米国のトランプ政権は台湾に総額80億ドルで、F-16V Block70 66機の売却を承認したと米議会に通知したという報道が出ているが、米国務省が総額80億ドルの内訳について内容を明らかにした。
実質75機分のF-16Vを80億ドルで購入する台湾
8月20日、トランプ政権は台湾に総額80億ドル(約8,500億円)で、F-16の最新バージョンであるBlock70(通称:V仕様)66機を売却を承認したと米議会に通知し、この契約は米議会が反対しない限り実行に移されることになる。
米国務省が公表した文書を見ると、台湾が導入することになるF-16V Block70には、フェーズドアレイレーダー「AN/APG-83」、戦術データ・リンク「Link-16」、曳航型デコイシステム「AN/ALE-50」、電波妨害装置「AN/ALQ-211」、ヘッドマウントディスプレイ「JHMCS II」、主エンジンにGE F110を搭載されていることが分かるが、コンフォーマル・フューエル・タンク(予備も含めて)についての記載が見当たらない。
もしかすると、台湾はコンフォーマル・フューエル・タンクは不要と考え、要求から外しているのかしれない(本当に謎)。
そして、もう一つだけ奇妙な点がある。
台湾は過去に導入した144機のF-16A/BをBlock70(V仕様)に改修中だが、このF-16には「P&W F100」が搭載されているにも関わらず、新造機のF-16C/D Block70には「GE F110」が搭載されており、メンテナンスやスペアパーツ確保の観点からみると、なぜこのような奇妙な決定をしたのか不思議だ。
一般的に知られている限りでは、「GE F110」と「P&W F100」との間に明らかな性能差はないため、なぜこのような決定をしたのか個人的に興味を惹かれる部分でもある。
今回、台湾は66機のF-16V Block70に対し、主要機器(エンジンやレーダー等)のスペアは最低でも9基以上を要求しているので、115%以上のパーツを確保していることになり、以前紹介した韓国の例と比べると、非常に対照的だ。
さらに機体と合わせて、JDAM(統合直接攻撃弾)やLJDAM(レーザー誘導のJDAM)、20mm機関砲の弾薬、チャフ、フレアなどの消耗品、地上整備の機器やトレーニング装置、米軍による要員の訓練や、ロッキードマーティンによるサポートなど、必要な物とサービス全て網羅されたパッケージなっているが、AIM-120などの空対空兵器は含まれていない。
恐らく、空対空兵器は手持ちの在庫か、F-16A/BをBlock70(V仕様)に改修した際の契約に含まれているものと共有するのかどちらかだろう。
台湾は今回、上記の内容が含まれた内容を80億ドル(約8,500億円)で購入することになり、1機あたりのF-16V Block70導入費用は1.2億ドル(約127億円)だが、スペアパーツを含めると実質75機分、各種サポートや消耗品などが含まれた契約と考えれば、そこまで高額な取引ではないかもしれない。
台湾はF-16V Block70以外にも、老朽化した米国製戦車のM60A3を更新するため、108輌のM1A2 エイブラムス戦車を含む総額26億ドル(約2812億円)もの防衛装備品の売却を米国に要請し、米国務省はこの要求を承認した段階だ。
総額26億ドルに含まれる主な防衛装備品の内訳は以下の通りだ。
- M1A2 エイブラムス戦車 108輌:20億ドル(約2,163億円)
- FGM-148 ジャベリン対戦車ミサイル 409発:約1億2,900万ドル(約139億円)
- BGM-71 TOW対戦車ミサイル 1,240発:約2億9,900万ドル(約323億円)
- FIM-92 スティンガー対空ミサイル 250発:約2億2,300万ドル(約241億円)
※契約総額22億ドルという話もあり、対戦車ミサイルや対空ミサイルが抜け落ちた可能性がある。
もしこの契約についても、トランプ政権が承認して議会に通知するようなことがあれば、F-16V Block70売却の撤回を要求している中国は更に態度を硬化させるだろう。
問題はF-16C/D Block70とは異なり、現在、米国内でも新規製造を行っていないM1エイブラムス戦車を、一体何処から108輌も調達するのかだ。
恐らく、これは米陸軍が使用しているエイブラムス戦車をオーバーホールし台湾に輸出する可能性高い。
米国は、同じ様な手法で、イラクや、モロッコへ、オーバーホールを行ったエイブラムス戦車を数百輌近く輸出している。
現在米国では、エイブラムス戦車を更新するための新型戦車の開発が進められており、2025年から新型戦車によるエイブラムス戦車の更新が始まる予定で、現行のエイブラムス戦車の中で、最新型のM1A2C(SEPV3)へアップグレードを行わない余剰分を処分しているのだろう。
そのため台湾へ輸出するためのM1エイブラムス戦車を用意することは何も難しくない上、米中の対立が長引けば長引くほど、M1A2 エイブラムス戦車売却の実現性は高まる。
もし米中の貿易対立が長引けば、長引くだけ、米国は中国を気にすることなく台湾へ武器を輸出でき、台湾の防衛力は強化されるだけで、仮に、長い対立の後に米国と和解しても、既に台湾へ売却された兵器がどうにかなる(撤去と言う意味)わけでもなく、中国とっては後の祭りに過ぎない。
※アイキャッチ画像の出典:Public Domain 能力敵にBlock70と同等と言われるアラブ首長国連邦向けのBlock60
香港にも何かちょっかいを仕掛けている気配がありますし、さすがアメリカは嫌がらせに関しても一級ですね(笑)
GE F110はPW F100より低高度時の出力が高いのと、必要空気流入量が多いのでF-16 C/D block 30後期生産型以降ではエアインテークを大型化してF110の性能を引き出せるようにしてます。
台湾の既存のA/B型をV型に改修するときに、V型新造機のように耐用年数を12,000飛行時間に延命するなら機体構造も手を入れるでしょうから、エンジンベイやエアインテークもF110に合わせた仕様になりそうです。
エンジンに技術的な問題が派生した時の飛行停止を考えてF110エンジン搭載で売却するのでは?
(輸出も考えると他機種を合わせて導入できる国は少ないからの対策かな?)
F100/F110の搭載はBlock30/32から(30=F110、32=F100 以下のBlockも同様な命名規則)
台湾向けのF-16Vからコンフォーマルタンクを外したのは、「航続距離が長くなる=中国大陸攻撃用」と中国側から見做されるのを防ぐ為に、米国側が輸出許可しなかった可能性があると思います。
あとF110エンジンの採用は、もしかするとGE社の仕事確保が目的かも…F-22やF-35のエンジンはP&W社の独占で、現在製造中の米国製戦闘機でGE社製エンジンを使うのは、F-16の他は現状輸出が余り振るわないF/A-18E/Fだけだったと思いますが。
エンジン2種の話はリスク分散でしょ
エンジンの問題で飛行停止になっても稼働機ゼロにはならない