米空軍は2024年度の即応性=作戦機の稼働率に関する数値を公表、Air&Space Forces Magazineは「空軍全体の即応性は過去10年間で最低レベル」と報じ、即応性の低調さを象徴するF-22Aの準備状態は52%から40%に急落し、主力戦闘機の約半分も実戦投入の準備が整っていない。
参考:Air Force Mission Capability Rates Reach Lowest Levels in Years
要求するミッション要件が異なるため、米空軍が運用するF-35AのMC率を空自機に当てはめるのは無意味
米軍機の稼働率に関する数字はミッション達成率(Mission Capable Rate:MC率)とフルミッション達成率(Full Mission Capable Rate:FMC率)に分かれており、MC率とは作戦機が少なくともミッション要件の1つ以上を実行できる状態、FMC率とは作戦機がミッション要件を完全に実行できる状態のことで、例えば照準ポッドとの接続不良で空対空任務しか実行できないF-16Cはミッション要件の1つ以上を実行できる状態、空対空任務と空対地任務の両方が行えるF-16Cはミッション要件を完全に実行できる状態に分類され、この数値は当該機種の準備状態や即応性=稼働率を表している。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Andrew Lee
トランプ政権時代(1期目)のマティス国防長官は「F-16C/D、F/A-18E/F、F-22A、F-35AのMC率を2019年9月末までに80%へ引き上げろ」と命じたが、これをクリアできたのはF/A-18E/Fのみで「数値目標」は2020年に廃止されたものの、米空軍は「引き続き改善に取り組む」と表明してMC率を毎年公開しており、Air&Space Forces Magazineは18日「空軍全体の即応性は少なとも直近10年間、恐らく過去20年間で最低レベルだった」と報じた。
米軍機全体のMC率は2022年度=71.24%、2023年度=69.92%、2024年度=67.15%で、どんどん伝統的な許容範囲=75%~80%から遠ざかっているが、それぞれのMC率は作戦機の機齢、メンテナンス状況、サポート体制、スペアパーツの供給状況、運用状況(前線に展開した方がMC率が高く保たれる/後方に下げられるとメンテナンステンポが下がる)に左右されるため、数値のみで作戦機の即応性を判断するのは難しい。
2022年/MC率 | 2023年/MC率 | 2024年/MC率 | |
A-10 | 69.70% | ▼67.00% | ▲67.11% |
F-15C | 45.70% | ▼33.00% | ▲41.97% |
F-15E | 51.60% | ▲55.00% | ▲55.44% |
F-15EX | 84.60% | ▲85.00% | ▼83.13% |
F-16C | 70.70% | ▼69.00% | ▼64.05% |
F-16D | 68.90% | ▼65.00% | ▼59.03% |
F-22A | 57.40% | ▼52.00% | ▼40.19% |
F-35A | 65.40% | ▼51.90% | ▼51.50% |
E-3G | 63.90% | ▼60.00% | ▼55.68% |
E-4B | 55.40% | ▲61.00% | ▲61.17% |
E-8C | 49.20% | ▲63.00% | ▲66.14% |
B-52H | 59.30% | ▼54.00% | ▼53.77% |
B-1B | 54.80% | ▼47.00% | ▼43.44% |
B-2A | 52.80% | ▲56.00% | ▼55.04% |
MQ-9A | 89.90% | ▼86.00% | ▼85.65% |
RQ-4B | 70.80% | ▼50.00% | ▲64.59% |
U-2S | 73.50% | ▲76.00% | ▼61.87% |
KC-10A | 80.40% | ▼79.00% | ▲85.25% |
KC-135R | 72.00% | ▼69.00% | ▼67.66% |
KC-135T | 69.60% | ▲69.70% | ▼62.80% |
KC-46A | 69.90% | ▼65.00% | ▼61.05% |
老朽化が激しいF-15Cの状況改善(33.00%→41.97%)は退役が進みスペアパーツ確保が容易になったこと、F-15EXのMC率が異常に高いのは機齢の若さと運用機が8機しかないことが原因で、戦闘機の即応性を推し量る図るには主力機=F-15E、F-16C、F-22A、F-35AのMC率が重要だ。
この4機種の平均MC率は52.79%なので「戦闘機の約半分は1つのミッション要件すら満たしていない=実戦任務に対応できない」という意味になり、即応性の低調さを象徴するF-22AのMC率は40%台に急落、機齢が比較的若くボリュームもあるF-35AのMC率は「即応性の低調さを象徴したF-22A」と同じレベルまで低下し、明日戦争が勃発しても直ぐに動かせるF-22Aは178機中72機、F-35Aは385機中196機しかなく、どれだけF-35Aを新規取得してもMC率が上がらないことには即応性が向上しない。

出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Haley Stevens
特筆すべきは有人機よりも無人機の即応性が高い点で、MQ-9Aは244機も運用しているのにMC率が85.65%もあり、今後導入されるCCAが戦闘機戦力の即応性改善に役立つかもしれないが、システムが複雑になればなるほどメンテナンスの手間が増えるため、能力とMC率はトレードオフの関係だ。
余談だが「なぜ最新のKC-46Aは40年前に運用が開始されたKC-10AよりもMC率が低いのか」はネタ化しており、Air&Space Forces Magazineも「KC-46Aは毎年MC率が低下していく」「空中給油機の中で最も即応性が低い」とイジっているほどで、これよりMC率が低下すれば「即応性の低調さを象徴するF-22Aと同じゾーン=50%台」に落ちてしまう。

出典:U.S. Air Force photo by Tech. Sgt. Abigail Klein
因みに米空軍が運用するF-35AのMC率を空自機に当てはめるのは無意味で、米空軍のミッション要件にはAARGM-ERを使用した敵防空網制圧任務、GBU-39、GBU-53、AGM-154を使用した対地攻撃任務、B61を使用した核攻撃任務、海外展開などが含まれ、こういったミッション要件を設定していない空自のF-35Aは即応性を維持する点で米空軍よりも有利だからだ。
そして防衛省や空自は「即応性を推し量る数値」を公開していないため、日本が運用するF-35Aの稼働率については何も分からない。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by 1st Lt Savanah Bray
比較的予算と機数に余裕があるアメリカ空軍がこの惨状では幾ら要求されるミッションがアメリカより軽いとは言えイスラエルを除く西側諸国の空軍の稼働率が恐ろしい事になってそうですね。
なんだろう、この数年で精強無比で稼働率が高いとされていた西側軍隊に対するイメージがどんどん壊れていく。
こういうのはブラックボックス化した国のほうが有利なイメージを与えやすいもの。
冷戦崩壊という先例があるでしょう。
有事に使えないと、兵器は役に立たないですからね…
戦争になれば、部品流通が途絶えたり=施設攻撃による損害などで、稼働率が下がる可能性もあります。
稼働率は、不安の残る数字ですね…
>そして防衛省や空自は「即応性を推し量る数値」を公開していないため、日本が運用するF-35Aの稼働率については何も分からない。
案外悪くないかもしれない
寧ろバリエーション豊かなアメリカ空軍の方が低いかも(婉曲)
むしろ心配なのはF-2とかF-15Jの方でしょう。
F-35Aはまだ部品調達が困難という問題はないでしょうから。
部品注文
→問い合わせ
→ウチにはそんなモノもうないよ
うっ、頭が……
オーディーンか何とかしてくれるさ。
暴走して誤発注しそうだったALICEも素敵な名前だったのですが。
ODIN開発決定時にこういうイメージ持ってました。
ALIS → 在庫が不思議の国状態
ODIN → 在庫が終末戦争状態(ラグナロック)
アメリカ海軍のタイフォン戦闘システム、アメリカ陸軍のタイフォン武器システムもオリュンポス十二神に最後の戦いを挑んだテュポーンが名前の由来なので、縁起の良さよりもバクロニムで選んだのかもしれませんが。
日本のF-15は心配ですねー
さすがに結構年取っているんで。。。
JSI化してと思ったら時間かかる
F-2もアメリカ製がネックになってるしな
調達や運用の容易さというのも兵器の能力の一部ですが軽視されがちですよね。
F15EXは8機しかないのか。嘉手納に来る話はいつだろ?
数がないウチなら影響は少ないから予算削減のターゲットにされるんじゃないかと。
これでトランプは国防費40%削減予定だから今後は米国本土も含めて即応可能地域を絞り込むしかなくなるんじゃないか
国防予算削減しつつも、スターウォーズ計画を復活させてますので。冷戦期でもあまりに莫大な費用に耐え切れなかったものを復活させてます。
米国本土を守れれば十分という方針は見えています。
しかしシーレーンどうするんでしょ。これまで温存の方針だった米本土の資源掘るんでしょうか。
まあ細かいことは考えていないかも。スペースX社に色々仕事出すのが目的でスターウォーズ計画復活させたのかもなんても勘繰っちゃいます。
チカラとは、どれだけ持っているかではなく、どれだけ実際に有効に機能させられるか、ですので。
ロシア軍もまた初動において、「持っている」だけでは散々であったことからも分かる通り。
ファイターマフィア「だから言ってたじゃん」
A-10の稼働率上がってて草
有用性を証明したようなもんじゃん
実戦任務が無くなって、訓練任務しかなくなれば稼働率は上がるのでは。
対空砲火で穴だらけになって無事に帰ってくるA-10のイメージ。
仰る通り保有機数を減らしていくタイミングで稼働率が上がるのは当然だし、そもそも「上がった」っつっても67.00%→67.11%なので上がった内に入らない様な…
こんな状況で軍事費削減するとかマジでヤヴァイ。
でも核戦力と原潜とミサイル防衛は削減しない方針というところにアメリカ第一主義の意思を感じる。
アメリカ弱体化のおかげで日本国海兵隊が現実になるのか? アメリカは18万人規模で予備役3万人との事、なので日本もそれなりに欲しいところですね。強襲揚陸艦やドック型揚陸艦やコンテナ船改造原子力拠点艦もたくさん造らないと…雇用も特別国家公務員??万人位増で、人件費爆上げしそうですけど。
マルチに拘りすぎた結果は工場作業とメーカーパイロットの飛行試験…。担当士官より飛行時間多いよね
空自はLMの作業後だから結局時間掛かりそう
USAIDの次は国防総省あたりに手が入るという噂ですが、莫大な軍事費が本来の使用目的以外のところに流れていないか、チェックが必要ですね。どこかで私腹を肥やしている者がいるかもです。
台湾有事で対艦ミサイルを打ち込む戦いが想定されることを考えるとB-2A B-52 B-1Bあたりの爆撃機部隊の稼働率を優先的に上げた方が良さそうですね。まあ稼働率上げたところで肝心のミサイルをもっと作ってくれ……って感じですが