インド太平洋関連

豪州と英国が原潜建造で合意? 英国内でアスチュート級を建造して提供?

英タブロイド紙は「来月訪米するスナク首相が原潜建造に関するオーストラリアとの合意を発表する」と報じており、この合意内容は「既存設計を流用した原潜(1隻あたり20億ポンド相当)を建造して豪州に提供する」というものらしい。

参考:Tentative UK approval given for £2bn nuclear submarine deal
参考:DEEP DOWN UNDER UK agrees historic £2billion nuclear sub deal with Australia

SUNの言う事なので話半分だと思っておいたほうがいい

アタック級潜水艦から原潜導入に方針を転換したモリソン政権は「コリンズ級潜水艦から原潜への移行」を目指していたが、原潜の国内建造には準備に時間がかかり、米海軍も英海軍にも豪州に売却もしくはリースできるほど原潜に余裕がなく、米英には豪州向けの原潜を新たに建造する余剰能力がないことが濃厚で「コリンズ級潜水艦から原潜への直接移行は無謀だ」と野党から批判を浴びていた。

出典:Royal Australian Navy

さらに昨年5月の総選挙で労働党が勝利、アルバニージー政権は2012年に策定された国防戦略が「急速な中国軍の台頭」や「台湾海峡の軍事的対立」をカバーしていないため見直しを指示、米国と英国のどちらから原潜を導入するのか、コリンズ級潜水艦から原潜に直行するスケジュールで行くのか、通常動力型潜水艦を挟む緩やかなスケジュールで行くのかについても「2023年3月に発表する」と明かしていたが、英国のタブロイド紙(SUN)は「来月訪米するスナク首相が原潜建造に関するオーストラリアとの合意を発表する」と報じている。

オーストラリアとの合意内容は「カンブリア州バローイン・ファーネスで豪州向けの原潜を建造する」というもので、SUNは「アスチュート級原潜のような既存設計を流用したものを建造する可能性が高く、政府は20億ポンド相当の価値(1隻分)と約30年間に渡って数千人分の雇用が確保される契約に前向きだ」と書いているが、海軍が保有する原潜をオーストラリアにリースするアイデアについては断固拒否しているらしい。

出典:U.S. Navy photo courtesy of Newport News Shipbuilding/Released

米議会も政府が海軍の原潜を豪州に売却するのではないかと警戒しており、シーパワー・戦力投射小委員会(下院軍事委員会)のロブ・ウイットマン議員は「豪州が独自に原潜を建造できるようになるまで米国がロサンゼルス級かバージニア級を提供すればいいという話もあるが、米国の原潜建造に余裕はないので絶対にあり得ない」と主張、さらに上院軍事委員会のジャック・リード議員とジム・インホフ議員はバイデン大統領に宛てた書簡の中で「米英豪の安全保障協定(AUKUS)が米原潜戦力をリスクに晒さす危険がある」と訴えている。

両議員は米造船業界に余剰分の原潜を供給する能力はないため「米海軍の保有するバージニア級もしくはロサンゼルス級を豪州に提供してもゼロサムゲームにしからない=豪州に原潜を与えた分だけ米海軍向けの原潜が減るのでインド太平洋地域の原潜戦力は結果的にプラマイゼロになる」と主張しており、SUNの報道が真実なら豪州が原潜の国内建造体制を構築できるまで「英国が原潜を建造して提供する」という意味になるため興味深い話だが、SUNの言う事なので話半分だと思っておいたほうがいい。

出典:Public Domain 建造中のバージニア級原潜

因みに米ハンティントン・インガルス・インダストリーズ(HII)はニューポート・ニューズ造船所に新たな原潜建造施設(建造作業を支援する施設)の建設を開始、HIIは「年内にあと2つの支援施設を建設する」と述べており、2023年も去年と同じレベル(約5,000人)の追加雇用を行いバージニア級とコロンビア級の建造加速をサポートしていく予定だなので、米国も原潜建造に余剰が生まれる可能性がある。

関連記事:米上院軍事委員会、バージニア級の豪州提供を止めるよう大統領に要請
関連記事:米国防長官、オーストラリアの潜水艦能力にギャップを生じさせないと約束

 

※アイキャッチ画像の出典:LA(phot) Mez Merrill/MOD

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コメント

    • ブルーピーコック
    • 2023年 2月 14日

    スケジュール通りに行くかはともかく、このやると決めたら豪快にやるパワーは流石アメリカって感じ。まあ、そのパワーに自他共に振り回される訳だが。

    13
    • 2023年 2月 14日

    いよいよ豪に原潜保有が現実味を帯びてきたのか。
    中国はもとより、インドネシアがどうするか怖いなぁ。

    2
      • ネコ歩き
      • 2023年 2月 15日

      中国はともかく、近年の豪州・インドネシア関係は発展的に改善してますよ。
      両国は2019年に「オーストラリア・インドネシア防衛協力覚書」他両国の安全保障関連協力文書に調印し、その後合同海上警備訓練も実施してます。
      通称面では、同年「包括的経済連携協定(IA-CEPA)」に署名し、同前年度における両国間の貿易額は168億オーストラリア・ドル(1.3兆円余)に拡大していました。
      両国とも安全保障面で中国の脅威をより強く認識している結果かと。そうでなければ、米国がF-15ID(EX相当)のインドネシア輸出を承認することはなかったでしょう。

      6
    • 折口
    • 2023年 2月 15日

    まぁ、最初からコレしか無いとみんな暗黙に了解していた感じはありますよね…。

    >約30年間に渡って数千人分の雇用
    気になるのはここですよね。豪州は(配備が後ろにずれ込んでもいいから)原潜を国内で整備・建造できる体制の構築を目標にしていたと記憶しています。大型ドックや原子炉整備ヤードなどを一つずつ豪州内に建造していったら結果として2050年代まで国産体制構築がずれ込むというのは分かる話ではありますが、それは実質的に(これから買うとされる)アステュート改級は全艦輸入・メンテ外注にして、次の原潜クラスから国産化を目指すという事に映らないですかね。もちろんそれは豪州の政治家と有権者が決める事ですが、どうなるんでしょうね。

    15
    • 58式素人
    • 2023年 2月 15日

    燃料のウランの濃縮が気になりますね。
    英国の原子炉を使うなら、原型は米国なので、
    高濃縮のものになると思うのだけれど。

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