ウクライナ軍は19日「ロシア軍がミサイル攻撃に新たな戦術を採用してきたため迎撃作業が複雑化した」と明かし、ゼレンスキー大統領もミサイル攻撃を受けて「パトリオットやSAMP/Tの追加供給が必要」との認識を示した。
参考:Применили все сразу. Гуменюк раскрыла подробности ночного удара по Украине
参考:Одессу могут защитить дополнительные системы SAMP/T или Patriot – Зеленский
HIMARSと同じでパトリオットシステムも「システム自体」ではなく「使用弾薬の供給」に問題がある
ロシア軍は「クリミア大橋攻撃に対する報復」と称するミサイル攻撃を18日と19日に実行、この攻撃の大半は穀物輸出の重要拠点=オデーサ港とチョルノモルスク港を標的にしており、防空シールドをすり抜けたイラン製無人機と各種ミサイルが穀物ターミナルと港湾施設に命中、さらに市内でも倉庫や商業施設が攻撃の影響を受けて無視できない被害をもたらした。
南部司令部のフメニュク報道官も「ロシア軍は無人機やミサイルを幾つかのグループに分けて発射するが今回は異なる戦術を採用してきた。19日は無人機やミサイルを一斉に発射したため我々の迎撃作業を複雑なものにした」と言及、つまり19日の攻撃は飛行プロファイルが異なるShahed-136×32機、Kalibr×16機、Kh-22×8発、K-300P×6発、Kh-59×1発が目標に同着するよう調整されたもので、この負荷に防空システムの迎撃作業が耐えられず「63発中37発しか迎撃できなかった=迎撃率58%」という意味だ。
ゼレンスキー大統領はオデーサに対する攻撃について「パトリオットとSAMP/Tが何処に配備されているのかは明かせないが、このシステムが提供する能力は完璧だ。システムの追加供給があれば港湾施設だけでなくオデーサ自体を保護することができるだろう」と述べ、遠回しに「これまでに提供されたパトリオットシステム×2セットとSAMP/T×1セットだけでは不十分だ」と示唆したが、これはHIMARSと同じで「システム自体」よりも「使用弾薬の供給」に問題がある。

出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. Ujian Gosun
米国はウクライナにHIMARSを20輌(USAI経由で18輌の追加提供を約束しているが企業からの直接納品になるため時間がかかる見込み)提供したが、2021会計年度以前に調達したHIMARS向け弾薬は計5万発(訓練弾のM28、GPS誘導のM31、射程拡張タイプのERを含むGMLRS弾+ATACMS弾の合計)で、2022年から2027年までに予定されているGMLRS弾の調達数も約2万発(年間3,000発~5,000発)しかないため、仮に20輌のHIMARSがフル装填で1日2回攻撃を実施すれば1ヶ月間で7,200発のGMLRS弾を消費する計算だ。
つまりHIMARSを追加供給してもGMLRS弾の供給量が増える訳では無く、PAC-3弾の年間生産量も500発(2023年末までに550発に増加する予定)なので、パトリオットシステムを追加提供しても現在の産業界には「ウクライナのニーズ」を満たす迎撃弾の供給能力はない。

出典:Lockheed Martin
自国の安全保障を犠牲する覚悟があればシステム自体の追加提供は可能(パトリオットシステムの総生産数は約240基)で、システムを運用する米軍や同盟国が「発注済みのPAC-3弾取得」を諦めれば迎撃弾の供給にも余裕が出てくるが、このような画期的な決断が出てくるかは未知数だ。
追記:ロシア側情報源は「19日のミサイル攻撃でオデーサ地域の軍需産業の拠点、燃料タンク、弾薬庫、クロピヴニツキーのカナトヴォ空軍基地を破壊した」と主張しているが、これを裏付ける視覚的証拠はない。

出典:NASA FIRMS
追記:オデーサ国際空港(軍民共用)周辺で19日に火災が確認されており、この範囲にはショッピングセンターやオデーサ・ザキドナ駅などが含まれている。ロシア側情報源が「破壊した」と言及したクロピヴニツキーのカナトヴォ空軍基地では19日に火災は確認されていない。
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※アイキャッチ画像の出典:ДСНС України
まあ自国の安全と他国の安全どちらを優先するかといえば自国でしょうね
というか自国の安全をないがしろにする国は国家として失格でしょうし、それにアメリカならロシアだけではなく中国にも備えなければいけないでしょうし。
ウクライナに緊急かつ最も必要な装備は防空システムである。しかしロシアに対抗できるほどの大量の防空ミサイルを供給してしまうと、台湾引いては我が国が有事の際にSAMの弾薬が枯渇する事態になりかねない。
ロシアが大量運用するシャヘド136の航続距離は1,800から2,500 kmと推定されている。1,800kmとは上海から東京のおおよその直線距離である。そして中国はドローンの出荷機数で世界の70%を占めているとされている。
どれほど我が国の防空体制を強化しても過剰になることはないだろう。
どれほど我が国の防空体制を強化しても無駄だということでもあります。
社会の抗堪性を高めるしかありませんが、サプライチェーンという美名の効率を最大限に突き詰めた経済構造は、それと矛盾します。
311でどれだけ社会が麻痺したか体験しましたが、「爆撃された事態」を想定しておくことの方が現実的です。
物事の主要矛盾を解決しなければ意味がない。
ウクライナが迎撃弾を追加しようが、ロシア軍の装備製造拠点を破壊しなければ、再生産された飛び道具で再び攻撃される。
物事の主要矛盾を解決しなければ意味がないのであれば、「必要とあらばウラルの東まで移動させる」ロシアの装備製造拠点は破壊出来ないから、永遠に再生産された飛び道具で攻撃されるということだろう。
対ドローンでレーダー連動の高射砲が必要そうですね。
もちろん本邦は出せません。
むしろ、我が国も開発を頼む。
>対ドローンでレーダー連動の高射砲
どこの国のどれかは覚えてないけれど、以前このサイトで取り上げていたような。
たぶんインドかな?ボフォース40mm対空機関砲を近代化改修してドローン対策してます。
平和ボケしすぎて真面目に考えてなかったけど、迎撃ミサイル枯渇問題ってどこの国にも当てはまる問題だよな
生産設備インフラを狙ってお互いに撃ちまくる、撃ち漏らして破壊される、シールド薄いところは破壊されて人が死ぬ、ミサイルが尽きるまでお互いにこれを繰り返す
あまりに不毛すぎるわ
最後は生産力ですね
レーザーが一発100円とかでお安いんでしたっけ?
そっちの技術ツリー伸ばしたいですねぇ
敵のミサイルやドローンより安ければ敵が撃つほど、攻撃しているはずの敵こそが相対的に消耗する状態を実現する為に
ミサイル・弾道兵器の生産能力に定評のあるお国が複数お隣様に…
真面目に西側の兵器生産は韓国頼りですからね…戦前はこんな事になるとは思わなかった
日本も新規生産品の供与は厳しくとも期限切れ近いパトリオット弾薬とかホーク、スパロー/シースパローの供与とができませんかね?
馬鹿の一つ覚えのようにドローンとミサイルを撃ち続けてるイメージやったのに、ウクライナ側の迎撃率を6割程度まで下げるとは案外ロシアも学んでるみたいね
うーんどうなんだろう
言われているような多種同時着弾くらい以前からやっていたような気がするし、本当にそんな戦術の変更があったのかどうか
迎撃弾の弾切れを悟らせないよう欺瞞情報を流しているだけかもしれない
70年のオケアン演習で既に実証していますし、この手のノウハウはロシアの方が上手かな?という印象を受けますね
元々は迎撃弾を枯渇させるためだったから
あえてバラバラに飛ばして迎撃前提で攻撃していたとか言われてなかったっけ?
(じゃないと毎日毎日少しずつ送ってくるとかバカみたいじゃん…)
今回は報復だから本気だしてきたんだろう
PAC3がなかなか増えないのは仕方がないとして。
話のあった、シースパローやHAWKはどんな状況なのでしょう。
この両者なら、普通の巡航ミサイルや航空機は相手にできるでしょうし。
米国のヴァンパイア対空ミサイルの供与状況はどうなのでしょう。
これは、ミサイル単体のコストが22,000ドルだそうで、
シャヘドとたいして変わらないと思われます。
UAV対策の既存対空砲は、順次レーダー照準に変えていかないとですね。
ほえーと思ってヴァンパイア?とやら調べてみたらヘリで撃ち出せば5キロ 戦闘機なら11キロぐらいの射程があるけど
地上から撃ち出したら0.4~1.6キロしか飛ばないと書いてある。安いけど射程短すぎて使いにくくない?
ロケットモーターの能力を大きくする改修計画は
進んでいるみたいですね。
ここの記事で2021.10.14 に
”BAEがAPKWSによるUAV迎撃に成功、
スティンガーと比較して迎撃コストは1/6”
というのがありました。
レーダーは高価なんで一々対空砲に付けてる余裕はないです、たしか元の機銃の10倍以上掛かるので
短SAM以下はカバー範囲が狭く、中SAM以上はコストが高すぎると言う八方ふさがりに陥ってる状態、短SAM程度だと町の反対側から来られただけでカバー範囲外になるからマジでどうしようもない。
安い旧式は誘導方式に難があり。
例えばイルミネーターで誘導するタイプなら、地上の機械で捜索レーダーのスクリーンに映った数個の光点の一つを指定して照射する、という動作が必要ですが。
この場合、画面に63個の光点が映ってるわけです。最新のイージスならともかく、ウクライナに供与されてるのは旧式のミサイルばかりなので,この時点でもう処理しきれないシステムが出てきます。多分旧式ホークも無理じゃないですかね。
さらに、基本は1ミサイルに対して2発の対空弾が発射されるので、結果として空には63+63*2=189個のオブジェクトが同時に存在することになります。
さらに対空ミサイルのブースターが切り離されることで,レーダーに映る光点は315個に増加し。
そして対空ミサイルが命中すると破片が散乱し、それもレーダーが拾ってしまうので、さらに状況は悪くなります。
アメリカのイージスシステムはまさにこういう状況を処理するために開発されているわけですが、機密の塊ですからウクライナにはプレゼントしてないでしょうから。
旧式のイージス前のシステムでは、ロシア側の想定通りに飽和攻撃が成立してしまう,ということですね。
ESSMじゃなくて単なるシースパローだと米国は作っているのかって気はするし、作ってないなら何処から調達するんかな。本邦でもシースパローが高いってESSM搭載改修してた気はするけど。
ホークはメンテ無しでそのまま渡せるかや台湾との交渉次第だろうから未知だろう。
ウァンパイアの1発の値段はAPKWSの値段そのものな気がするのでウリである近接信管含めると跳ね上がりそうだし、射撃装置を除けばBAEの対ドローンAPKWSその物だろうから兵器システムとして渡すのに時間がかかり命中率に優位な差がない場合はAPKWSをそのまま渡した方が早い気がするな。その内探知や射程延伸含めてUAVにでも搭載するんじゃないかと思う。
あとは30mmエアバースト機能を持つ砲弾も提供しているけど数は限られるし無いよりマシな状況は変わらないね。
NASAMSは活躍しないのか
製造能力とコストを度外視すれば既存の防空ミサイルシステムで対処できるのでしょうけど、現実はそうは行きませんからね。
新しい概念の防空システムが必要ではないでしょうか。
レーザー兵器など低コストの兵器も開発中ではありますが、既存技術で実用化できそうなのは製造やコストを考慮すると古いですが砲弾しかないでしょう。
例えば艦載砲である76mmオートメラーラスーパーラピッド砲と捜索・射撃レーダーを組み合わせた防空システムはダメでしょうか?
発射速度や射程もそれなりにありますから、今の機関砲より使えるはずです。