インド太平洋関連

パイロット確保が目的? タリバンが旧政府軍兵士も参加可能な新アフガニスタン軍設立を発表

アフガニスタンを掌握することに成功したタリバンは旧政府軍の人員も参加可能な新しい政府軍を設立すると発表、この取り組みが成功すればタリバン掃討のため米国やNATOが訓練した人材がタリバンに吸収されることになる。

参考:Exclusive-Council May Rule Afghanistan, Taliban to Reach Out to Soldiers, Pilots-Senior Member
参考:The Taliban have access to US military aircraft. Now what happens?

タリバンが旧政府軍の兵士を取り込もうとしているのは手に入れた航空機を運用するためのパイロットやエンジニアを確保するため

米国のジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は17日、ガニー政権のアフガニスタン政府が想定よりも早く崩壊したため相当量(数十億ドル相当)の米国製兵器がタリバンの手に渡ったと認めたが、ここで問題になるのはアフガニスタン政府軍が保有していた211機の航空機(A-29、C-130、UH-60、MD-530、Mi-17など)の運命だ。

アフガニスタン政府軍が保有していた航空機の大半は破壊されないままタリバンの手に落ちている可能性が高く、これを運用・維持する人材がタリバンにはいないため米国は「脅威になる可能性は低い」と予想していたが、タリバンのワヒードラ・ハシミ氏はロイターに対して「新しい政府軍を設立する予定で米軍やNATOから近代的な軍事訓練を受けた旧政府軍の兵士にも新政府軍へ参加するよう呼びかけている」と発言したため状況が変わってきた。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Sean Martin UH-60の操縦方法を学ぶアフガニスタン政府軍のパイロット

タリバンが旧政府軍の兵士を取り込もうとしているのは手に入れた航空機を運用するのに不可欠なパイロットやエンジニアを確保するためだと見られており、この試みが成功すればタリバン掃討のため米国が与えた航空機や訓練した人材がタリバンの戦力に組み込まれてしまいバイデン政権や国防総省は議会や世論から大きな批判を浴びることになるだろう。

特にアフガニスタン政府軍が保有していた航空機はローテクな普及機ばかりなので維持に不可欠なスペアパーツや消耗品等を海外のブラックマーケットから調達することも不可能ではなく、タリバンと親密な関係にあるパキスタンが航空機の維持に協力することも十分ありえるため米メディアは「アフガニスタンからの脱出作戦が完了した後に空爆で破壊すべきだ」と主張してるが、タリバン主導の政権が成立した後に攻撃を行えば米国へのテロ再燃に繋がる恐れがあるので「空爆による破壊」を実行に移すかは微妙なところだ。

出典:U.S. Air Force photo by Senior Master Sgt. J. LaVoie/Released アフガニスタン政府軍のMD-530とパイロット

この試みを別のアプローチで阻止するためには旧政府軍のパイロットやエンジニアなどに特別移民ビザ(SIV)を発給→国外脱出させてしまえば良いのだが、そうなると一般の兵士にもSIVを発給する必要があるため海外脱出させる膨大になるため現実的ではないかもしれない。

因みにタリバンは崩壊した旧アフガニスタン政府軍や治安部隊の武器庫に保管されてあった装備品の接収を進めており、確保したM4小銃、M249軽機関銃、PVS-7D暗視ゴーグル、防弾チョッキ、スキャンイーグルといった大量の装備品をネット上にアップしたため米国側は「これらの装備品がタリバンではなく自分達に向けられることになる」と困惑している。

参考:Shocking videos show just how many US military weapons are now in the hands of Taliban terrorists

米国が約870億ドル/約9.5兆円を投じて創設したアフガニスタン政府軍や治安維持部隊はタリバンの戦力にダメージを与えること無く崩壊して、与えた装備品や近代的な訓練を施した兵士のスキルはタリバンの戦力強化に寄与するという受け入れがたい結末で終われば本当に皮肉な結果だとしか言いようがない。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo/Staff Sgt. Larry E. Reid Jr., Released

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 8月 19日

    旧政府軍、やはり一部のコマンド部隊以外は地方の軍閥と一緒にタリバンに無血開城されてそのまま雇い主だけ変わる感じになっているな…。タリバン政府公報で映ってたタリバン兵士は明らかに民兵じゃない、アメリカ製装備を使い慣れた特殊部隊隊員だった。そもそもタリバンが電撃戦級の速度で全土を制圧できたのも、タリバン兵の戦略機動力を考えれば少数の鎮圧部隊とタリバン特使によって無血開城されていったという感じじゃないか。
    航空部隊を接収したり、後は中国が地対空ミサイルを新たに供与するという話もあったけど有志連合側の制空優位すらもう風前の灯火。外国人やアフガン人協力者を脱出させられるチャンスは今週いっぱい程度じゃないか

    11
    • 匿名
    • 2021年 8月 19日

    パイロット確保して何するんだろ?
    攻撃に使われないのを祈る
    これで他の国攻撃したらどうなるんだ?
    やっぱりアメリカが軍を派遣しますかね?

      • 匿名
      • 2021年 8月 19日

      他国を攻撃する動機がない

      8
        • 匿名
        • 2021年 8月 19日

        現状はそうだけど、トルクメニスタンがロシアに戻ったら、アフガンはやばいから予防か。

      • 匿名
      • 2021年 8月 19日

      アメリカ製戦闘機なとは爆撃機による破壊対象とする予定じゃなかったっけ

        • 匿名
        • 2021年 8月 19日

        実際に2機のB-52が向かっていたらしいけど、爆撃は中止した帰投したらしい。

    • 匿名
    • 2021年 8月 19日

    現地に取り残された協力者の方々はしばらくは安全そうな雰囲気?
    大きな被害も無く武器と人員が大量に確保できれば無闇に粛清なんかしないのでは?
    今のうちに各国協力して早急に脱出させるべき

    1
      • 匿名
      • 2021年 8月 19日

      表向きは隠すだろうけど、国内への見せしめとして大きな意味を持つから多少の粛正は行われるのでは

      9
      • 匿名
      • 2021年 8月 19日

      占領してすぐに粛正なんかしないよ
      国内の支配が行き届いてタリバン側が落ち着いてから本格的にやりだすだろう

      12
        • 匿名
        • 2021年 8月 19日

        けど勢いつきすぎてタリバンが末端の兵士までちゃんと制御できているとは思えないからなぁ

        3
      • 匿名
      • 2021年 8月 19日

      現地人大使館職員に対する加害活動は今のところ耳にしていないけど、アメリカ軍基地で働いていた現地人は片っ端から家族もろとも〇されているという話は聞いたな
      ただツイッターやら個人レベルでの伝聞であって、公式機関による発表は今のところ見かけないから真偽のほどは不明

      5
    • 匿名
    • 2021年 8月 19日

    「米軍が撤収期限を過ぎた後は自由にやり合ってくれ。武器が取られても仕方なし。」
    と思ってたのが、予想以上に早く動いて、しかも政府軍が全く戦わないから、タリバンも当初の想定以上にうまくいってしまったのかな。

    1
      • 匿名
      • 2021年 8月 19日

      うまくいったというか、逆に勢いがつきすぎてタリバン上層部が焦るぐらい

      タリバン上層部としてはもう国外と事を構えるつもりがないから、外国人とその関係者は問題なく脱出して欲しい
      けど政府軍が無抵抗どころか武器をくれるような状況だから勢いつきすぎたタリバン末端の兵士が制御不能で暴走しかねない状態

      当初の予定ではアメリカとしてもタリバン上層部としても現段階ではまだ空港は安全に機能し、問題なく関係者を国外に脱出させているはずだった
      けどもしこのままの勢いで空港や外国人に何かあったらそれがまた新たな火種になり、せっかくの手打ちが台無しになりかねないからね

      4
    • 匿名
    • 2021年 8月 19日

    でも、タリバンって今までパイロット狙いの暗殺作戦しまくってたんじゃなかったっけ?
    貴重なパイロットは既に死んでいるか、もしくは亡命しているかで、大して集まりそうにない予感がするが

    10
    • 匿名
    • 2021年 8月 19日

    西側がタリバンと直接やりあう事は無いにしてもアフガン特殊部隊の訓練に西側の様々な特殊部隊関わっていたよな。武器はともかく、カラビナとかみたいなちょっとした装具とかも晒されたらより戦術とか読まれるよなぁ。武器の有効射程、ドローンの探知性能とか旧ソ連の兵器みたいに丸裸にされそう。

    1
    • 匿名
    • 2021年 8月 19日

    返還の要求をして受け入れられない場合は空爆で良いんじゃね

      • 匿名
      • 2021年 8月 20日

      それならそもそも撤退なんてしない

    • 匿名
    • 2021年 8月 19日

    そもそも国名が”タリバン”になるわけでもあるまいし、”新”アフガニスタン軍として編成すのは当たり前の話だろうろう。
    もっともシン・アフガニスタン軍と名付けたらドン引きしそうだが…。

    2
      • 匿名
      • 2021年 8月 19日

      「さようなら、全ての異教徒」とか言ってジハード再開しそうなのでやめとこう

      12
    • 匿名
    • 2021年 8月 19日

    このサイトは取り上げてないけど、ウズベキスタンに50機近くアフガン空軍機が亡命してるね。
    募集しようにも、機体もパイロットもあんまり残ってないかも。

    2
    • 匿名
    • 2021年 8月 19日

    ここ1ヶ月ビットコインが値上がりしてたのは、ブラックマーケット取引を見越したタリバン/それを察知した人々 によるものだったり?

    • 匿名
    • 2021年 8月 19日

    イラン革命でアメリカと決別した時のイラン空軍F-14パイロットや地上スタッフの扱いは決して良いものではなかったらしい、と聞いたことがありますが信憑性は不明です。

    ただ、今のご時世に航空戦力を維持しないのはありえないですから、表向きは取り込みをするでしょうね。
    使い捨てUAVとトヨタ車で事足りるなら話は別ですが、タリバンも正規軍戦力の重要性は理解しているはずと思いたいです。

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