米海軍が建造を進めるアメリカ級強襲揚陸艦は、当初、ウェルドックを持たない設計だったが、海兵隊の要求により3番艦「ブーゲンヴィル(2019年3月起工)」からウェルドックが復活する。
参考:Deadly Combo: The Navy Has Combined F-35s with Helicopter Assault Ships
ライトニングキャリアに最適なアメリカ級強襲揚陸艦に復活したウェルドック
タラワ級強襲揚陸艦の後継艦として建造されているアメリカ級強襲揚陸艦(満載45,500トン)は、当初、多くの強襲揚陸艦が備えているウェルドックを廃止し、捻出したスペースを航空機運用のための各種設備拡充にあてたため、LCAC(エア・クッション型揚陸艇)による兵力や装備の揚陸が出来ず、MV-22Bやヘリを使った空からの揚陸に特化している。
海兵隊は、海からの上陸が予想されている地点へのD-Day方式による水陸両用作戦は、もはや現代において通用しない=莫大な損失(主に兵士の生命という意味で)に耐えられないと考えており、さらに陸上に展開した地対艦ミサイルが、数千もの兵士と上陸用装備を詰め込んだ強襲揚陸艦や揚陸艦の接近を拒んでおり、1発の対艦ミサイルと強襲揚陸艦をトレードオフするのは到底認められない。
そのためアメリカ級強襲揚陸艦は、MV-22Bやヘリを使い海岸正面に兵力や装備を揚陸するのではなく、敵の後方に兵力を投入することを狙っている=そのためのウェルドック廃止、航空機運用能力の強化だったのだろうが、アメリカ級強襲揚陸艦の1番艦が就役もしていない段階で、海兵隊から伝統の「ウェルドック」復活の要求が出たため、3番艦「ブーゲンヴィル」から再びウェルドックが復活させることになった。
単純に拡充した航空機運用設備を削りウェルドックのスペースを捻出するだけなら比較的簡単な話だが、海兵隊は現在の航空機運用設備をあまり削ることなく、ウェルドックを復活せよと要求したので、問題は複雑になった。
現在のアメリカ級強襲揚陸艦のウェルドックを単純に追加すれば、5万トンを超える巨艦になることが予想され、建造費が高騰するのは誰の目にも明らかなので、航空機運用能力を損なうことなくウェルドックを復活させ、しかも艦の大きさは現状を維持するという、非常に難解な設計にチャレンジすることになる。
ここで言う航空機運用能力とは主に、艦内の航空機格納スペースや、航空機に対する補給品(燃料や保守パーツ、搭載兵器等)を貯蔵スペースのことだ。
米海軍はまず艦内の航空機格納スペース減少をカバーするため、アメリカ級強襲揚陸艦の艦橋を縮小、RIM-162 ESSM用のMk.29ミサイル発射機やRIM-116を飛行甲板上から撤去(艦尾へ移動)し、捻出したスペースに部分的に拡張された(艦外へ張り出した)飛行甲板を設けることで、新たに3機分の航空機駐機スペースが確保し、さらに他の航空機を動かすこと無く飛行甲板上でMV-22Bを整備できるようになった。
ワスプ級強襲揚陸艦の「マキン・アイランド(最終艦)」と、アメリカ級強襲揚陸艦の1番艦「アメリカ」、3番艦の「ブーゲンヴィル」を比べると何を優先したのかよく分かる。
マキン・アイランド | アメリカ | ブーゲンヴィル | |
航空機支援スペース | 2931.92㎡ | 4392.82㎡ | 3534.86㎡ |
航空機用燃料貯蔵量 | 2,214,400L | 5,345,000L | 2,214,400L |
ウェルドックのLCAC収納能力 | 3隻 | 0隻 | 2隻 |
車両(上陸用物資)格納スペース | 2661.20㎡ | 1756.88㎡ | 1487.47㎡ |
航空機格納スペース | 1741,46㎡ | 2614.47㎡ | 2614.47㎡ |
航空機支援スペースは、1番艦「アメリカ」に対し20%程度低下し、航空機用燃料貯蔵量に関しては1番艦「アメリカ」の半分以下、ワスプ級強襲揚陸艦と同レベルまで低下しており、航空機格納スペースは一見、同じスペースを確保しているように見えるが、機格納スペースの1/3相当は天井までの高さが半分になっているため16%程度容積が縮小している。
復活したウェルドックに関しても、LCAC収納能力が2隻とワスプ級強襲揚陸艦には及ばす、車両(上陸用物資)格納スペースは1番艦「アメリカ」よりも少なくなっている。
これは大規模な水陸両用作戦が求められる事が少なくなっていることと、新たにMV-22Bといった新機材による兵力や装備の輸送が出来るので、海兵隊伝統の「ウェルドック」を復活させてもLCAC収納能力を2隻に抑え、今後、通常編成(6機)よりも多くののF-35Bを搭載し、軽空母もしくはライトニング・キャリアとしてアメリカ級強襲揚陸艦を運用するために航空機関連のスペース減少を最小限に抑えた格好だ。
航空機用燃料の貯蔵量に関しては1番艦「アメリカ」よりも大きく減少しているが、ワスプ級強襲揚陸艦の航空機用燃料貯蔵量でF-35Bを300回出撃させることが可能と言われており、通常編成の6機なら1機あたり50回の出撃が可能だが、ライトニング・キャリアでアメリカ級強襲揚陸艦を運用した場合、最大20機のF-35Bが運用できるため1機あたりの出撃回数は15回までとなる。
ただし航空機用燃料は最悪、海上補給で後から補うことも可能なので他の要求との兼ね合い上、バッサリと切り捨てたと見るべきかもしれない。
このようにウェルドックを取り戻した新しいアメリカ級強襲揚陸艦は、ワスプ級強襲揚陸艦を超えた存在というわけではなく、ニーズ(海兵隊のLCAC搭載要求)の変化に合わせて性能を調節してきた艦だと言える。
特に飛行甲板のレイアウト変更により、ウェルドックのないアメリカ級強襲揚陸艦よりも航空機の運用効率は向上しているので、失ったものと新しく獲得したものを天秤にかけた場合、3番艦「ブーゲンヴィル」の強襲揚陸艦としての実用性は高まったと言える。
が、強襲揚陸艦の高機能化=複雑化が進めば進むほど、強襲揚陸艦は機能を解体し分散したほうが良いのではないかと感じる。
1艦で何種類もの任務をこなせると言うのは非常に便利に見えるが、F-35Bを搭載し軽空母仕様で運用すれば水陸両用作戦には投入できず、ウェルドックや2,000名近い海兵隊員を収容するための設備がデッドスペースになり、水陸両用作戦に使用するのなら、あそこまで大量の航空機用燃料は必要なくなる。
そして最も問題なのは艦を喪失した場合、多くの任務に対応する能力を同時に失ってしまう点だ。
20機程度のF-35Bを運用する軽空母なら3万トン程度で十分だろうし、2,000名程度の海兵隊員の揚陸機能だけに絞るなら、2万トン程度のサン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦を改良すれば十分カバーできるだろう。
海上自衛隊は強襲揚陸艦方式ではなく、いずも型空母(改造予定)とおおすみ型輸送艦(実質的には揚陸艦)に分けて水陸両用作戦の戦力を整備しており、この方式の方が恐らく「抗堪性」という観点からすれば正しい選択なのかもしれない。
4万トンを超えるアメリカ級強襲揚陸艦を12隻(+ワスプ級も8隻)も建造する米国にとっては、機能分散よりも多くの任務に投入できる多用途性の方が重要なのかもしれないが・・・
※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo illustration courtesy of Huntington Ingalls Industries
図がわかりやすいですね
海兵隊としても航空戦力を削るつもりは全くなく、燃料は随行する補給艦からの支援で賄うつもりでしょう
軽強度の紛争にスーパーキャリアを派遣するのは馬鹿馬鹿しいですから軽めのミッションに使うのかな
坑堪性・多用途性の他に、経済性の観点もあるかと。1隻と2隻の合計が同じ排水量なら一般的には1隻の方が経済的です。
要員も少なくて済みそう。
そういう意味では、海自のおおすみ級代艦に期待だね。
アメリカ級3番艦以降がどうなるのか気になっていたが、やはり厳しい設計となっている。
無理をしないで、LCACと航空燃料タンクの一部を排他利用にするなど、任務毎に機能を変えられるようにすればいいのだが。
ライトニング空母任務自体が副業みたいなものなので、重視しなくてもいいと思う。