米国はB-2やイージス艦など広範囲の装備品や兵器に使用されている特殊なGPSチップの生産ライン閉鎖を受けて、急遽20億ドル/約2,260億円分の発注を行うための臨時予算が議会に提案されているらしい。
参考:Pentagon Swoops In to Buy Last-of-Kind Chips for B-2, Destroyer
乱暴な良い方をすれば「軍用GPSを受信する必要がある機器全般が影響を受ける」という意味
日本はF-15J改修に必要なAN/APG-82(V)1や電子妨害システムAN/ALQ-239に使用される電子部品が枯渇して別途「対策経費」を請求され問題になったが、米国ではB-2やイージス艦など広範囲の装備品や兵器に使用されている特殊なGPSコードに準拠したカスタムチップの生産ラインが来年12月に閉鎖されることを受けて急遽20億ドル/約2,260億円分の発注を行うための臨時予算が議会に提案されているらしい。
この話をもう少し具体的に説明すると世界第3位の半導体製造メーカーのグローバル・ファウンドリーズ社(UAE政府の投資部門が同社の株式を約80%保有)はB-2、アーレイ・バーク級駆逐艦、統合軽戦術車両JLTV、ストライカー装甲車などの装備品、新型の小直径爆弾SDBIIなどの兵器類に使用されている特殊なGPSコードに準拠したカスタムチップ製造を手掛けているのだが、このチップを製造している工場(Fab10)を2022年12月末までに米企業のオン・セミコンダクターへ売却する取引が成立、しかし同社は手に入れたFab10で商業向けのチップを新たに製造するため現在の生産ラインは閉鎖されることが決定した。
グローバル・ファウンドリーズ社はFab10で製造していた特殊なチップの製造を同社の他の工場へ移す計画だが、Fab10の生産ライン閉鎖→別工場での新生産ライン立ち上げまでどの程度の時間がかかるのか現時点では未定で、同社の特殊なチップの供給が止まると上記で挙げたような装備品の維持や生産に大きな影響が出るため、急遽20億ドル/約2,260億円分の発注を行うための臨時予算が議会に提案されているという話だ。
国防総省は一先ずグローバル・ファウンドリーズがFab10の生産ラインを維持できるよう12月15日までに8億8,500万ドルの発注を行い、残り11.15億ドル分は3月3日まで発注を行う予定だが、万が一にもコレが上手く行かないとFab10の売却までにチップの製造が間に合わないため=発注不可能に陥るためホワイトハウスは議会に「特例の適用」を求めており、米メディアは「チップ問題の緊急性が現れている」と報じているのが非常に興味深い。
つまり来年度の予算成立期限(9月末)はとっくに過ぎているため現在の政府は「つなぎ予算」で運営されている状態なのだが、つなぎ予算では前年度レベルの支出しか原則的に認められていないため「前年度に支出実績のない新たな予算項目は2022年度予算が正式に成立するまで執行することができない」という意味で、2022年度予算の成立を待っていると12月15日までの発注期限に予算執行が間に合わない可能性があるためホワイトハウスはチップ発注に必要な予算支出を議会に「前年度レベルの支出しか原則的に認めないという例外として認めてくれ」と要請しているのだ。
因みに米空軍は特殊なGPSコードに準拠したカスタムチップは「様々なプラットホームに使用されるGPS受信機に組み込まれている」と語っているので、乱暴な良い方をすれば「軍用GPSを受信する必要がある機器全般が影響を受ける」という意味なのだろう。
まぁ半導体チップもそうだが世界的に不安定な安全保障環境を反映して武器取引は非常に活発な状況(多くの防衛産業企業が前年度よりも売上高を伸ばしている)=各国が増額した国防予算が防衛装備品の調達に流れ込んでいるため発注から納品までに期間が伸びつつあるため、世界の何処かで緊張が今以上に高まれば限られた装備品や弾薬の供給能力を多くの国で奪い合い格好になるはずなので、各国の兵站・調達担当者は自国分確保に知恵を絞っているのかもしれない。
※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Jordan Castelan
ちょっと前のトルコの次期戦闘機とかもあったけど兵器は多種多様なパーツの集合体で昔ほど単純でもなくなっている。10式戦車とかでも防需に関係無いような企業がコア部品を作っていたりする。F-35のアビオニクスデータバスには一時期流行ったIEEE1394が使われていて、これを作っている企業は1社だけ?だったような気がする。大手企業で作られる製品の一部品は田舎の山奥みたいな所で作られていたりして、何だかんだ規模関係無く製造業軽んじると物が作れないしっぺ返し有るってのは覚えておいた方がいい。
そうですねぇ。
でも地方の製造業は外国人に依存し始めてるし。
若者は都市部にどんどん流れるから仕方ないとは思うけど。
地方の開発もセットで動かないと、日本の製造はほんとに弱体化していくと思う。
「地方の開発」という風に東京が中央集権に拘ってる事が衰退の元凶で
許認可権を東京から剥奪して元の地方分権に戻せば各地が許認可権を使って独自に発展していく。
先進国になってからはキャッチアップ先が無いので創発型の行政が必要
それには総花的に各地が色々な試行錯誤の行政を行う中で「次の本物」が生まれてくる
勿論それで競争力が無く衰退する地方もあるが次の種を実らせる地方もあるので国としては先進国クラブに
継続的に入り続ける担保を確保できる。
え、ファイアワイヤ使ってるの?
ライセンス料高そう
当時はそれしかなかったんだろうけど
そこで日本の産総研のやってるミニマルファブですよ。所望のチップをオンデマンドで作成すれば、ディスコンに心配なし!値段?性能?しらんがな。
結構昔からやってる気がするんだが、中々一般化しないな。動きの早い半導体業界でこんなチンタラやってたら、いつのまにかなくなってそう。
ミニマルファブって線幅2ミクロンとかじゃないですか?GFのfab10は線幅14ナノとか。話になりません。
んなことはわかってんだよ。ディスコンになるのと自前で作れるようにしとくこと、どっちが良いかっていう究極の選択だべ。
GPS信号自体の高周波アナログ信号を処理するようなチップの場合、SOIだとかGaNのような特殊な基板が必要になるから、どっちにしろ14 nmみたいな比較的先端プロセスが常に使えるわけじゃない。ミニマルファブはそんな特殊プロセスにも対応できる生産システムを実現することが目標だったはず。
まあ、おっしゃる通り微細化競争に全くついていけてないから、このままだと消えていく運命にありそう。
あとGFのSOIは、当時微細化競争に負けつつあったAMDが、少しでも高周波・低消費電力のCPUを作るため利用していたから、特殊基板なのに線幅14 nmまで微細化させた節があるから、特異といえば特異な気がするが。
3年前のロイターの記事
「米軍、中国製品への過度な依存に対処へ 国防総省が調査」
>米軍が重要部品の調達で中国をはじめとする諸外国に依存している事例が多くあることが、調査で分かった。
「バイ・アメリカン」は実現していなかったのか
ググったら「米Globalfoundries(GF)の米国ニューヨーク州イーストフィッシュキルに構えている300mm工場であるFab 10」だそうなので、バイ・アメリカンは関係ないっぽいよ
元はIBM Microelectronicsの工場ですね。
45/32/28nmプロセスの生産ラインがあったそうですので、件のGPS用のチップもそのどれかで製造されたということで。
別工場の稼働に目処がついてから移動じゃなくて、工場移転するけど稼働時期は未定なのかい。しかも重要な部品のはずなのに製造会社がUAEの紐付きだし、色々と凄いなアメリカ(褒めてません)
GFは、CPUメーカーのAMDからスピンアウトした企業です。その際にUAE(たしかアブダビの政府系ファンド)の出資をうけました。石油価格が下がった時に手放したと思ったのですが、まだ持っていたとは。
AMDは、スピンアウト直後はGFに生産を委託してましたが、GFが最先端プロセス開発競争から脱落したので、現在はTSMCに委託してます。
SOIという変わったプロセス技術を持っているので、最近は特殊なチップ生産に注力してたはずです。
GFって元々はオバマの時に軍事用半導体が台湾のTSMCやUMCごと中国に抑えられてしまうのを危惧してたアメリカがAMDと話してファブ化したはずだったのにね
2012年頃なんてGFのトッフページにデカデカとオバマが出ていたし
しかし半導体は日本の影が薄いなあ
中古の製造装置は動きが活発になってるみたいだけど
そこまで先見の明ははなかったと思うで(あったら今さらサプライチェーン云々でこんなことになってない)
GFが軍需に食い込んだのもただ市場の原理に従っただけ
技術はある。製造能力もある。でもそれらを使って何かを作ろうという意志と発想が無い(あと安く売る以外の顧客目線)。半導体に限った話ではないけども
GAFAみたいな巨大な会社が出てきて、支配構造を作るのも良し悪しではあるけども、部品製造みたく裏方に特化しちゃってる現状はなかなか歯がゆくはあるね
GFに製造発注してそうなのはクアルコムかブロードコムだろうけどよく文句言わないな
柔軟な対応羨ましいぞ
憶測で語るしかないが、日本においても調達しなければならない部品が市場の事情で供給不能になって政府の対応らしい対応なくあっさりとディスコンした事例がありそうだ
足りなくなった部品を秋葉原で探していたりするのだろうか・・・
ありそう、というか。もうあるよ。
特殊なGPSチップというのは軍用GPS信号受信用かな?
ということは湾岸戦争の時みたいに民間向けGPS信号の精度を落とすことを再度考慮するようになったのだろうか
グロナス、北斗が稼働している現在では、米GPS(ややこしい…)の精度を落とすメリットは無いかと。
軍用コード対応と思われ
GPSつながりということで、ほんまかいなというネタを
量子センサーの飛躍的進歩により、GPSフリーのナビゲーションが可能に
問題は、奇妙な素粒子物理学ではありませんでした。それは、真空状態を維持するためのより簡単な方法を見つけることでした。
リンク
Quantum Sensor Breakthrough Paves Way For GPS-Free Navigation
管理人さんにはお手数をおかけしますが
要約するよりリンクがいいかなと
FPGAやASICではあかんのか?
軍事や宇宙関連で長期間使われ続けていた電子回路をFPGAなどに置き換えるには膨大なテスト費用が発生するが、新規開発ならそれほどコストはかからない。
こういったクリティカルな電子回路では最先端の線幅の狭い高密度なチップより、古い世代の線幅の広い方が放射線などによるビット反転などにも強い。
ある程度の需要が見込めるならそういったIC製造工場を自前で確保すれば他国にコピーされず安全だと思う。
「昔のバイポーラトランジスタで作られたICは、電流で制御するので、ノイズに強い」と聞いたことがあります。
多分ですが、ディジタルだけでなくアナログ信号処理回路も入っているんでしょう。受信したGPS信号自体を最小限の外付け回路で処理するには、チップ内部に電波処理回路をチップ内に内蔵する必要がある。
こういう処理はFPGAじゃ無理だし、ASICでもGFのSOIのような特殊な基板を用いる必要があるのでしょう。