再び対立が高まっていたコソボ北部でNATO派遣の治安維持部隊(KFOR)とセルビア人住民が衝突、イタリアやハンガリーの兵士25人が負傷し、イタリアのメローニ首相は「一方的な行動を慎み緊張緩和に乗り出すべきだ」とコソボ側を非難した。
参考:NATO soldiers injured in Kosovo clashes with Serb protesters
選挙のやり直しはコソボ側にとって主権の侵害と映るため歓迎できる内容ではない
これまでの経緯を説明するとセルビア共和国から分離・独立したコソボ共和国で暮らす約5万人のセルビア人はコソボ側の統治を拒否、コソボ当局がユーゴスラビア時代のナンバープレートを廃止する計画を発表すると「統治を認めていないコソボ側の強制=これに応じるとコソボ主権を間接的に認めたことなる」と反発して道路をバリケードで封鎖、セルビア人が多数派を占める地域ではセルビア系議員、裁判官、治安部門のトップが一斉に辞任。
セルビア共和国も「コソボ地域に住むセルビア人の権利が侵害されている」と主張したため両国関係が極度に悪化してしまい、この事態をEUの仲介で何とか沈静化させたものの辞任した代表の再選出を行う選挙管理事務所が何者かに爆破され、セルビア人とコソボ当局は「アルバニア人による選挙妨害だ」「セルビア共和国が犯行を指揮している」と互いに非難しあい、再びセルビア人がバリケードで道路を封鎖したためコソボ当局が撤去を試み発砲事件(どちら側が発砲したのか不明)に発展。
この事件後もコソボ当局は「KFOR(NATO派遣の治安維持部隊)がバリケードを撤去しないなら自分たちの手で行う」と強行姿勢を崩さず、KFORもバリケード撤去に手を出すと事態が悪化するため容易に動けず、発砲事件を重く見たセルビア共和国が警戒体制(戦闘準備)を最高レベルに引き上げ国境沿い部隊を配備、このまま事態を静観すればコソボ側がバリケードの自力撤去に踏切るの確実で、住民との衝突に発展すればセルビア側が軍事介入を行う恐れがあった。
しかし米国・EUから保証を受けったブチッチ大統領は昨年末「警戒体制の解除」を発表したため最悪の事態だけは回避できた格好だが、保証の中身は「中央選挙管理委員会や治安当局に対する攻撃を組織したという理由で逮捕されたコソボに住むセルビア人元警察官の釈放」「コソボに住むセルビア人の逮捕リストを放棄=恐らく今回の抗議に関連した人々を起訴しないという意味」「NATOもコソボもセルビア人居留地に許可なく立ち入らない」というもので、主権を制限されたコソボ側にとって歓迎できる内容ではない。
一方のセルビア側は「これはセルビアの勝利でコソボ・メトヒヤ(独立を承認していないコソボ地域を指す名称)に住むセルビア人の勝利だ」と保証内容を歓迎していたが、再びプリシュティナ側とコソボに住むセルビア人が衝突しまった。
今回の衝突原因はセルビア人が多数派を占める地域(ズヴェカン、レオプサビッチ、ズビン・ポトク)のアルバニア人新市長就任で、4月23日に実施された選挙は実施までのプロセスに問題があり、現地のセルビア人住民は選挙のボイコットを宣言、当該地域に住むアルバニア人の投票率も異常に低く、選挙管理委員会の公式データによると実際に投票したのは住民4.5万人の内1,567人(投票したセルビア人は13人)だけだった。
EUは選挙自体は適切に実施されたと認めているが「コソボ側とセルビア人住民の緊張を和らげることに失敗した」と指摘しており、選挙結果を認めていないセルビア人住民はバリケードを築いて新市長が市庁舎に入るのを妨害、コソボ警察の特殊部隊が催涙弾などを使用して鎮圧に乗り出しため両者が衝突、これ受けてセルビアのブチッチ大統領は「プリシュティナ側がコソボ北部のセルビア人へのテロ行為をエスカレートさせてきたため、軍の警戒体制(戦闘準備)を最高レベルに引き上げ、行政ライン方向への移動を命じた」と発表。
そのためKFORの部隊が市庁舎の警備に投入されたのだが、アルバニア人新市長が働く市庁舎を守るKFOR部隊とセルビア人住民のデモ隊が衝突、イタリアやハンガリーの兵士25人が負傷(内7人は焼夷弾の爆発で骨折と火傷を伴う重症らしい)し、セルビア人側にも52人の負傷者が出たと報じられている。
コソボ当局は今回の衝突について「セルビア人住民がブチッチ大統領の手先となり北部地域を不安定化させようとしている」と主張したが、ブチッチ大統領は「コソボのクルティ首相が緊張状態を意図的に作り出そうとしている」と非難し、衝突に巻き込まれ兵士が負傷したイタリアのメローニ首相も「現在起きていることは絶対に受け入れられないし無責任だ。コソボ側は一方的な行動を慎み緊張緩和に乗り出すべきだ」とコソボ側の対応を非難した。
今回の選挙も選出されたアルバニア人新市長も法的には合法だが、そもそもコソボ共和国で暮らすセルビア人住民はコソボ側の統治を拒否しており、選挙結果を認めていないセルビア人住民を排除して市庁舎に新市長を送り込めば何が起きるのかなど誰の目にも明らかで、これを強行したコソボ側を欧米は「緊張緩和の努力を放棄した無責任な行動だ」と非難しているのだ。
因みにセルビアのダチッチ外相は「セルビア人が多数派を占める自治体に現地住民によって選出されていない市長を置くのは不可能」と述べており、ここで言う「緊張緩和の努力」とはセルビア人が参加できる環境を整えて市長選挙をやり直すことなのだろう。
#Kosovo: At least two people were wounded after Serb protesters clashed with NATO KFOR and local security forces in the town of Zvečan.
The protests started after Albanian mayors took office in northern Kosovo, following the elections that local Serbs boycotted. pic.twitter.com/wxnbTCkl0P
— Status-6 (@Archer83Able) May 29, 2023
ただ選挙のやり直しはコソボ側にとって主権の侵害と映るため歓迎できる内容ではない。
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※アイキャッチ画像の出典:Radio Free Europe
米軍の新型ボディアーマーは投石や鈍器による攻撃から防御に重点をおいてるらしい
各国も追随するだろうと考えられる
文中の映像を見ればどうしてそのような結論に至ったかよく理解できる
石を軽く見ると身を持って代償を払うことになる
素人考えで恐縮ですが、いっそのことセルビア人全員コソボから出てってセルビア共和国に移って貰うっていうのはどうでしょうか?これならセルビア人もセルビア人として真っ当に権利を主張出来るし、コソボも安定する。ウクライナもそうですが〇〇人として権利を主張するならその国に行けばいいと思います。陸続きの隣国で最悪徒歩でも行けるのですから。それにしてもこれだけの民族対立を抑えて国を納めたチトーはやはり凄いですね。
言われる通りユーゴスラビアとして民族が混じり合っていたわけだし、代々その土地で暮らして生活基盤も財産もある人達に嫌なら出て行けと言っても納得しないと思います。
セルビアに言ってもゼロから始めることになるし、在日韓国人に対する韓国人の扱いの様なこともあるんじゃないかな?
セルビアはコソボの独立を認めていないので、自国の土地から国民が出ていかないと行けないと言われたら、より軍事的な方向にエスカレーションすると思いますよ。
台湾が外省人全員出て行けと言い出した場合、どうなるかを考えて貰えればと。
そもそもコソボの独立は西側でさえ認めていない国があるくらいなので、ウクライナと同列に語るのも難しいです。
個人的には、NATOの威を借りて、対立民族が大多数を占める地域に圧政を敷くムーブは、ちょっと無理がある気がします(笑)
コソボ問題をあまり知らなかったので、先に手を出したのはセルビアというふうにしか考えていませんでしたが、民族的にもセルビア人が多くセルビアにも最もな言い分があるのですね。教えて頂きありがとうございます。双方共主張がありますが両者納得できる解決策はあるのでしょうか?
先に国として手を出したって意味ならセルビアのほうが先のイメージだな。ただその前からアルバニア人•セルビア人双方で暴力沙汰が起きてたから、どっちが悪いというのは定義不能でしょうね
両者納得できる解決策?そりゃ経済発展しかないだろう。金に余裕があれば揉める確率は間違えなく減る。
もっとも、どちらもそんなに人口がない民族同士で揉めいているようだと市場規模なんてたかがしれてるし、海外からの投資も絶望的。中国みたいに裏のあるお金しかこんでしょうけど。
それをやるということはセルビア側がコソボの独立認めるのと同義なんで絶対無理
セルビアからすれば一部地域の別民族がセルビア領内で合法ヤクザの後ろ盾得て好き放題やってるって話になる
なおコソボ側からも同じように見えるのでこれが厄介
一応西側視点から見ると軍事力で直接脅しかけてるセルビアに良いイメージはないのだが、セルビアが悪かと言われるとそんなことも言えずってとこで
NATOとしてはコソボに対して頼むから無駄に刺激すんな、なあなあで納めろ、コソボ領内ってことは保証してやるからセルビア住民の言うこと相応に聞いてやれってとこかと…妄想ですが
その理屈が正しいなら、そもそもアルバニア人はコソボ地域から出ていけぇ!って話になるんだよなあ…
まあでも、イスラエルなんかはパレスチナ人を恐怖でパレスチナから追い出して成立した国で、それを欧米も追認しているのだから、結局理屈よりもパワーバランスで決まるという印象が強く、敗者側の民族は欧米よ専横と感じるだろうね
前列としてギリシャのブルガリアなどとの住民交換や、ローザンヌ条約に付随した『ギリシャとトルコの住民交換』などがあります。後者の提案者は国際連盟により委員に任命されたフリチョフ・ナンセン。細かい部分はウィキペディアに該当ページがあるのでそこを見てもらうとしても、言ってしまえば国家間の合意による民族浄化なので、現代で受け入れられるとは思えません。
チトーもUDBA(秘密警察)による民族主義者弾圧で不満を抑えていたので、表立って同じことはできないでしょう。
嫌なら出て行け理論はやっぱ稚拙だなと感じる
経済的基盤、地域社会、地縁血縁、故郷、これら全ての消失を許容できる人は多く無いだろう
というか極少数だろう
やってることはナチのユダヤ人追放と同じだし
それは一般的にセルビア系住民の追放や民族浄化と呼ばれる行為であり
人道的にも認められるものではありません
記事の内容と間接的にしか関係ないことで恐縮ですが、調べても出てこないのでここで質問させていただきます
上のコメントでいくつか出てきた「民族浄化」は一般的に強制移住や虐殺、強姦などが該当すると思うのですが、
その土地に大量の自民族や外国人を税制優遇などで送り込んでその土地の民族の密度を薄める行為は民族浄化に入るのでしょうか?
素人意見で良いのであれば。
移民を用いた侵略の段階ならシャープパワーによる侵略行為ですかね。同化政策や教化のために弾圧した段階でジェノサイドや民族浄化にあたるかものになるかと。
オーストラリアのアボリジニ強制同化政策はジェノサイド認定されていますが、ハワイ王国やシッキム王国の件はジェノサイド認定されていないはずなので。
それは無理でしょう……。コソボというのは、元来、セルビア王国が建国された心の故郷で、正教会の聖地もある。
歴史的にも、伝統、宗教上も、小さいが手放せないもの。
アルバニア系としちゃ目の上のたんこぶでしょうが、セルビア系住民を弾圧して無理やり追い出すことは、被害者ぶっている自分達の正当性を失いますからね……。
ユーゴ紛争時に、セルビアばかりが加害者・悪者扱いされて、アルバニア人マフィアによる戦争犯罪(「黄色い家」で調べてください)は見て見ぬ振りをされたことで国際社会・西側への不信感が根強いですしね……。
ロシア情報機関による第二戦線、バルカン半島に火を点けて欧州撹乱させようとする作戦の一部でもある可能性も捨てきれないから、なんとも。
バルカン半島は民族対立でヨーロッパの火薬庫と呼ばれてましたが
いまだにくすぶり続けているってことなんでしょうね
オスマン帝国再びのエルドアンが再選したし
あの辺はろくなことにならない気がする
中国の動きに注意を払う必要があるから
日本はヨーロッパ情勢に深入りすべきではないと思う
NATOはアルバニア人シンジケートの麻薬資金に毒されてセルビアを空爆し、悪逆なKLAをコソボの支配者にしてしまった
セルビア人側の恨みは根深く、和解は不可能だ
せめてセルビア人多数派地域をセルビアに返還してセルビアをNATOに迎え入れない限り衝突は続くだろう
それにしてもアルバニア系市民の投票率も低いのなんなんだ?彼らも選挙に意味がないと考えているのか
投票強制制度は先進国での政治的無関心への対抗策として議論されることが多いが、コソボのような国内分断が深刻な地域では議論されないのかな?イラクでもスンニ派が選挙ボイコットとか、腐るほどある流れだし、民主主義体制への正統性を維持できる強い一手だと思うんだが。
まあ往々にしてそういう地域は無投票者に罰金を取る行政力もないし、そもそもナンバープレート改訂さえ出来てない時点で夢物語なのか…
実はコソボ内でも大アルバニア主義に賛同している住民は2007年時点で2.5%しかおらず、強権的なやり方を望むアルバニア人は少ないのかもしれないですね。
NATOがコソボの支配者として選んだKLAはかなりの強硬派ですしね…
アメリカと介入前はテロ組織認定してたような団体です
せめて空爆以降NATOがコソボ統治のパートナーに選んだのが「コソボのガンジー」ことイブラヒム・ルゴバだったならいくぶん違ったのでしょうが
スーダンやこちらの件を同時に発生させてから侵攻してればうまく行ったんですかねえ?
かくいう私も演習で示威行為をして引き上げるとだまされていた側の人間ですが
なんかズレた食い付き方だとは思うけど、
旧車マニアとかでもないのに未だユーゴスラビア
時代に登録したナンバー車が沢山走ってる社会なのね・・・。