米国関連

世界初となる衛星打ち上げ用の無人航空機「Ravn X」を米企業が発表

米企業「Aevum」は3日、小型ペイロードを地球低軌道上に低コストで打ち上げる無人航空機「Ravn X」を発表した。

参考:This company wants to launch satellites into space via drone

無人航空機とロケットによる衛星打ち上げシステムを発表したAevum

Aevumが発表した無人航空機「Ravn X」は小型ペイロードを地球低軌道上に打ち上げる2段式のロケットを胴体下部に埋め込み式に搭載、最高60,000フィート(1万8,000m)まで上昇してロケットを分離、100kg~500kgまでの小型ペイロードを地球低軌道上に打ち上げる事ができるというシロモノだ。

この様な航空機と打ち上げロケットの組わせは珍しいものではなく、オービタル・サイエンシズ(現ノースロップ・グラマン)が開発したロケット「ペガサス」とロッキードL-1011の組み合わせや、ヴァージン・オービットが開発したロケット「LauncherOne」とボーイング747の組み合わせが実用化されているが、Aevumが開発した無人航空機「Ravn X」とロケットの組み合わせは前記のモノとは異なる仕組みを持っている。

オービタル・サイエンシズやヴァージン・オービットの打ち上げシステムは大型旅客機からロケットを水平に切り離してロケットの推進力で上昇していくが、Aevumの無人航空機「Ravn X」は急角度に上昇しながらロケットを切り離すため大気圏を離脱するための推進力を節約することができる=打ち上げシステム自体を小型化することが可能だ。

さらに無人航空機「Ravn X」は小型なので専用の発射基地や大型の滑走路を備えた空港を必要しないため、1,600mの滑走路と整備用の格納庫さえあれば運用することができる上、無人航空機「Ravn X」の通常の航空機よりも簡単に整備することが出来るため120分毎に1回の打ち上げが可能だとAevumは説明している。

無人航空機「Ravn X」を使用した打ち上げシステムプロセスは自動化に「自律性」を加えたことで人件費を90%削減(何と比較しての数値なのかは不明)することに成功したとAevumは主張しており、この打ち上げシステムは天候に左右されないため軍が求める安定した衛星打ち上げ能力に合致するらしい。

既にAevumは米宇宙軍から小型衛星を2021年に打ち上げる契約を受注(490万ドル:約5億円)、今後9年間で20のミッションを行う契約も別途締結しているため、今回発表された無人航空機「Ravn X」を使用した打ち上げシステムは実用化寸前と見るべきだろう。

出典:Aevum 無人航空機「Ravn X」

米宇宙軍は現在、極超音速兵器を探知・追尾するためのセンサーシステムを宇宙空間に構築する小型人工衛星群「コンステレーション」計画を進めており、この計画は地球低軌道上に数百基レベルで小型衛星(数百kg)を配備して極超音速兵器を探知・追尾するというもので日本にも参加の打診が来ている。

管理人は大型の打ち上げロケット(アトラスやファルコン9)に小型衛星を複数搭載して打ち上げるのかと思っていたので、この計画に日本が参加すればH3ロケットやイプシロンロケットにも打ち上げ需要が回ってくるのではないかと想像していたのだが、無人航空機「Ravn X」の打ち上げ費用(490万ドル)が値下がりしてくると大型ロケットでまとめて打ち上げて複数の小型衛星を予定軌道に移動させるよりも、1基づつ狙った場所に直接打ち上げられる無人航空機「Ravn X」の方が打ち上げ効率で勝るかもしれない。

出典:Public Domain ファルコン9

Aevumが狙っているターゲットは突発的な需要、つまり情報収集が急遽必要になる国防総省や他国の軍事組織、サービス提供中の商業衛星がダウンした場合の迅速なバックアップ衛星の打ち上げなどコストよりも時間を優先するニッチな顧客や需要がメインターゲットと説明しているが、米宇宙軍から小型衛星の打ち上げをAevumに発注しているので小型人工衛星群「コンステレーション」計画で発生する莫大な打ち上げ需要を無人航空機「Ravn X」に持っていかれる可能性も十分ありえる。

因みにAevumでCEOを務めるジェイ・スカイラス氏曰く、もうSpaceXのような企業は必要ないらしい。

 

※アイキャッチ画像の出典:Aevum

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コメント

    • にわかミリオタ
    • 2020年 12月 05日

    スペースXがいらないのか。
    これって、有人にできてガンダムの世界みたいに大気圏外への出入りが可能になるのかな?

    6
    • 匿名
    • 2020年 12月 05日

    日本の打ち上げロケットとかもうコスト面で終わってる。アメリカが期待するのはセンサー技術では?

    2
    • 匿名
    • 2020年 12月 05日

    スペースXいらないとはまた過激なことをw
    宇宙ステーション以遠に有人機送り出すのにはまだまだスペースXが有望な印象だから衛星と有人機の住み分けの問題かな

    Ravn Xがボーイングのロイヤルウイングマンと似てるけど収斂進化の一つなのか…
    それとアメリカのことだからいざと言うときに対衛星兵器の運用母体に転用するの考えていてもおかしくなさそう

    10
    • 匿名
    • 2020年 12月 05日

    > もうSpaceXのような企業は必要ないらしい。

    ファルコン9の成果は目覚ましいもので、まだなんの成果も出していない者が言うとただの詐欺師か何かにしか見えないのがなんとも。
    本当に有用なら勝手に淘汰されるんだから黙っていればいいのに。

    3
      • 匿名
      • 2020年 12月 05日

      今までに無かったサービスを売り出して行こうとしてるんだから、これくらいのセールストークはしないと

      10
        • 匿名
        • 2020年 12月 05日

        まあなんにせよまずは成果からですね。
        小型だから新興国にも需要はありそうです。

        3
      • 匿名
      • 2020年 12月 05日

      ニコラみたいに坂道転がしてた電動トラックもあるからねw

      1
    • 匿名
    • 2020年 12月 05日

    需要があるところに供給できる企業が沸いてくるアメリカ凄い

    11
    • 匿名
    • 2020年 12月 05日

    まぁまずはこのUAVがちゃんと自立飛行して安定的に運用できそうと
    判断できるような実績が必要ですな。

    後部の形状は今どきのデザインですが、主翼とインテークがMiG-25っぽいですね。

    • 匿名
    • 2020年 12月 05日

    無人戦闘機みたいでカッコイイ!!

    1
      • 匿名
      • 2020年 12月 05日

      これは先々、敵の衛星をミサイルで攻撃するシステムに転用可能では
      米軍はそこを含んでいると思う

      7
    • 匿名
    • 2020年 12月 05日

    このサイズの衛星を相乗りじゃなしに打ち上げられるのは需要があるだろうな。相乗りではできない軌道でも投入できる。

    4
    • 匿名
    • 2020年 12月 05日

    次はマスドライバーか

    1
      • 匿名
      • 2020年 12月 07日

      ますドライバー財閥

      ヘビーオブジェクト…うっ、頭が……。

    • 匿名
    • 2020年 12月 05日

    NASAがF-15で小型ロケットを打ち上げる実験してたな
    その延長線か

    2
    • 匿名
    • 2020年 12月 05日

    こういうのみるとX-15が真っ先に思い出されるのは、ワイがおじいちゃんだからなのん?

    • 匿名
    • 2020年 12月 06日

    一気に宇宙空間までロケットで駆け上り、敵衛星を破壊したり軌道上から敵首都を空爆してから滑空し帰還する無人戦闘機
    それが第六世代と規定するのはまだ速すぎるかな、七世代くらいか

      • 匿名
      • 2021年 4月 03日

      世代云々より「戦闘機」カテゴリに入れていいかだね。

    • 匿名
    • 2020年 12月 06日

    もうこの値段なら普通にミサイルとして使えるな
    低軌道で500kgなら1000kgくらいの弾頭として使えるかな
    まーヘビーファルコンとかの方がコスパ良さそうだけど
    でも安価な機体が多数あった方が対処難しいしコッチが軍用的か

    • 匿名
    • 2020年 12月 11日

    メタルギアで昔見た

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