ウクライナ戦況

ウクライナ軍が巡航ミサイルを54発撃墜、但しS-300の迎撃弾がベラルーシ領に着弾

ウクライナ軍は29日「ロシア軍が発射した巡航ミサイル69発の内54発を破壊した」と発表したが、ウクライナ軍が使用したS-300の迎撃弾がベラルーシ領に着弾したと報じられている。

参考:Воздушные силы уточнили, чем и откуда Россия ударила по Украине 29 декабря
参考:В Харькове – серия взрывов
参考:На территорию Беларуси упала украинская ракета. Военные разбираются в произошедшем

両大統領府顧問が言及した100発以上(120発以上)という数字は巡航ミサイル+Shahed-131/136+5V55Rの合計数である可能性が高い

ロシア軍は29日朝にウクライナに対する大規模なミサイル攻撃を開始、大統領府顧問を務めるオレクシイ・アレストビッチ氏とミハイロ・ポドリアック氏は「100発以上(120発以上)のミサイルを発射した」と警告していたが、ウクライナ軍は「ロシア軍が発射した巡航ミサイル(Kalibr、Kh-101、Kh-555、Kh-22、Kh-32、Kh-31P)69発の内54発、Shahed-131/136を11機(発射された総数は不明)を破壊した」と発表した。

出典:Командування Повітряних Сил ЗСУ

発表された巡航ミサイルとShahed-131/136の数を足しても80発に過ぎず、両大統領府顧問が言及した100発以上(120発以上)に遠く及ばないが、これは対地攻撃モードで発射されたS-300の迎撃弾(5V55R)が発表から漏れているからだろう。

29日に5V55Rが何発発射されたのかは不明だが、現地メディアは「スームィ州とハルキウ州のインフラに5V55Rが着弾した」と報じているためロシア軍がS-300の対地攻撃モードを使用したのは間違いなく、両大統領府顧問が言及した100発以上(120発以上)という数字は巡航ミサイル+Shahed-131/136+5V55Rの合計数である可能性が高い。

出典:Oleksii Reznikov ウクライナ軍が11月に発表したロシア軍のミサイル備蓄量(推定)と2月23日以降のミサイル生産量(推定)

ウクライナ空軍の報道官は11月、ロシアがイラン製弾道ミサイルを入手する可能性について「これを効果的に阻止する手段を我々は持っていない。手持ちの防空システムでも迎撃は論理的に可能だが、我々にミサイル防衛の能力はない」と述べており、S-300の対地攻撃モードで発射された5V55Rは弾道ミサイルと同じように放物線を描きながら目標に接近(最大120km先の目標を攻撃できるらしい)するため「迎撃が難しい5V55Rの攻撃を意図的に公式発表から外している」と解釈するのが妥当だ。

これも情報戦略の一種(ウクライナ軍兵士の数を積極的に公表しないと同じ趣旨)なので何の問題もないが、ロシア軍は旧式の5V55Rを大量に保有(6,000発以上)しているため「ロシアと国境を接する地域」や「ロシア軍占領地域に近い地域」の困難は今後も続くと思われる。

追記:今回のインフラ攻撃でウクライナの電力システムに損傷が発生したため各地で電力供給が止まっており、キーウやハルキウでは民間人に死傷者が出ている。上記の動画はウクライナ軍兵士がMANPADS(恐らくStrela2かGrom)で巡航ミサイルを撃墜するシーン。

追記:今回のミサイル迎撃で使用されたウクライナ軍のS-300迎撃弾がベラルーシ領に着弾したと報じられている。

関連記事:再びロシア軍が大規模なミサイル攻撃を開始、キーウ、ハルキウ、オデーサで爆発音
関連記事:ウクライナ軍はお手上げ、ロシアがベラルーシ領にイラン製弾道ミサイルを配備か
関連記事:巡航ミサイルの不足? ロシア軍が地上目標の攻撃にS-300を使用か

 

※アイキャッチ画像の出典:Командування Повітряних Сил ЗСУ

再びロシア軍が大規模なミサイル攻撃を開始、キーウ、ハルキウ、オデーサで爆発音前のページ

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コメント

    • A29
    • 2022年 12月 30日

    対空戦闘回数が多いから部隊練度が凄まじいね。迎撃数がハンパねぇ
    そらぁ彼等の機材をアプデされると困るわな

    5
    • たら
    • 2022年 12月 30日

    MANPADSって、すごいスピードなんですね。巡航ミサイルが去って行ってしまうのかと思ったら、当たってる。

    22
      • 2022年 12月 30日

      性能を隠すための映像カットかも知れんが
      あれはちょっと違和感あるね。光速ですがな

      • バーナーキング
      • 2022年 12月 30日

      映像自体はカットされてるかもしれんけど、
      初期型スティンガーでもM2.2以上、亜音速巡航ミサイルはM0.8以下(秒速300m足らず)なので
      直上通過数秒後なら十分撃墜できるかと。

      24
      • ネコ歩き
      • 2022年 12月 30日

      高度差等、迎撃ミサイルの飛翔軌道を無視してですが、
      Va;巡航ミサイルの飛翔速度(一定)
      Vb;命中までの迎撃ミサイル平均速度
      Ta;巡航ミサイル頭上通過後発射まで要した時間
      Tb;迎撃ミサイル発射後命中まで要した時間
      とすると、
      Va・(Ta+Tb)=Vb・Tb が成立します。
      つまり
      Vb=((Ta+Tb)/Tb)・Va です。
      Va及びTaが大であるほど、Tbが小であるほど Vb は大になる理屈です。
      映像から概略
      Ta=3~4s、Tb=3s とすれば、Vb≒2.0・Va ~ 2.3・Va になります。
      飛翔高度から巡航ミサイル速度はM0.8に達していないでしょう。
      仮に Va=M0.7 ならば Vb≒M1.4~M1.6 になります。
      最高到達速度M2超クラスのSAMならば平均速度として妥当な範囲かと。

      ちなみにこの場合の概略撃墜位置は 約1.4km~1.6km先 になる計算です。
      このくらいが実相に近いのだろうと推測します。

      14
    • けい2020
    • 2022年 12月 30日

    >ロシア軍は旧式の5V55Rを大量に保有(6,000発以上)
    射程が短くても、こいつを30%も混ぜてウクライナの防空網を飽和させれば、攻撃成功率があがるなぁ

    14
    • K(大文字)
    • 2022年 12月 30日

    ロシアがS300を呑気に対地攻撃モードで放り込めるのも、結局は自国内への攻撃リスクを考慮しないが故の舐めプでしょう。
    ロシア領内の軍事施設への攻撃をこれまでのハラスメント程度ではなく、恒常化する。
    これだけでも、SAMの対地転用のハードルは上がります。
    エスカレーションとの兼ね合いもありましょうが、対空防御システムの構築と並行して考慮すべき事項かと。
    やはり、世の中相手の攻撃を受け流すだけではキリが無いのも事実なので。

    46
      • 2022年 12月 30日

      この間のロシア領内空軍基地のドローン攻撃は正当防衛としか言いようがない
      少なくてもウクライナを攻撃している航空機や、ミサイル発射基地を攻撃してはいけない理由がない。
      だから、どんどんやってほしいがその為の兵器生産がインフラ施設の攻撃で滞っているのかもしれない。

      33
      • 幽霊
      • 2022年 12月 30日

      ロシア領を攻撃可能な兵器を西側諸国が提供しないのでウクライナが独自に用意する必要が有りますが、現状ウクライナがロシア領を恒常的に攻撃出るだけの数を揃えるのは難しいでしょうね。

      14
      • nachteule
      • 2022年 12月 30日

       別に舐めプでも無く既存の資産をそのまま有効活用するならば他に選択肢が無いと言う事情だと思うけどね。

       S-300の誘導装置不具合による問題なんか表に出ているだけでも数回あるし、まともにメンテナンスして対空兵器として信頼性向上させて使う気が無いか出来ないならば、ウクライナ方面に投射させてに目標に当たればよし駄目でもウクライナ攻撃出来るから一番マシな手段だろう。
       散々航空機も墜落している上に自国防空システムに裏切られて撃墜も出来ずに『ウクライナの攻撃+発射した5V55R』被害のダブルパンチ発生するとか流石に間抜けすぎて許容出来ないだろう。

    • G
    • 2022年 12月 30日

    >S-300の迎撃弾がベラルーシ領に着弾
    一番の原因はロシアとはいえ、これはベラルーシに介入の口実を与えうることですのでこの先の反応がきになるところ
    そういえば以前ポーランドへ同様に流れ弾が着弾し、しかもそちらでは死者もでた件がありましたが、その後どうなったのでしょうか

    4
      • 航空万能論GF管理人
      • 2022年 12月 30日

      未だにウクライナ側は関与を認めておらず、ポーランド側も「調査の最終結果が出るのは数ヶ月後になる」と言っているので、事件の風化=有耶無耶にする可能性が高いです。

      29
        • G
        • 2022年 12月 30日

        情報ありがとうございます

        7
      • makumaku
      • 2022年 12月 30日

      ベラルーシは静観を決め込む模様
      リンク
      ベラルーシは参戦したくないだろうから、ロシアが騒いでも火消しに走るだろうね。

      6
      • nachteule
      • 2022年 12月 30日

       ベラルーシ側が再発防止とか求めた自国利益を最大限考えたであろう大人の対応?してるからそこまででも無いような。

       それにしてもロシアに協力しているからやられても文句が言えない立場だろうが、ウクライナ国防相がウクライナ侵攻に参戦しないよう望むとか言って10日しないうち、ポーランド相手にやらかしてから2ヶ月もしないうちに外交上揉めそうな同じ事を再現する体制よ。
       これじゃ不謹慎だがコントでもしているのかと思ってしまう、やられても仕方ない相手だとは言えこれから先ウクライナが周辺国にどれだけ対策しますと言っても説得力なんて無いよ。

      • もへもへ
      • 2022年 12月 31日

      前のポーランドの件も散々大事にしないから認めろって西側にも言われたのに結局認めなかったしね。

      正直、どんな戦果の過大発表しようが情報隠そうが決死擁護してくれる人が大量にいるんだから自分たちに都合の悪いことは認めないでしょ。

      いつもの苦しいアピールは援助欲しさだし。
      それに直接関係しない都合の悪いことは絶対認めんでしょ。

      日頃情報の正確さとか嘘許さないとか言ってるのに自分のお気に入りが同じことやっても養護するダブスタは本当に辞めてほしい。

      1
    • ソルビトール液
    • 2022年 12月 30日

    動画を撮ってMANPADSを用意してたから防空情報を受け取って巡航ミサイルを待ち構えてたんだろう。

    6
    • 小野
    • 2022年 12月 30日

    800km/h程度のミサイルに、2~3秒で追い付くって
    マッハ1-340m/s
    マッハ2で5秒後でもSAMの到達距離は3.4km先
    ミサイルは5秒後分更に進んでいる

    2
      • バーナーキング
      • 2022年 12月 30日

      800km/h=288m/s
      3.4km/288(m/s)≒12s
      SAMが5sで飛ぶ距離飛ぶのに巡航ミサイルは12s掛かるので7秒後に撃てば5秒で追いつける計算だね。
      上昇・加速分の時間も必要だけどスティンガーの射程は4〜4.8kmあるから相殺してざっくり「通過してすぐ撃てば間に合う」と考えとけばいいんじゃないかな。

      7
      • バーナーキング
      • 2022年 12月 30日

      ああ、映像が2〜3秒で追いついてる、って話か。
      それなら速度がざっくりMに0.8対M2⇒2対5だとして、上空通過T秒後の距離を2×Tとして、追いつくのに必要な時間tは2(T+t)=5t ⇒ 2T=3t ⇒ t=2/3T
      直上通過(0:02)から発射(0:07)までが約5s、撃墜?が0:10で発射から約3s。2/3×5=3.3だからそんなに違和感のある数字ではないんじゃないかな。
      あと亜音速巡航ミサイルは大気密度の高い低空ではカタログスペックより遅くなると思う。
      M0.8が0.7、0.6になれば上の係数2/3が小さくなるので発射から撃墜までに要する時間は更に短くなるね。

      4
    • タイヤキ
    • 2022年 12月 30日

    ウクライナのインフラがなおったとたんに攻撃とはね。
    ヨーロッパのいん

    • タイヤキ
    • 2022年 12月 30日

    ウクライナのインフラがなおったとたんに攻撃とはね。
    ヨーロッパのインフラ復旧部品の製造能力とイタチごっこですね。
    ロシアの攻撃がえげつない。ロシアがウクライナ占領地帯全域に地雷原や龍の歯など備えた防御陣地を各地で建設中だから、ロシアが防御整えて攻撃するための時間稼ぎでしょう。

    2
      • 7743
      • 2022年 12月 30日

      インフラ攻撃の対策としては、地下に設置するのがベターだと思います。

      日本はビル用の中型発電は結構、多くのメーカーが扱っているので、積極的に支援してほしいですね。

      5
        • nachteule
        • 2022年 12月 30日

         それをする事を世界が許すかって話がまずあってコロナとかで散々納期遅延発生しているんで、先約を飛ばして提供出来るのかそれが出来たとしてもまともにメンテ出来ずに寿命減らしたら尻拭いするのか海外のサプライヤーに問題が無く安定供給出来るのかの問題もある。

         民需に限らずだろうがいろんな製品がグローバル化や効率重視したせいでイレギュラーな事態に弱くなっている。

        1
    • 58式素人
    • 2022年 12月 30日

    ウクライナ軍は、重要インフラの周りに
    C-RAMに類するものは置いているのでしょうか。

    2
    • ぱんぱーす
    • 2022年 12月 30日

    >S-300の対地攻撃モードで発射された5V55Rは弾道ミサイルと同じように放物線を描きながら目標に接近(最大120km先の目標を攻撃できるらしい)するため「迎撃が難しい5V55Rの攻撃を意図的に公式発表から外している」と解釈するのが妥当だ。

    少し前にウクライナの迎撃漏れミサイルの数より攻撃を受けたインフラの数が多いという話をSNSで目にしましたが、こういう事だったんですね。
    実態の把握が難しい事もあるでしょうし、軍や政府が常に正直に情報を発表しているはずもないですね。
    情報戦なんですから。
    これについては当然ロシアも同じなんでしょうね。

    4
    • totprDog
    • 2022年 12月 31日

    日本は細長い国土を持ち人口が海岸部に集中しているから
    送電線(電柱に乗っかってる配電線ではない)の路線も同様に分布しており
    今回のような徘徊型兵器による電力網への攻撃に非常に脆弱だと思う。

    速度の遅い徘徊型兵器だと鉄塔だけでなく電線自体を狙うことも可能だろうし、
    路線図がテロ対策で地図に載っていなくても、
    GoogleMapの衛星画像で確認できる程度には情報が得やすい。
    また攻撃を受けてしまうと普通はそんなに切れるものではないから
    修理ができる送電鳶の存在はとても希少。

    第二次世界大戦のころの戦略爆撃は結局都市に対する攻撃でしかなく
    疎開等で価値が分散してしまえばよかったが、今は電力だけでなく通信や物流など
    ネットワーク的なインフラが多く一部への攻撃が思わぬ部分へのダメージにつながる。
    今回の戦争で『防衛費増額は戦闘機やミサイルを購入するということ』
    だけでは防衛力の強化につながらないなと感じた。

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