米国関連

米軍がパラオに超水平線レーダーを設置、J-20やミサイルの検出に役立つ可能性

米国防総省は「パラオにTACMORを設置するための現地工事を1億1,840万ドルで発注した」と発表、超水平線レーダーはコンピュータ処理とAI技術と融合することで「南シナ海上空を飛行するJ-20の検出」に役立つかもしれない。

参考:U.S. Building Advanced Over-The-Horizon Radar On Palau

米軍がTACMOR設置に動くということは「最新技術との融合でOTHRが再び役立つ」ということを裏付けているのだろう

超水平線レーダー(OTHR=オーバー・ザ・ホライズン・レーダー)は水平線下の目標を検出できるため冷戦時代に各国が早期警戒システムの一部として採用していたが、電離層の反射を利用するスカイウェーブ方式は反射角度で電波の到達距離が決まるため死角が多く設置場所もシビアで、地表面に沿って電波が伝播する性質を利用するグランドウエーブ方式は死角がないものの電波の到達距離がスカイウェーブ方式より劣り、使用する電波も低周波なので得られる解像度が低くいのが欠点だ。

出典:Public Domain 米海軍のRelocatable Over-the-Horizon Radar station

しかし技術の発展でOTHRで得られる情報の精度が向上、第5世代機のステルスは通常のレーダーが使用する高周波帯にのみ最適化されているためグランドウエーブ方式のOTHRで検知できる可能性が高く、イラン軍がウクライナ航空のボーイング737型機を撃墜した事件でロシアは「米空軍のF-35Aをイラン国境近くで飛行していたため誤射が発生した」と明かし、レーダーリフレクターが無い状態のF-35Aを検出したのがモルドヴィア共和国に配備しているOTHRだったと言われている。

ロシアは2021年に「1,200km先の目標を検出可能なResonance-Nを極東に5基建設する」と発表、これはOTHRとフェーズド・アレイ・レーダーの複合システムで「極超音速で作動するターゲット、ステルス戦闘機、巡航ミサイルを検出することができ、S-400と連動して効果を発揮するよう設計されており、最初の1基がサハリンに建設される」と明かしていたが、このスケジュールがウクライナ侵攻後も維持されているのかは分かっていない。

出典:ロシア国防省 Resonance-N

恐らく極東のResonance-Nはアラスカ方面=米国を警戒するためのもので日本に向けられる可能性は低いものの、既に中国軍は複数のOTHR(襄陽市、内モンゴル自治区、温州市で確認)で日本方面や南シナ海方面の上空を監視しており、中国メディアによれば「2017年に設置したOTHRの監視能力は3,000kmで韓国や日本だけでなく西太平洋上空までをカバー、岩国基地に配備されたF-35Bも検出できる」と主張したため当時注目を集めていたが、米軍もパラオにTACMORを設置するため動き出した。

米国防総省は昨年末「パラオにTACMOR(戦術移動式水平線レーダー)を設置するための現地工事を1億1,840万ドルで発注した」と発表、米ディフェンスメディアは「このシステムは見通し線タイプのレーダーほど解像度の高い情報は得られないが、南シナ海上空を飛行するステルスタイプの航空機を早期に検出できるかもしれないし、グランドウエーブ方式の検出方式ならグアム海域に侵入してくる極超音速兵器、巡航ミサイル、弾道ミサイル、敵航空機の検出に役立ち宇宙ベースや地上ベースのセンサーと迎撃システムをサポートできるかもしれない」と指摘しているのが興味深い。

出典:GoogleMap OTHRが検出可能な推定範囲/管理人加工(クリックで拡大可能)

さらに「高速なコンピュータ処理とAI技術によってOTHRは従来よりも遥かに鮮明なデータを提供でき、これを中国も理解しているため特に南シナ海方面でOTHRを大いに活用している」と付け加えており、最新技術との融合したTACMORの性能はさっぱり分からないが、再びOTHRが早期警戒システムの一部として役に立ちそうなのはほぼ間違いないのだろう。

因みにオーストラリア軍が運用するOTHRの検出範囲は公称3,000kmだが、1997年に5,500km離れた中国軍の弾道ミサイル発射を検出することに成功している。

関連記事:ロシア、イラン国境で米軍のステルス戦闘機「F-35」を検出したと公表
関連記事:ロシア、1,200km先の目標を検出可能な新型レーダーをサハリンに建設か
関連記事:ロシアの監視下に入る欧州、作動範囲約3,000kmのコンテナレーダーを配備?

 

※アイキャッチ画像の出典:中国中央電視台のスクリーンショット

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コメント

    • ブルーピーコック
    • 2023年 1月 02日

    あけましておめでとうございます。また、新年早々、記事作成ありがとうございます。

    なんだか茨城県古河市の送信所や、都市伝説系の話に出てくるHAARPみたいだなと思ったら、古河の送信所は同じ短波を利用した放送用の施設で、HAARPが超水平線レーダーの跡地に建てた物だとか。
    日本のは埼玉と北海道と沖縄にあったもの全てが政治的な問題で撤廃したとか。ミサイル探知やJアラートとかに寄与するなら建て直すべきだと思うが、用地確保や距離的に衛生による監視の方が良いのかな。

    30
      • ミリオタの猫
      • 2023年 1月 02日

      説明不足の点が有るので指摘して置くと、1960年代後半から70年代前半まで埼玉と沖縄と北海道に在った超水平線レーダーは米軍の物でしたが、設置に際して日本の外務省が当時の防衛庁へ通告していなかった(米国側が「実験的な設置」と説明した為、日米無線事前協議の対象にならないと外務省が勝手に判断した)事と運用に際して近隣地域へのTV受信障害が発生した為に、1975年3月17日に運用停止が決定しています
      その後、実現はしませんでしたが1980年代後半に自衛隊がソ連の爆撃機に対する早期警戒用に超水平線レーダーを喜界島等に設置を検討した事が有るので、今後必要性が認められれば取得する可能性は有ると思います

      19
        • ブルーピーコック
        • 2023年 1月 02日

        追記ありがとうございます。
        大隅諸島の馬毛島に日米の演習場を作る予定があるので、その近くに島民が少ない過疎地かつ、建設に適した都合の良い島があれば良いんですがね。火山の噴火が怖い地域でもありますが。

        4
      • 名無し3
      • 2023年 1月 02日

      防衛省だと短波帯表面波レーダの研究って名前でやってるやつで原理的には海洋状況をモニタリングする短波海洋レーダーと同じもんみたいですね
      既存のレーダー使って航空機や船舶を監視できない?って研究もあるようです
      リンク

      4
    • ido
    • 2023年 1月 02日

    皆様新年あけましておめでとうございます。管理人さんもこれからまた一年よろしくお願いします。
    このレーダーは日本には配備しないんですかね。かなり有効だと思いますが。
    最後のオーストリアのやつすごいですね。公称3000なのに5500のミサイル見つけ出すって…

    26
      • ヤゾフ
      • 2023年 1月 02日

      ido様も新年明けましておめでとうございます。
      弾道弾なのでどの段階での探知かが気になります。
      低軌道衛星なら発射時の探知はやれてますので日本で衛星コンステレーション進めば楽しそうです。

      1
      • ネコ歩き
      • 2023年 1月 03日

      管理人さん、皆さん、新年おめでとうございます。

      豪のOTHレーダーシステムが5,500km先の弾道ミサイル発射を探知できたのは、実性能が公称値を大きく超えるというわけではなく、たまたまの気象条件によるものだったらしいです。つまり常続的に監視可能な範囲は公称値の3,000kmという認識で良いと思います。

      2
    • ヤゾフ
    • 2023年 1月 02日

    明けましておめでとうございます。謹んで新年のお慶び申し上げます。
    記事でも上げられてますが、周波数帯域で検出特性や距離も変わるので様々なAI使ってノイズ除去等アルゴリズムも面倒そうですね。

    3
    • 58式素人
    • 2023年 1月 02日

    みなさま、あけましておめでとうございます。
    日本の以前のOTHRについて色々と読んでみると、米軍と日本外務省の不手際もありますが、
    既存の短波を使うインフラに悪影響があったみたいですね。
    早期警戒用で有効なのは理解できます。
    もし日本で設置するならば、運用者(おそらく空自?)の既存レーダーサイト網
    に組み込む形で、日本海側の島嶼に設置することになるのでしょうか。
    民間との干渉を避ける形で。 南シナ海は米軍にお任せとして。
    沿海州、朝鮮半島、渤海/黄海/東シナ海とその沿岸は監視しないとですね。

    3
      • ミリオタの猫
      • 2023年 1月 02日

      明けましておめでとう御座います(新年の挨拶を忘れてた)
      個人的な意見ですが、もしも現在の日本で超水平線レーダーを設置するならば、硫黄島が最有力候補かなと思っています
      理由としては距離的に丁度良い(東京から南へ約1200km)事と、位置的にここへ設置すると日本列島周辺の海域を監視出来る上にパラオに設置予定の米軍の超水平線レーダーと連携出来る点、そして硫黄島は民間人の立ち入りが規制されていて事実上自衛隊と米軍人しか住んでいない為、民間との電波干渉が避けられる点が挙げられます

      11
    • 月虹
    • 2023年 1月 02日

    管理人さま、みなさま、あけましておめでとうございます。
    日本の青森(航空自衛隊車力分屯基地)と京都(アメリカ軍経ヶ岬通信所)にはTHAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル)用のXバンドレーダー(AN/TPY-2)が配備されており、探知距離は約4700㎞(前方配備モード)。この2基により米軍は朝鮮半島から極東ロシア(ウラジオストクなど沿海州)、北方領土まで弾道ミサイルを追跡できるようになっています。

    北朝鮮の弾道ミサイル発射が続く現在、迎撃システムは勿論ですが軍事衛星や超水平線レーダーなど弾道ミサイルを独自に早期警戒できるシステムの整備も必要になってくると思います。

    2
      • 通りすがり
      • 2023年 1月 02日

      THAADは見通し範囲の4700kmだからOTHRとは別物だよね

      3
    • 像の檻
    • 2023年 1月 02日

    日本に配備されていた超水平線レーダーとか知らない話が多いのでググりまくりました。
    参考にします。

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