米国関連

米空軍、ステルス無人戦闘機「XQ-58Aヴァルキリー」から小型UAVを分離することに成功

米空軍研究所は今月5日、LCAAT (低コスト航空用航空機技術)プログラムの元で開発されたステルス無人戦闘機「XQ-58Aヴァルキリー」のウェポンベイから小型の無人航空機「ALTIUS-600」を分離することに成功したと発表して注目を集めている。

参考:AFRL successfully completes XQ-58A Valkyrie flight and payload release test

ステルス無人戦闘機「XQ-58Aヴァルキリー」から無人機の子機を展開させる実証実験に成功

XQ-58Aヴァルキリーは米空軍研究所とクラトスが開発した自律的飛行が可能な戦闘機随伴型のステルス無人機で1機あたり200万ドル~300万ドル(2.2億円~3.3億円)という価格の安さが最大の特徴だ。

そのためXQ-58Aは損耗を気にすることなくリスクの高い任務に投入可能で米空軍は同機を無人戦闘機プログラム「Skyborg(スカイボーグ)」の候補に加えており、F-22とF-35の戦術情報を中継する通信ノードとして活用する実証実験にも使用されるなど将来の航空戦術開発に大きな影響を及ぼす可能性が高く、同機を開発したクラトスは「ヴァルキリーシステムは単なる概念実証モデルの枠を超えて実質的な運用能力を備えた量産機に近い存在に仕上がっている」と語りXQ-58Aの完成度が実用機に近いことをアピールしている。

出典:public domain XQ-58ヴァルキリー

米空軍研究所もステルス無人戦闘機「XQ-58Aヴァルキリー」を使用した6回目のテスト飛行を先月末に実施、6ポンドまでのペイロードオプションを活用して偵察・監視や自爆攻撃などの任務に対応可能な小型無人航空機Altius-600をXQ-58Aのウェポンベイから分離する実証実験に挑み成功したと今月5日に発表して注目を集めている。

Altius-600はポーランド最大の防衛産業企業「WB Group」が開発した徘徊型無人航空機「ウォーメイト(Warmate)」と同じモジュラーペイロードノーズを変更して多任務に対応するタイプの小型無人航空機で地上発射だけでなく各種航空機や艦艇からの発射に対応、米陸軍も無人攻撃機MQ-1グレイイーグルドからAltius-600の発射テストを行うなど無人機の子機として活用する研究が進められており、米空軍研究所もXQ-58Aから無人機の子機を展開させる実証実験を行っているという意味だ。

出典:Jose Mejia-Betancourth/CCDC AvMC Technology Development Directorate Altius-600

補足:Altius-600の基本スペックは総重量約12kg、ペイロード約2.72kg、最高速度約170km、巡航速度約110km/h、航続距離約440km、最大滞空時間約4時間で折りたたみ式の主翼とV字型の尾翼を備えており専用のチューブから射出されるため携行性に優れている。因みにAltius-600を開発したAreaIAeroは先週クラトスに買収され子会社になっている。

低コストだが耐久性に劣る小型の無人航空機を距離の離れた戦場に直接投射するため有人機や無人機を活用した実証実験は欧州やロシアでも行われており、中国は逆に小型無人航空機の欠点である耐久性を向上させた「長耐久小型UAV」と呼ばれる無人航空機を開発中で年間1,000機生産する計画が存在する。

国によってアプローチの方法は異なるがチーミング可能な小型無人航空機を距離の離れた戦場に大量投入するという考え方は同じで、複数の無人機を通信ノードとして活用すれば衛星通信に非対応の小型UAVでも見通し線に縛られた通信距離から解放されるため近い将来、数百~数千km離れた空域に小型UAVの大群が突然現れたとしても何ら不思議ではない。

今回のデモンストレーションは飽くまで実証実験なので直ぐにXQ-58A+Altius-600の組み合わせが戦場に登場する訳ではないが、必要な基礎技術の研究は着実に進んでいるので米空軍が進めているいる無人戦闘機プログラム「Skyborg」には無人機の子機として小型UAVの運用能力が付与される確率は非常に高いと思う。

関連記事:UAV開発が盛んなポーランド、1,000セットも導入した国産カミカゼドーロンの実力
関連記事:米空軍、ボトルネックだったF-22とF-35の戦術情報共有に成功
関連記事:中国は産学連携で軍事用UAVを開発、年間1,000機の生産体制を構築

 

※アイキャッチ画像の出典:米空軍研究所

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 4月 06日

    少なくとも10年以内に近接航空支援は完全に別次元に到達しそう
    つまり、地上戦の様相もガラリと変わるだろうね

    9
      • 匿名
      • 2021年 4月 06日

      ばらまかれた爆薬付き小型UAVが兵士やテロリストの個々を狙っていちどに殲滅するという場面も生まれる
      しかもそのときに航空優勢は米軍にある
      否定できない恐るべき新時代が到来する

      5
    • 匿名
    • 2021年 4月 06日

    中型以上のステルス無人機に徘徊型を中心とした小型UAVを戦場まで運搬させて、弱点である航続距離を補う訳か

    5
    • 匿名
    • 2021年 4月 06日

    近い将来宇宙空間が戦域と化しこれまでの聖域としての機能が失われる。人工衛星による軌道監視網への攻撃と妨害の脅威が表面化もする。GPSが命綱の米軍としては宇宙空間に依存しない、或いは特定の人工衛星(監視衛星)に依存しない情報伝達網の整備は急務。ドロー軍団による航空戦力の無人化はもう止まらない。

    3
    • 匿名
    • 2021年 4月 06日

    もうこれファンネルやろ…

    5
      • 匿名
      • 2021年 4月 06日

      バグじゃね

      8
        • 匿名
        • 2021年 4月 06日

        無機質な思考の肉食昆虫が捕食するのと変わらないのかも
        現場の兵士のPTSDが捗る・・・
        しかもこれが中国やらにジェノサイドに使われる可能性

        1
      • 匿名
      • 2021年 4月 06日

      ZZで出てきたゲーマルクがマザーファンネルって親機からチルドファンネルって子機を出してたな

      3
      • 匿名
      • 2021年 4月 06日

      しかも「ニュータイプ」って言う一部の突然変異に頼ることなく、誰にでも扱えるファンネル

      1
    • 匿名
    • 2021年 4月 06日

    米軍ネタに、安価なという文字を見るとニッコリしてしまう
    何事も、コスパを無視してて継続とか不可能だからね

    7
    • 匿名
    • 2021年 4月 06日

    まんまSTGの子機だな。
    次は強化人間か?

    2
      • 匿名
      • 2021年 4月 06日

      無人機から無人機で、無人機が有人機の子機なんだから、孫機と呼ぶ方が正確かと

    • 匿名
    • 2021年 4月 06日

    でも俺としてはさ、長距離砲に小型ドローン詰め込んで送り込んで欲しい
    理由はロマンそれだけだ

    1
      • 匿名
      • 2021年 4月 06日

      射撃時の筒内衝撃があるからね、順次加速するレールガンならば可能かも

      1
        • 匿名
        • 2021年 4月 06日

        流す電力で加速度や初速を制御できるのがレールガンの利点だから、電力調整してゆっくり加速して低初速で射出すれば可能でしょうね

      • 匿名
      • 2021年 4月 06日

      ロマンに予算は出せないので多段装ロケット砲から打ち出すので我慢してくださいね

      1
    • 匿名
    • 2021年 4月 06日

    俺も魂が肉体から分離して彷徨ってるけど、
    UAVみたいなもんなんやな

    4
      • 匿名
      • 2021年 4月 06日

      成仏してクレメンス

      15
    • 匿名
    • 2021年 4月 06日

    海兵隊の沿岸連隊がこのような装備を敵の脅威圏内で使用すれば凄いんじゃないだろうか・・・

    • 匿名
    • 2021年 4月 06日

    無人機関連の話題を見ると、日本は大丈夫かと少し心配になる。
    まだOPVの飛行実証(安全パイロット搭乗)しかやってないから、こういった無人機の飛行はまだまだ先の話。
    次期戦闘機用の無人機も、SUBARUと防衛省が研究してるらしいけど、誕生と共に時代遅れになったりしないかな。

    2
      • 匿名
      • 2021年 4月 06日

      一度作っているのでそれはない。その為のLM社との共同開発なわけだし。

      1
      • 匿名
      • 2021年 4月 07日

      防衛装備庁の所謂第4分類UAV開発手法はF-3開発に至る過程と同じで、運用時期に必要とされる機能と実現性を研究し構想をまとめた上で主要構成要素技術を自家籠中のものにしようとしています。TACOMもその一部ですね。
      基礎技術を押さえ確立しておけばその後の改良や発展も容易になるので、実用機開発段階で構想に変化があっても対応は比較的容易いかもしれません。つまり開発中に時代遅れや時代錯誤になる可能性は低いでしょう。
      防衛装備庁の構想では第4分類UAVに有人機では不可能な運動性を付与しようとしています。
      センサー/シューター/デコイを兼ねるクラウドシューティングのアセットと位置付けており、デコイとしては敵ミサイルを回避可能にしようと考えていると思います。

      2
      • 匿名
      • 2021年 4月 07日

      対潜無人ヘリコプターDASHがモノになってれば良かったんだけどねぇ

      2
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