米国関連

国防予算削減なら「核の3本柱」維持は無理? 米国でICBM廃止の可能性が浮上

バイデン大統領誕生で国防予算の削減が避けられない米軍は英仏に習って陸上発射型の大陸間弾道ミサイルを廃止する可能性が出てきたと報じられている。

参考:Biden May Cut $265 Billion Program To Replace America’s 50 Year Old Strategic Missile Arsenal

大陸間弾道ミサイル「ミニットマンIII」を更新するためのGBSDプログラムは削減される可能性が高い

トランプ大統領は連邦政府機関への割り当て予算を削ることで国防予算の増額基調を維持してきたが、米国の第46代大統領に就任することが確定したバイデン氏は国防予算の是正と政府全体の支出バランス見直しを約束しているため国防総省はバイデン政権や民主党による予算カットに備える必要があり、真っ先に槍玉に挙げられると予想されているのが大陸間弾道ミサイル「ミニットマンIII」の更新プログラム「地上配備型戦略抑止(GBSD)」だ。

米戦略軍が運用する陸上発射型の大陸間弾道ミサイル「ミニットマンIII」は運用開始から約50年が経過しており、開発に携わった設計者や技術者の大部分は死去して設計図や技術文書の一部も行方不明になっているためミニットマンIIIをアップグレードするのは難しく、新たなICBMをノースロップ・グラマンが2027年までに開発してミニットマンIIIを更新する予定でプログラムコストは約2,640億ドル(約27.5兆円)と見積もられている。

出典:Jnanna / CC BY-SA 3.0 ミニットマンの誘導システム

バイデン政権や民主党はICBMの重要性を理解しているが、他の兵器プログラムと比較してGBSDプログラムの優先度は相対的に低い(SLBMや戦略爆撃機等でカバーすることが可能という意味)ため、真っ先に国防予算の削減対象に挙げられる可能性が高い。

米戦略軍の司令官を務めるチャールズ・リチャード海軍大将は「時代遅れのミニットマンIIIをこれ以上延命させることは難しく、仮に延命作業を行なったとしても費用対効果の面で優れた選択肢ではない」と語りGBSDプログラムに資金を供給し続けることの重要性を主張しているが、トランプ大統領が掲げた「核の3本柱(ICBM/SLBM/戦略爆撃機)」の強化・更新の方針を見直さなければ米国は今後30年間で1兆ドル(100兆円以上)も核の3本柱に投資することになり1年あたりの平均負担額は約3.3兆円にもなる。

出典:public domain コロンビア級原子力潜水艦

恐らく核の3本柱の中で最も運用コストが安価なのはICBMなのだが生存性の点で原潜で運用するSLBMや戦略爆撃機で運搬する核兵器に劣るため、国防予算を削減するため核の3本柱を見直すなら英仏に習って陸上発射型の大陸間弾道ミサイルを廃止してコロンビア級原潜によるSLBMとB-21による核攻撃にシフトするしかないと米メディアは主張している。

因みにノースロップ・グラマンと締結したGBSD開発契約は2020年9月に結んだばかりで、2021会計年度に支払う金額は約15億ドル(約1,550億円)に過ぎない。もしGBSDの見直し=ICBM廃止を決断するなら早い方がいいだろう。

関連記事:大統領選挙に勝利したバイデン氏、書き換えられる米軍や防衛産業の未来
関連記事:バイデン氏の大統領就任後、日本のインド太平洋戦略は存続可能か?

 

※アイキャッチ画像の出典:public domain ミニットマンIII

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 1月 13日

    SLBMを地上用に転用すればいいんじゃない?
    SLBMの方が技術的にも遥かに難易度高いだろうし

    5
      • 匿名
      • 2021年 1月 13日

      安直に同じ事を思ったけど、簡単に行かない理由があるはず。
      射程と弾頭の違いか?

      1
        • 匿名
        • 2021年 1月 13日

        ICBMのサイロでSLBMを運用するのは色々難しいと思うが、だったらいっそ、潜水艦丸ごと陸上に固定してしまえば。イージスアショアならぬSLBMアショア(笑)

        14
          • 匿名
          • 2021年 1月 13日

          同じこと思った 笑
          戦略原潜をサイロのように地中に埋めてしまえと 笑

          3
      • 匿名
      • 2021年 1月 13日

      1990年から就役しているトライデントの方も、そろそろ更新が必要だとは思うがね……。50年現役として2040年からは退役が出る計算になるし
      コロンビア級の初期艦はトライデントD5を流用する予定だけれども、流石に最終艦の退役までは延命出来ないだろう
      まあ次のSLBMは、次のICBMがサイロ式を維持するならば流用した方が良いだろうな。ミゼットマンやトーポリのように移動式にするならば別設計になるだろうが(トーポリMのSLBM型ではあるブラヴァーは、サイズからして別物だし)

      1
      • HY
      • 2021年 1月 13日

       北朝鮮の例になぞらえているんだろうけど、そんな単純な話じゃない。

       ICBMとSLBMは射程や精度が違うし、アメリカの場合搭載する核弾頭も違う。

       そもそも純粋な核戦略としてはICBMも戦略爆撃機も古いといわれる時代。

       合理的に考えればSLBM搭載の戦略原潜だけで第二撃能力は確保できる。

       問題なのは象徴的意味のあった「核の三本柱」が失われること。

      8
        • 匿名
        • 2021年 1月 13日

        「廃止する」くらいならSLBM流用でお茶を濁せばそれこそ「象徴的意味」は保たれるやろ、程度の話かと。

        4
    • 匿名
    • 2021年 1月 13日

    完全に頭の体操に過ぎないけど、仮に日本が諸般の事情で核武装する状況に至った場合技術とコストと投射能力と生存性の兼ね合いから一番現実的な選択肢ってどれなんだろ? 技術面とコストのハードル低いのはICBMか戦略爆撃機だけど生存性が高いのはSLBMなわけで……

    つってもフランスや中国みたいに原潜八隻もそろえたら防衛費がすごいことになるし、そもそも人員確保できないし……結局ICBMでお茶を濁すのか、あるいはついでにもうちょい頑張って通常動力型潜水艦を大型化して(ついでにバッテリー容量も大幅に増やして)どうにかSLBM詰め込むのか、てかそもそもSLBM運用するにしたって山岳地帯に隠蔽なんてほんとに出来るのってハードルもあるわけで……日本は半年もあれば核武装できるなんて話もあるけど絶対嘘だろ荒れ

    2
      • 匿名
      • 2021年 1月 13日

      潜水艦発射型のハープーンの様なミサイルを核弾頭化するのが一番格安ではないでしょうか。そうりゅうやたいげいを改修する必要はほとんどないと思います。

      2
      • 匿名
      • 2021年 1月 13日

      居酒屋の与太話ですが、
      目標値を北京まで到達できれば充分と限定して、超音速滑空体に搭載すれば程度でいいでしょう。
      戦略でなく戦術兵器に毛の生えた程度の限定的核
      どこかの広大な相手国をカバーできるような戦略兵器の話になると、もう手に余るとしか

      3
    • 匿名
    • 2021年 1月 13日

    新規にICBM開発したらいくら予算が必要なのか
    だんだん核が重荷になってるのが分かる
    バイデンが核軍縮を呼び掛けても、中ロシアは乗らないだろうな

    4
      • 匿名
      • 2021年 1月 13日

      ロシアは乗っかって来ると思いますよ、問題は中国ですよ。核軍縮に乗ってこないのでアメリカは同盟国を守れないと核軍縮蹴ったのでICBM廃止で中距離核兵器を飛行機から発射する、に切り替えるのが妥当です、後はコロンビア級18隻も要らないので10隻位に減らせば良いのでは?

      7
        • 匿名
        • 2021年 1月 13日

        ロシアの本心は知れないけど、建前として米国と並ぶ超大国の地位を軍事的にしかアピールできないプーチンの弱みからして妥協はしないよ。
        あと、三本柱から合理的に1つだけ残すなら戦略原潜になる、英仏の選択はそういう実例です。この辺は陸海空軍の綱引きだけど、コロンビア級の大予算も一本化への布石となれば合理的。
        最大の問題は、核増勢を邁進したい中国の存在ですね

        5
      • 匿名
      • 2021年 1月 13日

      うん、どっちも乗らないだろうねぇ。

      ロシアは冷戦時代に比べ明らかに地位を落としているけど、最後の最後みんなが遠慮するのは「核」があるから。これ以上減らせないだろうし、ICBMの新型の開発も継続してる。
      中国も「ズボンを質に入れて」作った核が安保の基本で、これから米帝の覇権に挑戦しようというタイミングでは受けないでしょう。

      両方ともこれから有利になることがわかってるので、あえて不利を飲まないでしょうね。

      6
    • 匿名
    • 2021年 1月 13日

    新しい爆撃機、戦略原潜がコケなきゃいいけどねぇ…

    13
    • 匿名
    • 2021年 1月 13日

    地上配備ICBMの利点は何だろうと思いつつ読んでたら書いてた助かる
    ふーんやっぱりコストなんだな
    収容容積に制限がないから大型化できるとかそういうのかなと思ったが発射設備の方に規格があるのは地上発射型もその他も同じだもんな
    ロシアは鉄道網に紛れ混ませたり偽装したり生存性向上の為に色々涙ぐましい努力してるよね

      • 匿名
      • 2021年 1月 16日

      サイズ、特に長さ方向の制限が緩いというのも有るけれども、一番の利点は核攻撃命令伝達の確実性だと思う
      水中の潜水艦には通常の電波は届かないから、キロメートル級のクソ長いアンテナが必要で、巨大施設か大型機からアンテナを伸ばしてとかでないと伝達不能
      爆撃機も、北極海上空等で空中待機させていた場合だと、やはり電波妨害等で通信が届かない可能性が否定できませんし。地上待機でも、スクランブル離陸には少々(核戦争下では致命的な)時間が掛かりますし
      それに対し、地上配備のICBMならば通信伝達の確実性は一番だし、発射までの時間も最短かと

      3
    • 新・にわかミリオタ
    • 2021年 1月 13日

    もし本当にするなら、思い切ったことだけど。
    全部、原潜と戦略爆撃機がうまくいく前提だよね。
    なんか危なっかしいな。

    9
      • 匿名
      • 2021年 1月 13日

      素人には今までのお笑い新兵器は事業の見直し劇場にしか見えません、本命は冒険せずに堅実にやるのでは?それ以外はお笑いにして終了していかないとアメリカも金無いので・・(お隣国みたいになっちゃう)

      1
        • 新・にわかミリオタ
        • 2021年 1月 13日

        現実味のない新兵器だったり、予定より大幅なコスト増になってしまったものもありますからね。
        今は中国という明確な敵がいるので、冒険はしないでほしいですね・・・

        3
    • 匿名
    • 2021年 1月 13日

    ICBMを戦略爆撃機でカバーするってのは絵空事だと思う、航続距離が違うんだから。迎撃だって受けやすい。ってことは、ICBM以上の数がいる。ましてやICBMの数をSLBMでカバーするとなったら何隻いることか。。。

    相互完全破壊は相手国の主要地域を完全に破壊できることを前提にしているから、撃ち漏らしがあるようなら相手方が撃ち合いに踏み切る可能性が出てくる。特に我を張って本当に追い詰められた時にどう出るか。

    実際にそこまで行く可能性は低いだろうけれど、核の原則が崩れるというのは大問題。
    そう簡単に「予算がないから」で片づけられるにはリスクがでかい。「そうはならない」って確信がないと出来ないことだと思う。何の交渉もしてないところですることじゃあない。

    今のところ「ただの報道」なので真偽不明だけれど、「やりかねない」と感じるところが民主党の恐ろしさ。

    7
    • 七面鳥
    • 2021年 1月 13日

    イプシロン買ってくれないかな?

      • 匿名
      • 2021年 1月 13日

      ああ、それがあったねぇ。

      そのままってわけにはいかないだろうけど、基本設計と誘導に関しての技術支援は役に立ちそう。
      さっさと学術会議を解散しよう。

      3
        • 匿名
        • 2021年 1月 13日

        おう、流石に学術会議は関係ないぞw

        ・・・まあかつてラムダロケットの開発時に、地上からの電波誘導はミサイル開発につながるとか社会党が大騒ぎして、
        仕方ないから空力安定とスピン安定と慣性航法と姿勢制御装置を使用した変態誘導技術を開発するはめになったという事例ならある。
        結果的に得難い制御技術が習得できたけど、四回打ち上げ失敗するというおまけも付いたが。

        やっぱ特定の野党と会議は解散だな。

        5
      • 匿名
      • 2021年 1月 13日

      打ち上げスケジュール(準備期間)が2年に1回のイプシロンを核ミサイルにですか
      「格のボタン」を押してから何年後に発射されるのかな?

      1
      • 匿名
      • 2021年 1月 13日

      アメリカから機材を借りた関係か、H2Aの補助ブースターSRB-Aは、ミニットマンと数センチ違いで、ミニットマンと同じ飛距離に応じて2段、3段にして衛星を打ち上げます。SRB-A自体、弾道をプログラムできます。
      1段目が大型化したSRB-Aで、2段目以降に普通のSRB-Aを使うのがイプシロン。ニュースになるのが一段目が液体のH2A。つまり、ミニットマンは、SRB-A2段、3段と一緒。

      あれ、SRB-Aってミニットマンのサイロに入らない?とか考えたり。でも、ノースロップの新型は、複数弾頭とかで予算を使いまくってる気がする。

      1
    • 匿名
    • 2021年 1月 13日

    ICBM無かったら巨大隕石の迎撃とかするとき困るやろ

    2
    • 匿名
    • 2021年 1月 13日

    まーた中国が逆立ちしてもかなわない分野の予算削減

    4
    • 匿名
    • 2021年 1月 13日

    軍産複合体もオバマ政権でかなり弱体化されたからな。トランプが対外戦争の費用を必死に削減して兵器更新とかに費用を捻出してたのに、また中国を利することしかしない無能大統領が不正によって爆誕したんだな。
    日本のF3開発や周辺海域も一気に不穏な空気に包まれるぞ

    1
      • 匿名
      • 2021年 1月 13日

      でもトランプ大統領も国境の壁の建設費用を国防省の予算から転用して捻出してたよね

      3
      • 匿名
      • 2021年 1月 13日

      確かに米軍の軍事力に頼った日本の安保からすれば米国の国防予算削減はマイナスでしかないけど、米国の国民からすればトランプ大統領は国防予算を増やすために教育予算を相当削ったので、歳出バランスを是正すると言っているバイデンの言い分も一理あるよ。

      だいたいだけど教育予算の削減幅は年間5,000億円近いから、国防予算削減→中国に利する→無能大統領という単純なレッテル貼りはどんなんだろうね。

      6
        • 匿名
        • 2021年 1月 13日

        年々軍事力を削減して冷戦期の半分の戦力に減らしても予算不足で、他から予算廻してきて年間軍事予算77兆円確保しても新装備の価格が冷戦時代の3~4倍に高騰していて現状維持が不可能な状態ですので、迎撃システムで無効化されそうな旧式兵器は退役させてスリム化を推進するしかないのでは?今のままではアメリカ議会が駄々こねても今の半分程度の戦力に低下してしまうため、軍隊の無人化が加速すると思いますね。車の自動運転も色々な事に転用出来そうですしアメリカ軍の無人化は対中国の旗の下で行われるでしょうね。

        • 匿名
        • 2021年 1月 13日

        バイデン、トランプというか、民主党と共和党の意見ね。
        共和党は、連邦政府は外交と防衛。州政府が内政という旧来の立場だからね。連邦教育庁は連邦全体での大体の方向性と、連絡役だし。何に金使ったんだか?
        民主党のやり方だと、いずれ連邦が日本でいう国で、州が日本でいう県になるが、アメリカは市が、日本でいう市と県の複合体なんで、見事に三重行政の重税に苦しむと思うが。
        ま、連邦政府が教育も頑張るというと、税金はどこから?と考えずに投票する人が多いのはわかる。

        1
        • 匿名
        • 2021年 1月 14日

        民主党はよりレントシーカーの言いなりっぽいのが個人的に引っかかるところ、オバマケアも結局そういう落とし所になったし。
        教育もレントシーカーの玩具になってる分野のようで、それらを嫌う人の支持を集めてるトランプが教育に手を入れる構図自体は違和感ないけど(詳しい内容は知らん)。

        つまり富国も強兵も脇に置かれて政商の我田引水が主軸に置かれる方向性、そういう色が強くなりそうだな?って気がしてます。勘ですけど。

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