ウクライナ戦況

ルハーンシク州で着実に利益を上げるロシア軍、後退を続けるウクライナ軍

最も戦力を集中させているルハーンシク州では着実にロシア軍が利益を拡大させており、リシチャンシクを防衛するウクライナ軍兵士も「自分達が敵に包囲されるのではないか」と心配している。

ポパスナを制圧したロシア軍は3方に進軍、防衛拠点のゾロテは包囲される寸前だ

ウクライナ軍参謀本部は「ロシア軍の攻勢を撃退して戦線に変化はない」と発表しているが、オープンソースのデータを検証する研究者によればルビージュネを制圧したロシア軍はセベロドネツクに向けて攻勢を強めており、Voronove付近からセベロドネツクに突入を試みてウクライナ軍と交戦中らしい。

出典:GoogleMap 大まかなルハーンシク州の戦況/管理人加工

ポパスナを制圧したロシア軍の動きは特に興味深く、ポパスナから南に位置するTroits’keを制圧すればルハーンシク州の行政区分に到達、ポパスナから東方向への進軍はウクライナ軍を陣地を避けてTrypillyaやVolodymyrivkaに向かっており、ここを突破すればリシチャンシクの補給線「T1302」の遮断が現実味を帯びてくる。

さらにポパスナから北方向への進軍はKomyshuvakhaを突破してVrubivkaに迫っており、防衛拠点のゾロテもロシア軍に包囲される寸前だ。

出典:Генеральний штаб ЗСУ

英BBCの記者は実際にリシチャンシクへ赴いて現地のウクライナ軍を取材しており、ポパスナ方面のロシア軍の動きを懸念している兵士達は「自分達がロシア軍に包囲されるのではないか」と記者に心情を吐露している。

ウクライナ軍も懸命な抵抗を続けているので「直ぐにセベロドネツクやリシチャンシクが危機的な状況に陥る」という意味ではないが、後退して次の陣地で「新たな抵抗を試みる」という戦術を行う余地が少なくなってきているのも事実で、ロシア軍はリシチャンシクに繋がる補給線まで「10km以内」に迫っている可能性が高い。

追記:ロシア軍のドネツ川渡河が失敗した現場を映した動画が登場、ウクライナ軍参謀本部も20日の会見で「ロシア軍はセベロドネツクとセベロドネツクで前進している」と発表したが具体的なことには触れていない。

出典:GoogleMap 最新の大まかなルハルキウ周辺の戦況/管理人加工

追記:ハルキウ州でロシア軍が反撃、ウクライナ軍に奪還されたTernovaとRubizhneを再び奪い返した。この地域は国境までウクライナ軍がロシア軍を押し戻していた地域で、どうやら奪還した地域を維持するのに失敗したらしい。

関連記事:セベロドネツクを巡る攻防、ロシア軍はルビージュネの大部分を占領
関連記事:ウクライナ軍がドネツ川渡河に成功、ロシア軍は補給ルートを失う可能性も

 

※アイキャッチ画像の出典:Генеральний штаб ЗСУ

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コメント

    • えっくす
    • 2022年 5月 20日

    東部攻勢の開始でこのような状況になると予測はされていましたが、一か月近くかかってようやくですからかなり作戦が遅延しているのは確実ですね。
    ただ押し返すにしても、北部キーウハルキウ周辺の反転攻勢は成功したものの、東部南部はロシアの協力者もかなり多いようで座標を売られているらしく反撃もあまり順調ではないみたいですね。

    4
      • STIH
      • 2022年 5月 20日

      とはいえ、いくら遅延しているとはいえウクライナを押し込んでいるのは間違えなくて、長期的にはウクライナ有利でも短期的にロシアが押し込みきったら辛いのも事実。
      渡河作戦失敗でロシアの余力は無くなったとは思うのですが、現有戦力は健在なため、我慢比べでしょうね。
      展開としてはミッドウェー海戦から南方の消耗戦へ移った、ってところでしょうか。

      22
        • いいいい
        • 2022年 5月 20日

        ここの情報を見てると、やっぱりウクライナは緩やかに負けているって感じがします。
        反攻も始まらず、戦闘機も来ず、兵士はすり減る一方。
        すぐ下ではウクライナの大損害の話もあるし、逆にきついのはウクライナでは?
        ロシアは既にNATOと戦ってるつもりなのに、いつまで半端な支援で日和ってんだろう西側…

        24
          • 焼き鳥
          • 2022年 5月 20日

          欧米の支援を日和ってると批判するなら、日本の支援を批判する方が先じゃない?

          俺が米国人なら「日本人だけには言われたくないわ」って思ちゃうけどね。

          33
            • いいいい
            • 2022年 5月 20日

            正しく日和ってる西側ではありますね≫日本
            ロシアとの有事のつもりで兵器送れないのかと…
            西部で地雷も沢山埋まってるし、こういう時に自衛隊派遣して好感度稼げなくてどうするんだ、と元自衛官は思うのです。

            14
              • STIH
              • 2022年 5月 20日

              キツイでしょうねえ。週刊誌でしたっけ、ヘルメット•防弾チョッキの供与すら、岸(防衛相)のパフォーマンスだっていう記事が出るくらいですからね。読んでないのでこれ以上論評できませんが、一般人の軍事に対するハードルは高そうです。
              おそらく自衛隊から戦死者が出ない限り、その認識は変わらないと私は変わらないと思ってますが、それじゃあちょっと遅いんですよね。

              19
    • 2022年 5月 20日

    5月下旬〜6月中旬あたりにウクライナ軍が反抗するという情報は当然ロシア軍も知ってるだろうから、それまでに一定の成果を上げようという動きかもしれず
    ウクライナ軍も反撃を前倒しするんだろうか。(もしやるなら)フレデリクス作戦みたいだな……

    3
    • や、やめろー
    • 2022年 5月 20日

    ハルキウ方面からロシア軍を下から押せたらいいと思うが。ウクライナとしては長期戦に持ち込みたいと思うだろうなぁ

    2
      • くらうん
      • 2022年 5月 20日

      戦況マップ上ではドネツ川対岸をまだ保持できているようだから、そこは何とか死守して本格攻勢の足掛かりにしてほしい。

      5
        •  
        • 2022年 5月 20日

        防御戦闘の基本としては河を防衛ラインにして守るより渡河させてから反転攻勢をかけて撃滅する方が好まれます
        ウクライナが南東部でロシア相手にやったのも同じですね
        もちろんWW2のヴォータン線のように予備兵力の払底していたドイツが要塞化を企図した例もありますが、正攻法ではありませんね
        今回のハリコフの一連の機動戦はロシア側が最初から戦力誘出を狙っていたようにも感じますが、どうなるものやら

        2
    • フラット
    • 2022年 5月 20日

    ハルキウ-イジュームの善戦のお陰で東部大包囲は阻止したが、セべロドネツクの維持は厳しいですねこれは。ポパスナからの攻勢が既にかなり深くまで届いてるとは。
    まあ親露派地域のすぐそばで、開戦から3ヶ月弱経って今だに保持できてる方がすごい位置にあるからしょうがないけど

    15
    • Hiz
    • 2022年 5月 20日

    ああ、故意にロシア有利のニュースを選んで流すとこね。

    3
      • 名無し
      • 2022年 5月 20日

      ここはただ実情を検証しているに過ぎない。己の望む見たい情報だけを追いかけて楽しみたい人は他へどうぞ。プーチンと仲良くなれる素質があるぞ

      60
      • や、やめろー
      • 2022年 5月 20日

      プーチンと手、繋いできな。仲良くなれるぞ。少なくともこのブログにおまえみたいなやつは必要ない。コメントすんな

      21
    • 戦略眼
    • 2022年 5月 20日

    ロシアが、NATO正面や極東の部隊を根こそぎ動員するとどうなるか?
    誰が牽制するのかな?

    3
      • や、やめろー
      • 2022年 5月 20日

      NATO軍が動く…と思いたい。

      1
      • STIH
      • 2022年 5月 20日

      そこまでの度胸は無いと思いますよ。
      いくらNATOから仕掛けて来ないとはいえ、アメリカもトンキン湾事件という前科がありますから、NATOを信じることなんてできないでしょう。
      シベリアだって一応アメリカと国境を接しているわけですし、何より中国をそんなに信じられるの?っていう問題がありますから。

      8
      • G
      • 2022年 5月 21日

      ロシア国内外にウクライナの一部地域にさえ国家総動員体制じゃないといけないぐらいロシアは国力も軍も弱っていると宣伝するようなものですから、そのトップたるプーチン大統領への評価も相応のものになりますので、当のプーチンの自己顕示欲がそのけん制をするかと

    • kankan
    • 2022年 5月 20日

    ニュースなんかではウクライナが反撃して押し返していると発信
    他方、ここではロシアが押し込んでいるとの記事がある
    戦況としては一進一退という事になるのか
    お互い決め手に欠けてるから膠着状態がしばらく続きそう

    28
    • 2022年 5月 20日

    戦況図通りだとするとゾロテが包囲の危険にありますね、両軍の兵力はわかりませんが・・・
    宇軍側に火消しの予備機甲兵力があればいいのですが

    6
    • makumaku
    • 2022年 5月 21日

    5/17のワシントンポストの良記事です。ウクライナ東部の重要な地形、重要なインフラ、
    重要な拠点、なぜロシアがここに攻勢をかけるのかを地図を元に詳しく解説しています。
    リンク

    5
    • sunn
    • 2022年 5月 21日

    どうやらロシアは軍事的には誇大妄想から覚めつつあるようで、そうなるとさすがに底力を感じさせられる。
    しかし戦線を縮小したロシアの東部攻勢を見るに、もし開戦当初から東部を集中的に平押しされていたらウクライナはその方が苦しかったかもしれないですね。

    5
    • ab
    • 2022年 5月 21日

    東部反攻にはやっぱり北側のロシア領が邪魔になってきたな…
    越境攻撃してロシア領から部隊が出てくる危険を排除しない限り、常にこういう包囲の危険に晒されることになる。
    英米も気づいてるだろうから、どこかでウクライナ側がロシア領に踏み込む名分を作ることになるか。

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