米国関連

米最大の造船所が不正、偽装されたバージニア級原潜の性能は?

米海軍のバージニア級攻撃型原子力潜水艦を建造したハンティントン・インガルス・インダストリーズ社のエンジニアは、同社が建造したバージニア級原潜のステルスコーティングについて適切な処理を行っていないにも関わらず書類を偽造し海軍に提出していると告発した。

※本記事は2019年10月7日に公開した記事を加筆したものです。

参考:Whistleblower accuses largest US military shipbuilder of putting ‘American lives at risk’ by falsifying tests on submarine stealth coating

バージニア級攻撃型原子力潜水艦のステルス性能は偽装されたもの?

ハンティントン・インガルス・インダストリーズ社のニューポート・ニューズ造船所で働くシニアエンジニアのアリ・ローレンス氏は、同社が建造したバージニア級攻撃型原子力潜水艦(以降、バージニア級原潜)に施すステルスコーティング(所謂、無反響タイルの接着や防音処理のこと)は特殊な接着コーティングを扱うため資格を持った技術者が処理する必要があるのに無資格の技術者が不適切な方法で処理していると告発した。

バージニア級原潜は就役以来、航行中にステルスコーティングが剥がれ落ちる問題に悩まされてきた。

ロサンゼルス級原潜でも航行中にステルスコーティングが剥がれ落ちる事はあったが、ロサンゼルス級原潜の場合は数枚が剥がれ落ちる程度だったのにバージニア級原潜では大きな塊でステルスコーティングが剥がれ落ち、ひどい場合には船体のあちこちでステルスコーティングが大規模に剥がれ落ちたこともあると言う。

潜水艦の船体は水圧の変化によって膨張と縮小を繰り返すため、ある意味ステルスコーティングが剥がれ落ちるのは仕方の無い事かもしれない。しかしバージニア級原潜のステルスコーティングはロサンゼルス級原潜と比較しても「あまりにも脆すぎる」ため潜水艦のステルス性能(アクティブソナーが発信する音波の吸収性や静粛性)に大きな影響を及ぼすという意味だ。

ステルスコーティングが剥がれ落ちた船体は不規則な段差を生み不要なノイズを発生させる原因となり、潜水艦の存在を隠すのではなく目立たせてしまうのでバージニア級原潜にとっては致命的な欠陥だ。

この問題について海軍は改善を要求したのだが、同社はどんな対策を講じること無く試験結果を偽造した書類を海軍に提出することで問題の隠蔽を図っていたとローレンス氏は指摘した。

ただしバージニア級原潜を苦しめている問題はこれだけではない。

出典:Public Domain 潜水艦の垂直発射管 ※この画像はロサンゼルス級潜水艦のもの

バージニア級原潜に搭載されている12基の垂直発射管の溶接部分に問題が見つかり、米国の造船業界の技術力や品質管理のレベルが低下していることを示していると報じられていた。

完成したにも関わらず電磁式カタパルトや兵器用エレベーターの不具合で空母として機能せず、さらに動力部にも欠陥が見つかり一度も任務に就くことなくドックで1年を過ごして最近やっと海へ戻ってきた空母「ジェラルド・R・フォード」を建造したのも今回告発されたハンティントン・インガルス・インダストリーズ社のニューポート・ニューズ造船所だ。

この告発者は、この問題についてハンティントン・インガルス・インダストリーズ社から「沈黙」するよう圧力を受けたとも訴えており、もし告発内容が真実だと認定されれば同社は回復不可能なダメージを負うことになるかもしれないが同社の代わりとなる造船企業は米国国内にはなく、米海軍にとっても対処が難しい。

今のところ本件に関する裁判の行方などは一切報道されていないため、本当に告発内容が事実だったのか分からないが、内容が米海軍の機密に触れるので非公開で審理が進められているのかもしれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo by Chief Mass Communication Specialist Patrick Dille/Released

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 10月 07日

    ニューポートニューズはグラマンと合併していた時期もあるので、どこか品質管理のちゃんとしたところが買収して立て直すシナリオしかないですね。
    問題はそういう企業があるのか、というところですが、寡占化が進んだ今の状況では他業種から引っ張ってくるしかないと思われます。
    日本の造船企業も2隻1000億で受注して2000億の赤字を出したMHI筆頭にいろいろやらかしてるので、品質管理面でアメリカのフォローができるとは思えないです

      • 匿名
      • 2019年 10月 07日

      筆頭にとは言うけど三菱以外ってなんかやらかしてたっけ?
      三菱以外は技術的な問題より官僚に振り回されてるだけな気がするぞ

      2
        • 匿名
        • 2020年 8月 24日

        いろいろやらかしているぞ
        ググレカス

        • 匿名
        • 2020年 8月 24日

        同じ船を建造中に2回も燃やしたりしたのは官僚関係なくね?

        • 匿名
        • 2020年 8月 24日

        最近のエピソードなら長崎造船所はコロナを市中にまき散らして不評を買ったぞ

          • 匿名
          • 2020年 8月 24日

          あれって船員が市中感染してクルーズ船で増えただけだし、
          市中で拡がってる状況だったわけだからクルーズ船側の非だけではないからなぁ…

          2
      • oominoomi
      • 2020年 8月 24日

      少なくとも自衛艦に関しては、日本の造船所が何か「やらかしている」という事実は無いですね。
      時計の様に正確にフネを完成させ、そのフネが大きなトラブルもなく稼働している。
      日本では余りにも当たり前で何とも思わないこの事が、諸外国を見てると決して当たり前ではないのだ、と感じます。

      2
      • 匿名
      • 2020年 8月 25日

      うーん三菱というだけで民間軍需くそみそ一緒で批判がまかり通るのはいつも不思議です

      1
    • 匿名
    • 2019年 10月 07日

    三菱は官との癒着体質に慣れきってるから、民需や国際競争に弱い
    だから武器輸出もほぼ不成立
    これは国の体質でもあるんだが

      • 匿名
      • 2019年 12月 11日

      癒着も何も、日本の武器輸出は民間企業が勝手にできんから、政治家と官僚に丸投げ以外にありえんだろ。

      3
      • oominoomi
      • 2020年 8月 24日

      「武器輸出もほぼ不成立」って、これまで何を売り込んで来ましたか?
      武器輸出三原則の見直しが行われたのは2014年、ほんの数年前のことです。
      潜水艦の事なら、あれは豪政府から入札プロセスへの参加を求められたもので、官邸は確かに前のめりでしたが、メーカーも海自も腰が引けてました。

      三菱重工は最近になって、海自のFFMをベースにシリーズ化したOPV・FF・DDGを提案するなど、ようやく輸出に前向きになってきたところです。
      どうも勘違いしてる人が多い様ですが、武器輸出規制が一部緩和されたからといって、大型案件がすぐに成立するはずなんてないんです。

      4
      • 匿名
      • 2020年 8月 29日

      官と癒着体質にない軍需企業なんてあるのか?
      世界中見渡しても殆どの軍需企業は官と癒着してるでしょ

      4
    • 匿名
    • 2019年 10月 07日

    根本的に米国製造業ダメすぎでは?
    そりゃBIG3が日本自動車会社に駆逐されますわ

      • 匿名
      • 2019年 10月 07日

      日本は航空機製造でアメリカに足元にも及ばないけどな。過度な一般化は笑えるだけ。

        • 匿名
        • 2019年 10月 08日

        その航空機製造のボーイング今ボロボロなんですけど。
        エアバスの独占になると困るので踏ん張って欲しいですね。

        2
        • 匿名
        • 2019年 10月 08日

        今の所、ボーイングの大型機でまともに動いて商売になってるのって787ぐらいでは
        KC-46は給油機としての仕事は出来ず輸送機としてしか使えないわ、737MAXは飛行禁止中だし、777-Xは納期延期、797は姿が見えず757更新需要をエアバスにかっさらわれてるし
        おまけに戦闘機事業はほとんど新規受注が無く先が見えていて、なんとか新型練習機T-7Aで小型機部門を生き残らせられる程度の有様

        エアバスもA400MとA380でコケはしたものの、主力の小型~大型の旅客機は好調で企業全体としては問題無いでしょう

          • 匿名
          • 2020年 8月 29日

          エアバスも全然大丈夫じゃないよ
          需要大幅減で生産数4割も減らして四半期連続の赤字だぞ

      • 匿名
      • 2020年 8月 24日

      いつまでもヤードポンド法使ってるから天罰が下ったんだ
      やはりヤードポンド法は滅ぼさなければならない

      4
    • 匿名
    • 2019年 10月 07日

    アメリカの工業力も低下しているのですね。
    アメリカの経済は、一部、不平等条約で日本の富を掠めとることで成り立っている部分があります。

    日本は、アメリカの核の傘のもと、発展できた側面があるので、ある程度はしょうがないとも思えますが。

    また、日本は少子化と教育機関への冷遇のため、技術力が低下すれば、経済力は低下し、国際競争力はなくなります。

    日米ともども、自国に適正な投資ができなければ、共倒れしてしまうのではないかと心配するこの頃です。

    1
    • 匿名
    • 2019年 10月 07日

    おいおい、日米英独軒並みかい

    いったいどうしちまったんだ

    1
      • 匿名
      • 2020年 8月 24日

      そりゃゴーンみたいな奴等が大手を振ってのさばって、現場を見ずにリストラや株価を上げる事ばかり考えていれば、当然実業は悲惨な有様になるでしょう

      2
    • 匿名
    • 2020年 8月 24日

    一度失敗したから高い授業料とし今後同じ失敗をしない様にする事は出来るのでは>MHI
    インガルスは、何度も隠蔽を繰り返しているから同じでは無いと思えるのだが。

    1
    • 匿名
    • 2020年 8月 24日

    製造業はどうやったって人件費の安い国に流れていきますからね。先進国でこれを維持していくのはそう簡単ではありませんが、明らかに国の根幹に関わる部分なので、手を打たねば危険でしょう。

    1
    • 匿名
    • 2020年 8月 24日

    このブログで船体を作る高強度鋼も不正があったって読んだけど新型戦略原潜は大丈夫かなあ

    • 匿名
    • 2020年 8月 24日

    周り回って中国系が受注したりしてな

      • 匿名
      • 2020年 8月 24日

      豪の基地の件がありますからねえ…
      あり得る話

    • 匿名
    • 2020年 8月 24日

    日本もそうなんですけど、先進国全般の問題として労働力足りてないんですよね。
    しかも熟練の労働力は高齢化でリタイアが続き凄い勢いで消えていっています。
    こういった問題の原因として高齢化は多少関係あると思うんですよ。
    中国も早く高齢化してくれないと危なくて仕方ありません。

    1
      • 匿名
      • 2020年 8月 24日

      むしろ産業構造の変化によってサービス業が増え、工場が海外移転して技術者の「裾野」が無くなったことにあるのかなと
      どの国も技術を維持するために無理やり造船所稼働させてるが限界が来てるような
      ただ米の工業衰退で恩恵を受けたのが日本で、日本の衰退で恩恵を受けたのが中国で、中国の次は東南アジアとかインド?
      どっかで行き詰まって文明衰退するんですかねぇ

      2
    • 匿名
    • 2020年 8月 24日

    そうりゅう型もタイル剥がれてるけどアメリカもかw
    やっぱり潜水艦はドイツが世界一

      • 匿名
      • 2020年 8月 24日

      ドイツ本国の潜水艦は稼働率0%ですがね。

      1
      • oominoomi
      • 2020年 8月 24日

      ドイツの潜水艦は吸音タイル張ってないですから。
      そりゃ絶対に剥がれないですけど。

      2
    • 匿名
    • 2020年 8月 24日

    期間を開けずに建造し続けないと技術者の維持と育成が出来ないからだろ。

    例えアメリカといえども原潜を毎年建造出来ないから、やはり技術者の問題が出てきたんだろうね。

      • oominoomi
      • 2020年 8月 24日

      SSN「ヴァージニア」級の建造ペースは、ほぼ毎年2隻です。

      1
    • 匿名
    • 2020年 8月 24日

    中国の時代。

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