ウクライナ戦況

ウクライナが初めて露Tu-22M3の破壊に成功、掩体壕の必要性が浮き彫り

ロシア国防省は19日「クアッドコプタータイプの無人機で基地が攻撃を受けて航空機が損傷した」と発表していたが、この攻撃で燃えるTu-22M3の画像が登場し、Moscow Times紙は20日「ウクライナは初めて戦略爆撃機の破壊に成功した」と報じている。

参考:The Moscow Times

実際にやられるまで本気で対策に乗り出さないというのは万国共通なのだろう

ロシア国防省は19日「ウクライナがノヴゴロド州の航空基地(恐らくソリツイ2空軍基地)をクアッドコプタータイプの無人機で攻撃した。基地のエプロンで火災が発生したものの直ぐに消し止められ、航空機1機が損傷した」と発表していたが、Telegram上には航空基地で燃えるTu-22M3の写真が登場、これを受けてオランダに拠点を置くMoscow Times紙は20日「ウクライナは初めて戦略爆撃機の破壊に成功した」と報じて注目を集めている。

ロシア空軍はTu-22M3を約60機保有しており、内30機をKh-32やKh-47M2の運用に対応したTu-22M3Mにアップグレードしている最中で、Tu-22はウクライナに対するミサイル攻撃にも投入されているのだが、恐らくロシア国内に潜入した工作員がドローンを使用してソリツイ2空軍基地を攻撃、エプロンに駐機してあったTu-22M3に命中して航空燃料に引火し、修復不可能まで破壊することに成功したのだろう。

この件についてロシア側情報源(Рыбарь)は「航空機を守る掩体壕の必要性はフメイミム空軍基地に対する攻撃で初めて浮き彫りになり、特別軍事作戦の開始によって掩体壕の必要性はさらに重要さを増していたが、写真を見れば分かる通りTu-22の頭上を守るものは何もない。中東でコンクリート製の掩体壕が破壊された例を挙げて無意味だという主張もあるが、我々の航空機が晒されている脅威はトマホークではなく手榴弾を搭載した商用ドローンで、この攻撃は簡単なメタルネットでも防ぐことができる」と指摘。

出典:Public Domain 掩体壕から出すため牽引されるF-16

さらに「この手の防護装置は比較的簡単に作成でき、Tu-22を失うよりも明らかに低コストで調達できるだろう。もうTu-22は生産されていないのだがら、どうやっても今回の損失を補充するのは不可能だ」と主張しており、どれだけ効果的な軍用機も駐機状態では無防備で、これを誰でも入手可能な商用ドローンで破壊することができるのだから「対応する側にとっては悪夢」としか言いようがない。

どれだけTu-22をウクライナ国境から離れた地域に移動させても、潜入した工作員が神出鬼没に商用ドローンで攻撃してくるなら「距離を取るという対策」は無意味に近く、こんなことは誰もが分かっていたことだが、実際にやられるまで本気で対策に乗り出さないというのは万国共通なのだろう。

関連記事:空自、那覇基地のバックアップとして離島の民間空港拠点化を検討

 

※アイキャッチ画像の出典:Telegram経由

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コメント

    • 幽霊
    • 2023年 8月 21日

    一度被害を受けないとなかなか動き出さないのは組織として良く有る事でしょうね
    今回の被害を受けてロシアは掩体壕の設置を急ピッチで進める事でしょう。

    23
    • 名無し
    • 2023年 8月 21日

    この問題はF-16を提供された場合のウクライナにも当てはまるよなあ

    21
      • 2023年 8月 21日

      侵攻初期にウクライナは分散して隠して対応していたし、今あるMIG戦闘機でも状況に違いがないと思う。
      だからF-16でも、ことさら問題にならない気がする。
      あとF-16もMIGと同様に時間が経てば消耗していく運命だと思うから1機も破壊されないとは言えない。

      13
        • 58式素人
        • 2023年 8月 21日

        F16で問題なのは。米空軍はずっと言ってるようですが。
        整備(キチンと舗装/清掃)された施設が必要とのこと。
        避難先はいわゆる前線基地(仮設設備)なのでしょう。
        グリペンは一般舗装道路でOK、ロシア機は草地でも問題ないそうです。
        F16は、インテークが下ですから、推して知るべしと思います。
        ですから、移動は大変でしょう。
        使い方を誤るとあっという間に損耗しそうな気もします。

        11
    • 58式素人
    • 2023年 8月 21日

    過日、ベラルーシで反体制派の方が、
    A50を的に遊んでいたようですが。
    アレは惜しかったですね。
    A50はウクライナ側の航空劣勢の原因の一つですから。
    日本も他人事ではないでしょうね。
    軍事施設と民間との物理的距離が近いですし。
    過激派やフレンズの人たちが心配です。
    物理保護(近頃はこう言うみたい)を考えないと、ですね。

    13
    • 名前
    • 2023年 8月 21日

    やっぱり自衛隊の掩体壕不足は深刻だなぁと思います。台湾有事の際のシミュレーションでも飛行中に戦闘で打ち落とされるより、地上で撃破されるケースが多い。
    防空レーダーやミサイルは365日24時間万全に基地を守れるわけじゃないし、人員も必要。掩体壕は直撃でない限り被害を大きく軽減してくれる。

    73
      • マサキ
      • 2023年 8月 21日

      本当にそれ。
      沖縄とか、最優先に整備しなくてはいけないのに、全然していない。

      あと、呉で停泊している潜水艦とか公園から丸見え。ドローン攻撃でやられるのではとずっと思っていた。
      不謹慎だが、ドローンも善光寺ではなく、潜水艦基地に落ちていたら、もう少し真剣に考えたのかな?

      45
        • fuyu
        • 2023年 8月 21日

        たしか管理人さんが
        自衛隊潜水艦基地の
        ドローンへの無防備さを指摘されていたことがあったと思います

        あの記事を再掲してくださったらいいなと思います
        (閲覧者が増えているので、問題認識してくれる関係者が出ることを期待)

        13
      • kitty
      • 2023年 8月 22日

      リンク
      「空自15分全滅説」の根拠 航空基地に「掩体」なぜ必要? 現代戦の定石から機を守れ!

      三沢基地は米軍と共用だから、まともに掩体運用化が進んだんでしょうかね。
      掩体の土木工事なんて、技術的な困難なんてないでしょうに。

      4
    • panda
    • 2023年 8月 21日

    空自もアラートハンガーや分散パッドの整備は推進してますね

    15
    •  
    • 2023年 8月 21日

    露天駐機の問題は日本も散々言われてきたけど商用クアッドコプター程度でこんなことになるならなおさら対処しなきゃなあ
    沖縄とか凧飛ばして飛行の妨害する過激派がいるわけだし

    47
    • 分析
    • 2023年 8月 21日

    今の商用ドローンは3、4kmは余裕で飛ばせますし、空港周辺その範囲を24時間警戒し続けるのはほぼ不可能でしょうね
    開戦前に数百人の工作員とドローンを送り込んで、開戦直後に空軍基地や海軍基地の高価値目標を停止中撃破なんて作戦も取れそうです。

    22
    • ジュディ
    • 2023年 8月 21日

    これまで、散々言われてきたことだが、半世紀以上前から航空機は地上にいる時は圧倒的に脆弱
    距離自体にはこれまで撃破出来なかったことを踏まえると意味はあった
    地上撃破の方が圧倒的に簡単
    アパッチも地上にいれば破壊は容易

    17
    • たむごん
    • 2023年 8月 21日

    日本も、掩体壕の整備が遅れていますからね。
    日本で発生したら、自衛隊航空機や艦船がボロボロになってます。

    松島基地のF2が津波被害にあいましたが、掩体壕が整備・入り口を土嚢などで封鎖していたのであれば、被害が軽減されたのか妄想しました。

    17
    • AH-X
    • 2023年 8月 21日

    空自も有事の際には主要基地以外の基地や民間空港に分散配備するんでしょうがこういう小型ドローンは確かに脅威ですね。
    簡単なシェルターならすぐできるんでしょうが、こういう攻撃って平時にもいたずら目的でやりそうな輩がいそうなので普段から簡易シェルター用意しとくべきかなと。

    あと輸送機や哨戒機みたいな大型機体はなかなか隠蔽できないので頭の痛い問題。

    19
    • XYZ
    • 2023年 8月 21日

    これがロシア側から見ると「損傷」なんですね。
    損傷はしているのでしょうけど、これだと喪失の方が適切でしょう。

    日本も掩体壕の整備や今はやっていないようですが、スウェーデンやスイスがやっていたような山をくり抜いて秘密基地の建設なども要検討かもしれません。
    イランは作ったものの、速攻で位置バレしていたようですが。

    15
    • 黒丸
    • 2023年 8月 21日

    自衛隊は掩体壕新設の前に老朽化した施設の更新が必要な状況ですから
    リンク
    当面は有事に簡単なテントかヘスコ防壁での掩体構築で対応するしか手が無いような。

    6
    •  
    • 2023年 8月 21日

    今日もなんとか致命傷ですんだぜ。

    20
      • しゃる
      • 2023年 8月 21日

      命尽きてますよ(指摘)

      9
    • Easy
    • 2023年 8月 21日

    これは非対称戦で起きる典型例と言えますね。
    ロシアが詰んでいる一つの理由が、たとえ西側の支援が途絶えてウクライナ政府を組織的抵抗のできない状態に追い込んでも。
    その後に来る「ウクライナテロリストによる終わりのない破壊工作」が待っています。
    本来駐機中の軍用機が脆弱なのは今に始まった問題ではありませんが。そこに攻撃をかけるのは事実上の自殺攻撃に近かったわけです。攻撃成功しても逃げようがないですからね。
    が、ドローンにより、キロ単位、時には数十キロ離れた安全な場所から遠隔攻撃を仕掛けることができるようになりました。
    攻撃のハードルを著しく下げてしまったので、これは今後の世界でとてつもない大問題となりますよ。

    12
    • 朴秀
    • 2023年 8月 21日

    自衛隊もロシアを笑ってるだけじゃないよな?
    何もしていないとかだったらアホ過ぎるぞ我が国

    25
    • DEEPBLUE
    • 2023年 8月 21日

    工作員が国内に多数いる日本の方が深刻だろうに何十年放置しているのだろう

    26
    • Natto
    • 2023年 8月 21日

    ベトナム戦争当時の航空基地みたいに波板で区画するだけでめ被害の出方は違うんじゃ?

    2
    • 狂信者
    • 2023年 8月 21日

    日本だったら開戦前に各航空基地壊滅だろうなあと思うのであった
    海自基地も潜水艦とか係留してるすぐそばまで近寄れちゃうし

    5
    • nachteule
    • 2023年 8月 21日

     掩体壕があったとしても入り口開いているならUAV攻撃の若干ハードルが上がる位でプラスアルファの対策必要だろう。掩体壕侵入防止や撃撃システム構築は必要だと思うが。

    2
    • Bak.
    • 2023年 8月 25日

    ここから解任はともかく暗殺とは…

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