米国関連

米空軍の次期戦闘機開発がEMD機開発段階に到達 IOC宣言は数年後

米空軍のケンドール長官は1日、次期戦闘機(Next-Generation Air Dominance/NGAD)開発プログラムが「EMD試験機の開発・製造段階に入った」と明かし注目を集めている。

参考:The Air Force’s next-gen fighter has moved into a critical new phase

とにかくNGADと他の戦闘機を比較して「高価過ぎるので失敗だ」と現時点で批判するのは早計だろう

米空軍は2030年までに第5世代戦闘機「F-22」の技術的優勢性が失われ交戦空域での生存が困難になると予測しており、後継機となる次期戦闘機(NGAD)開発プログラムを進めているが、NGADは単一プラットフォームの有人戦闘機を指すのではなく有人機、複数種類の無人機、ミサイル、装備品、ネットワーク技術などで構成されたファミリーシステムの総称だが、分かりにくいので便宜上「NGAD=ファミリーシステムに含まれる有人機」という体で話を進めていく。

出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Mary Begy

米空軍がNGADの開発予算を正式に計上したのは2018年だが、ヘリテージ財団が主催するシンポジウムに出席したケンドール長官は「2015年にNGADの研究が始まった、Xプレーンプログラムを活用してNGADに必要な技術要素の研究を行っていた」と明かしおり、米空軍は7年間もNGADの研究開発に取り組んでいた計算だ。

さらに有人機を含むNGADプログラム全体のIOC(初期作戦能力の獲得)についてケンドール長官は「EMDフェーズに入ったばかりなのでプログラムがIOC到達するまで数年(通常なら7年かかるとも発言)はかかるだろう、だいたい10年後には能力を発揮しているはずだ」と述べており、恐らく2032年前後にNGADプログラム全体がFOC(完全作戦能力の獲得)に到達すると言いたいのかもしれない。

出典:ロッキード・マーティン NGAD

因みにケンドール長官はNGADの調達コストについて「1機あたり数億ドルの費用がかかる」と述べて注目を集めたが、NGADはF-22を1対1で交換することを想定したシステムではないので既存の戦闘機が1機幾らだからNGADは高価だという指摘が当てはまるのかすら謎だ。

つまりNGADは高価だからF-22と1対1で交換できないのではなく、1機のNGADに対して複数の無人機が随伴(米空軍曰くF-35Aは5機の無人機を同時制御できるようになると述べているのでNGADはそれ以上の数を同時制御する可能性がある)するため「NGAD編隊はF-22数機分の能力を発揮できる=1対1で交換する必要がない」という意味で、パイロットの養成コストや危険に晒されるリスクまで含めるとNGADの調達コストが高すぎるのか妥当なのかは一概に判断できないところがある。

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Anna Nolte

特にNGADは既存の戦闘機が備えていたレーダーによる状況認識、電子妨害による生存性の向上、目標に向けたミサイルの発射といった機能を複数の無人機に分散させることを示唆、パイロットが搭乗するNGADにはAESAレーダーすら搭載しないかもしれない=パッシブタイプのセンサーしか搭載しないという指摘もあり、戦闘機のライフサイクルコストに占める「開発・調達」と「運用・維持」の割合を逆転させるという部分も加味すれば「ある程度出来上がってみないと分からない」というのが正直なところだ。

とにかくNGADと他の戦闘機を比較して「高価過ぎるので失敗だ」と現時点で批判するのは早計で、各国が進めている第5世代戦闘機の延長上にある次期戦闘機計画とNGADではスペックがどうこうというより概念(例えばアップグレードを行うのではなく8年毎に新しい戦闘機を開発、16年毎に新しい戦闘機と交換していくサイクルなど)が異なるため比較がとても難しい。

関連記事:米空軍の次世代戦闘機に関する予測、AESAレーダーを搭載しない可能性も
関連記事:米空軍長官、次期戦闘機の調達コストについて「数億ドル」だと発言

 

アイキャッチ画像の出典:Northrop Grumman NGAD

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コメント

    • や、やめろー
    • 2022年 6月 02日

    やっぱ米軍は早いな。記事とは関係ないけど米軍の潜水艦、戦車、アーレイバーク級、タイゴンテロガ級、ここらへんの後継が気になるな。

    11
    • 折口
    • 2022年 6月 02日

    つまり機体の大まかなデザインや規模や何かはもう決まってるということなんですかね

    8
      • NHG
      • 2022年 6月 02日

      もう試験飛行してるらしい

      航空万能論GF 2021.03.5 「中国よりも先に第6世代戦闘機を手にれたい米空軍、議会に資金供給を訴える」よりコピペ

      >昨年9月、米空軍でロジスティックスを担当していたウィル・ローパー次官補(現在は退任)が次世代戦闘機のプロトタイプを秘密裏に設計・製造して既に試験飛行を行っていると明らかにして「米空軍は従来とは異なる手法で次世代戦闘機を製造する準備が完了している」と語り注目を集めた

      8
        • 折口
        • 2022年 6月 02日

        なるほど、技術試験機に相当するものは既にあって、だからこそのEMDという訳ですね。さすが戦闘機開発となるとフットワークが軽い…

        2
        • 俺が正義だ!
        • 2022年 6月 03日

        欺瞞のために、毎度お馴染みのUFO騒動やってますもんね

        1
      • ネコ歩き
      • 2022年 6月 02日

      そういうことですね。
      EMD(Engineering and Manufacturing Development)フェーズ前のTMRR(Technology Maturity and Risk Reduction)フェーズ段階では次の作業が含まれます。
      ・システムまたはサブシステムレベルでのプロトタイプの製造
      ・予備的なシステム設計
      ・トレードオフ分析

      EMDフェーズ段階では次の作業が含まれます。
      ・必要なすべてのハードウェアとソフトウェアの詳細設計を完了
      ・試作機の製造、納入
      ・国防総省テスト機関による、運用の有効性、適合性、生存性、等々の初期評価

      極めてざっくりとですがこんな感じです。
      TMRRフェーズ段階で基本設計は出来上がっていることになるのかと。
      欠陥の早期特定と修正、リスク・コスト管理等は様々なレベルで行われ、IOC(初期作戦能力獲得)到達をもってEMDフェーズ終了となります。

      6
    • hoge
    • 2022年 6月 02日

    根本的に異なる概念で開発されている新世代機なので、単純な比較は難しそうですね。
    F-35,はどうするのかも気になるところです。
    (まさかとは思いますが、上手く行ったらさっさと打ち切り!?)

      • 名無し三等兵
      • 2022年 6月 02日

      F-22は早期退役、F-15EXは調達数削減、問題が多いF-35のリエンジンは
      NGAD用の新エンジンでは無く改修型で済まそうかとか言い出してるのは
      全てはデジタルセンチュリーで生み出す新世代機へ予算回したい為です。
      猛追して来る中国に対して、既存概念のレガシー機では質的優位を保てない
      って考えでしょうけど、こと頭に「先進」と付く次世代兵器開発は巨額な
      開発費を投じて失敗させた実績が多々ありますから、果たして上手く行く
      んでしょうかね。

      13
      • バーナーキング
      • 2022年 6月 02日

      さすがにF-35は本国で運用やめてもパートナー国や輸入国のためにF-5みたいに生産・サポート体制は維持すると思いますが、運用コストの高騰くらいはありそうな話ですね。

      • ネコ歩き
      • 2022年 6月 03日

      対中国台湾防衛という局面では、戦術的環境面でF-22、F-35では非常に不利な戦闘を強いられるが、中露の5G戦闘機等に対抗できないという意味ではない、という解釈で良いのかと。
      F-35については、それ以外の状況で当分は主力として活躍できるので改良を続ける。
      F-22については、コスト面からNGADシステムに更新するのが合理的。NGADなら対中国台湾防衛戦で十分な働きを期待できる。
      てなことなんだろうと思います。

      3
    • 白髪鬼
    • 2022年 6月 02日

    自身の探知能力の拡張という、古い概念を土台とする部分がF-3と最も異なる部分でしょうか。
    戦場認識範囲の広さと細やかさが、自身の生存性に大きく寄与する事は、ウクライナにおける陸戦でも明らかになっています。開発の進捗状況から、米空軍はそれを確信していた事は明らかですね。まぁ時々大外しするのがご愛嬌ですけど。

    F-3も当初コンセプトにしがみつかず、戦場認識の手法に関してはウクライナの戦訓を取り込んだ見直しを進めてほしいものです。自衛隊のUSVへの取り組みを見ると、その柔軟性が最大の課題なんですけど。

    随伴無人機は多少高価になっても、AESAレーダーを全機搭載して捜索・攻撃用のビームを発信できる様にし、複数の機体のからランダムに発信して全機で受信するなどの方法で、被探知リスクを下げつつステルス機を含む敵を効率的に捕捉できるのでがないか。

    特に、低中高度、高高度の滞空UAV 、低軌道の小型センサー衛星、高軌道の大型の監視衛星、艦艇、各種の偵察機、電子戦機の情報のネットワーク化による拡張された認識範囲を、航空機、艦船、各種陸戦兵器、歩兵それぞれが認識すべき適切な範囲と粒度で共有できる基盤の整備が最優先ではないでしょうか。

    7
      •  
      • 2022年 6月 02日

      言うのは簡単ですが、現実的にそんなものを開発するのは不可能でしょう
      はっきり言って僕が総理大臣になったらくらいの妄想に聞こえてしまうレベルで夢物語です

      10
        • 白髪鬼
        • 2022年 6月 03日

        技術的には、然程難しい話では有りません。そもそも基盤の整備と言っているわけで、現在のクラウド技術の延長線上にあるものです。

        基盤に関して言えば、通信の機密性やデータの完全性の維持の敷居が通常のインターネット通信より数層倍高くなる点が異なるぐらいです。そもそもインターネットがメッシュ型のネットワーク技術なので、冗長性については枯れた技術になります。

        課題になるのは、欺瞞情報の混入や、やステルス機などの検出時に起きる、センサーノード間の情報の不整合を判断するアルゴリズムと、それを補完するAIの開発でしょうか。AI技術は、日本が立ち遅れている分野のひとつで、リソースの投入が必要でしょうね。

        収集した情報の評価と、優先順位の割り振り、対抗手段の選択は既存技術の延長線上にあるもので、それ自体の難易度は然程高くない筈ですが、対象を陸海空のすべての兵器、兵士に適切に提供するという部分で、既存兵器あるいは戦場認識システムとのインターフェイス開発には時間がかかるでしょうね。

        一見無理筋に見えるのかもしれませんが、全体のアーキテクチャ要件、個別サブシステムの要件、各エンドポイントの要件を明らかにしていく事で、開発のロードマップ、ブレークスルーが必要なキーテクノロジーなどが明らかになります。

        SPY-7をイージスシステムに統合すると莫大な開発費用を負担させられる、と騒いでいた方々がいた様に記憶しています。しかし現実には、あっさりとインテグレーションは完了したわけです。
        それはイージスシステムの本質が、センサーから得られた情報を評価して脅威度の高い目標を選択して、攻撃に必要なパラメータを提供する事なのであって、イージスシステムから見たセンサーは、適切な形式で情報を提供するだけの存在(インプットデバイス)にすぎず、且つそれはアーキテクチャが既に標準化されていた、と言うことです。

        3
      • わかやま
      • 2022年 6月 02日

      口だけならなんとでも理想論言えますけどね。

      そう言う類のシステム構築を設計出来る日本人は極めて少なく、自衛隊には一人もいないと言っても過言ではないのではないでしょうか。

      恐らくインテグレーション能力を高める高等教育を施す事から始める必要があるレベルだと思いますので自衛隊でどうにかなる話ではない。

      米軍にベッタリなのは自身を正確に見極めれば正しい選択と言えるのでは無いでしょうか。

      4
      • 原点にして頂点
      • 2022年 6月 02日

      既に日本の自衛隊では実行中ですね。

      F-3や随伴無人機のレーダーにはエレメントレベルDBFという革新的な新技術が採用されますが、これによってレーダとESMの同時作動や将来的な戦闘機間でのマルチスタティック探知が期待できます。また妨害環境を学習して妨害波到来方向に意図的に受信ビームのヌルを形成するなどECCM性の向上や、群目標に対し別個に走査せず広い送信ビームを送り受信ビームを細くして同時多数探知を行うなど様々な利点が考えられます。

      >特に、低中高度、高高度の滞空UAV 、低軌道の小型センサー衛星、高軌道の大型の監視衛星、艦艇、各種の偵察機、電子戦機の情報のネットワーク化による拡張された認識範囲を、航空機、艦船、各種陸戦兵器、歩兵それぞれが認識すべき適切な範囲と粒度で共有できる基盤の整備が最優先ではないでしょうか。

      日本の自衛隊ではすでにC4Iシステムなどの一体化が進行中です。

      7
        • 匿名
        • 2022年 6月 03日

        >意図的に受信ビームのヌルを形成

        それをパッシブにやっているのは、λ/4に厚さの電気長を調整したタイプのRAMだと認識しています。

        金属に貼り付ける、または裏面に金属箔を接着して意図して反射させ、入射波の逆相となる反射波をぶつけるタイプです。
        波長に合わせ込んでいるだけに、帯域は必然的に狭くなるけど、条件が揃えば効果は確実なやつですね。
        原理的に到来角による効果の変動も大きくなるけど、そこはRAMなら大なり小なりある筈なので、あとは用途との兼ね合い。

        それでもこの手のRAMでも、うろ覚えですが効果は20dBとか30dBといったオーダーだったような。

        • 匿名
        • 2022年 6月 03日

        >群目標に対し別個に走査せず広い送信ビームを送り受信ビームを細くして同時多数探知を行うなど様々な利点が考えられます。

        これ、RCSがある程度大きい目標限定での行為ですね。
        広い送信ビームを形成ということは、送信のアンテナゲインを低下させる事と等価なので。
        大雑把にいうと、送信ビームの断面積を100倍にした場合、送信のアンテナゲインを約1/100低下させることになると。

      • ネコ歩き
      • 2022年 6月 02日

      最優先で早期実現ができれば良いんですが、
      「研究開発ビジョン~多次元統合防衛力の実現とその先へ」ロードマップによれば、掲載技術全てが実用レベルに達するのはおよそ20年後の見積りですね。
      無人機搭載型警戒監視システムや衛星搭載型警戒監視システム他、2030年代前半中の実用化を見積もっている装備もありますが。

      1
      • 名無し
      • 2022年 6月 02日

      クラウドシューティングってまさにそういう話だとと思うが

      高性能レーダーの類いを「降ろせる」のは先進的としても降ろすこと自体が特に先進的とは思わない

      8
    • samo
    • 2022年 6月 02日

    今までの飛行隊の編成の仕方にも影響を与えそう
    下手すりゃ、飛行隊って言葉がなくなるかもしれない

    • KAMA
    • 2022年 6月 03日

    F-22の時と同じく輸出はしなさそうな気がしますが・・・

    2
      • 俺が正義だ!
      • 2022年 6月 03日

      機密すぎてイスラエル、イギリスにすら無理なのでは?

      1
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