛行コストの大幅削減を達成しているのは数少ない明るいニュースだ。

大型機部門

これも戦闘機と同じく2019年と2020年のコストが比較できるようにした。

爆撃機
航空機種名 2019 2020
B-52H 32,176ドル 35,788ドル
B-1B 49,144ドル 42,305ドル
B-2A 59,452ドル 60,082ドル

爆撃機は機体が大きく、エンジンも沢山搭載しているため小型の戦闘機に比べ整備コストが掛かってしまうのは致し方ないのかもしれないが、ステルス爆撃機「B-2 スピリット」だけは別格で同機を1時間飛行させるためのコストは60,082ドル(約655万円)、10時間飛行させれば約6,550万円もコストが掛かるらしい。

出典:Pixabay B-2 スピリット

あとはB-1とF-22の飛行コストがほぼ同額で、どれだけF-22の運用コストが高価かよく分かる。

輸送機
航空機種名 2019 2020
C-130J 6,135ドル 7,030ドル
C-17A 15,352ドル 14,701ドル
C-5M 24,407ドル 27,257ドル
C-2A 11,308ドル 10,331ドル

C-2Aは、E-2艦上早期警戒機を改造した艦上輸送機だ。

出典:Pixabay C-17 グローブマスターIII

早期警戒機、電子作戦機など
航空機種名 2019 2020
E-3G 18,306ドル 18,872ドル
E-4B 68,899ドル 69,047ドル
E-8C 52,111ドル 47,446ドル
E-2C 12,749ドル 9,497ドル
E-2D 12,610ドル 11,355ドル
E-6B 20,147ドル 23,276ドル
EA-18G 10,861ドル 11,919ドル
EP-3E 6,180ドル 6,486ドル

やはりE-4BとE-8Cの飛行コストは去年同様、突き抜けている。E-4Bは対電磁パルスを施された特別仕様の国家空中作戦センターで大統領専用機「エアフォース・ワン」の軍用機版という位置づけで、E-8Cは早期警戒管制機の対地上版だ。

対潜哨戒機
航空機種名 2019 2020
P-3C 7,896ドル 8,754ドル
P-8A 8,774ドル 7,967ドル

徐々に数を減らすP-3Cの飛行コストは上昇し、数が揃い始めたP-8Aは逆に飛行コストが削減、妥当な結果。

空中給油機
航空機種名 2019 2020
KC-10A 16,078ドル 16,084ドル
KC-135T 13,463ドル 14,152ドル
KC-46A 7,224ドル 7,519ドル
KC-130J 8,277ドル 9,064ドル
KC-130T 7,183ドル 9,883ドル

偵察機・無人機部門

偵察機・無人機
航空機種名 2019 2020
MQ-1B 577ドル 359ドル
MQ-9A 557ドル 504ドル
RQ-4B 6,785ドル 4,716ドル
U-2S 11,927ドル 20,982ドル
RC-135W 31,549ドル 18,272ドル

2020会計年度の請求レートではF-35の飛行コスト削減が目立つ結果となったが、2019会計年度と比較すると全体的に飛行コストは上昇しており、特にF-22やB-2などのステルス機は飛行コストは非常に高価で現在もコストの上昇が続けている。

運用開始から20年が経過したB-2は、開発中のB-21によって更新される予定で退役時期が見えているが、F-22も飛行コストがこのまま上昇すれば機体寿命が尽きるよりも早く退役することになるのかもしれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:public domain

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 11月 12日

    F-14も末期は大変だったと聞いたがどうだったんだろ

    • 匿名
    • 2019年 11月 13日

    ステルス機は塗装がね

    1
    • F-15大好き
    • 2019年 11月 13日

    F-15より先にF-22がいなくなりそう。
    或いは、次世代機がF-22ベースになるかな。
    エンジン等の各部品をF-35と共用化出来れば良いが。

      • 匿名
      • 2020年 8月 29日

      F-35のエンジンは、F-22の物がベースだからね。

    • 匿名
    • 2019年 11月 13日

    単座型と複座型ではF/A18以外は複座型の方がお安いのは何ででしょう

      • 匿名
      • 2020年 8月 29日

      後座の代わりに積んでいる電子機器がお高いとか?
      基本、高等練習機兼予備機的な扱いだしね、複座戦闘機は
      逆に、F/A-18は単座では困難な任務をこなすバリバリの実戦機として運用されていますし

      • 匿名
      • 2020年 8月 29日

      搭載燃料の差じゃないか?
      複座機は燃料タンクを減らして、座席を設けてるはず、そしてエンジンを2発積む戦闘機は、エンジン単発の戦闘機に比べ運用コストが2倍+αだし(F15に対するF16とF22に対するF35という意味で)

      計算式が(満載の搭載燃料*最大航続距離+整備コスト等)/滞空時間で割ったのが上の数字なんじゃない?

      • 匿名
      • 2020年 8月 29日

      練習機として使われる機体は老朽化(機体のダメージ)が穏やかだから、とか?

    • 匿名
    • 2020年 8月 29日

    B737-800の運用コストが2時間で100万円程度のようだから
    リンク
    1$105円で計算して4,762$/hになるのか。
    P-8Aとのコスト差はどこで生じるんだろうか

      • 匿名
      • 2020年 8月 29日

      搭載してる対潜の電子機器でしょ?
      だって、旅客機ベースのE-3/4/6/8費用はもっとバカ高

    • 匿名
    • 2020年 8月 29日

    整備時間が考慮されて無い部品代だけの試算だから整備士の拘束時間まで入れると違ったみえ方になると思う。

    昔であやふやだがアメリカ軍の報告書だとF15系列はエンジン交換に一日係りだけどF18系列は着艦からエンジン交換して点検から出撃まで4時間で出来るからコストパホーマンスが高いとか比べてた。

    • 匿名
    • 2020年 8月 29日

    P-3CとP-8の運用コスト逆転は面白いな。考えさせられるものがある。
    あと同じエンジンを使用するなら双発機の運用コストは単発機の約2倍と考えてよいのか。

      • oominoomi
      • 2020年 8月 29日

      となると、P-2の運用コストが気になるところ…

    • 匿名
    • 2020年 8月 29日

    F-16A・F-16Bがまだいる!?
    F-16Bは訓練用と考えればまだわからなくもないが、F-16Aは何で?F-16Bのパーツを維持させる為なのか?

      • 匿名
      • 2020年 8月 29日

      海軍やからトップガン用じゃないの?

      • 匿名
      • 2020年 8月 29日

      NAWDC、アグレッサー部隊所属と思われます。

      リンク

    • 匿名
    • 2020年 8月 29日

    B-1を近接支援に使ったのはコスパ悪すぎだったな

      • 匿名
      • 2020年 8月 29日

      まさに。
      そして近接航空支援としてはオーバーキル…。

        • 匿名
        • 2020年 8月 29日

        設計外の使い方をすれば寿命が短くなるのは残念でもなく当然。

    • 匿名
    • 2020年 8月 29日

    U-2のコストが意外に安価なのが驚きましたが急に2倍になっていますね。
    老朽化が原因でしょうか。

    • 匿名
    • 2020年 8月 29日

    自衛隊は運用に費用が掛かるのを嫌うんだよね、アメリカ製のF-35は仕方ないとしてF-3は飛行ごとの塗装し直しは無いような設計をすると思う。

      • 匿名
      • 2020年 8月 29日

      F-35同様に素材とシールでないかなぁ>F-3

        • 匿名
        • 2020年 8月 29日

        F-22の轍は踏まないでしょうね、もし同じことをやったら呆れますよ。
        ということで、上の方でF-22はF-15より早く退役するんじゃないかという意見には同意です。
        いっぱいいろんな期待を背負うことになるF-3は後々さまざまな批判の対象になるのだろうなあ…。
        後出しで何故ああしたこうしたと。

    • 匿名
    • 2020年 8月 29日

    無人機の飛行コストが驚くほど低いね。
    確かにどこの軍隊もこぞって導入したがるのもわかる。

    1
      • 匿名
      • 2020年 8月 29日

      そうですね。そりゃB-2の退役急ぐ訳ですよ、納得。

      1
    • 匿名
    • 2020年 8月 29日

    こういうデータを見ると、スクランブルって本当に金かかるんだな。
    そろそろ日本はロシアと中国に費用請求したほうがいいと思う。

    1
      • 匿名
      • 2020年 8月 29日

      むしろスクランブルさせまくってエンジンの消耗を加速させ運用費用を圧迫してやるのがよいと思いますね。

    • 匿名
    • 2020年 8月 29日

    いい記事だな
    リストを眺めるだけでおもしろい
    自衛隊機の物も見てえな

    1
    • 匿名
    • 2020年 8月 29日

    機体揃えてても飛ばせる予算が無いのならばガラクタ同然
    そういう国もあるんでないの?張り子の虎

      • 匿名
      • 2020年 8月 30日

      オーストリアのタイフーンとか、機体は有っても飛ばす予算が無い、金が無いからパイロットも武装も無いという、まさに張り子の虎状態ですけどね

    • 匿名
    • 2020年 9月 09日

    c-2AがE-2Cより高いのは飛行時間の関係かな?

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