欧州関連

仏海軍の強襲揚陸艦が日本に向けて出港、しかし日米仏合同演習の詳細は未定

フランス海軍は今月18日、ミストラル級強襲揚陸艦「トネール」とラファイエット級フリゲート「シュルクーフ」で構成された艦隊を日本に向けて出港させた。

参考:Cap vers la mer de Chine pour la mission Jeanne d’Arc 2021

まだ日米仏間で政治的な調整が決着していない日米仏合同演習はどこで実施されるのか?

フランス海軍は兵学校を卒業した士官候補生を毎年「ミッション・ジャンヌ・ダルク」とよばれる訓練航海(海自の練習遠洋航海に相当)に送り出しており、今年のジャンヌ・ダルク2021は母港トゥーロンを出発して地中海からスエズ運河を抜け紅海~インド洋~南シナ海~東シナ海を通過して最終目的地の日本に向かう予定で、最終的に8つの国(エジプト、ジブチ、インド、スリランカ、インドネシア、マレーシア、ベトナム、日本)を訪問することになっている。

ただし今回のジャンヌ・ダルク2021は通常の訓練航海や国際交流だけで終わらない。

出典:Masur / CC BY-SA 3.0 ミストラル級強襲揚陸艦「トネール」

フランスはジャンヌ・ダルク2021グループをアラビア海、アデン湾、紅海で対テロ作戦を実施している第150合同任務部隊に合流させたりクアッドと呼ばれる米国、日本、オーストリア、インドとの共同演習を行うことでインド太平洋地域でのプレゼンス強化を狙っており、今年5月に日本で予定されている離島の防衛・奪回作戦に関連した日米仏合同演習にも参加予定だ。

補足:ジャンヌ・ダルク2021グループが予定しているのはエジプト海軍との演習、ジブチでの水陸両用訓練、インド海軍との演習、スマトラ沖で米日印との演習、日本の佐世保到着前に北朝鮮籍船舶の「瀬取り」を含む違法な海上活動の監視、日本で離島の防衛・奪回作戦に関連した日米仏合同演習、復路時にインド洋での演習、対テロ作戦を実施している第150合同任務部隊への合流など

出典:フランス軍事省

特に興味深いのはジャンヌ・ダルク2021グループの大まかな航海ルートで、中国が領有権を主張する南沙諸島付近を航行(復路時)するよう見えるのだが台湾海峡については通行を回避して日本に向かうコースが描かれているのだが、フランス海軍は台湾海峡を通過しないのかというメディアの質問に対して「国際法と航行する付近の領土に対する主権を尊重しながらルートを決める」と答えているので仏政府の政治的意向次第で台湾海峡の通過もあり得のではないかと管理人は思っている。

あと日本にとって最大の関心事は日米仏合同演習がどこで行われるかだ。

一般的に尖閣問題は南シナ海や香港問題よりも国際的関心度が低いのが日本にとっての悩みで、もし尖閣諸島を意識した南西諸島海域で日米仏合同演習が実施できれば中国には日本の主張(尖閣諸島に対する日本の領有権や中国による不当な挑発行為など)をフランスが支持したように映るため非常に都合が良い。

しかしフランス海軍はどこで日米仏合同演習が行われるのかというメディアの質問に対して「現段階では未定」と答えているため、まだ日米仏間で政治的な調整が決着していないのだろう。

どちらにしてもフランスが主張するインド太平洋地域でのプレゼンス強化=中国に対する対応の本気度は南沙諸島付近の通行、台湾海峡の通行、日米仏合同演習を尖閣諸島に近い海域で実施することに同意するかの3点で測ることが可能で、3つ目に関してはフランス側だけでなく日本側の政治力や外交力も試されていると言っていい。

果たして日本は今回のチャンスを掴むことが出来るだろうか?

 

※アイキャッチ画像の出典:Simon Ghesquiere/Marine Nationale / CC BY-SA 3.0 ミストラル級強襲揚陸艦

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 2月 22日

    フランスからすると、尖閣問題にまで関与する理由が説明つかない
    期待するほうが無理目
    日本にはお友達多いんだよアピールで充分でしょう

    21
    • ソソソナス
    • 2021年 2月 22日

    フランスは演習場所を取引材料に今期1兆円以上の赤字決算だったルノーを日産に救済してくれと言ってくるかもね。日本政府が取引に応じても良いとは思うけどゴーンと嫁はんの身柄をレバノンから日本に引き渡させる手伝いぐらいはフランスにさせてほしいね。

    5
      • 匿名
      • 2021年 2月 22日

      せっかく逃げ出した泥舟にまた日産を乗せるのか…

      17
    • 匿名
    • 2021年 2月 22日

    おおすみのLCACをトネルに、トネルの双胴揚陸艇をおおすみに
    みたいな事をやるんだろうか
    フランスの双胴揚陸艇は陸自の小型輸送船舶の参考にならないだろうか

    3
      • 匿名
      • 2021年 2月 22日

      L-CATね。
      参考にはするかもしれないけど(購入・維持)コスト的に無理だと思うよ。
      アレ高そうだし。
      陸自が欲しいのは平時に海自や民間の都合に左右されずに使える海上輸送能力だから要求性能のハードルはかなり低いはず。
      むしろ厳しい予算枠の中で可能な限り安く済ませたいだろうからスペック見たらビックリするほどショボい船になるんじゃないかと思う。
      理想を言えば海自の強襲揚陸艦の搭載艇と共通化して有事の際にも活用出来ればって思うけど・・・。

      1
    • 匿名
    • 2021年 2月 22日

    英国同様、仏国も新経済コアとしてのインド・太平洋に足掛かりをつくるのが目的か
    それとも、火事場の儲け話を探しに来るか

    7
    • 匿名
    • 2021年 2月 22日

    個人的には台湾海峡の通行は、台湾事変がどれだけ近い未来なのかで変わってくると思います。もし通行しないのなら、まだ逼迫した状況ではないのでしょう。

    2
      • 匿名
      • 2021年 2月 22日

      中国がフランス艦に手を出すなんてまずあり得ないから、その通行こそ両国の外交的な駆け引き材料ですね
      フランスにとっても中国はお得意様という背後がありますから

      4
    • 匿名
    • 2021年 2月 22日

    フランス領と言ってもオーストラリアのさらに東の領土を防衛って考えじゃないよね。コロナをばら撒いたのはお前だろ。分かってんだからなって言いたいからイギリスもこっちに来たんだろ。台湾有事なんて微塵も考えてないに一票。イギリスに至ってはF-35が足らないので米軍使ってくださいって言うくらいだし。

    3
    • 匿名
    • 2021年 2月 22日

    そもそも九州以南で三か国合同の上陸訓練ができる演習場がどこに何ヵ所あるのかしらぬい

    2
    • 匿名
    • 2021年 2月 22日

    インドネシアの寄港地がサバンになっているのが気になる。
    ここはインドネシアの中でも特別にイスラムが厳しい地域で、イスラムと問題を起こしまくりのフランスが、何でここを選んだのだろう?

    2
      • 匿名
      • 2021年 2月 23日

      ミストラルにもイスラムの乗組員はいるよ、フランスはすでにそういう次元だから
      対立しても国内混乱を招くだけだから、イスラムとの融和を演出したいのさ
      むしろフランスとは歴史的に縁の薄いインドネシアのほうが話が早い

      1
    • ファッツ
    • 2021年 2月 22日

    そういえばTwitterだとイラスト的に中国本土と海南島の間な瓊州海峡を通る感じだけどマジ?って少し話題になってたなぁ…。まぁ国際海峡じゃ無いらしいし単なるイラストの齟齬だと思うけど。

    • 匿名
    • 2021年 2月 23日

    日本はともかく台湾あたりはミストラル欲しいだろうな、実はトルコやエジプト経由で売り込みの筋書きがあったりして

      • 匿名
      • 2021年 2月 23日

      エジプトは、2隻持っているしな。

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