米ミサイル防衛局の長官を務めるジョン・ヒル海軍中将は「極超音速滑空体を迎撃するため新型ミサイルGPIの開発で日本と協力できる分野を模索している」と明かし、この取り組みはSM-3BlockIIの成功例と同じ可能性を持つと付け加えた。
参考:US, Japan exploring partnership on hypersonic missile interceptor
最も理想的なのは政府間で合意された『迎撃体の部品』を企業が進んで日本企業へ下請けに出すこと
ロシアや中国が実用化した極超音速滑空体(HGV)は古典的な弾道ミサイルとは異なる飛行経路を経由して目標に接近してくるため既存のシステムでは迎撃難易度が高く、これに対応するためには新しい迎撃システムの開発が不可欠と言われている。
上昇用のロケットブースターから切り離された弾道ミサイルの弾頭部は非常に高速で落下してくるものの飛行経路はシンプルなので目標の検出や追跡、インターセプトコースの計算はHGVに比べると単純で迎撃手段もSM-3やサードなど複数の手段が実用化されているが、HGVの最高高度は弾道ミサイルとは異なり宇宙空間に到達せず大気圏上層に沿って飛行を行い「唐突に予測不可能な飛行コースの変更」を行うため、弾道ミサイルの特性に合わせたセンサーや迎撃手段では対応が難しい。
特にHGVはマッハ5.0以上のスピードで接近してくるためレーダーレンジが比較的長いSPY-1や後継のSPY-6をもってしても単体でHGVを処理するのは難しい=SPY-1やSPY-6の最大探知距離よりももっと遠距離でHGVの検出と追跡を始めなければ十分な対処時間が確保できないという意味で、米軍は地球低軌道上に赤外線センサーを搭載した小型衛星を数百基配備してHGVの検出と追跡を行う予定だ。
問題は迎撃手段で、国防総省は2021年11月にGPI=Glide Phase Interceptorと呼ばれる新しい迎撃ミサイルを開発するためノースロップ・グラマン、ロッキード・マーティン、レイセオンの3社に予備設計契約を授与、2022年5月に開発案を絞り込むためロッキード・マーティン案を除外、GPIは現在ノースロップ・グラマンとレイセオンが競合する形で開発を進めているのだが、ミサイル防衛局のヒル長官は「GPIの開発で日本と協力できる分野を模索している」と明かして注目を集めている。
ヒル長官は「日本と協力はSM-3BlockIIの成功例と同じ可能性を秘めており、日本はSM-3BlockIIの2段目と3段目の製造に関与しているため『推進部分の開発』を提案するのが最も簡単だ。しかし日本側はミサイルの先端部分、つまり弾頭を搭載する迎撃体の本体部分に関わりたいと考えており、この部分で協力できる部品を探している」と付け加えたが、上記でも述べたようにGPIの開発はノースロップ・グラマンとレイセオンが競合しているため状況は複雑らしい。
ヒル長官は「もし日本がGPIの関与する場合、ノースロップ・グラマンとレイセオンの2社と契約して異なるデザインの下で作業を行う必要があり、最終的にどちらか1つのデザインしか採用されないことを知っている。最も理想的なのは政府間で合意された『迎撃体の部品』を企業が進んで日本企業へ下請けに出すことだが、もしそれが出来ないなら(政府は)下請けに出すよう企業に指示することになる」とも述べている。
GPI開発に日本の技術力が必要だというより、日本企業を何らかの形でGPIの作業に関与させ「開発費用の一部負担」や「自衛隊のGPI採用」を狙っている感が強く、この辺りは防衛産業で利潤(輸出)や権利を過度に主張しない日本だからこそ「組みやすい」と考えているのかもしれないが、日本人にとっては何とも複雑な気分になる話だ。
関連記事:米国防総省、極超音速滑空体を迎撃するため新型ミサイル「GPI」開発を本格的に開始
※アイキャッチ画像の出典:Raytheon GPIのイメージ
何れにせよ
HGVに対応出来る新型迎撃ミサイルは必要なんだから早く開発しよう
ところでどんな風に対処するんだろうね?
どう機動しても壊せるように高性能なデカデカビッグミサイルを作るのか
複数箇所から1つの目標に対して幾つかのミサイルを撃ち込むのか
どっちを取ってもコスパは最高に悪くなりそう
HGV迎撃は射程と機動性の確保が問題となるので、ブースターは射程確保に大型でしょうけれど、ミサイル本体は機動性のために中型じゃないかと。
また、HGVとは宇宙と大気圏の狭間を跳躍しながら飛翔するので、迎撃体も高度によっては空力だけでの限界があり空力とスラスターの両方で姿勢制御を行う方式と思います。
複数箇所というのはよくわかりませんが、通常、事前にそういう配備する余裕はないんじゃないかと。
参考になるかわかりませんが、JSF氏がyahooに以下の記事をあげてます。
なんでも、イージス艦にはアメリカのGPIを、陸上発射タイプは自力で開発する(したい?)とか。
短距離弾道ミサイル並みのどデカい迎撃ミサイルはちょっと見てみたい気も…。
リンク
イージス艦へ搭載するならGPIを選択するのは妥当ですね。イージスシステムの改修も絡むのでセットです。
これまでの関連要素技術の研究開発成果がありますし、地上発射用は国内開発を進める判断も妥当性有りかと。「HGV対処用誘導弾システムの研究」は来年度以降9年間で約2,439億円(試験費用別途計上)の研究開発予算が組まれる予定ですから防衛省の本気度は高いと思われます。
新型ミサイルって言っても結局SM-6の改良型になるんでは?確か現時点でHCMの迎撃出来る可能性があるのはSM-6だと米軍も言ってたよーな。やるとしたら、加速用の1段目のブースターを大型化して速度や射程を伸ばすか、去年海自も試射に成功したSM-3ブロックⅡAの弾体にSM-6のシーカーと弾頭を移植して大幅に射程を伸ばすとか…。
HCMの早期探知に関してはこの前の偵察気球が逆に使えそう。コブラボールや自衛隊でも開発された弾道ミサイル追尾用の赤外線センサー(出来ればレーダーも)搭載した気球を複数上げて警戒させた方が小型とは言え何百機も衛星打ち上げるよりコスパが良さそうだけど、太陽電池パネルの電力だけでそういったセンサーが稼働するかどうか分からんのと、上空のジェット気流に流されるから定点観測に向かなさそうなのが難点かな?
日本単独でどこまでの迎撃用のミサイルを開発できるかは不明なので、アメリカと組むのは悪くはないかなと。いっそイギリスやオーストラリアも巻き込んだれという政治力を発揮してほしいところ。勝手に近寄ってくるかもしれないが。
どうしたって国産を作ろうとすれば、予算がどうの取得数がどうのと批判されるし。
>アメリカと組むのは悪くはないかなと。いっそイギリスやオーストラリアも巻き込んだれという政治力を発揮してほしいところ。
アメリカの虎の子である空母機動艦隊を防衛するために、この種の迎撃ミサイルは重要でしょうし、
それを日米で共同開発すれば、これほど日米同盟の強化に資することはないと思う。
欲を言えば、日米のみで開発するのが吉かと。
いまのところ発展型シースパロー搭載再開で4発程度スイング位置範囲に発射迎撃予定だとか。
日本にとって技術アクセスや開発機会の獲得という意味合いが強かったSM3block2Aは開発自体は成功と言って良いと思いますが、今なお調達性の面で課題を残しているんですよね。これは同盟国間でのインターオペラビリティ確保と戦力安定化の両立の難しさだと思います。
近い将来ASMの多くは亜音速と極超音速に分かれるんだと思いますし、その意味で艦載可能な極超音速ミサイル迎撃弾の開発に先鞭をつけるのは速い方がいいとは思います。ただ、SM-2と似たような性能と目されるA-SAMを新規に配備せねばならなかったように、同盟国との規格共有がコスト面での負担になって艦隊運用の規模や効率性に影を落としてきたのも事実じゃないかと。SM-3やSM-6といった戦略防衛、戦域防空級の迎撃ミサイルならまだいいですが、艦隊防空や個艦防空に使うクラスのものまで輸入やライセンス品を混在させていく現状はちょっと考えてしまうんですよね。じゃあ全部国産にできるのかと言われたらそれもコスト的に見合わないんでしょうけど…まぁ強いて言えばもっと上位の規格を共有した上で下位の規格はユーザー単位で自由に作ったり弄ったり出来るといいのかもしれません。ポスト・イージスとでも言うべき次世代防空システムを開発する機会が米国にもしあるのなら、その時は日本としても共同開発なり和製規格との連接確保なりで絡んでいけるといいですよね。
SM-6含め、各国で共有されてるレベルの上位の共通規格というのはない状態です。
GCCSレベルの情報共有は米国にしか出来てないので、次世代の防空システムにはGCCSへのリアルタイム連接が必要になると見てます。