バイデン大統領に制裁調整官候補に指名されたジェームス・オブライエン氏は議会で「インドのS-400取得問題は地政学的な特筆事項を考慮してバランスをとる必要がある」と語り注目を集めている。
米国にとって重要であると同時にロシアとの関係も維持するインドは「地政学的に重要な考慮事項」があるのでバランスを取る必要がある
敵対者に対する制裁措置法/CAATSAの起源は1996年に制定したイラン・リビア制裁法案(リビア制裁終了後にイラン制裁法案へと修正)で、ここにロシア(シリア内戦関与、クリミア半島併合、2016年大統領選挙への干渉疑惑)と北朝鮮(大量破壊兵器の開発)を加えた修正法案が2017年8月に発効、これによりトランプ政権やバイデン政権は主要なロシアの防衛産業企業から装備品を購入する国に強力な制裁を行う必要ある。
但し同法案には様々と制限や抜け穴があるため米政権が実際に「CAATSA発動の恐れがある」と言及しているのはS-400とSu-35の調達のみで、インドネシアはトランプ政権に制裁発動を警告されSu-35導入を断念、エジプトはバイデン政権に制裁発動を警告され発注済みのSu-35受け取りを6機目以降延期中、トルコだけはトランプ政権の警告を無視してS-400導入を強行したためCAATSA発動による制裁を課されているのだが、問題はトルコと同じようにS-400導入を強行したインドだ。
トランプ政権とバイデン政権から再三制裁の発動を警告され「S-400導入中止→パトリオットシステム購入」の要請(事実上の圧力)を受けていたインドは「米国の国内法で独立国が下した安全保障上の決定に制裁を加える行為には屈しない」と主張、遂に昨年末から発注していたS-400の引き渡しが始まり「2022年2月頃に中国と国境を接する地域で運用を開始する」と現地メディアが報じているため、原理原則を遵守するならバイデン政権はインドにもCAATSA発動による制裁を課さなければならない。
ただインドは米国にとってクアッド構成国で中国封じ込め戦略における重要な国であり、米防衛産業にとっても今後大きな収益が見込める貴重な市場であるため「S-400を導入したインドに制裁を課したくない」というのが本音だが、インドへの制裁を免除すればトルコ、エジプト、インドネシアとの関係悪化に加え前々から導入の機会を伺っていたサウジアラビア、UAE、カタールのS-400導入を止められなくなる恐れがある。
そのためテッド・クルーズ上院議員は仲間の共和党議員(トッド・ヤング氏とロジャー・マーシャル氏)と共にインドへの制裁免除法案を昨年11月に提出したが、結局採決も行われないまま放置(恐らく廃案になった可能性が高い)されているためインド制裁回避の流れは完全に道を見失っていると言っていい。
ココからが今回の本題なのだが、米国務省の制裁調整官候補に指名されたジェームス・オブライエン氏は議会(自身の人事に関する公聴会)で「インドのS-400取得問題は地政学的な特筆事項を考慮してバランスをとる必要がある」と語り注目を集めている。
トッド・ヤング上院議員は「トルコとインドの状況で異なると私は信じているが、あなたはインド制裁の可能性についてどのように考えているのか?」と質問、これに対してオブライエン氏は「伝統的な調達システムの枠組み逸脱したトルコと米国にとって重要な国であると同時にロシアとの関係も維持するインドを比較するのは困難で、特にインドは中国との関係において地政学的に重要な考慮事項があるためバランスを取る必要があると思っている」と返答したが、これ以上インド制裁について言及するのは「時期尚早」とも述べているのでバイデン政権が直面するジレンマは以前として健在だ。
さらに興味深いのは今後数週以内にバイデン政権が通常兵器移転(CAT)に関するポリシー変更を発表すると報じられており、今後の武器輸出承認には「輸入国の人権政策」が大きく影響するようになると予測されているため、これが事実なら中東・アフリカに対する安全保障分野への影響が低下=武器供給の空白が生じるため脱米国製部品を果たしつつある欧州、人権に口うるさくないロシアや中国、武器市場の新規プレーヤーに流れるか防衛装備品の国内供給に拍車がかかることが予想される。
つまりバイデン政権は武器輸出を通じて中東・アフリカ諸国に「人権問題の改善」を促すつもりかもしれないが、現在の武器供給は冷戦時代とは異なり多様化しているためバイデン政権のポリシー変更に従い人権問題の改善に取り組むのではなく米国の代わりを見つけるだけで、米防衛産業の首が締まれば自身への支持を損なうだけではないだろうか?
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※アイキャッチ画像の出典:The White House
制裁を決議しても中身を骨抜きにするんじゃなかろうか。
個人的にはロシアの対空システムが中共にどの位使えるのか興味あります。
結果によっては極東ロシア軍の動きに何かあるかもね。
冷戦時代には、人権や政治状況に問題を抱えててもアメリカ寄りと見なされた国には平然と武器を援助してたのは、中国ロシアはよく覚えてる。
いまは新冷戦なんだから、以前のやり方に戻ればいいだけなんだけど。インドがロシアと親しいだけを理由に制裁を課すのはいかにも無理がある。
衣食足りて礼節を知る、これは充たされない国に正義を求めても仕方ないとも読める、
自分ルールを相手に押しつけたいのなら、まずはアメリカが世界の勝者である証明を
アメリカもインドを味方に付けないと対中冷戦は厳しいだろう。
しかも、S400とパトリオットって兵器体系が違いすぎるやろ。
ほぼ同じような物なら、価格で何とかできるけど、これはちょっとインドも困るよね。今までの東側の兵器も多く使ってきたし。
出来れば日本もS400欲しいな。無理だけど。
中印双方がS400を打ち合って、役に立つのだろうか?
バイデンはクアッド踏襲が嫌でオーガス立ち上げたって説もあるし普通に原理制裁で遠ざけるんじゃないですかね。中東介入止めるならインド洋の重要性は下がるし
クアッドは経済的安全保障がメインなので、当初から軍事的安全保障は含まれていない。
そもそもインドは上海協力機構のメンバー国で、ロシアと親密だから西側と足並みを揃えることはできない。
アメリカはクアッド踏襲が嫌だったのではなくて、当初からクアッドに軍事的要素は求めていなかった。
んで、価値観や思想が同じアングロサクソン系の国々で、軍事的安全保障がメインのオーカスを結成した。
米国がS-400をコスト面でも性能面でも遙かにしのぐ対空兵器を作って輸出すれば即解決だ。
冗談にしても、そろそろパトリオットの後継ほしいよね。
中露や印露等の離間のために、インドのように完全な対中用途でロシア兵器買う国は止めない方が得策と思うな
インド国境でS400に中国機が落とされたり、フィリピンのブラモスに中国艦が沈められたりすれば中露の蜜月にひびが入るし
更に、ロシアが購入国へのサービスを継続すれば中露関係は険悪に
逆にロシアが対中配慮で購入国へのサービスを停止すれば、購入国は親中ロシアは頼れないと日米サイドへ寄って来る