建造費用130億ドル(約1兆4000億円)を突破しても完成しない空母ジェラルド・R・フォード級1番艦に朗報が届いた。
参考:US Navy completes USS Gerald R. Ford nuclear propulsion plant rectifications
幾つかの問題が解決したジェラルド・R・フォード級空母
空母ジェラルド・R・フォード級1番艦の建造費は、当初51億ドルだったが、それが80億ドルに増え、艦体は完成しているのに、「電磁式航空機発射システム(EMALS)」や「新型着艦制動装置“Advanced Arresting Gear”(AAG)」、「先進型兵器エレベーター“Advanced Weapons Elevators”(AWE)」の開発遅延のおかげで、就役から2年が経過しても実戦任務への投入が出来ず、2019年1月時点での建造費用は130億ドル(約1兆4000億円)を越えた。
ここまで建造費用が膨れ上がった原因は以下の通りだ。
蒸気式カタパルトを置き換える「電磁式航空機発射システム」は、任務によって異なる状態の艦載機を射出するための基礎データ収集が進んでおらず、システム自体の不具合も完全に潰しきれたとは言えない。
油圧式ではなく、電磁気と水圧でアレスティング・ワイヤーの制動を行う「新型着艦制動装置」は、故障率が異常に高く、4日間連続で、故障をせず艦載機を着艦させられる可能性は0.001%、1日間、故障をせず艦載機を着艦させられる可能性は0.2%以下と言われているほど信頼性が確立されていない。
ミサイルや爆弾を飛行甲板へ運ぶための「先進型兵器エレベーター」は、電磁力で作動し、艦の奥底にある弾薬庫から格納庫へ繋がるエレベーターが7基、格納庫から飛行甲板へ繋がるエレベーターが3基、計11基が設置されているが、エレベーターを制御するためのソフトウェアに問題があり上手く作動していない。
2019年3月時点で、2基のエレベーターが正常に動作するようになったと報告があったが、残りの9基についての詳細は不明だ。
この他にも、2018年5月、空母ジェラルド・R・フォードの動力部に問題が発生し、調査の結果、この問題を修正するためには12ヶ月間以上の作業が必要という事が判明し、ドック送りになっている。
そんな新型空母にも朗報が届いた。
米海軍は、やり過ぎたのか、それともやり方が悪かったのか
米海軍は、空母ジェラルド・R・フォードの動力部問題について修正が完了し、艦が海軍に戻ってきたことを発表、さらに問題の多かった「新型着艦制動装置」についても、現在運用中の艦載機に対応出来ることを確認し承認した。
動力部問題については、原子炉自体には問題はなく、プロペラシャフトへ動力を伝える機器に問題があったらしく、新型着艦制動装置は、F/A-18E/F、EA-18G、E-2D、C-2Aについて対応が完了したと言っているため、F-35Cについては対応出来ていないことが伺える。
海軍向けのF-35Cは、2019年2月に初期作戦能力獲得を宣言し、2021年頃、ニミッツ級空母「カール・ヴィンソン」で運用が開始される予定だが、現時点で、最新鋭空母フォード級で、F-35Cを運用するための準備は整っていない。
それでも、F-35Cを除いた固定翼機について対応が完了したことは大きな前進だ。
今回、修理を終えて約1年ぶりに海へ戻ってきた空母ジェラルド・R・フォードによって、遅れていた「電磁式航空機発射システム」のテストが再開されるだろうし、そうなれば基礎データ収集も進むだろうが、問題は兵器を運ぶための「先進型兵器エレベーター」の方だ。
海軍は問題解決のため、陸上に「先進型兵器エレベーター」を模した施設を建設中で、ここでエレベーターを制御するためのソフトウェア問題を検証し解決方法を探ると言っているが、この施設がいつ完成するのか良く分かっていない。
米国の上院軍事委員会委員長である共和党議員のジム・インハーフ氏は、新技術採用(電磁式航空機発射システム、新型着艦制動装置、先進型兵器エレベーターなど)による技術的リスクや、必要なスケジュールを理解せず、コストが130億ドル(約1兆4000億円)以上に膨らんだジェラルド・R・フォード級空母について「犯罪だ」と批判した。
本来なら、ニミッツ級空母の建造を続けながら、ジェラルド・R・フォード級空母の建造を1隻に留めテストヘッドとして運用し、新技術採用の検証と確立を行うべきだったにも関わらず、米海軍はジェラルド・R・フォード級空母を既に3隻発注済みのため、一度立ち止まって考え直すスケジュールの余裕が全く無い状態だ。
トランプ大統領は海軍のジェラルド・R・フォード級空母について、このように批判している。
米国の空母は、実際の使用で、誤作動を起こす可能性がある新型の「電磁式航空機発射システム」ではなく、伝統的な「蒸気式カタパルト」を装備するべきだ。蒸気式カタパルトは約65年間、完全に機能し役割を果たしてきた。私達は9億ドル(約980億円)のコストを、新型のシステムに投じているにも関わらず、このシステムが、あらゆる環境下で確実に動作するのか誰も知らない。
次から次へと、新しい物が出てきて、誰もがイノベーションを望んでいるが、これはやり過ぎだ。
やり過ぎたのか、やり方が悪かったのかは、その判断を下すのは、数十年後の人々に任せておけばいいので、とにかく、急いで空母ジェラルド・R・フォード級を完成レベルにまで仕上げなければ、米海軍は空母の運用・維持のサイクルが停止してしまい、数百億ドルも投資した高価な空母が、港で無意味な時間を過ごすことになる。
そんなことになれば、空母は時代遅れのツールだと批判する勢力に力を与えることに繋がり、米海軍は本当に「空母廃止」に追い込まれるかもしれない。
※アイキャッチ画像の出典:public domain フォード級空母2番艦「ジョン・F・ケネディ」
記事お疲れ様です。中々耳に入らない情報なので助かります。ありがとうございます。
意欲的過ぎたな
1番艦でカタパルトを、2番艦で着艦装置を、3番艦でエレベータをってやれば良かったんじゃね?
で、メンテナンスのタイミングで残りの2つを積み込んでく感じで
フォード級は船体を切り開いて燃料交換する必要がない(=船体寿命の50年間利用可能な燃料を建造時に装備)ので、年単位のメンテをする機会を減らしています。
蒸気カタパルトを電磁カタパルトに置き換えるのはあらかじめ両対応に設計してないと蒸気配管の置き換えなど燃料交換以上に手間がかかりそうです。
F-35もズムウォルト級ミサイル駆逐艦もですが、最近の米軍の武器システム開発プロジェクトはソフトウェアの規模が肥大化して混乱するものが多い印象です。
電磁式航空機発射システムは、従来の蒸気カタパルトに比べ2次冷却系から蒸気配管を引かなくて良い分メリットは大きいので、チャレンジする価値はあると思う。
しかし、着艦制動装置やエレベータで失敗すること自体が理解できない。
一体どんなメリットがあって、どんな新機軸を入れたというのだろう。
この2つは従来の装備を入れて、開発を放棄した方が良い。
電磁式航空機発射システムに注力した方が、いいだろう。
ここは、トランプ大統領が正しいだろうね。
原子力空母だって陸上機の援護可能範囲でしか戦わないんだから、全部ライトニング空母にしちゃえば?