欧州関連

仏大統領選挙の候補者、NATOから離脱すれば米国主導の冷戦に巻き込まれずに済む

フランス大統領選挙に出馬を表明しているメランション氏は今月3日、NATOから離脱すれば米国がロシアや中国と行っている冷戦の理論に巻き込まれなくて済むと主張して注目を集めている。

参考:French presidential hopeful: “I am for leaving NATO”
参考:Presidential hopeful says France should leave NATO and partner with Russia

主張は過激だが今回は流石に左派や極左の候補者に勝機はないだろう

左派政党「不服従のフランス」の代表を務めフランス大統領選挙(4月上旬)への出馬も表明しているメランション氏は3日、NATOからフランスが離脱することに賛成だと語り「米国がロシアや中国と行っている冷戦の理論に巻き込まれなくて済む」と語り、特にロシアを敵に回す考え方には同意できないと主張した上で「ロシアは欧州にとってパートナーであり、彼らから見ればNATOが東欧10ヶ国を同盟に加盟させたことは安全保障上の脅威でミサイル防衛システムが建設されたポーランドは特にだ」と指摘したため海外メディアからも注目を集めている。

出典:Pierre-Selim / CC BY 3.0 メランション氏

メランション氏が主張したNATOからのフランス離脱は今に始まったものではなく、2012年と2107年に出馬した大統領選挙でも4位の得票率で決戦投票(過半数の支持を集めた候補者がいないと得票率上位2名で決戦投票を実施)に進めなかった候補者に海外メディアが注目しているには前回の大統領選挙で19.58%という高い得票率(2012年は11%)を獲得したためだろう。

2017年の大統領選挙では上位4人(1位のマクロン氏/24.01%、2位のルペン氏/21.30%、3位のフィヨン氏/20.01%、4位のメランション氏/19.58%)の得票率が僅差で、選挙戦終盤に大きく支持を伸ばしたメランション氏は決戦投票に進んだルペン氏とたった1.72%の差しかなかったため今回の大統領選挙でも上位に食い込むのではないかと予想されているのだが、現在のフランスでは左派や極左よりも共和国の価値観に同化することを拒み続けるイスラム移民に過激な批判を繰り返す極右のゼムール氏が人気を集めている。

出典:Lorie Shaull / CC BY-SA 2.0

つまり現職で中道のマクロン氏(世論調査で判明した支持率27%)、前回の選挙で2位を確保した極右のルペン氏(17%)、右派のペクレス氏(17%/ゼムール氏の代わりに支持上昇中)、無名で極右旋風を巻き起こしてるゼムール氏(13%/最近支持が失速中)の他の候補を完全に引き離しているため、人気に陰りが出ている左派・極左候補者への支持は非常に低くメランション氏(9%)が前回ほど善戦する可能性は低いという意味(オランド前大統領の支持母体である社会党/中道左派のイダルゴ氏は事前の世論調査で3%しか支持を確保できていないため問題外)だ。

もしNATO離脱やロシアの立場に理解を示すメランション氏が再び何からの力を得て躍進するようなことがあれば欧州はより混沌した状況になるのは間違いないが、流石に今回だけは左派や極左に勝機はないだろう。

関連記事:衝突する共和国の価値とイスラム教の信念、フランス軍の現役将校や退役将軍が内戦の危機を警告

 

※アイキャッチ画像の出典:Public Domain NATO

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コメント

    • 戦略眼
    • 2022年 1月 07日

    極右が連合したらどうなる?

    3
      • あぶくま
      • 2022年 1月 08日

      極右が連合しても反極右が連合するから無理。
      前回の大統領選決戦投票でも、マクロンが反ルペン、反極右票を集めて圧勝してる。

    • 伝説のハムスター☆☆☆
    • 2022年 1月 07日

    不服従のフランスとかギャグだよね?
    アメリカに従属するかロシアに従属するかの違いしかないじゃん笑
    ロシアが怖いからロシアとの融和の道を選びますとか失笑もんですわ
    離脱して前線がフランス沿いに迫ってきたらアメリカに泣きつくのにこいつは何を言ってるんだ?笑

    18
      • 無無
      • 2022年 1月 07日

      フランスは帝政ロシアからソ連まで、ずっとロシアとは文化的にも親密でしたから。そしてドイツという宿敵を挟撃してくれる友軍という時代もあった。
      ロシアも、フランスに対する姿勢は米英とは温度差あるでしょ?
      だからといって簡単にはNATO抜けられないけどな

      26
      • G
      • 2022年 1月 07日

      もともとフランスは他の西側NATO加盟国と異なりロシアと敵対関係というわけではないかと

      日本は中国を仮想敵国と見て軍事転用可能なものでさえ輸出制限をかけています
      もしフランスがロシアを怖がっていたり仮想敵国と見ているのでしたらロシア戦闘機の部品を供給したり、当時最新鋭だったミストラル級強襲揚陸艦を売ろうとすると思われますか?

      10
    • tofu
    • 2022年 1月 07日

    まあ、アメリカに反発する気持ちは分かるけど
    だからってロシアに迎合するのだけはないだろ…

    政府に批判的なジャーナリストや野党の重鎮を暗殺して平然としてる国だし、最近では因縁つけて天然ガスの供給絞ってるし
    むしろそういうのって左派からしたら一番嫌うべきなのでは?

    24
      • TT
      • 2022年 1月 07日

      そのような事実はありません。天然ガスの供給は契約通りなされているとロシアはもちろん、需要家側も明言していますが。
      今回ポーランド経由のパイプラインからドイツにガスが送られていないのは、ロシアが絞っているのでは無く、ドイツ行きの予約が取り消されて全量がポーランドに流されているためです。パイプラインはドイツとポーランドの管理下にありますので、完全に両国間の問題ですよ。

      4
        • tofu
        • 2022年 1月 07日

        っていうロシアの発表ですよね
        ロシアのプロパガンダを鵜呑みにしてるのか、ネタか知らないですけど

        天然ガスの備蓄を取り崩さないといけない状況でドイツからポーランドに天然ガスを流す理由ってなんですかね?

        8
          • TT
          • 2022年 1月 07日

          そんなの知りませんよ。
          ロイターをはじめとした西側メディアによって明言されていることですので、ロシアのプロパガンダというのは貴方の思い込みです。

          5
            • TT
            • 2022年 1月 07日

             そんなの知りませんよとは書きましたが、ガス価格高騰が単純な供給量不足では無く、投機的な動きと連動していることを指摘した分析記事を読んだことを思い出しました。とすれば、単純に市場原理に基づいてポーランドにガスが流されているだけかもしれません。
             少なくとも、ドイツ経済省もガスケードもロシアがガスを止めたなどと主張はしていませんので、現時点でロシアのせいにする根拠はありません。そもそも、ソ連時代から一度も契約を違えていない実績は重いです。

            7
    • 折口
    • 2022年 1月 07日

    対ロシアでは米独が、対中国では米と西太平洋の国々と英が事態を仕切っているので、フランスが世界のルールメイキングから隔離されていることが許せないんだろうなと思う雰囲気はマクロン政権からも伝わってきますよね。ただここでへそを曲げて「栄光ある孤立」という名の中露迎合に走るのは許されない選択でしょう。
    太平洋だけを例にとっても、(フランスが中国問題にアクセスするために散々存在を強調してきた)ポリネシアやミクロネシアの仏領諸島に中国がアクセスできるようになるような事態を米豪や日本が許容するとは思えません。フランスが中国に対してアクセスを許容しなくとも、現時点でも中国による政治経済両面での圧力によって情勢不安化している同地域が、フランスの西側からのデカップリングによってどうなるかは明らかです。

    14
    • 青谷信一
    • 2022年 1月 07日

    ロシアは天然ガスの供給を絞っていませんよ?
    ロシアが天然ガスを不当に生殺与奪に使うということは自身の最大のカードを
    自ら放棄するということ。これをやったらロシアはガチでお終いでしょう。
    過去に置いてもウクライナの長期のガス代金未払い行為があった時でも
    いきなりガスを止めたとかはありません。話合いでも事態が解決しないので
    ウクライナ分のガスを減らしたらウクライナはパイプラインからEUに送る分の
    ガスを盗み結果としてEUにガスが届かなくなることはありましたが
    誰が悪いのか、どっちが悪いのかは火を見るよりも明らかな話です。
    このロシア・ウクライナガス紛争の教訓を生かしてどこの国も経由せず直接EUに
    ガスを届けるノルドストリームを建設。そしてさらに供給量を倍にできるよう追加で
    ノルドストリーム2も建設しましたが、そのノルドストリーム2を稼働したら
    アメリカのクルーズ議員が制裁対象にするべきだと言ってます。こうなってくると
    一体自分たちの誰が敵なんだ?という気持ちが生まれてくるのはある意味当然なのでは
    ないでしょうか。

    4
      • fff
      • 2022年 1月 07日

      なんでTTから変えたの?

      4
        • 青谷信一
        • 2022年 1月 07日

        は?変えてませんが???
        tofu氏にレスするつもりで間違ってここに書き込はしましたが
        ウソか本当かは時系列も含めて管理人氏が見ればわかることですので。

        それと、参考までに常に自演をしている方は他人も自演しているに違いないと
        思い込む傾向があるようですよ。もし当てはまるなら気をつけたほうがいいですね。

        3
      • tofu
      • 2022年 1月 07日

      具体性のない反論をされても困るわけだけど
      事実として需要分の供給すらしてないんだけどねぇ

      需要減によって供給絞ったってのは四半期前の話で、今回は関係無いし
      上でも書いたけど、ドイツは備蓄を取り崩していて最悪の場合ブラックアウトすらありうる状況でガスプロムから供給が無かったのは厳然たる事実

      そして
      >それをやったらロシアはおしまい
      レベルの工作はむしろ日常茶飯事でしかないとしか
      他国の大統領選への介入、元自国工作員の他国領土内での暗殺、そういえばmRNAワクチンの有効性を低く捏造したフェイクニュースの出どころもロシアでしたね
      ロシアは何回終わったらいいんでしょうか

      5
    • NHK
    • 2022年 1月 07日

    >2012年と2107年に出馬した大統領選挙

    ちょっと笑ってしまった。

    9
    • 2022年 1月 07日

    と九条バリアーに守らていると信じている人間と同じ論理だな。

    11
    • がい
    • 2022年 1月 07日

    流石本家の左派は言うことが違うね。
    自ら第三勢力になるには余程の力がいると思うけど、今のフランスにその力はあるのかな?

    1
    • ダヴー
    • 2022年 1月 07日

    日本にも昔から親中派がいるように
    もともとフランスにも一定のNATO離脱派がいるってことよね

    8
    • DEEPBLUE
    • 2022年 1月 07日

    フランスが親ロシアで独自外交したいならNATOだけでなくEUも離脱しないと駄目じゃないかな?

    7
    • TT
    • 2022年 1月 07日

    まあ、実際そうですよね。
    今でもEU内部でドイツとフランスは主導権争いをしてますけど、いつまで仲良くやれるかなと言うのはあると思います。

    2
    • ヴェルダン
    • 2022年 1月 07日

    仏と露は歴史的に良くも悪くも親密な時もありますから、露に親和的な歴史観を持つ層は一定数はいるでしょうね。
    冷戦期に朝鮮戦争介入反対のデモを共産党がやってたり、仏の左派の文脈もありますし。
    そもそも”左派””右派”の語源はフランス革命にあるくらいの、言わば本場ですしね。
    加えてNATO離脱は、ポスト・ドゴール時代からの独立志向でもありますし、2000年代の国際協調の時代に合わせてNATOに復帰しましたが、別に前みたいなNATOの予備役ポジでもええやん、という考え方もあるでしょう。

    フランスも大概に、民族、地方、思想、階級がごちゃ混ぜの”共和”国ですからねぇ〜

    3
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