米国のスペンサー海軍長官は、空母「ジェラルド・R・フォード」を建造したハンティントン・インガルス・インダストリーズ社に対し「怒り」を爆発させた。
参考:SecNav Again Blasts Huntington Ingalls On Ford Carriers
無償では何も手に入らないが、費用を掛けても品質が向上するとは限らない
空母「ジェラルド・R・フォード」は就役後まもなく動力部に問題が発生、これを解決するためニューポートニューズ造船所に戻り「約15ヶ月間」に及ぶメンテナンスを受けた後、シェイクダウン・クルーズ(海上試験)を無事パスしノーフォーク海軍基地へ帰投したが、このニュースはスペンサー海軍長官にとって「朗報」ではなく「怒り」を呼び起こす着火剤でしかなかった。
そもそも、空母「ジェラルド・R・フォード」の動力部問題はインダストリーズ社の責任であり、この問題を修正するため海軍は1年以上、空母「ジェラルド・R・フォード」の戦力化作業が中断されることになった。
当初、7月には全てのメンテナンスが終了する予定だったが、期間内に電磁力で作動する「先進型兵器エレベーター(弾薬運搬用)」の不具合修正が間に合わず、インダストリーズ社はシェイクダウン・クルーズを3ヶ月遅らせるよう海軍に報告したが、先月実施されたシェイクダウン・クルーズまでに、インダストリーズ社は約束の「先進型兵器エレベーター」を修理することが出来ず、全てのエレベーターが正常に作動するようになるのは2020年以降だと明らかにした。
空母「ジェラルド・R・フォード」の建造費は当初51億ドルだったが、今回のメンテナンスで更に2億ドルの追加費用が発生し、これまで総額132億ドルもの費用を海軍は支出したことになるが、今後、追加で行われる先進型兵器エレベーターの修理や、再開される電磁式航空機発射システムや新型着艦制動装置の海上試験が行われれば、建造費用はこれからも増え続けることになる。
一体、どれだけの建造費用を負担すれば、空母「ジェラルド・R・フォード」が正常に作動し戦力化するのか誰にも分かっていないため、米議会は海にいるよりも港やドックで過ごす時間の方が長い空母「ジェラルド・R・フォード」のことを「原子力停泊艦」と呼び海軍を非難した。
スペンサー海軍長官は、インダストリーズ社に対し「海軍の同社に対する信頼は地に落ちた」と語り先進型兵器エレベーターの修理スケジュール遅延を批判しながら、議会に対しては「無償では何も手に入らないが、かと言って費用を掛けても品質が向上するとは限らない」と語り、コスト管理についての考え方を変えなければならないと主張した。
これはインダストリーズ社が建造費を抑えるため、新たに採用した「先進型兵器エレベーター」の陸上テストを省略し、一発勝負で空母「ジェラルド・R・フォード」に設置したが、この方法は結果から言うと建造費の削減ではなく増加に繋がり、戦力化遅延はさらなる建造費上昇の要因へと繋がっている。
これは、コスト管理という名の元に「適切な費用」まで削減すれば、結局削減した以上の「追加費用」が発生すると言う真逆の結果になり、コスト管理の方法をもう一度考え必要があるという意味だ。
トランプ大統領も、空母「ジェラルド・R・フォード」が採用した電磁式カタパルトなどの新型航空支援装置について、9億ドル(約980億円)のコストを投じているにも関わらず、このシステムが、あらゆる環境下で確実に動作するのか誰も知らないと批判し、次から次へと新しい物が登場し、誰もがイノベーションを望んでいるが、これは(空母「ジェラルド・R・フォード」)やり過ぎだと、海軍の無謀さを繰り返し批判してきた。
コンピュターシミュレーションによる開発工程の省略は成熟不足か?
これは米空軍が立ち上げた「デジタル・センチュリーシリーズ」にも同じことが言える。
米空軍は第6世代戦闘機について、長期間の開発の末、万能な戦闘機を1つ開発するのではなく、過去のセンチュリーシリーズ(F-100番台の戦闘機群の総称)のように、技術的にもコンセプト的にも「特徴」を持った数種類の戦闘機を5年程度のサイクルで次々と実用化し、対応する側の能力を飽和させることを目標にした「デジタル・センチュリーシリーズ」構想を立ち上げた。
しかし、この計画もジェラルド・R・フォード級空母のようにコンピュターでのシミュレーション結果を頼りに、モックアップや試験機の製造過程を限りなく省略することで開発費と開発期間の短縮=戦闘機開発の工程に革命的なブレイクスルーを起こすことが前提の計画であり、海軍と同じ目に合う可能性がある。
結局、コスト削減の切り札として、米軍が大々的に取り入れようとしている「コンピュターシミュレーションによる開発工程の省略」は可能性に満ちてはいるが、現時点で「イノベーション」を起こせるほど成熟していなかったというのが妥当な評価だろう。
※アイキャッチ画像の出典:public domain
海軍がコンピューターシミュレーション上で「設計・開発」し、それを外部事業者が形にするという恰好なんでしょうか?
記事からは、外部事業者にその建造能力があるかどうか判然としないまま発注が行われているように思えますが。
しかも、追加的に発生した回収費用まで発注者持ちというのはちょっと不可解というか。
入札ではなく随意契約というものなのですかね。
要は、全部コンピュータ・シミュレーションで設計をやろうとしたのか。
それじゃあ、駄目に決まっているね。
極端な例を挙げると、自動車レースのF1の空力設計は博打と同じ一面があって、どんなに細心の注意を払って設計しても、実際に走らせてみると、必ず何らかの問題が生じて、速く走れない事がよく起こる。
だから、F1マシンの空力開発ではオフシーズン中の試験走行とシーズン中の改良が必須なのだけど、こう言うリアルワールドでの開発作業は、絶対に省略してはならないと思う。
もう、ニミッツ級でいいんじゃないか?
コンピュータシミュレーションを基にした設計は自動車では普及してますが、これができるのもリアルでの実測値とシミュレーション値の20年間のすり合わせがあって実現できたことです。
新型の軍用機や軍艦はそう簡単に建造できないので、実測値とシミュレーション値のすり合わせが十分に行えているとは思えず、これから数十年のデータ蓄積ができて初めて実現するものでしょう。
Xナンバーのような試験機をバリバリ飛ばして情報蓄積していくしかないですね。
前にホリエモンが寿司職人バカにしてたけどああいうタイプの人間が企業の首脳部掌握するとこうなるわけだ
つうかアメリカもそうだけどドイツもイギリスもものづくりダメになったし
合理化の名のもとに工業をどんどん人件費の安い国に移転してくとほんといかんね
こういう話の何が恐ろしいかって、日本が絶賛後追いしてるとこだよなぁ……
本当にこれは反面教師として学ぶべきですね。結局のところ高付加価値を追い求めれば量を作ることはできず、量を作ることができなければ質を生み出す技術力は必ず落ちるという、成長に反復学習が必要な人間のジレンマがあるのですよね。寝ていても腕が上がるということはありませんから。
トヨタも開発期間圧縮のためにCADだけで試作車作らずに開発してたけどリコールまみれになったな
アメリカの重工業が順調に衰退している中で、それが次々に顕在化してるだけに見えるけど
ボーイングも旅客機だの輸送機だので失態続きだし
無駄を省くためのプランが無駄を生んでいる。中国がわざわざ内陸部に空母型建造物をこしらえてまで訓練に励んでるのに、米国の手抜きぶりが際立つ
経済力の裏付けのない軍事力は成立しないって思うな、
それこそソフト面は高性能コンピュータさえあれば構築できるけど、ハード面は設備とノウハウと運用データがあってこそ
膨張する中国軍に勝ち得るのは積み重ねたハード面での優位だけなのに、どうも近頃アメリカは海も空もダメだな