米国関連

防衛産業の偽部品問題、誰がサプライチェーンの監視コストを負担するのか?

日本でも防衛産業を支えるサプライヤー撤退が続き問題化して対策に乗り出しているが、米国では「サプライチェーンの管理や監視は誰に責任にがあるのか?」と議論になり、プライム企業は「そこまで要求するなら追加の金を払え」と主張している。

参考:Fake parts: A Pentagon supply chain problem hiding in plain sight

日本も無関係ではない偽部品問題やサプライチェーンの管理・監視問題、誰が責任をもって掛かるコストは誰が負担するのか?

日本でも防衛産業を支えるサプライヤー撤退が続き問題化して防衛省が対策に乗り出しているが、安全保障に直結する同問題の根深さは「撤退するサプライヤーから製造を引き継ぐ受け皿を用意する」という単純な話ではなく、COVID-19やインフレの問題に直面して防衛産業の基盤を支えるサプライチェーンにスポットライトがあたった米国でも「我々が理解していたよりもっと複雑な問題が潜んでいる」と警告しており、最終的に複雑化する装備製造のサプライヤーを「誰が管理するのか」という問題に発展している。

出典:U.S. Air National Guard photo by Staff Sgt. Mercedee Wilds

例えば約30万点に及ぶF-35の構成部品は1,700以上のサプライヤーに依存、米空軍全体で見れば約12,000以上の一次サプライヤーに依存しており、この下には100万以上の二次、三次、四次、五次、六次、七次、八次といった巨大なサプライチェーンが広がっていて、米空軍で買収担当するハンター次官はCOVID-19の混乱がもたらした教訓について「この巨大なサプライチェーンについて我々は思っていた以上に理解していなかった」と言及。

さらに国防総省も「防衛産業のサプライチェーンに偽部品の混入リスクが飛躍に高まっている。我々を支えるサプライヤーもCOVID-19の影響で必要な半導体を確保するのが難しく、困難に直面したサプライヤーから不当な利益を得ようとするものに加え、敵対者がバックドアを仕込んだクローン部品を調達市場に流している可能性がある」と懸念しており、このような偽部品の精巧さは年々向上して本物と見分けがつかなくなっているらしい。

出典:Lockheed Martin 組み立て中のF35のコックピットで作業する作業員

国防総省は重要なシステムに限り「十五次サプライヤー」まで遡り追跡することもあるが、これ非常に稀なケースで基本的には二次サプライヤー(F-35で言えばロッキード・マーティンが主契約者で、レーダーをLMに納品するレイセオンが二次サプライヤーに相当、APG-81を組み立てるのに必要な各コンポーネントを納品するのが三次サプライヤーという具合に広がっていく)までしか追跡しておらず、全てのサプライヤーが「国防総省の定めた買収ルールを守ってくれるだろう」という信頼を頼りに100万以上のサプライヤーを放置しているという意味だ。

つまり巨大なサプライチェーンに偽部品が混入するリスクを誰も管理しておらず、国防総省は「プライム企業が開発した製品に責任をもつならサプライチェーンに気を配るのは当然だと考えていたが、答えはそうではないらしい」と述べている。

出典:Lockheed Martin 組み立て中のF35で作業する作業員

この問題についてプライム企業と協議した国防総省は「支払っている金の中に三次サプライヤー以降の品質保証も含まれている」と責任を押し付けようしたのだが、そもそも「三次サプライヤー以降の管理や監視にかかるコスト」をまともに計算したことがないため「支払っている金の中に含まれている」と言われても説得力がなく、プライム企業は「我々にそのようなことまで期待するなら追加の金を払ってくれ」と要求しており、まだ具体的な解決策を見つけられないでいるらしい。

因みに偽部品の影響は既に事故という形で表面化しており、2020年6月にF-16の射出座席が正常に作動せずパイロットが死亡した件を調査した米空軍は「最大10ヶ個の偽部品(トランジスタ、メモリチップ、加速度センサチップが使用された形跡を確認)が使用されていた可能性がある」と発表、さらに中国企業のサプライヤーが製造した半導体チップは国防総省のサーバー、CIAのドローン、海軍の船内ネットワークで沢山見つかっているのでサプライヤーが「国防総省の定めた買収ルールを守ってくれるだろう」という信頼が当てにならないのは明白である。

出典:財務省 令和3年11月15 財政制度分科会への提出資料

日本では「撤退するサプライヤーから製造を引き継ぐ受け皿の用意」にしかスポットライトが当たっていないが、国産航空機ですら構成部品の40%~60%(令和3年11月15 財政制度分科会への提出資料)を輸入に頼っているので、これから開発する次期戦闘機も主要コンポーネントが国産でも「何十万点もの部品」を全て国内調達で賄うのは難しく「偽部品の混入」に悩まされる可能性があると考えるのが妥当で、装備調達に含まれる「目に見えないコスト」は今後上昇するのかもしれない。

関連記事:日英伊が次世代戦闘機の新たな枠組、グローバル・コンバット・エアー・プログラムを発表
関連記事:日本、防衛装備品の価格をチェックする部署があれば調達費用の高騰は防げたのか?

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Dwane R. Young

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コメント

    • ブルーピーコック
    • 2022年 12月 19日

    メーデーでもあったなあ。偽造部品の問題。値下げ圧力に対する企業努力も限界があるので金出せは正論に聞こえるが、どうしたって企業倫理とか法令遵守とか作業員のモラルの話になってくる。

    20
      • 通りすがり
      • 2022年 12月 19日

      プライム企業が「金を出せ」って言ってのは「サプライヤーを監視するコストを国防総省が負担しろ」って意味じゃないの?

      6
        • ブルーピーコック
        • 2022年 12月 19日

        そういう意味で書きましたが。

        11
    • 匿名
    • 2022年 12月 19日

    「グローバル化」というありがたいお題目の下、営利最優先で生産現場を人件費の低い海外へアウトソーシングしまくった結果だからね、仕方がないね…

    23
      • TKT
      • 2022年 12月 19日

      こうならないように作られたのがいわゆる
      「トヨタ方式」
      ですが、それができずに衰退したのがまさにGM、フォード、クライスラーのビッグスリーです。テスラのイーロン・マスクのやり方も過去にNUUMIで失敗したGMのやり方を踏襲しています。

      カルロス・ゴーンが来る前と来た後の日産自動車を比較すると非常にわかりやすいですが、部品供給、サプライチェーン確保のために、系列の部品会社の株を日産が買って持っていたのを、カルロス・ゴーンは系列子会社はコストだ、コスパ低い、リストラ、収益向上とためと称して、みんな売っ払ってしまったのです。それを当時の日本のメディアは、合理的で進んでいると称賛していたのです。

      プジョー、シトロエン、クライスラー、フィアット、さらにフェラーリやアルファロメオ、ランチアなどは、合併に合併を重ねた末にとうとう一つの自動車会社になってしまいました。

      三菱のF-2なども、アメリカとの共同開発であったがゆえに、津波で水没したのがたくさんあっても、自国の判断で増産などはできないのです。

      しかしまた日本が武器を国産化しようとすると、政府と国内企業の癒着だ、談合だ、と批判され、海外から買った方が安い、兵器の国産は税金の無駄遣いだ、などと批判する人も多いのです。

      28
        • 名無し
        • 2022年 12月 19日

        F2に関しては、単にライン維持のコストが
        損失回復分の生産程度ではカバーしきれないという経済的理由ですよ

        4
          • 匿名希望係
          • 2022年 12月 19日

          あとはアメリカの製造ラインがふくまくれていたので日本側判断で製造できなかったもあるな

          15
    • 黒丸
    • 2022年 12月 19日

    西側民主主義各国合同で、
    その中で閉じたサプライチェーン作るしかないような。
    いわゆる系列取引は、こういうリスクに比較的強いはずだが
    市場の小さい軍需産業でどこまで構築できるのだろうか?

    15
      • 774rr
      • 2022年 12月 19日

      理想だね
      製造や流通を責任持てる会社のみで占められれば偽造品に泣かずに済む

      もっとも中国様の代わりにICチップやら何やらを全部自前で揃えようとすると
      どれだけのコストが掛かるようになるかは謎やけど。。。
      戦闘機の単価が倍になっても驚かないレベルになるんじゃないかなぁ(想像

      21
    • 名無し2
    • 2022年 12月 19日

    >中国企業のサプライヤーが製造した半導体チップは国防総省のサーバー、CIAのドローン、海軍の船内ネットワークで沢山見つかっている
    アメリカはそれらのニセ部品をコストさえかければ信頼ある国産で代替可能だが、中露は西側製の部品が無ければまともに動かせないのだから相対的には大きく勝っている。完璧を求めればきりがない。細かいことにこだわりすぎれば部品が入手できず稼働率0%など悲惨なことになるだろう。

    1
    • STIH
    • 2022年 12月 19日

    逆に言えば、今回のような問題を全く考慮する必要がない、その気になれば全て国内調達ができる、圧倒的な工業基盤を持つ中国という国が如何に強力な国であるかというのがよくわかります。
    多少米国製と性能差があった所で、それを上回る物量をぶつけらればそれで良いわけで、核兵器を除いたらアメリカより強力なんじゃないんでしょうか。

    7
      • TKT
      • 2022年 12月 19日

      そんなことは、すでに朝鮮戦争のころから言われていることで、なんなら日中戦争のころから言われてた話です。

      実際、アメリカ軍は38度線で中国人民志願軍の陣地を突破できなかったからこそ、今も朝鮮戦争は休戦状態なのであり、アメリカから武器の支援を受けていた蒋介石の国民党軍も、台湾に逃げる他なかったのです。

      もっとも朝鮮戦争での中国人民志願軍は、ソ連からの支援も受けていました。ベトナム戦争の北ベトナム軍もそうです。

      今の中国の工業基盤というのは、日本の政府開発援助で整備された部分も多く、自動車企業は日本との合弁が多く、中国製の自動車の大半は昔の三菱の自動車エンジンを搭載していると言われます。

      1
      • 台湾大好き
      • 2022年 12月 19日

      それはないなぁ。
      自国内調達できる割合は高いとは推測できるけど、「全て国内調達できる」わけもなし。それって言い換えれば世界規模の経済交流から独立できる?って話ですよ。

      また以前に西側部品の基幹部品に占める割合が高いと問題になっていました(ソース失念)。自国内の偽部品問題あったはず。
      突き詰めたら西側が抑えている半導体製造装置に関わる素材や、特殊工具とかもあるわけですしね。

      12
        • STIH
        • 2022年 12月 20日

        それはそうなんでしょうけど今回の記事みたいに、西側には基本的な材料・部品類の生産力が十分にないのです。
        建造中のジェラルド・R・フォード級の2番艦から電装部品類を引っ剥がして1番艦の改修に使った、という話はここでも記事になってましたが、これだって寒波とコロナが原因だったといえ実際に艦船の生産に影響が出ています。また今回のウ露戦争を見てても、継戦に置いては最先端の半導体よりもコモディティをどれだけ生産できるかが依然として重要なわけです。
        それに中国は、たしかに半導体製造装置に関わる素材や特殊工具の技術は劣っているかもしれないですけど、そこそこの性能の物はすでに自前で作れます。なので今は、中国を西側からパージして技術力の発展を遅延させつつ技術力で突き放すのと、中国自身がパージに対抗して技術力を進歩させるののどっちが早いかという競争状態何じゃないかと思います。

        4
    • 折口
    • 2022年 12月 19日

    垂直統合モデルの時代再びなんですかね。戦後から冷戦期と今では国際物流の規模もインフラ整備具合も違うので、今更かつての閉じた経済圏の時代に戻れるかというと疑問ですが、少なくともその能力が求められている分野があるという事ではあるんですね…

    2
    • 58式素人
    • 2022年 12月 19日

    これはICチップのことですよね。
    機械部品なら、受入時に抜取り検査をできるでしょうし。
    素人は門外漢ですが。
    汎用品を使うのか、特注品を使うのかわかりませんが、
    受入検査時に仮接続をして、ブラックボックスの中を調べるように、
    入力/出力の関係をチェックするしかないのでしょうか。
    全数できれば良いのですが。
    或いは、信頼の確認できるメーカーを囲い込むしかないのでは。

    • tx
    • 2022年 12月 19日

    兵器の高度化によるサプライチェーンの複雑化こそが東西を再び分断する決定要因であり必然だったのかも
    日本政府は米国の意向次第で動くせいかなにもかも数テンポ遅れてる感じ

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