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第4世代機より劣っているF-22Aのアビオニクス、AIM-120DやJHMCS統合で2060年まで現役?

世界最強のステルス戦闘機と呼ばれているF-22Aラプターのアビオニクスは頻繁にアップグレードが行われる第4世代機よりも劣っており、この問題を解消するアップグレードが実行されれば2060年頃まで戦う事ができるとナショナル・インタレスト誌が報じている。

参考:This Stealth Fighter Could Dominate the Skies Until 2060

F-22Aは未だにヘッドマウントディスプレイやAIM-120Dが使用できない

ステルス性能やGE製エンジン「F119」と二次元式推力偏向パドルによって生み出される機動性によって、未だに「世界最強のステルス戦闘機」と呼ばれているF-22Aラプターだが、搭載されているアビオニクスに関してはアップグレードを行ったF-15やF-16、F/A-18などの第4世代機よりも性能が劣っている。

レガシーな第4世代機はF-22A登場以降も搭載されたアビオニクスの更新や新しい搭載兵器の統合が頻繁に行われたのに対し、F-22Aのアップグレード回数は極端に少ないためオフボアサイトに対応した短距離空対空ミサイル「AIM-9X」や、射程を延長し双方向データリンクを採用した中距離空対空ミサイル「AIM-120D」が使用できず、戦術情報の共有を行う「リンク16/TADIL J」は受信モジュールしか搭載していないため情報の共有は出来ててもF-22Aが収集した情報を送信することがない出来ない。

出典:Public Domain JHMCSを装着したヘルメット

ただオフボアサイトに対応した短距離空対空ミサイル「AIM-9X」自体のF-22A統合は2017年に完了してはいるが、F-22Aは未だに戦闘機用ヘッドマウントディスプレイ「JHMCS(統合ヘルメット装着式目標指定システム)」が統合されていないため、せっかくのオフボアサイト発射機能を活かしきれていない。

この問題を解決するため米空軍は2019会計年度予算で約10億ドル(約1,100億円)を投資してハードウェアとソフトウェアの更新(Increment 3.2B及びupdate 6)を行おうとしている。この更新が行われればJHMCSやAIM-120Dの統合やF-22Aが収集したデータを安全に送信して共有できるようリンク16が改良され、ようやくアップグレードを受けた第4世代機と同じ機能を手に入れることになる。

このようなアップグレードが上手く行けば世界初のステルス戦闘機F-22Aラプターは、第6世代機に任務を引き継ぐまでは現役に留まり続け最大で2060年頃まで戦う事ができるとナショナル・インタレスト誌は言っているが、米空軍は2045年頃までの運用を予定しており運用期間の延長については何も言及していない。

出典:Pixabay F-22 ラプター

米空軍はロッキード・マーティンと結んでいるF-22Aの維持・メンテナンス契約を5年延長するため最大70億ドル(約7,400億円)の契約を与えたので2032年までF-22A維持が確定していると見ることが出来るが、これは約180機程度のF-22Aを1年維持するため約14億ドル(約1,500億円)もの費用を負担していることになり、1機辺りの年間維持費は約8億円ということになる。

仮に2060年までF-22Aを維持するには追加のアップグレードも必要になるだろうが、問題は少数しか生産されなかったため価格が下がりにくいF-22Aの維持・メンテナンスが他機種よりも高くつくという点だ。5年70億ドルで計算すれば、F-22Aを2060年まで運用するには追加で300億ドル(約3兆円)近くの維持・メンテナンス費用が必要になるため、米空軍としては第6世代機を一刻も早く完成させてF-22Aを退役させたいと考えているかもしれない。

最悪F-22Aラプターの輸出は無理でも当初の計画通り600機近く生産していれば、少なくとも維持・メンテナンスがここまで高騰することは無かっただろう。

とにかくF-22Aのアップグレードが上手く行けば第4世代機よりも性能が劣っていた部分の問題が解消するが、2060年代まで現役に留まり続けるというのは維持・メンテナンス費用の面から考えると難しいと言わざるを得ない。

 

※アイキャッチ画像の出典:US Air Force / Airman 1st Class Isaiah Soliz

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 3月 06日

    F-35用の機器をポン付けするわけにもいかないのだろうな。

    • 匿名
    • 2020年 3月 06日

    日本がF-22じゃなくF-35を採用したのは結果的には正しかったわけだ
    まぁそれ以外選択肢がなかったんだけど

    2
    • 匿名
    • 2020年 3月 06日

    なんだか現時点から見ればF-22はF-35開発のための練習台って感じですね。F-22の機動性は海軍が継承するのでしょうか。

    1
    • 匿名
    • 2020年 3月 06日

    政治的理由だけでなく、米軍がラプターの維持費に苦しんでたからF35への移行を優先したと解釈すべき
    いまだにラプターに未練残してる戦闘機ヲタはやはり子供としか

    • 匿名
    • 2020年 3月 06日

    米CBOからもF-22をF-35に置き換える提言が出たばかりですね。次世代機がある程度形になれば40年代までF-22を維持するメリットは薄く早期の退役もあり得るかと

      • 匿名
      • 2020年 3月 06日

      単一機種運用…うっ頭が

    • 匿名
    • 2020年 3月 06日

    いや古い方からアップデートするんだから当たり前じゃないか?
    しかもアップデートしてもラプター以下だったら何のためのアップデートなのかと…
    順番から言えば次がラプターなんだから現時点でアップデート機より劣るのはしょうがないじゃん

      • 匿名
      • 2020年 3月 06日

      とはいえ、その「次」というのはあるんですかね
      いまだにラプターに未練残してる戦闘機ヲタなので、次があって欲しいところではあるんですけど

      • 匿名
      • 2020年 3月 06日

      アビオの性能は古い新しい以外にもサイズや造りの影響も大きいので、F-15ならともかくライノやF-16に抜かれるのは流石に寂しいと思うけど。
      「順番的に仕方がない」というより「F-22のアビオ更新しても金にならんから長らく放置されてる」の方が実情に近いんじゃないかなぁ。

        • 匿名
        • 2020年 3月 07日

        劣ってるのはレーダー性能では無いですよ
        レーダー性能自体は、ラプターはF-35よりも上
        ただラプター開発当時の無かったミサイル等の運用能力が無い
        ステルス性能、機動性、最高高度等の改修が難しい部分はF-35より上なのほ事実

          • 匿名
          • 2020年 3月 08日

          私は「レーダー」とは一言も書いてませんが…。
          一度元記事から読み直してみては如何でしょうか。

    • 匿名
    • 2020年 3月 06日

    2060年ってF-22のエアフレームそんなに保つんですかね?
    A-10みたいな大改修やったらまたアホみたいに金掛かるだろうし。

    • 匿名
    • 2020年 3月 06日

    昔に日経CNBCがf22は共和党の選挙区にf35は民主党の選挙区に部品の製造メーカーが集中し、日本の輸出に影響するかを詳しく報道してた。

    共和党が政権にいる限りf22案はで続けるが民主党政権に変わるとぽしゃると思う。

    • 匿名
    • 2020年 3月 06日

    アップデートおざなりだったのか。
    驚き。
    輸出できないからメーカーがやる気無くしたのか、それとも空軍が油断しまくったのか。
    なんのかんのでF15を長々と使ってるから、F22も末永く使ってほしい。

    • 匿名
    • 2020年 3月 06日

    変にアップデートするよりコイツも新型で置き換えもありだと思う。
    アップデートは必ずしも安くならん。

    • 匿名
    • 2020年 3月 06日

    なんのかんの言って現在まともに運用されている唯一の第5世代機。中露が相手なら今のままでも十分通用すると思う。動線数がすくないのた下手にアプデするよりF35や次期FXに予算

    • 匿名
    • 2020年 3月 07日

    オーパーツと言っていい航空支配戦闘機も初飛行から30年の古い機体だからなあ
    生産数が200機程度で大規模なアップデートをする魅力も薄いしF-35が大量配備されていく以上はF-35に代替でいいやろ感
    まあF-22の形が好きなので何やかんや最強の制空戦闘機として長生きしてほしい

    1
    • みけげ
    • 2020年 3月 08日

    なんだかんだでアメリカ本国の経費圧縮の為にF3のベースになりそうな予感がする・・・

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