ウクライナ戦況

ドニエプル川の戦い、ロシア軍はダチのウクライナ軍にイスカンデルを使用

ロシア軍は「ヘルソン州左岸に築かれたウクライナ軍の足場=ダチ」を制圧するためイスカンデルを使用し始めたが、重火器を持たない小規模のウクライナ軍部隊を未だに排除できておらず、ウクライナ軍はダチ定着に成功しつつある。

ロシア軍は重火器を持たない小規模のウクライナ軍部隊を未だに排除できていない

ロシア軍はヘルソン州左岸に築かれたウクライナ軍の足場=ダチに激しい砲撃を加えており、ロシア側情報源(Военкоры Русской Весны)は「アントノフスキー橋のふもと築かれた敵陣地にイスカンデル(恐らく巡航ミサイルのイスカンデルKではなく弾道ミサイルのイスカンデルM)が命中した。この攻撃で30人が死亡、10人が負傷し、残りの敵は橋の両側に隠れている。現在も我が軍の砲兵部隊が敵を効果的に攻撃中で、最終的に特殊部隊が投入され掃討作戦を実施するだろう」と報告。

ロシア国防省も「ウクライナ軍はボートで(ダチに)追加の兵士、弾薬、医療品の移送を試みているものの、ドニエプル川のアントノフスキー橋付近はオルラン10(偵察・監視用の小型UAV)による24時間の監視が行われており、重火器や航空機の射撃は修正可能で敵は大きな被害を被っている。左岸にウクライナ軍は重火器を持ち込むチャンスはない」と述べている。

しかし逆を言えば「重火器を持たない小規模のウクライナ軍部隊(ロシア側情報源によれば推定70人前後)を未だに排除できていない」という意味にもなり、有利な位置を占めるウクライナ軍砲兵部隊がロシア軍のダチ接近を阻んでいるためだろう。

出典:GoogleMap ヘルソン周辺の戦況/管理人加工(クリックで拡大可能)

ヘルソン周辺の右岸と左岸では圧倒的に右岸の方が標高が高く、ダチに陣取るウクライナ軍は重火器を持ち込むのが困難でも「高地に展開する砲兵部隊」から火力支援が受けられ、ウクライナ側情報源は「ダチのウクライナ軍部隊はアントノフスキー橋のふもとに固まるのではなく(周辺の自然の遮蔽物=森林地帯)に分散しているため敵の砲撃効果は低い」と指摘している。

今のところドニエプル川を渡ってダチに向かうボートが砲撃や空爆で破壊された視覚的証拠(そもそもヘルソン上空をカバーするウクライナ軍の防空部隊が存在するためダチ周辺で航空機の運用は困難)はなく、UAVの監視があっても低地に位置する砲兵部隊で移動中のボートを狙うのは難しいのかもしれない。

出典:Минобороны России アントノフスキー橋周辺を移したUAVの映像(手前がダチ)

因みにウクライナ軍がダチでどれだけ粘れるのかは謎だが、流石にダチからオレシキ方面へ前進するのは難しいだろう。

関連記事:ドニエプル川の戦い、ウクライナ軍が築いた足場にロシア軍が反撃を開始
関連記事:バフムートの戦い、ウクライナ軍は南部で前進しクリシェイフカに迫る

 

※アイキャッチ画像の出典:Telegram経由

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コメント

    • 例のアレ
    • 2023年 7月 01日

    まぁ、ウクライナ軍にとってダチは”ダチ”みたいなものだし、そう簡単には手放さないんじゃないかな

    9
    • gepard
    • 2023年 7月 01日

    へルソンのウクライナ軍は中州やキンバーン半島で度々特殊部隊による上陸作戦を実行しては撤退するかく乱か陽動目的の作戦を続けてきた。アントノフスキー橋周辺での作戦も今のところ同じような小競り合いに過ぎないが、本格的な上陸作戦に繋げるには補給の問題を解決せねばならない。
    スピードボートでは戦車も装甲車も運べない上、重装備を運べる船は隠ぺいすることが難しく接岸する前に撃破されかねない。

    本格的な作戦を計画しているとすれば川底が露出しているノヴァ・カホフカ上流の貯水湖及びザポリージャ原発方面だろう。

    8
      • 2023年 7月 01日

      かく乱とか言ってるけど普通に捕捉されて滅多打ちにされてるじゃん、
      やられてもやられても歩兵送り込むウクライナの戦意がやばすぎる。

      12
        • ASDF
        • 2023年 7月 01日

        どこらへんに滅多打ちと取れる表現があるのやら
        ある程度の効果はあるが効率的ではないとしか俺は文意を取れない

        23
        • bbcorn
        • 2023年 7月 01日

        滅多打ちするほど イスカンデルうてないでしょ。
        こんなことに使う兵器じゃないし。
        割に合わない。

        5
    • 流鏑馬
    • 2023年 7月 01日

    最低限釣りになってたらいいけど
    まあ撤退も難しいし全滅だろうな
    tosでローストとシルカでチーズはどっちが楽な死に方なんだろ

    俺ならオデッサ、ヘルソン、ザポロジェ、ドニエプル、ハリコフを固めて休戦だな
    あとは西側の支援次第で決める

    6
      • 名無し
      • 2023年 7月 01日

      少人数ですし撤収するだけなら容易では?
      わざわざイスカンデルまで投入するということは、それらの兵器ではウクライナ軍を排除できないことの現れでしょうし。

      65
    • プロテイン
    • 2023年 7月 01日

    ロシア軍を混乱させる目的と言う人が居るけど、これただの囮じゃないか・・・
    せめて撃たれ始めたらさっさと撤退しろよ、碌な陣地ないんだから。

    6
      • A-11
      • 2023年 7月 01日

      それで右岸高地のウクライナ軍砲兵部隊の射程に、ロシア軍砲兵部隊を誘き寄せられれば、タダの囮として立派な働きになるかと。
      砲弾より遥かに高価なイスカンデルの使用は、他の手段では右岸高地のウ軍砲兵の射程に入らざるを得ないことを、示しているのかも知れません。

      47
      • 朴秀
      • 2023年 7月 01日

      歩兵数人とイスカンデルの交換なら
      どう考えてもウクライナが得してるな

      洪水でこの地域のロシアの防備はガタガタなんだろうな

      10
    • トブルク
    • 2023年 7月 01日

    軽歩兵の陣地にイスカンデルを使うなんて、費用対効果を無視した話だだし、そもそもウクライナ兵も分散してるだろうから大した効果はないのでは?
    ロシア側もまあまあ慌ててる様子だし、ウクライナ軍としてはロシア軍の注目と戦力を引き寄せることに成功してる感じですね。

    57
      • 理想はこの翼では届かない
      • 2023年 7月 01日

      デカい橋の橋梁は頑丈なので、この下に隠れて更に塹壕を掘ると普通の砲撃では簡単には排除できないのです
      なので、イスカンデルをブチ込んで橋梁部に穴を開けてから更にTOS-1Aで始末しようとしているようです
      費用対効果としてはとても悪いと思いますが、放置すると拠点を作ろうとするでしょうから排除できる時に排除しようとするのは正しいとも思います

      6
    • 匿名さん
    • 2023年 7月 01日

    ウクライナ軍はなにがしたいんだっけ?

    4
    • nednir
    • 2023年 7月 01日

    「民間用ボートです」と言い張って LCAC を渡せたらとか
    数少なすぎるし砲撃であっさりやられるかもしれないですし、コスパからいうとあり得ないとは思いますが

    • 58式素人
    • 2023年 7月 01日

    ドニプロ河の水量のほとんどは、冬季の雪とのことですから。
    これから晩秋の泥濘期まで、水位は下がり続けるのでは。
    カホフカダムは破壊されたので、水位調整も無いでしょうし。
    ウクライナ側は、今後数カ所で中洲と対岸に拠点を設けて、ロシア側を牽制し続けるのでは。
    そして、他戦線の進捗とドニプロ河の水位低下を見定めて、この方面で攻勢に出るのでは。
    水位が下がるのと川幅が減るのとは同時でしょうから、水障を最小にできます。
    他の記事では、カホフカダムの付近では川床が出た場所もあるとのことですから、
    ロシアにしてみらば、そんな場所では、ウクライナの攻勢に備えるしかないのでは。

    4
    • Easy
    • 2023年 7月 01日

    本来滑空誘導弾で十分なところにわざわざイスカンデルを使うということは,航空機が全く近づけないということを示唆していますね。
    貴重な対空システムをここに重点配備しているとなると,ロシア側としても敵の渡河意図をブラフと片付けられないので、小兵力に見えても面倒を見ることにならざるを得ないでしょう。

    24
    • nachteule
    • 2023年 7月 02日

     イスカンデルの攻撃がまぐれでなければ結構な精度を出している感じ、制裁下で作られたであろうミサイルでこれだけ出来るなら使用の目的が何であれロシア侮りがたしって感じがする。ブラッシュアップしたりしてより低コストや製造しやすいミサイルがこれだけの性能発揮出来るならロシアはまだまだ頑張れそうな気はする。

     それにしても無防備な船で渡ったり軽装備の上陸兵士なら榴弾砲や迫撃砲の曳火射撃で何とか出来そうなのにそれをする気配がないのはどうしてだろうか。あんまりロシアが砲弾の空龍炸裂でダメージ与えるイメージがない、せいぜいがTOS-1Aとかでの攻撃位で不思議な感じがする。
     別に近接信管がなくとも距離自体は分かっているんだから時限信管でもそれなりの精度は出せると思うんだけどな、せっかくの榴弾砲や迫撃砲の空中炸裂を有効活用出来ない理由でもあるんだろうか。

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