空中給油機導入を検討してきたインドネシアは「A330MRTTの取得を決定した」と発表、KC-46AはA330MRTTと競合した全ての入札(カナダ、韓国、ポーランド、アラブ首長国連邦、インドネシア)で敗れたことになる。
参考:Indonesia selects A330 MRTT for acquisition
KC-46AはA330MRTTと競合した全ての入札で敗れ、入札を実際しなかった日本とイスラエルだけがKC-46Aの選択した格好
インドネシア国防省は空軍近代化の一環として空中給油機の導入検討を2018年に開始、2021年に同省は「ボーイングのKC-46A、エアバスのA330MRTT、イリューシンのIl-78を検討している」と明かしたが、将来取得する航空戦力(ラファール、F-15EX、KF-21)への互換性=フライングブーム方式とプローブ&ドローグ方式への対応を考慮するとKC-46AかA330MRTTの二択になり、インドネシア国防省は5日「資金調達のオプションと技術移転の可能性を考慮してA330MRTTの取得を決定した」と発表、まだ契約締結には至っていないもののエアバスも「(契約締結を)楽しみにしている」と述べた。

出典:Public Domain A330 MRTTの空中給油作業コンソール
KC-46AはA330MRTTと競合した全ての入札(カナダ、韓国、ポーランド、アラブ首長国連邦、インドネシア)で敗れ、入札を実際しなかった日本とイスラエルだけがKC-46Aを選択、ここまで明暗が別れたのは信頼性と将来性でA330MRTTがKC-46Aを上回っているためだ。
A330MRTTには致命的な不具合がなく導入国での評価も上々で、エアバスが開発したフライングブーム方式の自動空中給油システム「A3R」は給油を受ける側(戦闘機等)に追加の機器や改造を必要とせず「オペレーターの技量に左右されていた作業性と安全性を向上させ、作戦状況下の燃料移送スピードが最適化される=緻密に組み上げられる作戦スケジュールの遅延が減少する」と評価されており、エアバスはA3Rを無人機の空中給油に対応させるため自律的な空中給油システム「A4R」や自律的編隊飛行システム「AF2」の開発を進めている。
さらに欧州防衛庁は昨年「プローブ&ドローグ方式の自動空中給油システムの開発を開始する」と明かし、2024年にA330MRTTとタイフーンを使用して実証実験を行うと発表、プローブ&ドローグ方式の自動化とはドローグに接続するプローブの最適な軌道を計算して「接続失敗」や「接続にかかる時間」を短縮、A3Rで実現したフライングブーム方式と同様にプローブ&ドローグ方式でも「空中での燃料移送スピードを最適化させる」という意味で、既に空中でのドローグ姿勢を安定化させる技術開発に取り組んでいるらしい。
一方のKC-46Aは致命的なカテゴリー1の不具合が6件も残っており、ボーイングは空中給油作業を監視・制御するリモートビジョンシステム(RVS)と燃料を移送するフライングブームの問題解決に手一杯で、KC-46A向けの自動空中給油システムは当分出てこないだろう。

出典:U.S. Air Force photo by Joshua J. Seybert
米議会もボーイングが製造するKC-46Aを信頼しておらず、179機を超えるKC-46A調達を国防権限法で禁止する可能性があり、KC-135の後継機(150機)にKC-46Aを調達するならA330MRTTとの入札を行えと要求、これまで入札を拒否してきた空軍も「9月末までにKC-135後継機に関する正式な情報提供依頼書(RFI)」を発行すると発表したため、米空軍でさえA330MRTTに乗り換える可能性がある。
以上のような状況を踏まえるとA330MRTTを選択するのは自然な流れだが、KC-767Aのアップグレードを見送ったイタリアはKC-46を導入すると噂されており、ボーイングにとって久々の新規受注になるかどうかに注目が集まっている。
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※アイキャッチ画像の出典:public domain
なんで日本とイスラエルは入札を実施しなかったんでしょうね?
やっぱり国防の為には出来るだけアメリカから装備を買う必要があったのかな?
左巻きの陰謀論みたいで嫌だけどボーイングだからじゃないの、やっぱり。
日本でKC-46Aになったのはたぶん政治的なアメリカ優遇なんだろうな
既にB767ベースの軍用機を所有していたからでは。
運用に係る教育訓練や部品の使いわましを考えれば、
機種を統一することにはある程度の合理性はあるから。
・KC-767で慣れている。
・B-767の製造では日本メーカーが15%を分担している。
・A-330 MRTTは空港設備から見て1クラス大型のため改修が必要になる可能性がある。
・国内ではエアバス機はマイナーなので整備委託に問題が出る可能性がある。
あたりでしょうか。
日本の採用決定が2015年、雲行きが怪しくなりだす2017年の時点でこれほどの炎上は予想できないでしょう。
トランプ大統領当選が2016年というのも、2017年の発注を取り消しにくい理由になったかもしれません。
当時の判断としては妥当でしょう。
追記。
ICAOの附属書14ではB-767はカテゴリ D(翼幅36~52m)、A-330はカテゴリ E(翼幅52~65m)となり、空港から見て一回り違う別クラスの機体です。
MTOWも190t(767)と230t(330)なので、767は離着陸できても330は不可能、となる可能性があります(海外派遣を考慮すればなおさら)。
KC-46を配備した美保飛行場の格納庫は1機用がドア幅約50m、2機用がドア幅約110m。
全幅48mの767系でぎりぎり、330系(60m)は無理です。
地上での旋回半径も767系のほうが小さい事も無視できません。
それ以前の話として、KC-767は予算の都合で調達中断、運用実績を見て追加という話だったので、追加注文しただけでしょう。
空自にとっては、KC-46は使い慣れたKC-767の改良型なんです。
加えて(当初ではなく最近また追加導入を決めた理由としていうと)KC-46Aの問題点は現状の日本にとってはそこまでクリティカルじゃないというのが大きいでしょうね。
去年F-35Aへの給油も解禁され、まだNGなのはA-10くらい?
残ってるカテゴリ1の5件についてもボーイングとしては直さなきゃいけない問題だけど
ユーザーとしては「気をつけてれば支障はない」程度の問題に過ぎず、仮に万が一ボーイングが匙を投げたとしても自衛隊はこのまま数十年KC-46Aを使い続け、おそらく特にそれらに起因するトラブルも起こさないでしょう。
極論カメラ以外は(対処コストが間接的にでも運用コストに跳ね返るくらいなら)放置してくれた方がありがたいくらいかも。
残ってる問題
・「重量の割に低推力の機体」にブームが追従しない…対象機がA-10くらいなので日本には関係ない
・条件によっては(オーバーコントラスト時?)カメラ映像が不鮮明になる。給油を強行すると給油対象機を破損する場合も。…突然起きる事態じゃないので給油前にそうなったら断念して飛行経路等の条件変えて再試行?夜間の任務は制限される可能性あり?
・ドレンの凍結破損…氷点下の長時間屋外駐機、という限定的な条件での発生。当該条件時に対処する、あるいはそもそも飛行前点検の項目に加えてしまえば良い。
・ナビの不具合…起こり得ると分かってれば普通に対処可能。
そうですね、KC-46は「演習」に限ってF-22、F-35、B-2への給油を許可したので空自にとっては十分でしょう。
米輸送軍司令部はRVS2.0が完成するまで「実戦」におけるKC-46からF-22、F-35、B-2への給油は絶対に承認しないと言っていますが、有事を想定していない日本には無意味な制限でしょうね。
それ2021年の話でその下の航空機動軍団、つまり現場は去年F-35への給油を承認してますよね。
そもそもここの過去記事でも「米輸送軍司令部の制限なので、これに日本も従う必要があるのかなどは一切不明」と述べられており(というか米国政府でも国防省でもFAAでもボーイングでもない、同列の別顧客の話なので「影響」はあるとしても「従う」必要は明らかにない)、
その上で自衛隊としては航空幕僚監部防衛部装備体系課の平山空佐がカメラの鮮明度が下がる現象について、既に発生条件(カメラと太陽の位置関係等)が明確になっているので回避しての運用が可能である、と明言しています。
まあ米軍が同じ情報を持ってない訳はないので「そんな制限(有事の際に)気にしてられねぇよ」いうのが米輸送軍の言い分なのかもしれませんが(この手の面倒臭ぇルールに従うのは日本人の得意とするところですし)
イスラエルの事情は分かりませんが、Wikipediaから引用、
>航空自衛隊では、KC-46とともに候補に上がると考えられていたが、エアバスは「A330 MRTTはベストセラーの空中給油機となるが、競合企業が米国政府の対外有償軍事援助(FMS)を活用した場合、価格面で太刀打ちすることはできなくなる」と述べ、この提示要件では採算が合わないため提案を見合わせた
つまり採用決定当時(2015年)一択だったことに加えKC-46Aの空中給油システム不具合が問題化する前です。米軍との相互運用性の観点からKC-46A選定は必然という側面もあったかと。
政府専用機としてボーイング777を選んだのは、国内の航空会社がボーイング777を運用しているため整備環境があるからですが、A-330 MRTTの母機であるエアバス330は、国内の航空会社では運用していないため整備できないからです。
なので、すでに整備環境があるボーイング767を採用するのは、整備環境を流用できるのでコストメリットが大きく必然だったのです。
「どうせいつものようにアメリカに忖度して買ったんでしょ」と思ってましたが、当時の情勢、扱いに慣れていること、相互運用性、製造分担、導入時は問題が顕在化していなかったこと、等々、みなさんの丁寧な解説で理解することができました。
特に格納庫とサイズの関係と、自衛隊の運用では大きな問題にはなりにくいことの指摘は目から鱗でした。
いつも勉強になります。
記事とコメ欄とセットで拝見して大変勉強になりました。
皆様ありがとうございます。
航空会社がボーイング採用しすぎてちょうど良いサイズの310とかどこも採用してなかったから
委託整備先に困るから選択肢がなかった
あとボーイングがMDに汚染されてぶっ壊れるとは当時は夢にもおもわんかったからだろうね
R.I.P. ボーイング
今ならボーイングの株が底値で買えるかも
大丈夫?
ただの紙切れに…… 株券も最近は電子データだから紙切れにすらならんか
最近は「大きすぎてつぶせない」も、もう過去のものだし
日本の場合、767の構成部品の一部は日本で作ってるのでその点も考慮されたのかなと。
最近のNH90、アドーア、ユーロファイター、欧州製の航空機にはこれまでの傾向から不安よぎる
A330の方が機体が大きくて予算の節約にはなりそうだが、カタログスペックと実運用する現場の評判にイマイチ比例しない傾向がある
陸戦装備はまた別だが
整備性とか今までの付き合いとかも考慮してこうなったんだろうけどここまで評判悪くなるとは…
貧乏くじにならんとええなホンマ
日本とイスラエルは政治的理由でとんだババを引かされた形か?
本当にうんざりさせられる。
上の方に書かれていますが、政治的よりも実務的な面での選択ですよ
合理的な判断だったと言えます。
今からどうこういう言うのは完全に後出し孔明ですね
インドネシアやインドは今後の大国なので、その防衛や外交のことに興味を持っています。
ところで、そのKC46を採用したのは日本とイスラエルだけというのは何か心配です。しかし、もう1ヶ国がイスラエルなので少しは安心です。
自衛隊の最前線の現場は、与えられた器材で全力を尽くすというメンタリティーだと思います。特定の機種を強く推すことはあまりないような気もします。
また、日本の場合、政治が専門的な機種選定に関与することも少ないのではないかとも思います。
それで、昔だと、実質上は幕僚部の防衛班の担当者が関係者の意見を聞いて決めていたように思います。会議や決済は上がっていっても。
今までとの継続性や、このスペックで十分という判断なのでしょうか。
日本の機種選定への異存はないけれど。
ボーイングなっさけねえ会社になったな、という印象はやはりあるw
経営も現場も問題が多すぎる。
もう少ししっかりして欲しいので、何がどうなってこうなったのか、しっかり修正してもらわんとユーザとしては損しそうでこわい。