米潜水艦部隊の司令官は「メンテナンス作業の遅れによって昨年約7.5隻分に相当する原潜を使用できなかった」と明かし、造船業界が必要とする需要を捌ききれていない窮状を訴えた。
参考:Submarine maintenance backlogs and delays take toll on fleet’s development work at sea
運用可能な潜水艦の数が減少したため訓練時間などを削って要求される任務をこなした=運用体制に無理が生じているという意味
米海軍が保有する攻撃型原潜の定数は約50隻(ロサンゼルス級×27隻/シーウルフ級×3隻/バージニア級×19隻)に設定されており、2030年代半ばまでに設計寿命に達するロサンゼルス級原潜をバージニア級原潜ブロックVで更新する予定だったのだが、当初約60ヶ月(建造・艤装・引き渡しにかかる期間の合計)の工期だったバージニア級原潜は船体中央にバージニア・ペイロード・モジュールを挿入したことによる工程数の増加と建造現場に導入した感染対策の影響でブロックVの工期は70ヶ月台後半になっており、2017年2月に建造を開始した33番艦オレゴンは船体工事完了を2年以上オーバーしても工事が続いている状況だ。
つまり建造遅延の影響でブロックVの就役よりも先にロサンゼルス級の退役が始まり、2022年以降の攻撃型原潜は41隻まで減少する可能性が指摘されていた。
これを回避するため米海軍はロサンゼルス級の寿命延長を行い時間を稼ぐことで表面的に50隻体制の維持に成功したが、メンテナンス作業の遅れによって50隻体制の下で提供されるはずだった戦力供給に大きなギャップが生じているらしい。
米潜水艦部隊の司令官を務めるジェフリー・ジャブロン少将の説明によると事前スケジュールで定められた通りにメンテナンスが開始されなかったことで1,500日近いアイドルタイム(メンテナンスを受けるため待機していた時間)が発生、さらにメンテナンス作業が予定をオーバーしたことで1,300日の機会損失を蒙り「米海軍は2021年に約7.5隻分相当する潜水艦不足に直面した」と明かしており、この不足分を補うため訓練時間の短縮や各艦の指揮官に与えられていた自由裁量時間が削られたため特定分野の能力強化が進んでいないと訴えている。
つまり50隻体制の下で回していた運用可能な潜水艦の数が減少したため訓練時間などを削って要求される任務をこなした=運用体制に無理が生じているという意味だ。
因みに米海軍は攻撃型原潜の定数を66隻~72隻まで引き上げることを要求されており、米造船業界や原潜の各コンポーネントを製造するサプライヤーは最低でも年2隻以上のバージニア級原潜を供給しつづけなければならない重圧に晒されている上、同時進行でコロンビア級ミサイル原潜の建造も進めなければならず、作業能力を超える要求のしわ寄せがメンテナンス作業を直撃しているのだろう。
定数引き上げやコロンビア級原潜の建造を新型コロナウイルスが落ち着くまで延期すれば造船業界も余裕を取り戻せるが、猛烈な勢いで追い上げてくる中国海軍の存在を無視できないため米海軍も造船業界も「無理を承知でやるしかない」と諦めているのかも知れない。
関連記事:米海軍が直面する厳しい現実、造船業界に攻撃型原潜を増産する余裕はない
※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo courtesy of Newport News Shipbuilding/Released
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日本にメンテナンスの仕事を回してもらえないんでしょうか。
この間もオスプレイを日本航空が委託されて整備するって、話しもありましたし。
それにしても攻撃型原潜を66隻~72隻とか、改めて米軍の規模は段違いですね。
原子力で稼働する艦船の整備を国内受注するのには国内感情との調整があるのでそう簡単にはいかないかもしれませんね。
今でも第七艦隊の母港では原子力空母に対する抗議運動が出入工事行われます。そういう活動が発生するのは容易に想像できます。
しかしも、貴方の仰る通り国内の低下していく需要を海外からの修理の受注などに充てること自体はとても魅力的なことだと思います。
ちなみに神戸の潜水艦造船所のすぐそばには「アンパンマンミュージアム」がある観光地だったりするので、神戸で原潜の修繕とか絶対無理です…
昨日もハーバーランドの目の前で海自潜水艦が排気ガス吹いてたし
それは、個人的に原潜の修理を反対という考えをお持ちなのか、それとも神戸市民がそれを許さないと言う意見ですか?
>昨日もハーバーランドの目の前で海自潜水艦が排気ガス吹いてたし
そりゃ、ディーゼルエンジンなんだし、自動車のような環境対策なんてしていないだろうから、排気ガスは酷いと思うよ。でもそれは、原潜の放射能漏れへの懸念とは別問題だよね。
観光地→人の目につき易い→機密保持が難しい
って感じの図式での「原潜の修繕とか絶対無理」なら、
そもそも機密性の高い潜水艦の造船しているのだから、恐らく大丈夫かと。
単に原潜へのアレルギーで「原潜の修繕とか絶対無理」と仰っているのなら、
感性は人それぞれなので「絶対無理」は言い過ぎかな。
コメントありがとうございます。
やはりそうですか。
どうにかして国内の防衛産業を守ってほしいです。
先日報道もありましたが、防衛省には、それぞれの企業から事情を聞いて、早急に政策や方針を打ち出してほしいです。
日本国内の造船・メンテリソースにどの程度余裕があるかどうかはわかりませんが、もしあるのでしたら米軍の輸送船など機密度や日本との技術差が少ない船を日本でメンテし、その分アメリカでしかメンテ・造船できない船のリソース確保に繋げるという間接的な手助けをすることができたらいいですね
最近の動向は知らないけど、かつて米原子力空母ジョージ・ワシントンのメンテナンスが横須賀基地で行われたよ。
メンテだけならまだ行けるかもだが
同時のアップグレードがあるから無理だろうな
やるとしたら、思い遣り予算の一環ですかね。
日米軍駐留経費の日本側負担増にもカウント出来るだろうし、その一方で日本にも金が落ちるし、何だか良さな気がします。
米軍も落ちたなぁ、、、
もう頼りにはならない。
メンテが追い付いて無いのは確かだし、ここ数年は開発計画とかもグダグダでなんだかなぁって思うの当然だと思う。
でも海軍力では未だにアメリカが世界を圧倒してるし、頼りにならないって事は無いでしょう
それは既存の戦力が健在ならば、という前提でしか成り立たないでしょう。残念ながら中国の造船能力はアメリカどころかその同盟国すら圧倒しそうな勢いだから、時間が経つほどその差は縮むし、さらに既存の米軍戦力もメンテ能力の欠如からその速度は早まる一方だろうよ。
それに今のアメリカの大学生は技術者なんかにはならんでしょ。金融に行くかシリコンバレーで受けの良いIT・デザインあたりに人が吸われているから、造船所増やしたって指揮できる技術者がいない。
おそらく太平洋地域の艦艇の造船・メンテナンスを日本や韓国に頼らざる得なくなる日は近いだろうね。オーストラリアは時間がかかるだろうし、東南アジアなんて日本以上に信用できん。無論そこまで日本の造船が生き残っていればの話だが。
気になって調べたら想像以上に酷かった(潜水艦だけでなく海軍の艦艇の整備全般)
•人によっては1日10~20時間勤務
•過労により少なくとも1人が自殺 精神に支障をきたす人が多数
•一部の訓練学校を短縮(2017年以前は6ヶ月、現在は3週間)
•中間保守に関わる18組織の内15組織が人員不足
•海岸沿いの保守組織はここ数年20%の人員不足が常態化
ちなみに、オハイオ州の議員がオハイオ州(5大湖)に新たな潜水艦の造船所建設を提案してるそう。
追加で
オハイオ州の造船所は潜水艦用の2つの乾ドックと50エーカーの建物を建設し、4隻を同時に整備できる予定。
五大湖と大西洋との間は艀に載せて運搬。
3000人の新たな雇用
全員でないとしてもやはりそれだけの人数の潜水艦に関わる技術者を確保し、凍りつくこともある水路で輸送するのはハードルが高そうですね。材料に関してもちょうど米海軍潜水艦向けの鋼で試験結果偽装がありましたし。
上手くいけば海軍にとってもオハイオ州にとっても悪くない話かと。上手くいけば…
商船需要の多くを占有してる日中韓三国ですら造船業界は楽ではないからなぁ
日本や中国も造船所の統合・廃止でやり繰りしてる所みるとそれ以外の国はさぞや苦境に立たされてる事は容易に想像出来てしまう
メンテナンス、人員確保、維持費、
潜水艦の抱える諸々の問題に対する解として無人化による小型化という要求がさらに高まると予想される。
有人である必然性をどの程度まで下げられるのか、案外と進展は早いかも知れない
完全に首が回ってないのに無理やり何とかしなければならない
これ続けるとそのうちガチでやべぇ事故起きるぞ…
この体たらくだもの、前にここの記事にもあった、豪州が中古の潜水艦を譲ってもらって云々の話なんて絵空事もいいとこだわな。
オーストラリアの製造業、特に造船業がもうちょいまともなら中古を払い下げて現地合弁会社で延命事業から始めて、後に米海軍の原潜のメンテを手伝わせる…、なんて事もできたのかもですが。
潜水艦なんて、造船所作ったからってすぐなんとかなるもんじゃ無いんでしょう。潜水艦用の高張力鋼は、供給出来る量に限界あるでしょうし、加工難易度も高い。
作業員の負荷が高いのも、その技術を持った作業員限られるからでしょう。新規採用するにしても、誰でも良い訳ではなく、それ相応のBackground checkをパスする必要がある訳で、それなりに時間コストもかかります。
同じことは日本にも言える訳で、オーストリアの一件もメーカー側は乗り気じゃ無かった様な話が聞こえてました。
現状、年1隻の新造と現役艦の保守分の工数と施設しか確保してない筈です。(それでも定数が増えた関係で、仕事量は増加している訳で)
施設は拡充出来るとは言っても、見合う受注量を保証できない限り、設備にも人にも投資はできないですもんね。
実際、アパッチという悪しき前例もありますし。
アメリカの場合作業員だけじゃなくて、それを現場で指揮できる技術者がいない。それを育成するのだって、日本みたいにコンスタントな育成ラインがあるならともかく、1から作ろうとしたら10年位はかかるでしょう。戦闘機のパイロットであったり今回のコロナのPCR要員もそうですが、機械なんて最悪金でどうにかなっても、現場で利活用できる人間はどうやったってわいてこない。こればっかりは、金融に全振りしたアメリカという国家の運営ミスとした言いようがないな。
現在残ってるロサンゼルス級の中で一番古いUSS Pittsburgh は86年就役、艦齢36歳ですか。内部ガタガタになってそうですね。なんか水上艦でも似たような話したような…米海軍…
艦隊定数増はともかく、定数維持に関しては造船所新設や同盟国に整備負担分散みたいな長期的な対処では間に合わないのではという気がします。かといってオーバーホールや改修作業は一定サイズのドライドックと同クラスに関する整備教育をうけなおかつ完熟した工員が必要な訳で、人や会社に補助金を当てただけではどうにもならず、強いて言えば何でこんなになるまで放置したんだよという感じですね(思考放棄)。
金も資材もあるだろうに不思議なもんだ。
横須賀にも日本船籍の原潜置けばいいじゃない
人員だけではなくて、施設の老朽化も深刻です。
一例でハワイ真珠湾にある地下燃料貯蔵施設「レッドヒル」。太平洋戦争中に建設されて地下20基のタンクに最大9.5億リットルの艦艇や航空機用の燃料を貯蔵して、真珠湾基地までパイプラインで接続されているのですが、2014年と昨年11月に燃料漏れ事故を起こして住民4000人が避難しました。
米軍は「アジア太平洋地域に代替する施設がないから閉鎖できない」と抗議しましたが、アメリカ議会上院が燃料抜き取りの費用を確保する法案を可決したため、バイデン大統領が署名すれば施設閉鎖の可能性が高いようです。
築80年の老朽施設の更新もままならないのが米軍の実情ですね(-_-;)
一気に増やしまくった中共も二十年後にはメンテ更新地獄で阿鼻叫喚でしょう
とは言い切れないのよね
めちゃくちゃな運用で事故が起ころうがへっちゃらだし