米海軍上層部の防衛産業界に対する不満が高まっており、ダリル・コードル大将は「10隻の潜水艦を発注したのに手元に届いたのは6隻だけで、残りの4隻はどこに消えたのか?私の部隊は既に潜水艦が不足している」と主張した。
参考:Navy frustration building over late weapons, ship deliveries
米海軍は「大金を払っているのだからもう言い訳をするな」と防衛産業界に突き付けた格好
今月10日に開幕した海軍協会の年次総会では米海軍上層部の不満が爆発して注目を集めており、特に大西洋海域を管轄するダリル・コードル大将は「防衛産業界に対して私は寛容ではなくCOVID‑19やサプライチェーンといった問題もどうでもいい。ただSM-6や魚雷をスケージュール通りに納品して欲しいだけで約束が守られないという事実は許せない。我々は10隻の潜水艦を発注したのに手元に届いたのは6隻だけで、残りの4隻はどこに消えたのか?私の部隊は既に潜水艦が不足している」と不満を吐露した。
米造船業界は毎年2隻づつ発注されるバージニア級原潜を年1.2隻のペースでしか建造できず、年10隻のオーバーホール作業もスケジュール通りに進捗していないため、ダリル・コードル大将は「現在19隻の潜水艦が整備中か整備待ちの状態だ。もし全ての作業がスケジュール通りに行われていれば潜水艦艦隊の戦力は9隻も増えていた計算でこれは相当な数だ」と述べており、海軍が準備の整っている75隻の艦艇を動かそうとしても「弾倉を完全に満たすだけの武器はない」と指摘したのも興味深い。
マイク・ギルディ作戦部長も「2023年度の支出要求で弾薬を含む海軍全体の即応性を優先させ、2024年度の計画でもそうするつもりだ。私が求めているのは『空っぽの弾倉を完全に満たす』ための取り組みではなく、防衛産業界が生産量のトップラインを最大に引き上げ今後も維持していくことだ」と言及し、ウクライナでの戦争で得られた教訓についても「紛争発生時におけるハイエンド兵器の需要予測は我々の見積もりを遥かに上回る可能性がある」と述べている。
デル・トロ海軍長官も「ウクライナ侵攻前は生産量を予め決めていたが我々はこれを増やすことを求めており、安全保障に関わる企業は責任ある形でこれを実行してほしい。もうCOVID‑19やサプライチェーンの問題を納期の言い訳にすることは許されない」と要求、つまるところ米海軍は「大金を払っているのだからもう言い訳をするな」と防衛産業界に突き付けた格好と言えるが、艦艇の建造・保守に関わるキャパシティの問題は何年も前から問題になっていたので直ぐに解消できるのか非常に怪しいところだ。
因みに防衛産業に関わる大半の企業には株主が存在するため「利益率を損なうような過剰投資には消極的だ」と国防関係者は指摘しており、防衛産業界が生産量のトップラインを最大に引き上げて維持しろと要求するなら「ウクライナ侵攻に関係なく安定した需要=複数年契約で長期間の発注を確約」し、現在のように予算折衝の過程で発注数が増減するのを止めなければならない。
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※アイキャッチ画像の出典:Public Domain シーウルフ級のコネチカット
根本的な問題としてアメリカの造船業が苦しいからでしょうね
造船業は典型的な労働集約型産業なので超大国アメリカという賃金が高い国との相性は最悪でしたから
月間正規空母は遠い昔
造船所そのものが2次戦後バタバタ倒れてしまい、冷戦終了で軍需も減ってしまいましたから
アメリカ海軍向けに大型艦を建造する主要な造船所は以下の通り
インガルス造船所(ミシシッピ州パスカグーラ)
アーレイ・バーク級駆逐艦、タイコンデロガ級巡洋艦、サンアントニオ級揚陸艦、ワスプ級およびアメリカ級強襲揚陸艦の建造・整備
ニューポートニューズ造船所(バージニア州ニューポートニューズ)
ニミッツ級空母、ジェラルド・R・フォード級空母、ロサンゼルス級原子力潜水艦、バージニア級原子力潜水艦の建造・整備
バス鉄工所(メイン州バース)
タイコンデロガ級巡洋艦、アーレイ・バーク級駆逐艦、ズムウォルト級駆逐艦の建造・整備
ジェネラル・ダイナミクス・エレクトリック・ボート(造船所はコネチカット州グロトン)
原子力潜水艦(ロサンゼルス級、シーウルフ級、バージニア級)の建造・整備
潜水艦含めて原子力艦の建造ノウハウがあるのはニューポートニューズとジェネラル・ダイナミクスのみで、しかもニューポートニューズはアメリカ国内で唯一、原子力空母の建造と炉心交換を含めた大規模オーバーホールができる造船所という関係で空母の建造・整備の方が優先されてしまう。そうなるとバージニア級を優先的に建造できるのはジェネラル・ダイナミクスのみとなってしまうので原子力潜水艦の建造に支障が出るのは仕方がないでしょうね。
西側諸国が経済優先な社会である以上、その要求は「無理」なんよ
気持ち的には同情出来るが、それが嫌なら嘗ての様に軍工廠を国費で維持管理していくしかないわ
軍工廠にまじめに行くんじゃあないですかね?
それでもサプライチェーンの問題まではどうにもならないからね
軍需企業といわれてすぐに名前の浮かぶ企業というよりは
そこに部品提供してる企業の供給をコントロールしなきゃならないけど
そんなものまで全部国営化するのは不可能だろう
部品の素材の素材のってどこかの供給が滞るだけで供給不足になるけど
末端まで全部国営化したらいったいどんな規模になるやら
シリコンウェハーや鋼材作るような段階から全部国営なら偽物が混じる問題もなく供給量も全部コントロールできるだろうけどね
しかし、生産設備を持つとまでいかなくても、ある程度部品の供給網を管理できるような組織を立ち上げないと辛いのは間違えない。
ただそれは政府組織じゃないほうが良いと思うのです。それは政府組織は本質的に非効率ですから。単純な部材・部品の調達から始まり、人員確保、国内外の組織との連携、そして資金調達・使用の自由度。あらゆる箇所で政府組織だと時間もかかるし制約も多すぎる。
幸い日本は兵器産業に全く競争力がないので、その手の半官半民の株式会社を立てることは比較的容易なはず。そこが兵器調達を行うという形にしたほ国営工廠よりも良いと思うのですがどうでしょう。
日本の第三セクターの運営で上手くいった試しがないのが、一番の不安材料ですな
海軍工廠を創るから部品メーカ·外注企業も国営化する発想が分からない。
サプライチェーンの問題は当然有るけど、如何に権威主義国家に依存せずに構築するかが重要で全て自前で賄う事では無いでしょう。
日本の場合、潜水艦は三菱重工と川崎重工の2社で手分けしてたおかげで上手く手分けしてますね。もし原子力潜水艦に手を出すなら現状では三菱重工の1社だろうと思いますが、川崎重工は原子力発電は実質的に手を出していない。できれば2社体制にしてほしいところですが、東芝は現状どうしようもないし、将来的に日立が頑張るしかないかな?
かなり前から米国造船業の苦境は聞こえてましたからね…
建造能力を超えているせいで延々とバックオーダーが積みあがる上に現役艦の整備でドックも埋まるとなっちゃそりゃなぁ
原潜はともかく駆逐艦とかの整備を日本である程度引き取っていくのは無理なんだろうか、本邦の造船業ってどっちかっていうと仕事が足りない状況だと思うんだよね
国内に目を向けるとAMVのライセンス生産やMCVファミリーの生産、一気に拡大する弾薬生産ラインとかとかどうしていくのか気になるところではある
火薬については工場を国が建てて生産分全量買い取りみたいな話があったし、上手くやってくれると思いたいが
関連記事除いた最後4行はほんと本邦にも当てはまりすぎるというか
度を越えてご奉公してる部分あるみたいなので
撤退した企業の向上なりを工廠化することについての検討より先にやって欲しいんですよねえ
仏を別にして、米英で原子炉メーカーがもう一社必要ではと思います。
以下は素人の勝手な妄想で。
最初は小型のS3/4W炉をベースにして。需要は当面、豪州・日本(?)でしょうか。
それぞれの現有潜水艦の、推進電動機の出力は、約6,000shpですから、
6,600shpのS3/4Wはちょうど良い大きさに思えます。
本命は大きな原子炉だろうから、差し当たりは当用として。
最初からシーウルフ級やヴァージニア級。アステュート級は無理でしょうから。
浮体式原子力発電、国内で検討進む
リンク
洋上風力、波力というライバルもいるけど、
海洋の利用としてはこのようなものも検討されているみたい。
これ以上陸に原発を建設するのは政治的にも軍事的にも人質になりやすいので難しいだろうし
その流れで日本が船舶向け原子炉を手に入れるのは可能性としてはあるだろうね。
ベクテル社ならば非公開会社だし…
19隻…?そんな気はしてましたけど、トランプ政権末期の頃から何も改善して無くて整備待ちがひたすら増えてますね。純粋に気になるんですけど、年単位で乗る船が無くなってる乗員はその間ひたすら地上勤務なんですかね。水兵の仕事の2/3は陸の上だって言いますけど、それにしたって2年も3年も乗らないのはどうなんだって思っちゃいますね…
こう見ると防衛予算の大幅増に着手した日本の政権がなんでこうも批判されているのか理解できない。
そりゃ税金使ってるからですよ
今の政権下では増税まで絡んでますし
安全保障なんて、いくら力を入れても目に見えて自身に返って来る訳でもないので、頭では必要と判っていても心情的な理解を得るのは大変でしょうね…
防衛費増額がどうこうよりも、防衛増税に関しての段取りミスと大衆へのアピール期間不足ですかね。
「どうしても防衛費が足りません。試算した上で増税不可避になったら選挙しようかと思います」みたいな言い方で党内にも話を通しておけば良かったのに。
「防衛増税するから。批判は許さないし聞かないから」としか聞こえない言い方で急にぶち上げた上に、党幹部とのゴタゴタを見せられたら、防衛費増額はやむなしと思ってる層も「はあ?何を急に言ってんの?賛同しかねるわ」になってしまうのは当然かと。
何だかんだで国防に関しては、岸田首相は目立たなくとも就任してからそれなりにやってたのに。
増税を旗に掲げての選挙は,議員が一番嫌がるので,「どうしても防衛費が足りません。試算した上で増税不可避になったら選挙しようかと思います」は,それこそ党が全く受け入れないかと。
仁義を通すというか、話をつけておくというのが組織として大事かと。秘密にして辞任覚悟で進める案件でも無かったでしょうし。
こじれた時は記者会見で公式発表せずに、夜10時のニュースで「党内会議でそんな話も出ました」程度に留めておけば良いだけだったので、内閣は勇み足が過ぎたと思います。『元閣僚』の方がベラベラ話しちゃうかもしれませんが。
オーストラリア「あ、あの…」
消えた潜水艦は予算の海に深く潜航中、浮上の予定は機密です
世界一潜行時間が長い潜水艦としてギネス記録認定
されなきゃいいのですが…
超高速参勤交代みたく、同じ船を何度も行ったり来たりさせて誤魔化すとか・・・