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長距離攻撃能力が欠けるF-35、地上攻撃は第二次世界大戦時と同じ方法

TelegraphはBlock4開発遅延に関連している空対地ミサイル統合遅延について「長距離攻撃能力がないF-35による地上攻撃は第二次世界大戦時と同じ方法、つまりランカスターの乗組員が遂行したのと同じリスクの高い任務になる」「これは英国防省にとって大惨事だ」と報じた。

参考:Britain’s F-35s to be deprived of long-range missiles ‘until early 2030s’

現時点でF-35Bが地上目標を攻撃するにはランカスターがやったのと同じように目標の上空から爆弾を投下しなければならない

英国は米国に次ぐF-35プログラムの出資国(25億ドル)で、この立場を活かしてMBDA製の空対空ミサイル=Meteor、Brimstoneから派生した空対地ミサイルのSPEAR-3統合を要求し、初期作戦能力の獲得時期は当初「2020年代半ば」と報告していたが、2022年2月には「早くても2027年頃になる」と、2024年1月には「2020年代末」と遅延を繰り返し、国防省は両ミサイルの統合遅延について「Block4の開発遅延に関連している」と説明。

出典:Royal Air Force

Block4を完成させるにはBlock4のソフトウェア、システムインフラストラクチャーを刷新するTechnology Refresh3、F135の能力を強化するEngine Core Upgrade、電力・冷却システムを改良するPower and Thermal Management Systemの4要素、さらにAN/APG-85への換装、AN/ASQ-239、EOTS、DASの強化、ウェポンベイへのサイドキック搭載なども必要で、現時点で完成しているのはAN/ASQ-239のアップグレードとサイドキックぐらいしかなく、TR3はLot15から量産機への組み込みが始まっているもののソフトウェアが未完成だ。

一時は「完全なBlock4が2029年以降に登場する」という見通しもあったのだが、米空軍のシュミット中将は2024年4月「Block4で予定されている多くの能力は2030年代まで実現しない」「そのためBlock4自体を再構築することになった」と、英国のイーグル防衛装備担当閣外大臣も最近「Block4へのSPEAR-3統合は2030年代初頭と見込まれている」と明かし、SPEAR-3統合時期は2020年代末から2030年代初頭へ再び遅延した格好で、これはシュミット中将の発言にリンクしていると解釈できる。

出典:Forsvaret

つまりMeteorとSPEAR-3の統合はBlock4の完成とリンクしているため、JSM、JASSM、LRASM、JAGM、SiAWの統合も2030年代初頭である可能性が高く、米国が予想している2027年以降の台湾侵攻には間に合わないかもしれない。

この件について英メディア=Telegraphも「戦車、基地、掩体壕などを遠距離から破壊できるSPEAR-3のF-35B統合は2025年から2028年に延期されていたが、イーグル閣外大臣が2030年代初頭まで延期されると明かした」「そのため専門家はF-35Bが地上目標を攻撃するのに第二次世界大戦時と同じ方法、つまりランカスターの乗組員が遂行したリスクの高い任務になると指摘した」「SPEAR-3の統合延期は英国のF-35Bにとって災難を意味し、Tranche1の後継機にTranche4ではなくF-35を追加発注する動きに大きな打撃を与えるだろう」と報じた。

出典:Royal Air Force PavewayIVの投下テスト

“英国が運用中のF-35Bは中距離及び短距離の空対空ミサイルとPavewayIVで武装している。ここにSPEAR-3が加わると60マイル以上離れた地上目標を空から攻撃できるようになるが、この能力の取得は2025年から2028年に、2028年から2020年代末、そして2020年代末から2030年代初頭に延期され、専門家は「ロシアとの戦争に備えなければならない英国防省にとって大惨事だ」「長距離攻撃能力がないF-35Bによる地上攻撃は第二次世界大戦時と同じ方法、つまりランカスターの乗組員が遂行したのと同じリスクの高い任務になる」「これではF-35Bを保有する意義が損なわれる」と指摘した”

英国は空対空戦にしか対応していないTranche1を今年4月までにほぼ退役させ、この後継機として「Tranche4を調達するのか」「F-35B(もしくはF-35A)を追加調達するのか」で揉めており、前者はGCAP実用化まで戦闘機の組み立て能力を維持するのに役立ち、後者は第5世代=ステルス能力による航空戦力の強化に寄与するものの、タイフーンの最終組立てライン維持が困難になっている英国の労働組合は「F-35を購入して再び米国を偉大にするのか」「それともタイフーンを購入して自国産業を支援するのか」と訴えている。

出典:U.S. Air Force photo by William R. Lewis

専門家は「閣僚らがタイフーンではなく米国製戦闘機を追加購入するかどうかを検討している時期にSPEAR-3統合遅延が発表されたため、この動きに大きな打撃を与え、まもなく発表される国防戦力の見直しの中でも確実に取り上げられるだろう」と述べおり、フーシ派の初歩的な防空能力、赤外線センサーとレーダー誘導方式の地対空ミサイルを組み合わせたユニークなアイデアが米軍のF-35に脅威を与えている状況も加味すると、Block4の開発遅延に関連した「長距離攻撃能力の欠如」はF-35の価値を大きく損なっているのだろう。

因みにSPEAR-3はタイフーンでの試射に成功しているが、あくまでSPEAR-3はBrimstoneから派生したF-35専用システムなのでタイフーンに採用する予定(サウジが望めば統合可能)はなく、英国を含むタイフーン運用国は2026年末までに統合されるBrimstone-3を発注しており、この点もF-35へのSPEAR-3統合遅延とは対称的に映る。

追記:精密誘導爆弾による攻撃自体は「作戦コストが安価」という利点があるので否定的に捉える必要はないものの、防空システムやMANPADSの普及、防空システムの高性能化、ステルス機対策の知見とノウハウの蓄積によってスタンドインに困難になっているため、第5世代機も長距離攻撃兵器で安全マージンを高めるしかないのかもしれない。

関連記事:3度目の遅延、英国が要求したSPEAR-3のF-35統合は2030年代初頭
関連記事:問題は赤外線センサー、フーシ派の初歩的な防空システムがF-35を脅かす
関連記事:フーシ派に対するトランプ大統領の勝利宣言、実際には軍事的勝利から程い
関連記事:F-35購入で米国を偉大にするのか、タイフーン購入で自国産業を支援するのか

 

※アイキャッチ画像の出典:NATO Allied Air Command

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コメント

  • コメント (29)

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    • 朴秀
    • 2025年 5月 27日

    スタンドオフ必須ならステルス機でなくてもいいような気がしますが

    しかしいくらなんでも開発に手間取りすぎじゃないですかねF-35

    21
      • ドゥ素人
      • 2025年 5月 27日

      乗員保護の観点から言うと、やっぱりステルスはあった方がもちろんいいんですけど、いかんせんF-35のような小型単発機はウェポンベイや発電能力、冷却能力が足りなさ過ぎです。

      スタンドオフでも、相手からしたら発射前に落としたいですから空戦仕掛けてくるでしょうから、F-35は護衛に終止するんじゃないでしょうか?

      元の多目的使用はできなさそうですね

      8
        • 他人事では無い
        • 2025年 5月 28日

        フーシ派対策では、舐めプしたからです。
        ちゃんと、レーダーサイトを潰せば、赤外線センサーだけで広域を警戒出来ません。
        どうせ、イギリスはクイーン・エリザベス級用の予備程度のF-35B購入になるので、言う程気にしなくても良いと思います。
        GCAPの実現に全力投入。

        1
    • もり
    • 2025年 5月 27日

    米英のF-35ですら30年代になるんだ
    日韓のF-35がblock4相当になるのはいつになるんだよ…下手したら奇跡的に開発遅延しなかった場合のGCAP初号機納入と被るんじゃないのか?

    13
      • kitty
      • 2025年 5月 27日

      韓国はともかく日本はそれほどF-35の対地攻撃能力は当てにしていなかったから傷は浅いでしょう。
      対艦攻撃能力も大型ミサイル主流の我が国では統合は最初から期待してない。

      18
        • バーナーキング
        • 2025年 5月 27日

        JSMは大いにアテにしてるかと。

        13
          • 名無し
          • 2025年 5月 28日

          これだけ遅れるなら国産ミサイルに投資すればいいだけだしそんなに問題ないでしょう
          対艦攻撃は幾らでも代わりはあるしF-35は空対空戦闘に専念させたほうが効率がいい

          2
    • SB
    • 2025年 5月 27日

    毎度思うけどBlock4の遅延はコロナもあるだろうけど、何でもかんでも詰め込んだのが原因では……いやまあBlock4が最初のメジャーアップデートだからしょうがないかもしれんが
    とりあえず対地攻撃はストームブレイカーとHARM-ERでいいんじゃねぇかな

    あと日本にもAN/APG-85売ってくれ

    10
    • 名無し
    • 2025年 5月 27日

    もうプログラムのソースコードがグッチャグチャでどうしようもないんだろうな
    いっその事ソフトウェアをゼロから作り直した方がいいんじゃないか?
    スパゲッティ化して設計した人の癖まみれのソースコードってマジでどうしようもないもんだよ
    何処が原因で不具合が起きてるかも分からなくなってくるんだから

    19
    • 匿名さん
    • 2025年 5月 27日

    逆に、どんな任務なら可能なのよって感じ。

    ロッキード・マーティンに振り回されてうんざりする。
    この際、F-35の武装は全部諦めて、CCA制御専用機に換装してしまったほうが、まだ将来性あるのでは。

    12
      • イーロンマスク
      • 2025年 5月 27日

      シャア専用機に見えてしまった
      赤く塗らなきゃ

      9
        • あばばばば
        • 2025年 5月 27日

        厄介な事になったら逃げて余計に拗れて厄介な事になりそう
        あるいはこれからが重要な肝心な所で居なくなりそう

        5
        • ドゥ素人
        • 2025年 5月 27日

        その赤塗料は電波吸収しないので駄目です

        4
    • kitty
    • 2025年 5月 27日

    第二次世界大戦時にはGPS付き滑空爆弾はなかったですよとマジレス。
    まあペイブウェイすら当時の爆弾と変わらんとか言う相手には無駄か。
    正確には第4世代機と変わらないか、長距離ミサイルに対応できていない分、劣っていると言うのが正確な表現でしょう。

    9
    • 病まんと
    • 2025年 5月 27日

    F-35の開発状況はごちゃごちゃし過ぎてて正直分かりにくいですね……
    結局、今使える装備、使える機能は何れなのか分かりやすい図解とか欲しくなる……

    4
    • DEEPBLUE
    • 2025年 5月 27日

    F-3が出来たらB型だけ残してA型売っちゃいましょうぜその頃もblock3だろうし。F-2といいLMとは二度と関わり持ちたくないっすね。

    12
    • 名無し
    • 2025年 5月 27日

    そういえばメタディフェンスの記事で現状のF-35とS-400がタイマンしたらF-35が負けるっていうのがあったな
    理由はまさに現状のF-35の対地攻撃手段が貧弱だから
    S-400のレーダはF-35を90km+αで探知できると試算してたな

    まあ現実の戦争でサシで戦う事はないだろうという注意書きで締めてたけど

    8
    • もん
    • 2025年 5月 27日

    向こう数年以内だけで考えればユーロファイター一択だけど、世界が第56世代に向かっている中で大して安くないユーロファイターを今更調達するぐらいならF-35のほうがマシな感じもする。どうせ訓練にしか使わないだろうし。
    F-35以外の第5世代機を作っておけばこんなことにはならなかったのに。

    0
      • aki
      • 2025年 5月 28日

      ユーロファイターとか冗談はもうちょっと分かりやすく書いてほしいわ

      3
      • kitty
      • 2025年 5月 28日

      typoだとわかっていても、米国人が山本五十六の名前を知って日本人の精力におののいたジョークを思い出す>第56世代

      1
    • さとし
    • 2025年 5月 27日

    JSOWやSDBといった滑空弾は block3Fでも使えるんですね
    とはいえJSM、SiAWといったかなり重要なものもしばらく先でないと使えないのは痛いですね
    武装統合だけでも早めた pre block4 なりあると小回りが利くと思いますが…
    というか少なくともタイフーンよりは良い選択肢になりそうですが、LMはそこまで手が回らないのでしょうか

    • 58式素人
    • 2025年 5月 27日

    大袈裟かもしれないけれど。F35が転げた場合も考えた方が良いような?。
    既存の第4世代機を4.5世代機へ改装するのはあちこちで始めているようですが。
    AV-8Bの場合はどうするのだろう。
    今からでも、ペガサスエンジンの後継機を検討した方が良いのでは?。
    出力を増やさなければならないろうけれども。

      • SB
      • 2025年 5月 28日

      ここじゃネガティブな話題しか書かれないから勘違いされがちだけど、現段階ですら4.5世代機相手じゃイジメにしかならないレベルで戦力差が隔絶してるので無理
      AWACS付きでも4.5世代だと気づいたら撃墜されてるとかそういうレベル

      4
        • hoge
        • 2025年 5月 28日

        ミーティアの統合も無事に遅れてるわけで、気付けば撃墜されてるなんて無理な話でしょ?
        相手がAWACSを飛ばしてるならなおさら。
        それにさんざん言われてるようにF-35はペイロード少ないし4.5世代機が数で押してきたらキャパオーバーするでしょうね。

        そもそも論として今後の中国とのガチバトルで想定されるべきは第6世代機と無人機の群れ。
        F-35じゃ無理無理かたつむり。

    • たむごん
    • 2025年 5月 27日

    極東の空が、F-35の欠陥により、力の空白が生まれるなんて事にならないで欲しいものです…

    第4世代機=第4.5世代機が、価格や自由度の面でも人気と言われてきましたが、運用方法が確立してるのも大きいですね。

    (当たり前すぎる話しですが)機械にとって、安定しているのは極めて重要です。
    F35のゴタゴタを見ていると、武器(機械)として欠陥があると評価されても仕方ないですね。

    10
      • hoge
      • 2025年 5月 28日

      仰るとおり信頼性・可用性・保守性に不満があるハイエンドのシステムってありえないんですよね。
      それにもかかわらずF-35は「想定する任務のどれか一つに使えればOK」というガバガバ基準ですら、任務に投入できる機体は1/2強という悲惨な有様ですから。

      あくまでも想像ですが、フーシ派とのバトルでは空母のスペースを飛べないF-35が埋めてて現地で大いに不況を買ったんじゃないかな〜と思ってます。

    • YF
    • 2025年 5月 27日

    日本の場合、F-35に対地攻撃任務を求めてないでしょうから、そこまで大きな問題にはならなそうですが
    F-35全体のごたつき感を見るにGCAPをF-2の置き換えにだけにして良いのかってのはありますね。

    1
    • VRTG
    • 2025年 5月 28日

    いっそのこと、目標情報は地上入力しておいてF-35からは発射命令出して投下するだけのシステム組んだほうがいいんじゃない?
    紙の地図で目標から円を書いとけば射程距離もなんとかなるでしょ

    • あうあうあー
    • 2025年 5月 28日

    F-35の導入は必須ではあるのでしょうが、思ったほどに質で量をカバーできるものではない以上
    前回のF-X選定においては、F-35を主力として+F-15FXかユーロファイターを支援として
    両方とも買っておくべきだったのではないかと思えてきました

    当時は予算増額なんて政治的に不可能だったのでムリですと言われれば、それまでかもしれませんが。

    台湾有事発生リスクとトランプリスクとを考えると、とにかく4.5世代でも買えば遅延せずに届く戦闘機が欲しいところだと思います。

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