米国関連

米空軍は大型爆撃機が足りない?ステルス爆撃機「B-21」追加調達、B-1、B-2退役延期を求める

米国の「MITER」は、米空軍の長距離攻撃能力、特にインド太平洋地域における大型爆撃機の不足を指摘し、速やかに大型爆撃機戦力を増強すべきだと報告した。

参考:U.S. Air Force needs additional high-capacity bombers

米空軍は、追加で新たな大型爆撃機を調達する必要がある

MITERは米国政府から提供される資金によって、政府機関のサポートを行う非営利の研究機関で、米空軍が既存の爆撃機(B-1、B-2)を、現在開発中のステルス爆撃機「B-21 レイダー」で更新する計画について、見直を求める報告書をまとめた。

米国の将来を左右するインド太平洋地域は、中国が進める接近阻止・領域拒否(A2/AD)によって将来、米軍の介入・接近が難しくなると警告し、この米国本土から遠く離れたインド太平洋地域で「アウェイゲーム」を行うには、この地域の拠点とロジスティックが何より重要だが、同時に敵から攻撃を受けやすくリスクが高いとMITERは指摘している。

そのためインド太平洋地域の基地は、新しい防衛手段によってサポートする必要があり、リスクが低い基地を整備し、長距離攻撃能力を新たに整備する必要があると言っている。

出典:pixabay B-52 ストラトフォートレス

わかりやすく言えば、インド太平洋地域の米軍が展開する基地、もっと条件を絞れば中国に近い基地(日本、韓国、フィリピン等)の重要性は高いが、攻撃を受けやすいので新しい防衛手段によって守る必要があり、同時に中国から離れたリスクの低い基地(オーストラリアやパプアニューギニア等)を整備し、大型爆撃機による長距離攻撃手段を確保したほうが良い、爆撃機部隊の増強を行えという話だ。

MITERは、少なくとも50機のB-21が稼働するまで、B-2、B-1Bの退役を遅らせるべきで、B-21に問題がなければ生産スピードの引き上げや、現在、100機程度の調達を予定しているB-21を、もっとも多く調達すべきだと結論づけている。

これは、中国に対応するためには圧倒的に「爆撃機」と「空中給油機」が不足しているという米空軍の主張と一致する。

出典:public domain B-21

米空軍は2030年代までにB-2、B-1Bを退役させ、その穴をノースロップ・グラマンが開発中のステルス爆撃機「B-21」で埋めるため100機前後のB-21を調達する方針だが、現在運用中の3機種(B-52、B-1、B-2)158機の爆撃機では、中国の軍事力増強に対応できないと考え、爆撃機編成の飛行隊を現行「9」から「14(+5個飛行隊)」に増やすよう米議会に要請している。

もし米空軍の要請通り爆撃機編成の飛行隊を現行「9」から「14」へ増やす場合、76機のB-52Hと、200機のB-21が必要になるが、仮にB-21を年間12機づつ製造したとしても、200機を調達するためには16年ほど掛かるため、早期に爆撃機編成の飛行隊を「14」まで増やすには、B-2、B-1Bの退役を先延ばしするしかない。

この他にもMITERは、爆撃機の低い稼働率引き上げを提言している。

現在、米空軍が運用している爆撃機の「ミッション遂行能力」は50%から60%程度しかなく、これは158機の爆撃機の内、79機から94機程度しか作戦に投入できないという意味で、MITERは「ミッション遂行能力」を80%以上に引き上げれば、作戦投入可能な爆撃機が32機から47機程度増加することになり、新たに爆撃機を80機購入するのと同じだけの戦力向上が見込めると指摘している。

以上のように、米国が大型爆撃機を重視するのは、敵からの攻撃リスクの低い遠方の基地から出撃でき、AGM-86などの大型スタンドオフ兵器の運用が可能で、今後開発されるであろう「超極音速兵器」の搭載母機としての活用が見込めるからだ。

出典:public domain B-1B ランサー

但し、米空軍が運用する爆撃機の状況はあまり良くない。

B-52(76機)に次いで数が多いB-1B(61機)は現在、6機を除いて飛ぶことが出来ないでいる。

B-1Bは約20年間、本来の任務からかけ離れた長距離近接航空支援任務へ投入され続け、アフガニスタン、イラクで酷使を続けた結果、機体の構造的寿命の大半を使い果たしてしまったため、現在、15機のB-1Bが空軍の保守点検施設で機体メンテナンスを受けている最中で、39機のB-1Bが機体のメンテナンスやその他の問題により飛行を停止している。

戦略軍司令官のジョン・ハイテン空軍大将(現在、統合参謀本部副議長に指名され、指名承認手続き中)は上院軍事委員会の公聴会に出席し、資金さえあれば保守点検施設でB-1Bの問題を解決できると訴え、そのための資金を空軍に与えるよう要請している。

今後20年間、B-1Bを飛ばすためには、機体構造の大幅な補強が必要で、主に「主胴体、主力付け根部分、可変翼機構、昇降舵」についての補強を行う必要があり、2020年度の予算で39機分のB-1Bメンテナンス費用が認められなければ、B-1Bは当分の間、地上で過ごすことになる。

爆撃機を増やせというMITERの意見は最もだが、理想と現実はあべこべだ。

 

※アイキャッチ画像の出典:

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