欧州関連

米英仏独、ウクライナ向けに調整された新たな安全保障の枠組みを協議中

ウクライナはNATO加盟に対する明確な約束を得られない可能性が高く「NATO首脳会議に向けて米英仏独はウクライナに与える安全保障の中身を議論している」と報じられおり、ウクライナ支援に賛同する国で構成された安全保障の枠組みを発表するらしい。

参考:Western powers race to finish security pledges for Ukraine

強力な安全保障を得たいというウクライナ側の考えも十分理解できるが、現時点での加盟確約はどう見ても期待値が低い

11日に開幕するNATO首脳会議では「ウクライナの加盟問題」が話し合われる予定で、ゼレンスキー大統領はロシアとの戦争にNATOを巻き込むことができない=第5条の問題で戦争終結後まで「ウクライナのNATO加盟が実現しない」と理解しており、この考えに大半の加盟国も同意しているため戦争中にNATOの加盟手続きが開始されることはない。

出典:PRESIDENT OF UKRAINE

ただゼレンスキー大統領は「今直ぐウクライナをNATOに招待してほしい=戦後加盟の確約」と要求しており、もっとシンプルに言えば「第5条が適応される『標準的な地位』でウクライナの戦後加盟を今直ぐ確約して欲しい」という意味で、約20ヶ国(フランス、イタリア、カナダ、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、チェコ、エストニア、ラトビア、リトアニアなど)が無条件ではないもののウクライナのNATO加盟を支持しているが、米国やドイツなどは標準的な地位でのウクライナ加盟に慎重な立場だ。

米国やドイツが慎重な立場なのは「この戦争がどのような形で終結するのか見通せていないため」で、もし標準的な地位で加盟を確約してウクライナとロシアの戦争が現在のまま停戦すれば「戦争の再燃リスク」が高く、NATOは核戦争の火種となるウクライナを標準的な地位で迎え入れなければならなくなる。

出典:Public Domain

そのためショルツ首相は「NATOがウクライナに与える安全保障は加盟国の標準的地位とは異なるものでなければならない(簡単に言えばロシアとの戦争が再勃発しても第5条の適用外)」と主張しており、バイデン大統領もウクライナのNATO加盟結論を急ぐのではなく「イスラエルモデルの安全保障を提供する用意がある」と口にしていたが、POLITICOは9日「NATO首脳会議に向けて米英仏独はウクライナに与える安全保障の中身を議論しており、高度でぎりぎりの交渉が続いている」と報じているのが興味深い。

米英仏独は継続的なウクライナへの軍事支援に賛同する国(NATO加盟国に限定されない)で構成される安全保障の枠組み作り、これをNATO首脳会議の前後に発表するつもりで、ウクライナ向けに調整された安全保障の提供で大筋合意しているものの、提供する内容で異差があるため必死の交渉が続けられている。

出典:Photo by Staff Sgt. Anthony Housey

この件に詳しい外交官は「月曜日にバイデン大統領とスナク首相が会談する予定で安全保障の内容を詰める予定だ。この構想は最終的に同盟が提供している援助継続を約束するものになるかもしれないが、これはNATO加盟に対する明確な約束を得られないウクライナに『より永続的な結束のシグナル』を提供することを意図している」と述べており、別の外交官は「これは基本的にウクライナに対する保証であり、我々は今後長期に渡ってウクライナに資金、装備、助言を与え、将来の再侵攻に対する抑止力をもたせる訓練を行う」と言及。

NATOも米英仏独とは別に「長期間に渡ってウクライナを支援する枠組みの策定」を検討しており、ゼレンスキー大統領は2008年の曖昧な約束(いつかはウクライナもNATOに加盟する)を明確なものに刷新したと考えているものの、東欧諸国を除くNATO加盟国は加盟問題の答えを先送りしたい構えだ。

出典:President of Ukraine ウクライナ領併合に対抗してゼレンスキー大統領がNATO加盟申請を発表

第5条が適用される標準的な地位で「強力な安全保障を得たい」というウクライナ側の考えも十分理解できるが、現時点での加盟確約はどう見ても期待値が低い。

関連記事:ゼレンスキー大統領、今直ぐ我々のNATO加盟を認めて欲しいと訴える
関連記事:ウクライナ領併合への回答、ゼレンスキー大統領がNATO加盟申請を発表

 

※アイキャッチ画像の出典:NATO

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コメント

    • kitty
    • 2023年 7月 10日

    第5条が適用される標準的な地位の加盟国が仮に攻められたとして名目上は参戦義務が生じるとして今のウクライナ支援と次元の違う支援なんて実際可能だったんでしょうか。
    想像以上の冷戦後の軍事への投資スポイルでこればっかりはトランプがおこだったのが正当性を持ってた。

    10
      • NHG
      • 2023年 7月 10日

      ウクライナに供与するといってできてない400強の戦車などは余力と言ってもいいのでは
      NATOの標準的な地位にいながらNATOが動かない程度の戦争(紛争)でそこまでの供与がされるかは疑問だけど

      2
      • A-11
      • 2023年 7月 10日

      そりゃー、米国・英国・仏国本土から侵略国首都への大陸間弾道ミサイルによる直接攻撃から、エスカレートすれば全面核戦争まで可能になるでしょう。
      それとも、全面核戦争では所詮、現在のウクライナ支援と同次元に過ぎないのでしょうか?

      1
        • A-11
        • 2023年 7月 10日

        NATOの第4条 第5条 | ねほりはほり聞いて!政治のことば | NHK政治マガジン
        リンク
        からのコピペ

        第5条は、加盟国が1国でも攻撃を受けた場合、これを加盟国全体への攻撃とみなして反撃などの対応をとる集団的自衛権の行使が規定されていて、軍事同盟であるNATOの根幹をなす条項です。
        2001年のアメリカの同時多発テロについて、NATOはアメリカへの攻撃とみなして、史上初めて第5条を発動しました。

        2
      • A-11
      • 2023年 7月 10日

      第5条は、加盟国が1国でも攻撃を受けた場合、これを加盟国全体への攻撃とみなして反撃などの対応をとる集団的自衛権の行使が規定されていて、軍事同盟であるNATOの根幹をなす条項です。
      2001年のアメリカの同時多発テロについて、NATOはアメリカへの攻撃とみなして、史上初めて第5条を発動しました。
      このときは相手が、核非保有な上に内戦すら鎮圧できない弱小国(アフガニスタン)だったので、大した武力衝突にはなりませんでしたが。
      相手が旧ソ連のような国連安保理常任理事国レベルの通常戦力・核戦力を持つ存在であれば、米国本土からの大陸間弾道ミサイルによる直接火力支援程度からスタート、エスカレート次第では数日経ずして、NATO保有の全核・非核戦力を支援に投ずる全面核戦争に至るのが、NATOで採用されていた相互確証破壊戦略です。
      日本風に言えば「核の傘」ですね。
      今回の戦争でウクライナがNATO第5条適用国であれば、ワールドトレードセンターとペンタゴンへの同時攻撃を実施したのが旧ソ連だった場合と同様の支援を、NATOから得られたでしょう。
      全面核戦争ですね。

      1
    • Easy
    • 2023年 7月 10日

    朝鮮戦争なんて未だに法的には終結していませんからね。
    「戦争終結後」なんてのは空手形もいいところですから、ウクライナ側はもっと外交的成果を欲しがるのは当然でしょう。
    また、このまま戦争が膠着して東西ウクライナに分断され、西ウクライナが韓国のような緩衝地帯となるのが西側とロシア双方にとっての無難な当面の落とし所です。ロシアは土地の実利を得て、西側は橋頭堡としてのウクライナを確保しつつロシアに圧力をかけ続けることができる。
    が、それはゼレンスキー政権にとっては全く飲めない敗北に等しい状況となり。このあたりの綱引きが今回の会議の一つのテーマとなるでしょう。

    23
    • bbcorn
    • 2023年 7月 10日

    ウクライナの本質は ロシアと変わらない。
    今のまま NATOに入ったらNATOに小ロシアが入ることになる。
    ウクライナは自分たちの体質を変える必要がある。
    今のままでは西側の一員にはなれないだろ。
    戦争中でも国内改革を進めないと。

    9
      • ホテルラウンジ
      • 2023年 7月 10日

      戦後のウクライナの振る舞いは気になりますね。
      なんせ中国に空母のドンガラだけではなく、その後艦載機の設計図や空母用のボイラーの技術まで提供していたので極東アジアの東西対立でレッドチームを確信犯で支援しています。
      思想信条から中国に共感して与していたわけでは無くても、西側の安全保障を脅かす最低限の配慮すら出来ていなかった事は事実ですから、戦争終結後、この国が「喉元過ぎれば熱さを忘れる」国であるリスクは相当高いと思います。
      日本はウクライナの戦後復興絡みでも厚い支援をする方向で動いていますが、中国・北朝鮮と軍事技術交流しないなど、支援と引き換えにウクライナ側に「それをするとウクライナに対して厳しいペナルティを与える」というウクライナの振る舞いを外側から制限かける紐付きの支援の体制を各国と連携して構築すべきです。
      その紐は、ウクライナが「本当に西側陣営に入りたい」のであれば何ら不都合は無いはずです。

      28
        • タチコマァ
        • 2023年 7月 10日

        フランス「……」

        4
      • 無無
      • 2023年 7月 10日

      それもありますし、NATOに入れるとNATOの力を盾に利用して水面下での反ロシア工作を継続し東西緊張を高めかねないかと。
      今は被害者ですが、ウクライナもまた本質的には善とはほど遠いお国柄かと

      15
      • 牛丼チーズ
      • 2023年 7月 10日

      え、いやどこがですか?

      4
        • 第十軍団
        • 2023年 7月 11日

        汚職体質とかの話なら戦争中も進めてて、部下の問題でレズニコフ国防相の責任問題にもなったのはここの記事でも取り上げられたよねぇ…

        1
    • mun
    • 2023年 7月 10日

    NATOはもともと旧ソ連に対抗するためのものですから
    旧ソ連時代の領土と強さの復活を狙うロシアはまさに仇敵

    色々な立場の人から見れば賛否はあるでしょうが
    西側の論理で言うならば、今はロシアを攻撃する大義名分がある状況
    本来ならばNATO諸国は喜んで参戦してもおかしくないはずですが
    現実としては必死に参戦を避けようとしている

    皮肉に満ちていると言いますか
    実の所世界は表向きとは全然違う論理で動いています
    第三次世界大戦や核戦争を防ぐと言っていますが
    それを防ぐ気が本当に人類にあったのであれば、今の状況にはなっていない
    言っている事とやっている事が違うのが人間なのでしょうかね

    ウクライナ戦争は泥沼化が避けられそうにありません
    しかし、ロシアも引く気はなく
    またロシアは政情不安や盟主の交代劇などがあると態度がさらに強硬になる可能性が強く
    そうなると最悪、核兵器を使うでしょう
    NATO加盟とか、そんな場合じゃなくなる可能性もあると思います

    3
    • 鼻毛
    • 2023年 7月 10日

    核シェアリングとまでは言わん
    トマホーク500発、長距離自爆ドローン3000発で開戦したらモスクワがめちゃくちゃになる抑止力を作ってあげればおk

    4
    • リック
    • 2023年 7月 10日

    バイデン大統領がウクライナのNATO加盟を時期尚早とする理由に「民主化やその他問題を含め満たすべき要件がある」と述べている事は非常に興味深い。
    つまり戦争が終結したとしてもウクライナは民主主義国家としてNATO加盟可能なレベルに達していないという事を改めて明言した事になります。
    そんな国家の国家元首を「民主主義を守る戦争」の英雄として旗印にしているウクライナ戦争は色々な意味で皮肉に満ちていますね。

    5
      • 名無し
      • 2023年 7月 10日

      様々な問題があった国が独裁国家から侵略を跳ねのけ、真に民主主義国家の仲間入りを目指す。
      これ以上、旗印にふさわしい国もないのでは?
      皮肉なのは、暴力を使ったロシアの妨害行為が逆効果だったことでしょうね。

      20
        • 第十軍団
        • 2023年 7月 11日

        2014年のグダグダっぷりから見るとホントよくここまで戦えてるよなぁ・・・と
        自国の勢力圏下に置こうと色々やらかして最終的に全面侵攻までやらかしてウクライナの「国民意識」を完成させる
        ロシアは色々な意味で皮肉に満ちてるわ(警戒していた中国への経済的従属も自分で進める破目に)

        2
      • A-11
      • 2023年 7月 10日

      そうですね。
      民主化やその他の問題で加盟済み国・トルコすら下回るようでは、皮肉としか言いようがありませんね。

      1
      • カルザイカブール市長
      • 2023年 7月 10日

      近年のイラクとアフガニスタンで出資に合わない最悪な結末が続いただけに、現在の戦況でウクライナの将来について慎重になるのは当然かと。
      現在の戦費出資に似合う紛争の着地点を決断に値する要件がまだまだ足りないと想像します、
      元は欧州でも有数の政治腐敗国家ウクライナですから。

      1
    • スプラトゥーン3プレイ時間1000時間超え
    • 2023年 7月 10日

    敵の敵は味方か?と言うとそうでもない。
    中国に空母北朝鮮にミサイル技術を売り渡す国だし東部を取り返せなきゃGDPも壊滅的、農業も劣化ウランでNG.
    ウクライナには気の毒だけど現状でNATO加盟もEU加盟も安全保障上も経済上も全くメリットが感じられない。
    今の反攻作戦が成功して領土奪還出来れば話は別だろうけどね、交渉には成果がいる。

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