ベルギーのテオ・フランケン国防相はF-35A追加調達について2025年4月「イタリアのカーメリでの生産を希望している」「ベルギー企業に対する追加の経済的補償や雇用も必要」と述べていたが、再び「可能な限り欧州製にする」「経済的利益を確保する」「年内に追加調達契約を締結する」と明かした。
参考:Belgium wants additional F-35 jets to be ‘as European as possible,’ says defense minister
ベルギーが「追加の産業的見返り」を獲得して「カーメリ生産によるSAFE融資条件のクリア」まで手に入れれば大勝利
ベルギーでは5党連立のデウェーフェル政権が誕生、テオ・フランケン国防相はF-35A追加調達について2025年4月「我が国の空軍は規模が小さいため2種類の戦闘機を購入するつもりはない」「我々は追加調達するF-35を米国のフォートワースではなくイタリアのカーメリで生産できないか調査している」「もしカーメリで生産できれば欧州の雇用創設に貢献できるだろう」「追加調達にはベルギー企業に対する追加の経済的補償や雇用についても協議しなければならない」と述べたことがある。

出典:Lockheed Martin
カーメリで組み立てられたF-35Aの追加調達を希望しているのは「トランプ政権への不信表明」ではなく「カーメリで組み立てられたF-35Aが欧州で製造された航空機として認められれば、F-35A調達資金を条件の良いEU融資(加盟国の再軍備を加速させる融資プログラム=Security Action for Europe)から引き出せるかもしれない」という意味で、欧州委員会はベルギーが申請した計画を承認したが「どのような装備調達計画への融資を承認したか」は明かされていない。
テオ・フランケン国防相はBreaking Defenseの取材に対して「我々はF-35を可能な限り『欧州のもの』にしたいと考えており、地元サプライチェーンへの経済的利益を確保するための合意には多くの機会と可能性がある」「追加調達するF-35はカーメリで生産する必要がある」「我々は年内に追加調達分の契約を締結する見込みだ」と述べ、Breaking Defenseは「スイスがF-35A調達コストの上昇を理由に取得数を削減したが、ベルギーはこうした価格上昇を受け入れる用意があるのか」と問うと「我々が議論しているのは産業還元についてだ」「ロッキード・マーティンとの会談は非常に有意義だった」と述べるに留めた。

出典:Public Domain ベルギー空軍のF-16AM
ベルギーはF-104、F-100、F-5の後継機を探していたデンマーク、オランダ、ノルウェーと共に交渉立場を強化するためMultinational Fighter Program Group=多国籍戦闘機プログラムグループ(MFPG)を結成し、最終的にF-16採用と引き換えに「ライセンス生産」や「整備事業」を獲得することに成功、4ヶ国の中で最も多くF-16を導入(116機)したベルギーの航空産業界は同機の製造・維持で大きな利益を獲得したが、プログラム参加を見送ったF-35AをF-16の後継機に選択したため、同国の航空産業界は水平尾翼を製造する代替サプライヤーの地位しか得られていない。
現地メディアは「F-35Aを選択したことは産業補償の面で大きな失望を伴うものだった」と酷評しており、ベルギー産業界はF-35Aの後継機を検討する作業グループを結成、国防総省に働きかけて第6世代戦闘機プログラムへの関与を模索し、マクロン大統領は2023年6月「ベルギーがFCASにオブザーバー資格で正式参加する」と表明、これによりベルギーはFCASに関する情報への限定的なアクセスが許可され「正式参加の検討=プログラムの将来性、進捗状況、投資とリターンの兼ね合い」を検討することが可能になったが、ダッソーはベルギーの正式参加を心底嫌っている。

出典:SCH Hamilcaro / Ministère des Armées
ダッソーのエリック・トラピエ最高経営責任者は当時「ベルギーがFCASに関心を示しているという話は非常に良いニュースだが、なぜF-35を選択した国々をプログラムの仲間に迎えなければならないのか?なぜ我々の工場や事務所にF-35を選択した国々の部屋を作らなければならないのか?直ぐにベルギー企業に仕事を分け与えることが出来るという人もいるが、これを強制されるなら私は戦うだろう。なぜベルギー人に仕事を分け与えないといけないのか理由がわからない」と発言。
仏国防省とダッソー以外の仏企業は概ね「ベルギー産業界をFCASサプライヤーに統合できることはフランスにとってメリットだ」「ベルギーがGCAPではなくFCASに正式参加することを希望する」と述べており、当時のベルギー国防相も「トラピエの発言は過去の遺恨が残したフラストレーションによるものだろう」「しかし国家同士の利害関係は会社のトップの発言よりも遥かに重要だ」「FCASにしろGCAPにしろ、我々の次世代戦闘機は我々の防衛プログラムとしてベルギー企業が参加できるかが最も重要だ」と述べたことがある。

出典:Dassault Aviation
ベルギーのシンクタンクは「米国主導のプログラム参加を理由にFCASのようなプログラムから欧州の国を排除するのは正当化できない」「ドイツもF-35A導入を決めており、スペインもAV-8Bの後継機としてF-35Bに関心を寄せているが、この2ヶ国にダッソーは文句を言っていない」と指摘し、今から思えばこの頃からダッソーの異常性は際立っていた。
どちらにせよ、ベルギーは今後の戦闘機調達において「自国産業への還元」を追求しなければならず、仏サフランは2025年10月「ベルギーのF-35調達の一環としてベルギー政府およびプラット&ホイットニーと協定を締結した」「この合意はベルギー産業界のF-35プログラム参加を強化し、ベルギーの経済効果に大きく貢献する」「サフラン・エアロ・ブースターはF135の主要部品製造に参加し、サフラン・エアロ・ブースターとBMTエアロスペースはエンジン主要部品の革新的な製造コンセプトを実装することを通じてパートナーシップを強化し、F-35のサプライチェーンにおけるベルギーの地位を強化する」と発表済みだ。

出典:U.S. Air Force photos by Jill Pickett
F-35製造参加は当初「プログラム参加国の利権」として対外有償軍事援助でF-35を調達する国には開放されていなかったが、スイス、フィンランド、ドイツはF-35調達のオフセットとして自国企業のF-35製造参加を獲得し、特にフィンランドは「イスラエル並み」と言われる独自の運用体制が認められ、プログラム参加国のカナダもF-35契約見直しを通じて「もし契約を維持するならロッキード・マーティンに追加の経済的見返りを要求すべきだ」「それに応じないなら調達数を削減してグリペンEを第2の戦闘機として取得するかもしれない」と要求している。
ベルギーの動きは「F-35を調達するのだから産業的な見返りを寄越せ」という現在の流れにも一致しており、ドイツもトランプ政権の不確実性を受けてF-35Aを追加発注を実行するか不透明だと言われているため、ロッキード・マーティンは「欧州のF-35離れ」を阻止するため「調達条件の見直し」「追加のオフセット」「追加の産業的見返り」に応じざるを得ないのかもしれない。

出典:European Commission
もし、ベルギーがロッキード・マーティンから「追加の産業的見返り」を獲得して「カーメリ生産によるSAFE融資条件のクリア」まで手に入れれば、ソブリン市場よりも有利な条件(推定金利3.3%/10年間の元金返済猶予/最長45年返済)でF-35A調達資金を調達できるため、ベルギーの大勝利になるもののF-35を採用していない他のEU加盟国は面白くないだろう。
因みにSAFE融資条件を満たすには「最終価格に占めるEUとの安全保障・防衛パートナーシップ=Security and Defence Partnerships締結国製部品」のコストが35%以下に収まっている必要があり、個人的には「カーメリ生産だけ条件を満たすのは難しい」「恐らく例外規定の適用が必要」と思っており、ベルギーが獲得できる現実的な落とし所は「追加の産業的見返りのみだろう」と思っている。
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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin




















F35生産に、SAFE融資を使えるなら凄いですね。
ベルギーは、格安(インフレを使って)でF-35を手に入れながら、地元での仕事まで獲得できるという夢のような話しだなあと。
追記です。
ダッソーは、同族会社ですからね。
(見えにくい面もあるのでしょうが)創業家ファミリーの意向・考え方が、意思決定の過程でどのように関与しているのかといのうは、個人的に興味があります。
ダッソーのエリック・トラピエ最高経営責任者はなんか漫画に出てくるような絵に描いたフランス人エリートですごいw。
しかし、F-35の問題は、今は、どこかの部品の製造が間に合わないとかの問題じゃないからなあ…。
製造のソースを複数にしたところで。
F-35block4問題ってアメリカ発のニュースがほとんどですが
ベルギー、フィンランド、オランダ等、将来的に戦闘機をF-35のみで運用しようとしてる国はこの問題どう捉えてるんでしょうね?
日本もblock4問題に関する記事少ないですし、まぁなるようにしかならない話なんですが…。
取り急ぎ、F-35で爆撃任務をしなくちゃいけない国って限られていますから、静観なんじゃないでしょうか。
とりあえず、兵装の統合を先にやれと言いたいですね。
単独使用する国は、余計にそう思うでしょう。
自衛隊でも、今のところ対空担当扱いのようですが、本来はマルチロール機だろうと。
米国から武器を買うのは、アメリカの影をちらつかせたい国が大きな理由の一つかと。
サウジも別にあの装備で中東諸国やイスラエルと一戦交える気はないですし、シンガポールがF-16買っても実際に戦争になったら使いようがないですし。
その点で、フランスからしたらフランス語話者も多いベルギーがフランスではなくアメリカの影に頼るのは気に入らないんでしょう。
NATO自体がそうなんだからどうにもならないんですけどね。
先の記事で問題とされているのはBlock4向けの新型AN/APG-85レーダーの話なので、AN/APG-81 AESAレーダーを搭載している既存機が問題無く稼働できているのなら、自国で運用するに十分と判断されているのかもしれません。実態は分かりませんが。
注文残がblock3なんでしょうね。