米海軍は「アレスティングワイヤーによる着艦に対応しなくてよい」という謎仕様の次期訓練機プログラムを今年5月に始動させて多くの人が首を傾げたが、ようやく謎の全貌が判明した。
参考:Why The Navy Is Looking To End Carrier Qualifications Entirely For Its Pilots In Training
パイロットに経験やスキルに頼った空母着艦スキルは不要、米海軍が大胆な改革に挑む
米海軍が現在運用中のジェット訓練機T-45「ゴスホーク」は英国のBAeが開発したホークを米国のマクドネル・ダグラス(現ボーイング)が空母での運用に耐えられるよう設計し直した機体で、1990年代から200機以上生産され海軍パイロットの空母発着艦訓練などに使用されてきたのだが運用開始から30年近くが経過したため後継機プログラムが立ち上がった。
しかし米海軍は次期訓練機に空母へのタッチアンドゴー対応を要求しているものの「アレスティングワイヤーによる着艦に対応しなくてよい」と言っているため正直何を考えているのかよく変わらなかったのだが、海軍作戦部長の下で航空部門を担当するグレゴリー・ハリス少将が最近、次期訓練機のコンセプトや大胆な訓練プログラムの改革について語り注目を集めている。
米海軍のパイロットは空母に着艦するための最終アプローチを「手動」で行う必要があり、そのスキルをパイロットに獲得させ維持するためには膨大な訓練を行う必要があるのだが、F-35Cは空母への着艦アプローチを支援するために開発されたデルタ・フライト・パス(DFP)を備えているためパイロットは経験やスキルに頼った最終アプローチ作業から解放され、この技術をベースに通称「マジックカーペット(Precision Landing Mode:PLM=精密着艦モード)」が開発されF/A-18E/FやEA-18Gを操縦するパイロットも空母への着艦が劇的に容易になっている。
このような主張はPLMが空母への最終アプローチをどれだけ容易にするのかを示すデータに基づいてのもので、それによると平均18秒間の最終アプローチ中にPLMを使用しないと平均300回ものコース修正入力が行われているのに対し、PLMを使用すると着艦経験の少ない新人パイロットでも20回程度のコース修正入力で空母に着艦できるらしい。
このような技術の登場で米海軍の空母着艦資格取得訓練(Carrier Qualifications:CQ)は劇的に簡素化=手動による最終アプローチを廃止してPLMを使用したCQが実行されおり、米海軍のパイロットは経験やスキルに頼った着艦作業から解放されている。
要するにパイロットに費用と時間を掛けて手動着艦に対応した訓練を施しても、実際の現場や空母着艦資格取得訓練ではPLM使用が常用化しているため「無駄」という意味だ。
日本人の感覚だと万が一に備えてパイロットの経験やスキルを維持しながらPLMを使用するという発想に行き着くかもしれないが、PLMが信頼できるならパイロットの着艦経験やスキルを維持する費用と時間が「無駄」だと割り切れてしまう辺りが文化や考え方の違いなのだろう。
因みに米海軍は次期訓練機の必要要件を更新してタッチアンドゴー対応も除外しており、パイロット養成プログラムのシラバスから完全に空母への手動着艦資格取得を削除するかどうかの検討に入っているらしい。
ハリス少将によれば「将来的に固定翼機を運用可能な大型空母は削減される可能性があり、パイロットに空母着艦資格を取得させたり維持させるため運用コストのかかる大型空母を訓練任務に使用するという贅沢はもはや許されない」と語り、新しいテクノロジーの採用は訓練時間短縮はパイロットの供給量を増やしたり、伝統的な着艦訓練の手順を一変させるのに役立つと言っている。
補足:米海軍は海外展開を終えてドック入りする前の空母や海外展開に備えて準備を進める空母を一時的に「訓練空母」と指定して空母着艦資格取得訓練の任務を与えている
以上のことから米海軍の次世代パイロット達はPLMを採用した次期訓練機で模擬着艦訓練(陸上基地)の経験を積み地上シミュレーターで海上を航行する空母への着艦を疑似経験して、いきなり実機のF-35CやF/A-18E/Fを操縦して空母着艦を初経験することになるという意味で、パイロットが持つ技術や経験に敬意を払いつつも妙な拘りがないのでバッサリと仕組みを変更することに躊躇がないのだろう。
大胆な変化に対して保守的なアプローチ(悪いという意味ではない)を好む日本人から見れば賛否が分かれるだろうが、変化を積極的に受け入れ合理的なやり方を好む米国らしい決定だと言える。
関連記事:空母への着艦に非対応な謎仕様? 米海軍の次期訓練機プログラムが始動
日本も訓練機を更新する際、パイロット養成の仕組みについても熟慮してみるのは如何だろうか?
因みにパイロットの養成方法については米空軍でも大胆な改革が実行される予定だ。
米空軍は訓練機「T-38タロン」を更新するため新たに「T-7Aレッドホーク」を導入する予定だが、今回の訓練機更新で最も重要なのは旧式化のT-38を新型機のT-7Aに置き換えるという点ではなく、新しい概念に基づく訓練プログラムを採用してパイロット養成にかかる時間とコストを削減するという取り組みの方だ。
米空軍は現在、戦闘機パイロットに養成するのに現在約40ヶ月掛かっているがT-7Aや仮想現実、地上に設置されたAI搭載のシミュレーターを活用することで養成期間を18ヶ月短縮すること目指しており、さらに実戦部隊へ配属された新人パイロットが固有機材の特性に慣れるための訓練時間も短縮させて貴重な機材を訓練で消耗させることを防ぐ=コスト削減や実戦任務に機材を回して戦力の効率を向上させることを狙っている。
F-22Aを装備した部隊の約7割に相当する飛行回数は新たに配属されたパイロットへの基本的な訓練に費やされており、これを削減して訓練に使用するF-22Aを解放できれば実際の任務に回せる機体が増える=数が限られているF-22の機体を有効活用できるという意味で、これはF-35Aでも同じこと(訓練に回す機体の数が減れば任務に投入できるF-35Aが増えるor調達数を削減してコスト削減可能)が言える。
もっと具体的に言えばF-22Aに搭載されたアビオニクスの基本的な操作方法を習得するのに高価なF-22Aを使用するのではなく、T-7Aレッドホークのコックピットに搭載された大型ディスプレイ上にF-22Aのアビオニクス操作画面や操作結果を擬似的に再現することで、実戦部隊に配属される前にF-22Aに慣れさせ実機による訓練時間を短縮させるという寸法だ。
航空自衛隊が運用中している訓練機T-4の後継機にT-7Aをという話もチラホラ聞こえてくるがT-4の後継機にT-7Aを持ってくるだけでは意味がなく、どうせT-7Aを持ってくるなら米空軍が取り組んでいる戦闘機パイロットに養成に関する新しい取り組みごと導入しないと効果は半減するだろう。
逆に航空自衛隊が独自の戦闘機パイロットに養成に関する取り組みを検討しているなら「国産」という手もあるが、こういった仕組みを新たに作り上げたり既存の体制を見直すことは日本が最も苦手とする分野なので防衛省や空自に独自のプランや取り組みは存在しないかもしれない。
空自がパイロットの養成にコストを幾ら掛けているのかは謎だが、米空軍ではF-16のパイロットを養成するに約560万ドル(約5.8億円)、F-35Aのパイロットを養成するに約1,000万ドル(約10.3億円)、F-22Aのパイロットを養成するに約1,090万ドル(約11.3億円)、A-10のパイロットを養成するに約596万ドル(約6.2億円)、B-2のパイロットを養成するに約989万ドル(約10億円)の費用を掛けており、これを1割でも削減できれば相当なコスト削減効果が期待できる上、訓練で高価な実機消耗が抑制できれば空軍全体の維持コストも相当削減されるはずだ。
米軍の取り組みが全て正しいという訳ではないが日本も訓練機を更新する際、機体だけではなくパイロット養成の仕組みについても熟慮してみるのは如何だろうか?
※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Huey D. Younger Jr./Released
米海軍の日本語広報twitterで自動着艦システムあるけど使ってないって言ってたけどな
PLM任せの着艦が常態化しているのなら、厚木などでやっているNLPも不要、ってことにならないかな。教育課程と訓練課程は異なるとは思うが。
スキル獲得の上では無意味な「下積み」を必要以上にこなすことを美徳とするような日本の一部組織には理解出来ないんだろうな
日本だと壊れた時のリカバリーのために一応やるって話になりそう。
民間のヘリパイロット免許ですが、アメリカではエンジン停止時の安全な不時着方法という必須過程がありますが、日本のヘリ飛行免許では、不時着訓練は危険だからやらないそうです?あれ?それ逆じゃねえの?
そして、アメリカの免許では日本を飛行できません。
平成のときの話ですが、これが我が国の無意味な規制の姿です
Twitterで行政改革担当大臣に送ったら反応するかな?
オートローテーションってヘリパイの必須スキルなのにやらないのか
オートローテーションは、日本の回転翼自家用操縦士免許の要件にも入ってます。
じゃあ米国並みに内容変更したんだ、
もともとが国内の育成機関を保護するための名目の規制だったからね
米国で免許とったほうが安上がりでしかも技能高いのがバレて問題視される前に手を打ったかw
ほりえも~~~ん
遠くない未来にパイロットが廃止されそう
巨大な米軍と比べれば自衛隊の規模は小さいので、
訓練コストを圧縮するためにどのくらい投資できるかというのは
米軍とはまた違った話が必要になってくる気がしますね。
まぁ養成の仕組みをきちんと考えていく必要自体はいつでもあるでしょうけども。
確かに、規模が大きいからこそできる合理化であるし、規模が大きくないとできない合理化の方が断然多いですからね。その上でも、漫然と進まずにガラリと方針を変えてしまうのは見事です。
何年も何千回も試行した結果の信頼性なら、確かに頼り切る方が合理的だよな。
只でさえコストの掛かるパイロット養成なんだから、いらないものは削るに限るか。
何事にも一長一短はあるものだが、軍事は古いもの不要で進んでいく稀有な分野だろう。
B-1B……A-10……退役できない……維持費が高騰……うっ頭が
ガンダムセンチネルのニューディサイズを思い出すな、ていうかそこまで自動化するならもう完全に無人機でいいのでは?
パイロットの養成って意外とコストかかるんだな
そりゃあ実機を飛ばして訓練すれば燃料は消費する、整備は必要、パーツ交換もいる。パイロットが一人前になるまでどれだけの物資を消耗するか。高価な機体ほどそれは高くつく。
米軍は安価な練習機で高価な機体の訓練を再現することによって訓練を安価にしようとアプローチしているわけだね
F-35も運用費用的には高価な部類なので、飛行機技能までを養成する中等練習機だけでなく、電子装備や兵装の訓練も可能な高等練習機は必要だろうと思いました。
開発するにしてもF-3で得られた成果を高等練習機に生かすことは可能でしょう(採用される+売れるとは言っていない)。
無人機でも空母に降りられるんだから、同じ技術を使えば有人機でも出来るだろ、って事ですかね
更に進めば手動より正確に着艦出来るかもしれない
PLM壊れた時どうするのって話だけど、それは起こり得ない想定なんだろうな。
あくまで訓練機の要求仕様に求めないだけで、F-35・F-18の実機を用いた着艦訓練は続けていくんではないかな。
あーなるほど、実機で着艦訓練も一緒にやっちゃおうってことか。理解が足らんかったわ。ありがとう。
万一の場合はベイルアウトして機体を棄てるのかもしれない。
発生確率が低いトラブルを想定して訓練にコストをかけるなら
機体を棄てても安上がりだと合理的に考えているのかもしれない。
機体側の故障では最悪その機体を海中投棄だが、空母側の故障では・・・・・・・
経験値の高い(PLMでの着艦でも回数熟せた)Pは着艦出来るが 練度の低いPはオーバーランするか又は艦尾に激突する。
ヒューマンエラーと機器不具合、どちらの発生確率が高いかと前者のほうが高いだろうしね。
特に人間なんて疲れてるとミスする確率高くなるし、
俺みたい長距離任務からの帰還時に操縦ミスって死ぬパイロットが減るなら支援装備はバンバン活用すべき。
成仏してクレメンス
教官、質問
何だ
あの、何故マニュアルで操作を
FCSを使用してロックオンすれば、98パーセントの命中率と聞いておりますが
そのFCSが、故障したらどうする
はあ? でもレイバーによる警備活動はペアーが原則ですし
その僚機が、行動不能だったら
いやしかし、そんなケースは万に一つの
その万に一つに備えるのが俺達の仕事だろうが、このボケ!
何やってるんですか太田さん!
苦しい予算の中から調達した備品を、何だと思ってるんです
ただちに降車しなさい!
unpoko~~
必要は発明の母というけど財源不足で色んなコスト削減アイデアでてくるな
財源不足というよりは、無人機や事故防止にかけたコストが実ったって感じだと思う。
財布が寒いからっていきなり新技術が生まれることはないよ。
昼間や夜間の着艦回数を記念するパッチもそのうち無くなるのかな
>米空軍は現在、戦闘機パイロットに養成するのに現在約40ヶ月掛かっているが
長いなと思って調べたらこれはT-38搭乗から数えて編隊長を務めるための訓練も含めた期間なので
新人として部隊に配属されるまでの期間は現在ももっと短く空自とほぼ同じだった。
一人前のパイロットになるまでの課程の合理化なんだろう
今は亡きロック岩崎が米軍との模擬空戦を通じて日本とアメリカのパイロット育成方法の違いを感じた事を著書に書いてあるけど
自衛隊は時間をかけて職人を育てるのに対してアメリカは速成教育でバンバン量産してくる
最終的な練度は自衛隊が上だけど新人パイロットだとアメリカの方がやや上だそうで
さてどうだろうな?
パイロット養成期は基本的に練習機を使うわけで、練習機は複座なのと操縦が容易な機体で、リカバリーもしやすいわけで、いきなり実戦機、単独で着艦しろと言っても、どれがダメでどれがOKの判断がすぐできるかね?
まだF/A-18D、Fがいる間ならいいけど、F-35Cが主力になったら結局は練習機に逆戻りして、二度手間で金がかかることになるのでは。
米海軍は、GPSが使用できない場合の代替手段の確保として
サイバーセキュリティーの観点から、米海軍兵学校での
天測航法の授業を復活させた経緯があるのに、大丈夫かいな。
ロシアが十数年以上前に開発して導入した複数機種の飛行特性を再現可能な小型訓練機(スホーイだったような)の存在を知ってほしい。
ついでにだが。かつて空自にパイロット候補として志願した時に地方協力支部の人がパイロット養成費用だけで2・3憶円かかると言っていた。多分戦闘機(飛行機)免許を取るのに一般より安くてお得だと言っていたが、具体的な話は覚えてない。
長期的、というか最終的な目標は完全なる無人化なんですよ
人間ゆえに起こる失敗、問題、不安点、たいへんな費用と手間をかけても辞めて民間に転職されたりとかw
上の続きね、おそらく各国軍はとっくに有人機に見切りをつけてる、あとは技術がいつ追いつくかという問題に過ぎない
戦闘機パイロットに固執するのはアニメヲタだけになる日が必ず来ますよw