米国のAeroVironmentは9日「ヘリコプタータイプのVAPOR 55MXからGPS誘導弾=Shryke弾の投下に成功した」と発表、Shryke弾の正体は約1km離れた目標を攻撃可能な「小型の滑空爆弾」で、Mコード対応のため妨害下でも目標への命中が期待できる。
Mコードに対応しているためプーフィング(なりすまし)攻撃や妨害電波に対する耐性が期待できる
米国のAeroVironmentは9日「VAPOR 55MXからGPS誘導弾=Shryke弾の投下に成功した」「VAPOR 55MXは搭載した4発のShryke弾による攻撃を完璧に成功させた」「複数のShryke弾を搭載できるVAPOR 55MXは1回の飛行で複数の目標を攻撃任務を実行でき、40mm対装甲弾頭の殺傷能力と軽量な滑空翼の組わせは『巻き添え被害』の少ない効果的な解決策を戦場に提供できる」と発表。
VAPOR 55MXはAeroVironmentが開発したヘリコプタータイプの電動式UAVで、モジュール式のペイロードベイとマルチセンサー能力によってEO/IR、マルチスペクトル、LiDAR、通信中継、SIGINT、攻撃兵器などを簡単に脱着することができ、制御通信の範囲は最大32km、最大75分の飛行能力(ホバーリング能力は最大60分)、ペイロードベイは2.3kg~10kg、総重量は構成によって変動(14.5kg~29.5kg)する。
VAPOR 55MXに統合されたShryke弾はMIL-STD-1316(国防総省設計基準)に準拠し、対人や対装甲に効果的な弾頭重量は1ポンド=約453g、GPS誘導もMコードに対応しているためプーフィング(なりすまし)攻撃や妨害電波に対する耐性が高く、3,000フィート(914m)離れた目標への攻撃が可能らしい。

出典:AeroVironment VAPOR 55MXから投下されるShryke弾のイメージ
要するにShryke弾の正体は「約1km離れた目標を攻撃可能な小型の滑空爆弾」で、Mコードにも対応しているため「従来グレードのGPS信号が妨害された環境下でも目標への命中が期待できる」という意味だ。
因みに米空軍はロシア軍や中国軍のスプーフィング攻撃や妨害電波に晒されているGPSの問題を解決するため、2009年までに「Mコード」と呼ばれる新しい信号に対応したGPS衛星BlockII RMを計8基打ち上げたのだが、レイセオンがMコードに対応した次世代運用制御システム(GPS OCX)の開発に手間取り、2016年に予定されていたサービス開始は2023年4月にずれ込み、開発コストも37億ドル→62億ドルに高騰してしまう。

出典:public domain GPS衛星BlockII RM
そのため米空軍は現行の制御システムを暫定的にMコードへ対応させること決断、この作業を受注したロッキード・マーティンの努力によって暫定バージョンの「M-Code Early Use」が2020年3月に承認され、同盟国向けのMコード対応受信機も2021年3月に出荷が始まっている。
これは同盟国がMコードをテストするためのもので、当時「この仕組みにフランス、ドイツ、英国、韓国、オーストラリア、イタリア、スウェーデン、オランダが参加する」と報じられていたため、Mコードの普及と運用は段階的に広がっているものの、本命のGPS OCX稼働は2024年の春もしくは夏になる見込みだ。

出典:Photo by Lance Cpl. Nicholas Guevara
ウクライナにMコード対応の誘導兵器やナビゲーション技術を提供すれば「Pole-21」の影響を軽減できるかもしれないが、これは実現が難しいと指摘されている。
Economist紙は「ウクライナが必要とするEW技術は機密性が非常に高く、特に米国は国務省が管理する厳格な輸出管理体制で技術を保護しているため、ウクライナは米国や欧州諸国からEW技術に関する支援を受けるのは難しいだろう」と、ミュンヘン安全保障会議のニコ・ランゲ氏も「最新のシステムをもつ米国はロシアに手の内を見せることに消極的だ」と述べており、Mコード対応の誘導兵器やナビゲーション技術の提供は期待薄だ。
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※アイキャッチ画像の出典:AeroVironment
ヘリコプタータイプの電動式UAV…思った以上に大きいですね
攻撃能力が高いのはわかるのですが、容易に撃墜されそうな雰囲気
Mコードも重要だろうが、そもそも今後高価で少数のGPS衛星そのものが安泰かどうかも分からん
Starlinkの様な多数の衛星コンステレーションが今後の軍用衛星の主力になることが期待される
量子コンパスや新型IMUなどの衛星レスな自己位置推定システムも必要
スペースXのスターリンクが大量に衛星を軌道上に展開できる理由は安くてパワーのあるファルコン9を保有していること以外に、スターリンクの衛星は重量200キロと軽く高度300キロの低軌道に展開していることが大きいので、高度が上がるとその分ペイロードが下がるので効率は落ちます。
ファルコン9は低軌道なら20トンのペイロードがあるので一度に小型衛星なら60基の打ち上げとかしてますけどそれ以上の静止軌道とかならペイロードは半分以下に落ちます、測位衛星は1500キロと重く高度2万キロ以上の中軌道に展開するので
現状だとスターリンクのように展開するのは難しいですね。
個人的な意見としてただでさえ低軌道はロケットラボ等の小型ロケットの展開先として利用されてるので、あまり低軌道に展開しまくると単純に邪魔だし危ないのでやりすぎてほしくないですね。
GPS衛星の代替は低軌道衛星では不可能だと思いますよ
地球の自転に連動した高軌道でないと
以前に読んだ他所の記事の孫引きですが。
”ストラテジーペイジの2023-4-12記事。
スターリンク衛星のうち6個からの電波を受信できると、
精度8mの「簡略衛星航法」が可能 であることが分かった。”
だそうです。
精度8mであれば、自動車のナビには使えるかな、と思ったものです。
まあ測位衛星を打ち落とすような強度の戦争は、人類文明絶滅レベルの戦争になるでしょう。
CEP数十mで許されるICBMはどうせINSと天測の古い技術で飛ぶのであんまり関係ないかなあ。
さすがの高性能、ですが。
得られる結果だけを見ると,現在ロシアやウクライナか使ってる600ドルのFPVドローンと何が違うのだろうかと。
最近は、FPVドローンのパイロットがこの手の敵の大型ドローンを発見したら、速攻で体当たりで壊すのが戦術の基本になっています。価格としては圧倒的にFPVドローンの方が安いので、敵の大型ドローンと相打ちにさせればコスト的に勝利と言えるからだそうで。
また、こういう再利用して何度も使える大型機を対象に「基地に帰還するドローンを別のドローンで追跡して拠点を割り出し、そこを榴弾砲やランセットで叩く」という送りオオカミ戦術も多用されています。パイロットの安全性としては,使い捨てのFPVの方が有利なんですね。
かならずしも高性能多機能が正解ではないのが戦場です。
ミリレポさんのところで
「米宇宙軍が同盟国に妨害防止GPS技術のMコードの提供を開始、でも日本は?」
という記事がありましたが、その後日本はどうしたのでしょう。